落語【そば清】台本 吹き出し風

落語 台本

『江戸っ子の蕎麦好き』なんてことを言いまして、蕎麦と寿司というのは好んで食べたもんだそうでございます・・・

今はってと、たいへんなお店構えでもって大きな商売をしているようでございますが、以前はってと屋台でございますね・・・

屋台のお蕎麦屋さん、屋台のお寿司屋さんというものが始まりだそうでございまして・・・

そば清を聞くなら「金原亭馬生」

そば清の大名人と言えば、古今亭志ん生(父)・金原亭馬生(長男)・古今亭志ん朝(次男)の落語スター一家。真骨頂の志ん生、華の志ん朝に比べれば古典の基礎を土台とした地味な落語だが落語好きにはコアなファンがいる確かな名人。

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ある男
ある男

あんた!近頃この店によくいらっしゃいますね?

ある男
ある男

いやみんなで噂してるんですよ、今時分そこに座っちゃあペロッと十枚やる、見事なもんですねぇ・・・

ある男
ある男

どうです?あたしたちと顔繫ぎにちょいと賭けをやってみませんか?

そば食い
そば食い

かけって言いますと、盛り(そば)をやめて、かけ(そば)にする?

ある男
ある男

そうじゃないよ・・・今江戸で流行ってるでしょ?蕎麦の賭け!

ある男
ある男

あなたいつも十枚食べてるでしょ?

ある男
ある男

十枚じゃ賭けになりませんから、倍の二十で一分(いちぶ)ってのはどうです?

※一分(いちぶ)…日本円にしておおよそ3~4万円。

そば食い
そば食い

二十!?二十枚あたしが食べますってと、あたしがあなたに一分お払いする?

ある男
ある男

馬鹿なこと言っちゃいけませんよ、それじゃ賭けにならない・・・

そば食い
そば食い

二十でございますか・・・

そば食い
そば食い

二十なんて今までやったことがありませんで、きっと食べられません・・・

ある男
ある男

いやそんなことはないよ?あたしの見たところ二十くらいはいけますよぉ!

そば食い
そば食い

左様でございますか?それであれば、お顔繋ぎということで、たぶん食べられないとは思いますが・・・

ある男
ある男

ほぉ!やる!?そう?

ある男
ある男

おやっつあん~!そば賭けこの人に二十枚!早いとこお願いしますよ!?

ある男
ある男

さあみんな集まって、手伝ってくださいよ?

ある男
ある男

ほらよっちゃん!ぼんやりしてちゃいけませんよ?

ある男
ある男

おそばが来たらどんどんこの人の前に出して!空いたせいろは片づけて・・・

ある男
ある男

さあ来ましたよ!さあこっちへ来て!早いとこ始めてくださいよ!?

そば食い
そば食い

はぁ来ましたか・・・

そば食い
そば食い

あたしは子供の時分から・・・ずるずる~!

そば食い
そば食い

・・・お蕎麦が大好きでございまして・・・ずず~!ずずっ!!

そば食い
そば食い

これさえ食べてれば・・・ずるっ!ずずず~!

そば食い
そば食い

・・・何も他にはいらないんでございます・・・ずるずるっ!

そば食い
そば食い

二十なんて数は・・・ずずっ!

そば食い
そば食い

・・できっこないんでございますが・・・ずずっ!

そば食い
そば食い

・・・お笑いにならないように・・・ずるずる~!ずず~!

ある男
ある男

速いねぇ・・・おい・・・どんどんどんどんやっちゃうねぇ・・・

ある男
ある男

よっちゃん、今数いくつです?

ある男
ある男

十五!?へぇ!あっという間の十五だねぇ!十六?十七?十八!?十九!?あと一枚だ!

ある男
ある男

二十!あなた二十枚やりましたな?

そば食い
そば食い

よっぽど体の調子が良かったんでございましょう・・・それではこの一分を頂戴して・・・

そば食い
そば食い

ど~も!

ある男
ある男

悔しいねぇ・・・ど~もなんて言って帰っちゃった、一分取られちゃったよ・・・

ある男
ある男

まあ大丈夫だよ、明日がある・・・明日あの人はまたここに来るよ?

ある男
ある男

そしたらね、今度は三十で二分ってのをやってみるよ!今日の一分取り返しちゃうから!

ってんで、明日になるってと・・・

そば食い
そば食い

ど~も!

ある男
ある男

こっちへいらっしゃいあなた!ここへ座ってください!

ある男
ある男

昨日ダメだダメだと言って二十やりましたなぁ!今日は三十で二分ですよ?

そば食い
そば食い

勘弁してくださいましよ・・・三十なんかできっこございません・・・

ある男
ある男

昨日そう言って二十やったんだから・・・ね?

ある男
ある男

三十で二分やんなさいよ!昨日一分取ってるんでしょ?

そば食い
そば食い

弱りましたなぁそれは・・・

そば食い
そば食い

分かりました・・・たぶん食べられないと思いますが、昨日一分頂戴してますんで・・・

そば食い
そば食い

利子をつけてお返しをするということで・・・

ある男
ある男

よ~し!おやっつあん!今日は三十枚!早いとこ頼むよ!さあみんな手伝っておくれ!

ある男
ある男

来たよ~!さあどんどん持ってって!

ある男
ある男

ひやぁ~!すごい勢いだね・・・そばの方からあの人の口へ入ってってるようだよ・・・

ある男
ある男

二十まであっという間だよ?なに!?二十五!?二十六、七、八・・・九!

ある男
ある男

三十!・・・あなたやりましたな!

そば食い
そば食い

いやぁ・・・よっぽど調子が良かったんでしょう・・・

そば食い
そば食い

それじゃあこの二分はいただいて・・・

そば食い
そば食い

ど~も!

ある男
ある男

ばけもんだね、あの人は・・・ど~も!って言って二分取られちゃったよ・・・

ある男
ある男

よ~し!こうなったらあたしももう意地だよ?四十で一両でやってみようじゃないか!

ある男
ある男

ん?誰だいそんな所でゲラゲラゲラゲラ笑ってんのは!?

ある男
ある男

くっくっく・・・ふふふっ・・・あっはっはっは!

ある男
ある男

なんだいお前は!なんで笑ってんだい!?

ある男
ある男

あんた今の人誰だか知ってて賭けをしてるんですか?

ある男
ある男

知らない?そらそうでしょうな・・・

ある男
ある男

知らないからあんな恐ろしいことを平気でできるんだ・・・

ある男
ある男

あの人はね、そばの清さん『そば清』さんと言ってね?

ある男
ある男

そばの賭けでもって家を三軒建てた人だよ?

ある男
ある男

普段は四十から四十五あたりで勝負しているところを、やれ二十だ三十だって朝飯前ですよ!

ある男
ある男

なぜもっと早く教えないんだよ!昨日もあんたそっから見てましたよねぇ!

ある男
ある男

へっへっへ・・・だってどうなるか見るの面白いから・・・

ある男
ある男

人が悪いねぇお前さんは・・・みんな聞いたかい?江戸で評判のそば清さんだとさ!

ある男
ある男

よ~しこうなったらね!明日清さんが来たら五十で勝負してみよう!

ある男
ある男

五十で三両ってのをやってみよう!

そば清を聞くなら「金原亭馬生」

そば清の大名人と言えば、古今亭志ん生(父)・金原亭馬生(長男)・古今亭志ん朝(次男)の落語スター一家。真骨頂の志ん生、華の志ん朝に比べれば古典の基礎を土台とした地味な落語だが落語好きにはコアなファンがいる確かな名人。

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そば清
そば清

ど~も!

ある男
ある男

こっちいらっしゃいそば清さん!あなた人が悪いねぇ本当に!

ある男
ある男

江戸で評判のそば清さんってのはあんたのことでしょう?

そば清
そば清

いえ~あたしはよっちゃんですぅ・・・

ある男
ある男

何言ってんだもうネタは知れてんだよ!さあ今日は五十で三両ですよ!?

そば清
そば清

勘弁してくださいまし・・・今度また来ますんで・・・

そば清
そば清

ど~も!

ってんで、ぴゅ~っとずらかってしまう・・・

清さん四十五であれば、なんとか体の調子がよければ出来たんですが、五十という数はまだやったことがございません・・・

負ける勝負はしないのが勝負しでございましょう・・・

清さん本業はきちんと持っておりまして、本場・信州をぐるっとひと廻り・・・

さあ仕事の段取りがついて江戸へ戻ろうかという道々、どこをどう間違えたかずんずん山道の方へ入って来ちゃった・・・

途方にくれ、木の陰で休んでいるってと、木の上に大きなウワバミがおりまして・・・

それを見た清さん思わずそこで尻もちをついて動けなかった・・・

ウワバミの方はあいにく清さんの方には気づいておらず、視線の先には銃を構える猟師がいる・・・

猟師が引き金を引くか引かないかその一瞬のうち、ウワバミがその猟師を丸呑みにしてしまいまして・・・

さすがのウワバミも人ひとり食べたんですから腹が膨れ上がってしまいまして・・・

ばたりばたりと苦しみながらも、動き出します・・・

あとをそろ~っと清さんが付いていくってと、赤いヘンテコな草がポヤポヤっと生えている草をさも美味そうにぺたぺたぺた・・・

あんだけ膨れ上がっていた腹がすぅ・・・っとまた元通り細くなる、さも気持ちよさそうにさぁ~っと行ってしまった・・・

そば清
そば清

へぇ~!そうだ!あの草を江戸へ持って帰ろう!

そば清
そば清

そば賭けでもって食えなくなったら、あの草をぺたぺたぺた・・・すぅ~!ってんでいくらでも食べられるよ!

ってんで、草をいくらか摘んで戻ってきた・・・

そば清
そば清

ど~も!

ある男
ある男

あらっ懐かしいねえ!清さん帰って来ましたよ!

ある男
ある男

あんた信州行ってたんでしょ?聞いてましたよ?

ある男
ある男

どうでした信州は?

そば清
そば清

結構でございます・・・さすがそばの本場でございます・・・

そば清
そば清

ですけれど、おつゆがいけません・・・江戸のつゆで食べたらさぞ美味かろうと思いました・・・

ある男
ある男

行く人はみんなそう言うんですよ!

ある男
ある男

そうだ!清さんあたしとの賭けを忘れちゃいないでしょうね?

ある男
ある男

五十で三両!

そば清
そば清

うん、今日は六十で五両でお願いします!

ある男
ある男

向こうで上げてきたよ・・・面白い、受けましょ!

ある男
ある男

おやっつあん!六十だよ!?頼みますよ!

ある男
ある男

さあみなさん六十だ!たいへんだよ!どんどん運んで!

ある男
ある男

さあ清さん!どんどん始めておくれ!

ある男
ある男

はぁ~!どうだい、本性表してからまた一段と速くなったよ?

ある男
ある男

どんどんどんどんやってるねぇ・・・

ある男
ある男

おいよっちゃんこれ、清さん手品かなんかで食べてるふりしてるわけじゃないだろうねぇ?

ある男
ある男

ちゃんと食べてる?もう四十!?

ある男
ある男

もう四十いったの!?速いねぇ!四十五!六、七・・・

ある男
ある男

あらっ・・・だんだん遅くなってきたよ?四十八で止まったよ?

ある男
ある男

そばが喉んところに詰まっちゃった?あぁこれはもうだめだね、勝負ありだね!

ある男
ある男

おいおいそんな、どしんどしん体動かしたってダメだよ?もう諦めな!

そば清
そば清

六十食べる・・・

ある男
ある男

食べるったってあんたもう食べられないんでしょ?入りゃしないよ・・・

そば清
そば清

ちゅる~・・・

ある男
ある男

一本ずつ食べたってしょうがないよ・・・もうだめだから、お諦めなさい!

そば清
そば清

表の風に当たりたい・・・

ある男
ある男

はいはいダメですよ、表へ出てずらかっちゃおうったってそうはいきませんよ?

ある男
ある男

人がたくさんいて苦しい?あぁそうか、まあこんだけ見物客がいれば苦しいか・・・

ある男
ある男

それじゃこうしよう・・・隣の部屋が空いてるからね、そこで休憩して、それですぐ戻って来なくちゃいけませんよ?

ある男
ある男

さあ隣の部屋に行ってください?動けない?どうして?

ある男
ある男

そばの重みで?そうか、四十八枚もそばが腹の中に入ってりゃそりゃ動けないか・・・

ある男
ある男

座布団ごとみんなで引っ張って!そう!それで襖を閉めて!

ある男
ある男

みなさんご安心しなすって・・・もう清さんは食べられませんよ?

ある男
ある男

よくあるんだよ?でっかい大福十個食べようと思って九個までは食べられるんだよ?

ある男
ある男

だけれども、一度ぴたっと止まってしまうともう食べられないんだから・・・

ある男
ある男

茶飲んでも体動かしても、腹の中でもう無理ですって拒否しちゃってんだから・・・

そば清
そば清

ぺたぺたぺた・・・

ある男
ある男

ん?ぺたぺたぺたって音がしてんねぇ・・・薬かなんか飲んでんのかねぇ・・・

ある男
ある男

今やったってダメなんだよ、すぐに効くもんでもねえんだから、かえって腹が膨れちゃってダメだよ?

ある男
ある男

清さ~ん!そろそろ観念したらどうだい?清さん!?声がしませんね・・・

ある男
ある男

おい銀ちゃん、襖開けて見てくれないか?

ある男
ある男

あれ!清さんいませんよ?

ある男
ある男

いないわきゃない、逃げられっこないんだから・・・よくご覧なさいよ!

ある男
ある男

いませんよ!

ある男
ある男

いないわけがない!どれ・・・

って見ると、そばが羽織を着て座っていた・・・

そば清を聞くなら「金原亭馬生」

そば清の大名人と言えば、古今亭志ん生(父)・金原亭馬生(長男)・古今亭志ん朝(次男)の落語スター一家。真骨頂の志ん生、華の志ん朝に比べれば古典の基礎を土台とした地味な落語だが落語好きにはコアなファンがいる確かな名人。

\Amazon Audileで聞けます/

そば清を聴いて

まずサゲ(オチ)の『そばが羽織を着て座っていた』ということに関してですが、

清さんが食べたものを消化してくれる草だと思ってぺろぺろ舐めていた草は、食べ物ではなく人間を溶かす草だったというオチになっています。

ウワバミが舐めていた草は人間を溶かす草だったんですね。意外と怖いオチですよね。

そば清さんも欲張らなければ、草に溶かされるなんてこともなかったでしょうが、欲張るとろくなことにはならないということですね。

また蕎麦は16文で現代にすると520円ですから、これを二十、三十、四十、五十もやるとなると、1万円以上はかかりますよね。

おそらくこの払うお金も賭けの勝敗によって決めたんでしょう。

最初に賭けた値段である一分は一両の約4分の1です。一両は約13万円ほどでしたから、一分は約3~4万ですね。

やはり、おそばと言えど、そば賭けをするような人は大店の若旦那などの裕福な人だったことがうかがえます。

最後の方には六十で五両かけていたわけですから、食べきれていれば日本円にして約65万円になります。確かにそばの大食いでこれだけの金銭のやり取りがあるなら、家を三軒建てられるのも納得です。

六十枚とはいかなくとも、四十・五十枚で賭けはしているので一度の賭けで30~40万円は得ていたと考えると…週に1回そば賭けをしたとして、月に120万。

そば清さんは年収1,000万円以上の大変な高給取りですね。江戸時代でも現代でも一芸がある人には人生に華がありますね。

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