縁なんて言う言葉がありまして、大変にこの誰が考え出したもんですかな・・・
実に都合のいい言葉がありまして・・・なんにでも縁があると言います・・・
「袖振り合うも多生の縁、つまづく石も縁の端くれ」なんて言いまして色んな縁がある・・・
中で一番縁が深いのが夫婦の縁ということになっておりますが、本当に考えてみるってと赤の他人がもうなんかのきっかけでもって知り合って、そして一緒になる・・・
共白髪まで・・・てえことになるんですが、考えてみると本当に不思議ですな・・これがもう一対一ということなんですから・・
だからたまには、「この縁ではなく向こうの縁の方が良かったなぁ~」なんて思ったりすることもありますけど・・・
ですから何年も同じ屋根の下で暮らしてるってと、それぞれ何かわがままなんぞ出てきたりしまして、その歯車が一つかみ合わないことになるってと、いちいち何かにつけて引っ掛かってくる・・・
喧嘩が絶えないなんてことになりますが、本当に一度でいいから別れたいとか世の男性はみんな一度は思ってる・・・
また中にはご婦人の中でもそういう方がいるということを聞きましたけれども・・・
別れちゃえばいいじゃないかと思うんですがこれが別れられないというのが縁なんだということを伺いましたが・・・
それでなくて勇気がないのかもしれない・・・こういうところが真に難しいところでございますな・・
とにかくこうのべつ喧嘩ばかりしている間に入る人は本当に大変で・・・
厩火事を聞くなら「三遊亭圓楽」
三遊亭圓楽の「厩火事」は、夫婦の微妙な掛け合いが笑いを誘う滑稽話です。圓楽の軽妙な語りが、日常の中に潜むユーモアを鮮やかに描き出します。家事の合間にほっと一息つける、心温まる一作です。
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もう兄さんの前ですけどあたしねえ!本当に今日てえ今日は愛想もくそも尽き果てました!
また始まったよ・・喧嘩かい?のべつだね本当にお前の所は!
冗談じゃないよ!?
そのたんびに俺んところにくるんだからねえ!
仕方がないじゃありませんか!兄さんあたしたちの仲人なんですから!
そりゃあ分かってるよ!仲人はしたようなもんのね?
万度来れれたんじゃあくたびれちまうてえの!
本当にもう・・・
自分たちで始めたんなら自分たちで収めたらどうだい!
収まんないからここへくるんじゃあありませんか!
兄さんすぐにそういうことを言うんですから!
他に行くところがないから来てるんじゃありませんか!
なんかあたしが来たら迷惑みたいじゃありませんか!!
迷惑なんだよ!
・・そうですか、すいませんでした!
あたくし他に行けませんから!兄さん頼りにして来てんのに!
それをそんな風に・・・いいですよ!
・・あ・・あたし・・ひ・・一人で・・ぐすっ・・
あたし一人で不幸になります・・・
何で泣くんだよ!わかったわかった!話を聞くよ!
話は聞くけどねえ?こっちも少しは文句も言いたくなるてえやつだよ!?
まあいいよ!どうしたんだい?
言ってみな!喧嘩の元!
本当に悔しいんですけども兄さんの前ですけどもね?
け・・今朝ですよ!
ね?あたくし今日は商売休みなもんですからね?
たまの休みですから大好きなお芋煮て食べようと思いましてね?一生懸命煮てたんですよ!
そしたらあの人がのこのこのこのこ起きて来てね?鍋ん中ひょいとのぞき込んで・・・
「なんだ!またお前は芋を煮てんのか?てめえぐらい芋の好きな奴はないな! だからおめえが傍寄るってと臭くていけねえ!この大根足め!」
ってこういうんですよ・・・
だからあたしも言い返してね?
何言ってんだい!あんただってすこしぐらい 生臭いもんでも食べるじゃないかよ!この魚足野郎!って言い返したら
「・・・うるせえオカメ!」って言うから
何言ってんだい!ひょっとこ!ってたら・・・
般若!って・・・
外道!って言ったら・・・
おいちょっと待ちなよ!それじゃあ御神楽だよ!
面尽くしで喧嘩してやがる・・・
で、どうしたんだい?
本当に悔しくてあたくし飛び出してきたんですけども、本当にあんな人ったらないわお兄さん・・・
おいおい、ちょっと待て・・・じゃあなにかい?
それが元でもって喧嘩して飛び出してきたのかい?
いいかげんにしな!そんなことでわざわざ俺んとこに来るこたあねえじゃねえか!なんでそんなことで喧嘩になるかねえ!
俺んとこなんてね?うちのかかあにもっとひどいこと言ってるよ?
それだって喧嘩にもなんにもならねえじゃねえか!どうしてそれで喧嘩に・・
どうしたって兄さん!そらあ兄さんと家の人とは違いますよ!
あん畜生は考えてみてご覧なさいよ!?
兄さんみたいに毎日毎日一生懸命お仕事をしたりだとか、稼いだりしてるわけじゃないんですよ!?
ねえ?うちでもってあたしが一生懸命働いてるのに家ん中でのそのそのそのそして!お酒ばっかり飲んでんですよ?
あんなひどい人ってえのはありますか?それでよくあんなことあたしに言えると思うんですよ!!
それがいけないんだよ・・・前にも言ったじゃねえか俺が・・・
お前が一生懸命働いてあいつを養ってるってえのは誰だって知ってるよ!
だけども、それがおまえさんの腹ん中にあるとね?あいつの言うことがいちいち癪に触ったり勘に触ってくるんだ・・・
な?だからそういうことは嫌いで一緒になったんじゃねえんだから!
好きで一緒になってんだから、「あたしが働いてこの人を養ってるんだ」なんてそんなことはね、忘れなさい!
でないってといつまでたっても喧嘩は収まりゃあしないよ?
のべつ喧嘩になるよ?そりゃあ
だって忘れろったって・・そうはいきませんよ・・・本当のことなんですから!
ああそうかい・・
お前さんがそういうんだったらね?あたしも言わせてもらうよ?
おまえさんそれ承知で一緒になったんだろ?
お前がうちのかかあに用があって来ててさ?野郎がうちの二階に居候してた・・・
「二階にいるはっつあんって人と一緒になりたい」ってお前が言ったときに俺は何て言った!?・・・
よしなよ!?あんな道楽者はないんだから!あいつとは一緒になるんじゃあないよ?
亭主だったら他にいいのを探してやるからあれだけは良しなよ?って言ったのに
「いえ!あたくしはあの人でなくてはいけません!とにかくあたしが一生懸命働いてあたくしがなんとかしますから、とにかくあの人はうちにいてくれさえすればいいんですからお願いします」
って毎日毎日うるさいぐらいに来てるから
まあそれを承知だったらば、せっかくそう言ってるならじゃあいいよ!一緒になんなさい!ってんであたしは仲人勤めましたよ?
お前さん百も承知で頼んだんだろ?それを今更そんなこと言ったらそれはおかしいじゃねえか!
そりゃああたしだってね?承知で一緒になりましたよ!?
だけどさあ・・・あんなにひどいと思わなかったのあたしは!
とにかくあたしはね!? 今日てぇ今日は愛想もくそも尽き果てちゃったんですから・・
もうあんな嫌な奴はないの!鼻の頭見るのも嫌んなっちゃったの!
我慢に我慢を重ねてたんですけどもう!・・・もう我慢ならないの!
せっかく仲人までしていただいて申し訳ありませんけれども、なんとかひとつかたをつけていただきたいと思って伺ったんです!
お願いしますよ!
ああそうかい分かった!分かったよ!本当にねえ・・・
まあそこまであんたにそう言われりゃあねえ・・・あいつのことを庇ってやりたくなるよ!
というのはあいつは家の方から出た男だ・・・
死んだ親方のところでもって一緒になって修行した、早え話が俺の弟弟子だ・・・
ええ?可愛いよ!?
それをなんか悪く言われるってと俺だって面白くねえや!
だけどな・・・
かまってやりてえけども、お前が今言ったこと・・・それは間違いないんだよ・・・
その通りなんだ、庇うことはできないんだあいつのそういうところは!
いい腕をしているんだがね?おめえのこと頼りにしやがって昼間っから、のそのそのそのそしやがって・・・
俺だってよく言ったよ?意見をしたんだ!
意見をしたんだけども、その時だけだ「はい、分かりました」ってんだ・・・
もうどうやってもだめだ!今のまんまじゃ!
というのはお前を頼りにしている、お前さんてえ者がいるからよっかかってんだ・・・
そりゃあねえ・・・別れた方がいいや・・別れなさい!
おまえさんも苦労がなくなるだろう?
野郎もひとりになれば、ああ一生懸命働かなくちゃいけねえ、仕事をしなくちゃいけねえってそういうことになる・・・
元々腕のいい奴だからね?本人のためになる!
で、お前さんは大変苦労がなくなる!
で・・・あたしが楽になる!
ね?三方が丸く収まるんだから!こんないい別れ話はないんだから!
お別れお別れ!わかれなさい!
・・・
やだぁ・・・
兄さんそうやって人のことですから?気楽にお別れお別れぇ!なんて言いますけども・・・
夫婦なんてもんはそんなもんじゃないと思うんですよ?
何!?
そうじゃありませんか・・・縁があって一緒になったんですから・・・
そりゃあなまけもんは百も承知で一緒になったことですよ?
昼間っから酒飲んでるったってねえ?
あたくしが「お前さん一人でうちで待ってるのは退屈だろうから酒でも飲んで待ってたらどう?」 ってあたしが買って飲ませてるんですから!
別に兄さんに飲ませてもらってるわけじゃないから、あたしは大きなお世話じゃないかと思うのよ?
・・・お、お前ここに何しに来たんだい?
お前が!別れたいてえ言うから・・・
誰が!?冗談言っちゃあいけませんよ?
あたくしあの人と別れるくらいなら死んじゃいますよ!!
おいおいおいおい!しょうがねえなあ本当に!!だから俺は夫婦喧嘩の口聞きは嫌なんだよ!
じゃあお前さん一体何しに来たの!?何を言いに来たの!?
何をじゃないですよもう本当にねえ!あたしねえ!どうしたらいいか分かんないの!!
何が!?
何がってあの人の料簡はもう何がなんだかわかんないでしょう?
取っ手のとれた土瓶みたいにつかみどころがないんですから・・・
もうとにかくね?あたしはね?早い話が好きで一緒になったんですから!
あの人に馬鹿って言われようが間抜けって言われようが、例え殴られようがぶたれようが蹴られようが殺されようがあたしは構わないんですの!
じゃあお前わざわざ俺んとこ来る必要はねえじゃねえか!
お前にそれだけの我慢ができるんだったら喧嘩になることもないよ?
おかしいじゃねえか!
それがねえあるんですよぉ!!喧嘩になって!バカだとか間抜けだとか言ってる間はいいの!
そのうち「俺は早くこのうち出ていきたい」とか「兄貴に義理立てて一緒になった」「お前と早く別れたい一人になりたい!」なんてちょくちょく言うのよ!
そのたんびにあたしはドキ~んドキ~んとするじゃあありませんか!
ハラハラするでしょ?ああ悔しい!
もう死ぬがいい!とこう思うんですよぉ・・・
そしたらもう別れちまえばいいんだよ!
それがそのままだったらあたくし見切りがつきますよ?
ねえ?そう言ってるうちに今畜生!と思ってしばらく経つってと向こうから謝ってくるのよ?兄さん・・・
「さっきはすまなかった!心にもないこと言っちゃったんだ!」って・・・
「もうあんなこと気にするなよ?頼むから俺が悪かった・・・俺はお前なしじゃ生きていけないんだ・・だから・・忘れてくれ?」
なんてこんなこと言うんですよ?
そうするってとね?あたしもついポウっとしちゃうのよ!
何を言いたいんだよ!だから!!ええ!?本当に!!
大きな声だしちゃあ嫌よ兄さん・・・
ですからね?あの人がどっちなんだか分からないんですよ?
それはさっき兄さんが言ったみたいにねえ百も承知で一緒になったの・・・
それはそれでいいんですよ?今みたいにおうちでお酒飲んでても構わないの!
あの人が本当にあたしのことを思ってくれる人だったらそんなことかまいません!
だけどさあ・・・
「この女が働ける間は一緒にいて、働けなくなったら別れちゃって他の女と一緒になろう」てえことを考えてるとしたらあたしは馬鹿馬鹿しいじゃあありませんか!
それをあたしは知りたいんです!ねえ?
あたしだってあの人より年が若ければそんな心配しませんよ?
でもあの人より七つも上でしょ?どうしたって女の方が先に老けますからね?そりゃあ、おばあさんになったら誰だって嫌われますから!!
それで体言うこと聞かなくなって仕事も出来なくなっちゃった!
で、患ってるうちに若い子なんか連れてきちゃったりなんかしてご覧なさい!!
悔しいじゃあありませんか!
そん時に食いついてやろうたって歯が抜けて噛みつけやしませんよ!?
よくしゃべるねえ本当に!大丈夫だよ!そこまではいってみなくちゃあ分から・・・
だからですよ!兄さん!取り返しがつかないじゃありませんか!そん時にこんな人だって分かったって!
だから今・・・今何とかねえ!あの人に・・
本当にそれが毎日毎日しょうがないの!だから兄さん!お願いだから!あたしはイライラして喧嘩にも・・・
ああそうかそうか・・・分かった分かった・・・
まあ!俺達から見りゃあそんなこと気にするこたあねえじゃねえかと思うんだが・・・
野郎が野郎だ、なあ!?
そりゃあちゃんとした者ならおめえも心配することもねえけど・・・分からねえでもねえなあそれは・・・
あのな!こういう話があるんだ・・・
昔ね?唐土(もろこし)にね?孔子ってえ学者がいらっしゃったんだ・・
あらあ~そうですか・・・やっぱり幸四郎の弟子かなんかですかねえ・・・
何?
だってこうしって役者がいたんでしょう?
役者じゃねえ、学者!学問をなさる偉い方!
ああ!学者ですか!まあ色っぽくないんですねえ!
色っぽい話をしようてえんじゃないんだよ!
よ~く聞きなさいよ!?お前のためになる話だから聞いときなよ?
で、まあ学問をなさる偉い方だから街中の賑やかな場所にはお住まいにはならない・・・
ちょいと静かな離れた場所にお屋敷を構えてらっしゃる・・
で、お役所に通う時には馬でもって通われる・・・
大変にこの方がまた馬が好きな方でな、今までに何頭もお召になってる・・
中でも一番気に入って可愛がってらしたのが!一頭の白馬だ!
で普段から大変に可愛がっていらっしゃって、いつもご家来の人たちに
「よいか?これをいたわってつかわせよ?余のつもりだと思っていたわってつかわせよ?」
ってんでご家来衆は大変だ!
もう~気を使う!
で、ある日ねえ!乗り換えの馬でもってお出かけになった・・・その留守に厩(うまや)から火事だよ・・・
さあ火事という言葉を聞いてご家来たちがピーンと来たのがそのご愛馬のことだ
あの馬を早く助け出さなくてはならない!ってんで一同が飛び込むってともう火の手が回ってきている・・・
名馬に限って火を恐れるってぇことを言うだろ?ね?
いくら引っ張り出そうと思っても火を恐れちゃって馬がガッ!っとこうして動かない・・・
中に入ってって後ろから押す人、前から引っ張る人、色んなことをやってみたがびくりとも動いてくれない!
だんだんだんだん火が回ってくる・・・
自分たちが死んじゃあ何にもならないってんで、あわてて逃げだした・・・
見ている目の前でご愛馬を焼き殺した・・・
さあ!大変だ!どんな御咎めを受けるだろうと心配しているところへ!孔子様がおかえりになってくる・・・
『火事があったそうだな?』
『はい・・ご愛馬を焼き殺してしまいました・・・』
『そうか・・お前たちに怪我はないか?』
『手前ども一同無事でございます!』
『ああ!そうかそうか!それは良かった!今度からは火には気を付けなくてはならんぞ?』
とおっしゃって馬のことはこれっばかりも言わねえんだよ?
え?どうだい?ご家来の気持ちになって見な!?
まあこの人は普段から馬のことばかり言ってる人だと思ったら、いざとなったらこんなにも俺たちのことを思っていてくれたのか・・・
あ~もうこの人のためならもう生涯尽くそう!という気持ちになるだろう?
へえ・・・そうですねえ・・・
これとね?まるで逆の話がある・・・
これは日本だ・・麹町にな、さる殿様がいた
あらぁそうですか!だったら引っ搔くんでしょうねえ?
何!?
だって猿の殿様・・・
猿の殿様じゃないの!名前が言えないからさる殿様ってんだ!
そんなこともわかんないから喧嘩になんだよ!
それでなこの殿様がな?大変に焼き物が好きなんだ!
あら!そうですか!あたしもなのよ!もう一度に五、六本はいただいちゃうのよ?まあ下っ腹が張ってねえ!
なんだい!?
焼き芋でしょ?
どうして黙ってられねえんだよおめえは!焼き芋じゃないよ!焼き物!
つまり早え話が、あの・・瀬戸物だ!
まあ皿だとか茶碗だとかそういう物を集めてるんだよ!だから黙って聞いてなよ!!
ちょちょちょちょっと待って下さい?え!?皿だとか茶碗を!?集める!?
やっぱりそういう人がいるんですかねえ!
へえ!いやあね?うちの人もそうなんですよ!
おめえんとこのハチ公が!?
そう!知らなかったでしょ?兄さん!
そういうところがあんのよ!あの人も!まあおかしいったらありゃしないのよ!
こんなへんてこなねえ!皿だとか茶碗だとかを買って来て・・・
こないだなんか兄さん!呆れちゃった!
縁日でもってね!一円五十銭も御あしだしてね?買ってきた皿見て驚きましたよ!
これっばかりのもんよ?それでもって淵は欠けて、穴は開いているでしょう?
だからあたしも言ってやったの!無駄遣いしちゃあ嫌だよ!ってねえ!?
御あし(お金)を使うのは構わないけれども一体何に使うのよ!どうして一円五十銭も出して買ったの!?って言ったら
「おめえは何にも知らねえからそんなこと言ってんだ!」
「これは信長時代の物でひびが入ってたり淵が欠けているから俺たちでも手に入るんじゃあねえか!おめえは何も知らねえんだから黙ってろ!」
って言いましてね?
自分で箱をこさえて綺麗に布でくるんで中にしまってあるんです!
たまにそれを出してみているその嬉しそうな顔ってったらないの!!
ねえ!あたしにはそんな顔ちっとも見せたことはないのよ!?だから悔しくってね!・・・
分かった分かった!もういいもういい!
あのなあ・・・おめえんとこの亭主が買ってくるような一円だ、一円五十銭だ二円だなんて話じゃねえんだ・・・
その殿様が集めているものってえのは!みんな何千円何万円とするものなんだよ!
あらそうですかあ・・・じゃあずいぶん大きいんでしょうねえ・・・
いや値が張れば大きいてえもんじゃねえんだよ?ね?これっばかりのもんでも何千円てえ物があるんでえ!
で、まあそのお殿様が一番大事にしているのは大変に高価な皿でな?宝物だよ!?
で、お客様を呼ぶってえとそれで料理を出す・・・その後でもってその自慢話ってぇやつだ・・・
それほど高価なものだから奉公人には扱わせないで、いつも奥様が一手に引き受けている・・・
ね?ある日いつものようにお客様を呼んで・・・
それで料理を出して!ひとしきり皿の自慢話に花が咲いてお客様がお帰りになった後で!
いつものことだから奥様が皿をまとめて、二階から降りようとした・・・
ところがだ!ふっとこう段を踏みだした途端体が前につんのめってきたってやつだ・・・
慌てていけないってんで反り身になるってと!段が拭き込んであって足袋が新しいからたまったもんじゃない・・・
つるっと滑るってと上からだぁぁぁぁぁ・・っと!
一気に下まで落ちちゃったんだ・・・
あらっ・・へえへえ・・・
ね?ところが偉いもんだ・・・なあ!
普段から大事にしなくちゃいけないと言われているから、その大切だと思う皿を!
ぐ~っと高く差し上げて!
尻もちをついたまんま上から下まで一気に滑り落ちてきた・・・ねっ?
この音を聞いてだよ?その殿様が上から
『どうした!皿壊さなかったか!?皿はどうした!?皿は!皿は大丈夫か!?皿は壊さなかったかとろうな?皿皿皿皿・・・』
一度に六五回言ったそうだ・・・
『皿は損じませんでした・・』
『そうか!大切なものであるから気を付けなければならんぞ?』
これっばかりも奥さんのことを聞かない・・・
その日は何事もなかった・・・あくる日になるってと!
ちょいと里方へ行ってきますと言って、奥様がお出かけになってそれっきりお戻りにならない・・・
夜になっても帰ってこない!ね?
『奥は何をしているのであろう?』
心配しているところへある日仲人が入って来て
『実はご離縁をいただきたい・・・』
『どうしてだ?』
『・・昨日伺いましたところ奥様が誤って二階から落ちたときに!お殿様は奥様の体をご案じくださいませんで、皿のことばかり心配されていたそうで・・・
いくら高価なものかは知りませんが、娘より皿を大事にするようなそういう家へ大事な娘をやっておくわけには参りませんからどうぞご離縁を願いたい・・・
これは親御さんからのご依頼でございます・・・』
ってね?筋が通ってるだろ?何にも言えねえ・・・
しょうがない!奥様に離縁をして、さあ!後ってってもそういう評判が広まってる・・
白状な殿様だよ!?っていう評判が広まっているからそんなところへ娘はやれん!
ってんで、殿様は生涯寂しく暮らしたってぇこういう話がある!
人間というものはね・・・いざとならなきゃ本当の料簡というものは出てこないよ!?
だからお前さんそんなに心配だったら!
人の料簡試すってのは嫌なもんだよ?嫌なもんだけども、そんなに心配だったらハチ公の料簡試したらいいじゃねえか・・
あら・・・どうやって試すんです?
だから今言った話だよ・・・
聞いて見りゃあおめえんとこのハチ公が大事にしてるものがあるってねえ・・・
ん?皿だったか?
一番大事にしているものを、これから帰って洗うようなふりをしてわざとこう転ぶんだよ・・・
その拍子にへっついの角にでもパァ~っと叩きつける!割っちゃってご覧!
そん時に!野郎がだよ?
皿のことばっかりグズグズグズグズ言って、おめえの体のことをこれっばかりも心配しないようじゃあもう見込みがないよ?
別れちゃえ・・・
え?どうしてったってそうじゃねえか!お前より皿の方が大事なんだから!
だから別れるんだよ・・・
それで皿のことはまずおいて、「どうした?」って、お前の体のことをこれっばかりでも心配するようなことでも聞いたら
それはおめえのこと思ってんだから一緒にいたらいいじゃねえか
あらっ!そうですねえ!でもねえ!
いくらなんでもあんなちっぽけな皿とあたしどちらが大事かって言えばねえ!
それはやっぱりあたしの方が大事なんじゃないんですか?
何も心配することはねえじゃねえか!でも分かんないよ?
おめえのこと聞く前に皿のことグズグズ言うかも知れねえぜ?
ああ・・・そうかもしれませんよ?だっていつもそうなんです・・・
ちょいとあたしが触ろうとしたときのそのね!顔ったらありゃしないんですから!
それ思うってと先に皿のこと聞きますかねえ・・・そうなると別れなくちゃいけないんですか?
そりゃそうだよ?別れた方がいいじゃねえか!
う~ん・・・そうですかねえ・・・
じゃあ兄さんこうして下せえな・・・
一足先にこれからうち行ってですね?
「今ここへあいつが来て皿を割るけれども、あいつの体を先に聞いとくれ?」って・・
それじゃあ何にもなんねえじゃねえか!とにかく帰ってやってみなよ?
そうですか・・・はい!分かりました!
どうもすいません、ありがとうございました!
厩火事を聞くなら「三遊亭圓楽」
三遊亭圓楽の「厩火事」は、夫婦の微妙な掛け合いが笑いを誘う滑稽話です。圓楽の軽妙な語りが、日常の中に潜むユーモアを鮮やかに描き出します。家事の合間にほっと一息つける、心温まる一作です。
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・・・まあ兄さんってのは頭がいいねえ・・
本当にあの人がうまい具合に唐土の方であってくれりゃあいいんだけどねえ・・・
麹町のサルだったらどうしようかねえ・・・心配になってきちゃった・・・
あら?まだ怒ってんのかしら・・・
ただいま
何をしてやがんだ!本当に!兄貴のとこ行ってたのか!?
本当にもう・・・喧嘩になるほどのことじゃあねえだろ?
それをすぐなんか言えばパァ~っと膨れて飛び出していきやがって!
よしなよ!あそこ行くのは!後でまたなんか言われるんだよ!!
行くのは行くで構わねえけれどもさ、早く帰ってこい早く!
こっちはおめえ・・飯の支度して待ってんだ・・・
いつまで経ってもおめえ帰って来ねえだもん!腹すっかりへっちゃったよ!?
あら!お前さん・・ご飯の支度・・してくれたの!?
したよ!
待ってたの!?
おうよ!
あ・・あたしと一緒にご飯食べたいの!?
当たり前じゃねえか!普段おめえは外行っちゃってんだ俺はうちだよ?いつだって別々に食ってんじゃねえか・・・
たまの休みだ!夫婦差し迎えで飯食いてえのは当たりまえだろ?
あらぁ・・・お前さん見どころがあるよ?
唐土の方だねえ!
何!?
いやあなんでもないのよ!ありがとありがとっ!
でもその前にちょいとあたしやることがあるのよ・・・
いいよぉあとでで!先に飯を食っちゃってからにしとくれ!
俺ぁもう腹減っちゃってんだから!飯食ってさ!
・・・な、なにをしようってんだ!何を!
いいじゃないか!何だってさあ!ちょいとねえ、洗い物があるの!
洗い物?いいじゃねえか!後にしなよ?
飯食っちゃ汚れものが出るんだから!な?それからやったらいいじゃねえか!
よしなってんだよ!いいじゃねえ・・・
おい!!そこにはおめえのもんは何にもねえんだよ!!
何をしてんだ!?ねえ!?・・おい!!
それ触っちゃあいけねえって言ってるじゃねえか!こん畜生!!
あらやだぁ・・・本当にだから心配だよぉ・・・
さっき唐土だと思ったら今もう麹町になってるんだから・・・
本当にまあ・・いいじゃないか何したって!!お前さんの大事なもんだろ?
だからこれあたしねぇ!洗ってあげるの!!
いいんだ!それ洗わなくて!!
洗わなくていいもんなんだそういうものは!!ねえ何かするんじゃねえ!!
いいのよぉ!もう目の色変えて怒って悔しいねえ・・・
洗ってあげるんだよ!いい?
ほら、ねっ?綺麗に洗ってあげるんだから、ねっ?
よしな!そんなことすんのは!!やめとくれ!!
いいじゃないか本当に・・・ふんふんふん♪
おい!!よしなってんだ!そんな格好して笑ってんじゃ・・・
ちょっ!!ちょっ!!!
・・・
・・言わねえこっちゃねぇ・・・
本当にまあしょうがねえ、転んじまいやがったなあ・・・
どうした?大丈夫か!?
どっか打たなかったかよ?おい!
・・・ぐすっ・・ありがとっ・・ぐすっ
・・まあ・・お前さん・・・お前さんは唐土だよ・・・
何を言ってんだよ?大丈夫か!?
だってお前さん・・あたしお皿割っちゃったよ?
いいよぉそんなもん別に銭だしゃ買えるじゃねえかよ?
それよりおめえどっか怪我してねえかって聞いてんだよ・・・
嬉しいじゃないかねえ・・・お前さん・・・
そんなにあたしの体が大事かい?
おう!おめえに患われてみねえな!
明日っから遊んで酒が飲めねえや・・・
厩火事を聞くなら「三遊亭圓楽」
三遊亭圓楽の「厩火事」は、夫婦の微妙な掛け合いが笑いを誘う滑稽話です。圓楽の軽妙な語りが、日常の中に潜むユーモアを鮮やかに描き出します。家事の合間にほっと一息つける、心温まる一作です。
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