世の中には知ったかぶりをする方がおりますけれども・・・
あるお寺のご住職、ちょっと体の具合が悪くなってお医者様に往診をしていただきまして、帰りがけにその先生が・・・

ご住職、転失気(てんしき)はございますかな?
転失気はございますかなと・・・
和尚さんこの『転失気』という言葉が分からない・・・ なんですか?と聞けばよかったんですが、知ったかぶりな方で・・・
転失気を聞くなら「立川談志」
立川談志の「転失気」は、和尚の恥ずかしい失敗を巡る滑稽な騒動を描いた一席です。思わず笑ってしまうような出来事が、談志の辛辣でユーモア溢れる語りで鮮やかに展開されます。笑いと共に人間味を感じさせる、名人芸が光る作品です。
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テンシキの方はですな・・・うむ・・・ありません!

いけませんな、それでは薬の方を調合しておきましょう
ってんで、さあその先生帰っちゃった・・・
気になってしょうがない・・・

なんだろうなぁ・・・テンシキか、誰か知っておるものはいないかな・・・

そういえば、小僧に物知りなやつがいたな・・・あれに聞いてみよう・・・

珍念!珍念はおらぬか!?

へ~い!和尚様お呼びでございますか?

お前テンシキはどうした?

は?

テンシキはどうした?

なんですか、テンシキって?

お前に教えたはずだ・・・忘れたか?

忘れたんですねぇ~

じゃあ聞いてこい・・・

へ?和尚様教えてくれないんですか?

この馬鹿者が!そうやってすぐに答えを求めようとするでない!自分の力で道は切り開くのじゃ!

そうですか・・・どこに行って聞いてくればいいんですか?

うむ・・・そうだな、乾物屋で聞いてきなさい、表の乾物屋さん・・・

なんて言って聞きますか?

簡単だ、テンシキはありますか?と聞いて『あります』と言ったら二つ、三つ借りてきなさい

ないと言ったら?

隣の花屋のおじいちゃんに聞けば分かるから早く行っといで!

行ってまいりま~す!

教わったかな、そんなこと・・・

こんにちわぁ!親方いますか!?

おお、珍念さん、今日はおつかいかい?

いえ、おつかいじゃないんですよ、テンシキがあったら貸して欲しいんです!

え?

テンシキがあったら貸して欲しいんです!

なんだい?

テンシキ!

テンシキ?ふ~ん・・・まああると思うよ、ちょっと待ってな・・・

テンシキ・・・テンシキ・・・あぁ!悪かったね!こないだまで二つあったんだけれども・・・

こないだ親戚が来てこれいいね!って言って床の間の置き物にピッタリだね!なんて言うから、じゃあやるよ!って言ってあげちゃったんだよ・・・

もう一つ?棚からねずみが落として割っちゃったから、よろしくそう言って・・・

あぁそうですか、分かりました、ありがとうございます!

すいませーん!花屋のおじいさんいますかぁ!

おお、これはこれは珍念さん、なんだい今日は?

今日はあの買い物じゃないんですよ、転失気があったら貸してください

え?

テンシキ!

て、テンシキ?・・・あ、ああテンシキね・・・ちょっと待ってね・・・

あぁ!これはすまんことをした!今朝まであったんだがな、今朝おばあさんがお漬けの身にして食べちゃったんだ・・・

すまないね、よろしくそう言っておいてくれ・・・

ありがとうございました!

行ってまいりました!

借りて来たか?

ないんですよ!乾物屋の親方に聞いたら、こないだ親戚にあげちゃったんですって、床の間の置き物にするって・・・ねずみが棚から落として割っちゃったって!

それから花屋のおじいさんに聞いたら今朝おばあさんがお漬けの身にして食べちゃったってそう言ってました・・・

食べた・・・ふむ・・・食べ物か?ねずみが棚から落として割った・・・固いものか?置き物?

なんでございますか、和尚さん転失気って!教えて下さいよ!

馬鹿者!わしが一度教えたことを覚えておらんからそうなるんじゃ!わしは一度教えたことは二度と教えんからな・・・

あ、そうだ珍念、そろそろ薬の調合が出来てる頃だから取ってきておくれ、頼むよ?

あ!ちょっと待ちな!珍念、お前先生の所に行ったらそれとなくだぞ?それとなく、『テンシキとはなんですか?』と聞いてきな・・・

いやいやわしが言えと云った風に聞くのではないぞ?あくまでお前の腹から、お前の好奇心から聞く姿勢を忘れぬようにな・・・

それじゃ行ってまいります!

なんだろうな・・・教えてくれりゃいいのになぁ・・・

先生いますかぁ!

おぉ!これは珍念さん、薬は出来ておりますよ!

ありがとうございます・・・それからあたくし先生に伺いたいことがあるんでございます!

なんですかな?

テンシキってなんですか?テンシキ!

転失気?なんだ、お前さんわしと和尚さんの話を立ち聞きしておったのか?子供というのはつまらぬものに興味を持つな・・・

どうでもよくないですよ!気になってしょうがないですよ!教えて下さい!

まああんまり今は使わぬ言葉でな・・・早い話がな放屁のことじゃ・・・

へ?

放屁!

現実?

それは逃避だ・・・放屁!いやおならだ・・・

なんです?おならって?

おならを知らぬか?ようするに屁だよ・・・

屁!?それってあのお尻から出る?

あまり口からは出ぬな・・・

色の黄色い?

冗談言わないで下さいよぉ!こどもだと思ってからかっちゃいけませんよ!

冗談言わないで下さいよぉ!こどもだと思ってからかっちゃいけませんよ!

いやいや嘘などではない、我々医学の方でもよく読まれる『傷寒論』という本にも出てくるが、字で書くと『気を転じ失う』と書いて転失気だな・・・

博学多才な和尚におならは?とは聞けぬから、『転失気は?』と聞いたまでだ・・・

本当におならですか!?だってうちの和尚借りてこいって言いましたよ!?

馬鹿なことを言うな!

そうですか・・・ありがとうございました、さようなら・・・

なんだい、じゃあ今まであたいはおなら借りに歩いてたんだね、恥ずかしいなぁ!

乾物屋の親方なんかこないだまで二つあったんだって言ってたよ?

ひとつは床の間の置き物ってあんなもの置き物にしたら、床の間が匂っちゃってしょうがねえや!

ねずみが棚から落として割っただってさ!割ったらどんな音がすんだ、ぶり!って音がすんのかな・・・ははは、なるほど・・・

花屋のおじいちゃんはもっと変なこと言ってたよ?おばあさんがお漬けの身にして食べたちゃっただって!食えるわけ・・・

あ・・・みんなあれ誤魔化してんだ、知らねえんだな?知ったかぶりだよ・・・

面白いねぇ~!・・・ん?ちょっと待てよ・・・うちの和尚さんも知らねえんじゃねえか?

知らねえから適当なこと言って誤魔化したんだ!悔しいねぇ、人に恥かかせて自分が覚えようってんだからなぁ・・・

あ・・・いいこと思いついた・・・嘘教えよう!

嘘教えて和尚さんが本当のこと知ってたら『違う!転失気はおならだ!』ってなるけど、知らなかったらそれっきりだ・・・

なんて言おうかな・・・あ、そうだ・・・うちの和尚さん、お酒が好きでお盃いっぱい集めてるんだ・・・

転失気のことは盃のことですって言えばこりゃ面白え!

こりゃ珍念!使いに行ってきたのか!?

行ってまいりました・・・薬でございます・・・

そんなものはどうでもいいのだ・・・聞いてきたか?

は?

聞いてきたか?

聞いてまいりました・・・

なんとおっしゃってた?

はい・・・あのひとつ聞いてもいいですか?

なんだ?

和尚様はご存知なんでしょ?

知っておる・・・

じゃあいいじゃないですか・・・

よくはない・・・お前がしっかり自分の目と耳で学んだかを確かめる義務がわしにはある・・・

いや和尚さんは知っててあたしは聞いて覚えましたからそれでチャラ!

いや和尚さんは知っててあたしは聞いて覚えましたからそれでチャラ!

はい!転失気とは『お盃』のことだとおっしゃってました!

盃?テンシキがか?・・・テン・・・そうか!

天という字の下に口を書くとこれは呑むという字になる!

はい!転失気とは『お盃』のことだとおっしゃってました!

しは・・・そうか!酒か!酒を呑む・・・

きはそうか!器か!『酒を呑む器』と書いて呑酒器か!呑酒器呑酒器呑酒器・・・

呑酒器が盃だということは以前お前に教えた!忘れることのないようによく覚えておくな!

さあ、もう向こうへ行ってなさい!
ってんでその日はそれで終わりまして、またお医者様の往診がありまして・・・

いやいやこれも全て先生のおかげ・・・すっかりよくなりました・・・

それは結構ですな・・・

いやこないだ先生あたしに呑酒器はありますか?とお尋ねになりました・・・

その折、ございませんと答えましたが、実は呑酒器・・・ありました!

おお!結構でございますな!

いやはや先生の前ですが、あたくし呑酒器が大好きでございましてね?

だ、大好き?転失気が?あ、あぁ・・・け、結構でございますな・・・

先生も呑酒器はお好きですか?

う~ん・・・あまり好むものではございませんが、時々催します・・・

催すとはまた風流な!はっはっは!いや奥様も呑酒器はおやりになりますでしょう!?

ん・・・まあ人間ですからなぁ・・・女ですから堂々とはやりませんが、台所の方で隠れてこそこそやっておりますよ・・・

またまたご冗談を!お二人は仲がよろしいと聞いておりますから、お夕飯の時にはお膳を挟んでやったりとったり・・・

馬鹿なこと言っちゃいけません!

あたくし少々、自慢の呑酒器がございまして・・・

今日はそれをご披露させていただこうかと!

馬鹿なことを・・・

いやいや当寺では十三代まで受け継がれておりますよ・・・

十三代!?それはどのように?

箱に詰めましてな・・・

蓋を取ると匂う?

匂うということはありません、ちょっとお待ちください!

珍念や・・・三つ重ねの呑酒器を持って来なさい!

あっはっは!馬鹿なこと言ってるよ!和尚様!

和尚様・・・ぶーぶーぶー・・・

なんだ余計なことを言うな・・・この中に入ってるんでございます・・・

どうぞ、お改めを・・・

この中に・・・転失気が収まりましたか・・・

あたくし匂いを嗅いだことはありますが、見るのは初めて・・・

それじゃあちょいと拝見させていただきましょう・・・

ん?・・・和尚!これは結構なお盃!

いやいたって粗末な呑酒器で・・・

またまたご冗談を!医学の方では『気を転じ失う』転失気・・・

すなわちおならのことを申しますが、なぜお寺方ではこの盃を転失気と?

おなら!?あ、い、いや・・・あぁ!また珍念にしてやられた・・・

こら珍念!こっちへ来なさい!

こういう良からぬ嘘をついて、お前はあたしのことをなんだと思ってる!?

屁とも思いません・・・
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立川談志の「転失気」は、和尚の恥ずかしい失敗を巡る滑稽な騒動を描いた一席です。思わず笑ってしまうような出来事が、談志の辛辣でユーモア溢れる語りで鮮やかに展開されます。笑いと共に人間味を感じさせる、名人芸が光る作品です。
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転失気を聞いて
転失気=屁、汚い話ですが、和尚さんやお医者さんが話をするとなぜか厳かで綺麗な言葉のように思えてしまいますね。
現代では例え知ったかぶりをしたとしても、Google先生に聞けば分かってしまうので、昔のように誰かに聞かないと分からない状況はなくなりましたね。
もちろん知ったかぶりは嘘をついているのと同じことなので、この和尚さんのように痛い目を見ると思いますが。
あなたももし放屁してしまった場合は、『知らんのか?これは転失気と言ってな?医学の方では重要な言葉なんじゃよ?』と誤魔化してみましょう。
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