東北のある村の話でございまして、こちらではお手洗いのことを勘定場と言っておりました・・・
一軒一軒にあったわけではございません・・・
村はずれに川が流れれておりまして、そこの河原、そこを勘定場と言って、お手洗い代わりに使っていたという・・・
それで杭が一本打ってあって縄が結ってあるんです・・・
それをたぐってみるってと、川の中から長さ1メートル、幅30センチくらいの、これを勘定板と言いまして、村の人はこれにまたがって用を足す・・・
そしてこの用を足すことを「勘定をぶつ」と言っておりました・・・
用を足し終わりますと、これを川の中に引っ込める、そうすると川の流れが綺麗に汚れを洗い流してくれる・・・
今の水洗便所の起源みたいなもんでございます・・・
ここの村人が江戸見物にやってまいりまして、日本橋にある宿に泊まります・・・
勘定板を聞くなら「立川談志」
立川談志の「勘定板」は、トイレとお金を巡るやり取りに笑いと皮肉が交錯する一席です。談志独特の語りが、登場人物たちの駆け引きを巧みに描き、シンプルな物語に深みを与えています。日常の中に潜む人間模様を鮮やかに浮かび上がらせた名作です。
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五作~~どうした!?
えれぇ顔の気色が悪いんでえが?どうした?
んだな~おらさっきから勘定ぶちたくてならねえだ!!
勘定?勘定ぶちてえんだったら勘定場さ行けばいいでねえが!!
あ~確かに、んだな~!じゃあなこの宿の者に聞いてみべ・・・
お~~い誰かいねえけえ?誰かいねえけえ?
へ~~い!
おいみんな!
今御着きのほら、二人連れの二階にお上がりになったあのお客さんが呼んでるよ!
何?みんな忙しいの?
じゃあしょうがない、あたしが行くとしよう・・・
お呼びでございますか?
お~番頭さんでねえが、こけいこ!!
なんとおっしゃいました?
こけいこったらこけいこったらこけいこだで、こけいこ!
ニワトリみたいな人だな・・・
はい、何でございましょう?
あ~ほらこいつ、五作っていうんだけども、顔の気色悪いべ?
勘定ぶちてえんだど!!
で、考えてみたらおれもまだ今日は勘定ぶってねえがら、二人そろって勘定ぶたしてもらいてえ・・・
あっ左様でございますか?でもまだ御着きになられたばかりで・・・
左様でごぜえやす~
あのお話伺ったんですけども半月ほどお泊りいただけると・・・
左様でごぜえますよ!!江戸は広うごぜえやすからな~!!
ゆっくり江戸見物させてもらってえ、土産話をこしらえてから、それから国に帰りてえと思っていやす~
左様でございますよねえ!!
そうしましたら毎日お勘定いただくのは面倒でございますので、お勘定はお発ちの時にまとめてで結構でございます!
何でごぜえやすか?
あっですから、お勘定はお発ちの時にまとめてで結構でございます!!
ちょっと待って下せえ・・・
五作!!江戸では勘定まとめてぶつんだそうだけども・・・
おめえ15日我慢できるか?
無理!!無理!おらもうそこまできてるだ!!
んだな~!
あの番頭さんすまねえんだけどもねえ・・・
おらたち国にいた時分には必ず日に一ぺんは勘定ぶってただ!!
勘定は毎日ちゃんとぶたしてもらいてえ!!
ま~~お客様!!田舎の方は大変にお堅くて大変に結構でございます!
いや固ぇか柔らけえかはしてみなきゃ分かんねえんだけどね・・・
じゃあねえ、勘定場さ連れてってもらいてえ!!
何でございます?
勘定場!
お勘定場?
あ~はいはいはい、勘定場はですね、下の階でございますよ!
え~今勘定場はお越しの方、お発ちの方で大変混みあっておりますので・・・
あの、勘定は下だと面倒でございますので、勘定はここで結構でございます!!
ここで勘定ぶっても構わねえのか!?
ええ結構でございますよ!!
でもここ、俺たちが寝泊まりするところ・・・
左様でございます!!
あの大変混みあっていても相部屋とかそういうことはございませんのでねえ!!
ゆっくりとおくつろぎいただいて・・・
ここで勘定ぶったらくつろぐことできねえと思うんだけども!
ああ左様でございますか?
それでしたら隣の部屋なんかいかがでございましょうか?
隣の部屋で勘定ぶっても構わねえか!?
ええ!!結構でございますよ!!
どのあたり?
左様でございますねえ・・・
今時分でございましたら床の間なんかいかがでしょう?
床の間で勘定ぶつの悪い気がするけどもねえ・・・
それじゃあね勘定板貸してもらいてえ・・・
勘定板!!
勘定板?
はい!かしこまりました!!
さあ番頭さん、勘定板という言葉を聞いたことがありません・・・
え~と勘定板勘定板・・お勘定する板・・・
あっ、これはきっとそろばんに違いない!!
っと早とちりをしてしまいます・・・
当時のそろばんは箱そろばん・・・ひっくり返すと板っきれになっている・・
それをひっくり返さず渡せば、間違いは起きなかったんですが・・
番頭さん変に気を使ってひっくり返して板の方を表にして出したもんですから・・
勘定板を聞くなら「立川談志」
立川談志の「勘定板」は、トイレとお金を巡るやり取りに笑いと皮肉が交錯する一席です。談志独特の語りが、登場人物たちの駆け引きを巧みに描き、シンプルな物語に深みを与えています。日常の中に潜む人間模様を鮮やかに浮かび上がらせた名作です。
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お待たせいたしました!勘定板でございます!!
・・・これ勘定板でごぜえやすか?
左様でございますが?
小っちぇんでねえが?
小さいと申されましても江戸ではこれでそろっておりますが・・・
乗っかります?
何です?
乗っかりますか?
乗っかります!
はみ出ることねえか?
もう勘弁してくださいよ~~!先ほどから面白いことばかり~~
いやあ~、あたくし長いことこの商売やっておりますが・・・
はみ出るほどのお勘定まだ見たことがございません!!
五作?これなんかわけがあるだな?
じゃあ一応聞きてえと思うんだけども、これいってえどうやって使うのかねえ?
まず初めに玉をはじきまして・・・
玉はじく!?
か、勘定ぶった後は?
ええ呼んでいただきましたら、取りに行きますが・・・
番頭さんがわざわざ取りに来てくれんのかねえ!?
それどこにしまう!?
ええ懐にしまって・・・
懐・・・
もう江戸は何考てるかわからねえ・・・
まあとにかくじゃあ隣の床の間さ行くだあ・・・
五作見ろ~~!!掛け軸ぶら下がってる、山水の絵だ~~!
あ~絵の中の川、おらんとこに流れてる川と一緒だな~
これだば勘定ぶち・・・
五作!!何で震えてるだ?
やだ・・怖い・・
玉はじいたら痛ぇ!!
何言うてるだ!!いいから勘定ぶて!おらも勘定ぶつんだから!!
番頭さん!番頭さん!!
へ~~い!!
いいよ楽しいお勘定の時間なんだ、俺が行くよ!!
・・・はい!お呼びでございますか?
おお!!番頭さん!!勘定ぶちました!!
持ってって下せえ!
ぐおおおお!!!くっっさい!!
なんか間違いがあったんだ・・・
誰か・・・ほうき持ってきておくれ・・
そんな小さいのじゃなくて!!手についちゃう!!
さあほうきの柄の方でもってつんつんとつっつきますが、さきほど申しましたように、そろばんをひっくり返しております・・ ・
動き始めまして・・・
廊下へ出ていきまして・・・
勢いついて下の階まで・・ ・
ガラガラガラガラ~~~~!!
五作~~!!
見ろよやっぱり江戸はすごいなあ!!
勘定板が車仕掛けになってやがる・・・
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