落語【湯屋番】台本 吹き出し風

落語 台本

年代によって、考えていることが違うというのを、ジェネレーションギャップなんて言いますが、落語の中でもご大家の若旦那とそのおとっつあんとは意見が合わないようで・・・

道楽が過ぎて、『勘当だ!』なんてんで家を追い出されて居候です・・・

親のうちの出入りしている商人の所とか、あるいは職人の所へ居候をするってんですけど・・・

居候はあんまりそのうちの人からはよく思われないなんてこともあります・・・

特にそのうちのかみさんなんかは怖いくらいでございますが・・・

湯屋番を聞くなら「柳家小三治」

柳家小三治が語る「湯屋番」は、日常の中に潜む笑いと人情の温もりを巧みに描き出します。彼の自然体の語り口、繊細な表現、そして情景描写の巧さが物語を一層引き立てます。

小三治の独特のユーモアセンスが織りなす笑いの瞬間は、観客を飽きさせることなく引き込んでいきます。

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かみさん
かみさん

ちょいとお前さん!どうすんだい!?

熊五郎
熊五郎

何が?

かみさん
かみさん

何がじゃないよ!居候だよ!

熊五郎
熊五郎

え?・・・あぁ、若旦那?

かみさん
かみさん

そうだよ!どうすんだよ!あの居候!

熊五郎
熊五郎

馬鹿・・・聞こえる・・・

かみさん
かみさん

いいだろ聞こえたって!居候に変わりはないんだからさ!

かみさん
かみさん

どうすんのーーーーー!!!

熊五郎
熊五郎

うるさいよお前は・・・

熊五郎
熊五郎

分かったよ、じゃあ今日ね、若旦那に小言を言って身の振り方決めさせるから気にしないでおくれ?お前はどっか行ってておくれ?

熊五郎
熊五郎

お向こうのおみっつあん所にでも行って茶でも飲んできな、ゆっくりでいいぞゆっくりで!頼んだよ?

熊五郎
熊五郎

あぁ~あ、まあかかあがうるさく言うのも分かるよ・・・

熊五郎
熊五郎

若旦那が二階でよく寝るんだこれが・・・

熊五郎
熊五郎

よく体から根っこが生えないかと思うよ・・・

熊五郎
熊五郎

若旦那!起きてくださいよ?ちょいとお話がございます!若旦那?

旦那
旦那

寝てんのかな・・・

熊五郎
熊五郎

ちょいとほうきでつつくか・・・

熊五郎
熊五郎

若旦那!大事な話がありますからね!降りて来てください・・・よっ!

熊五郎
熊五郎

若旦那!

若旦那
若旦那

もうちょっと左だ

熊五郎
熊五郎

そんなこと言ってちゃいけませんよ!降りて来てください!

若旦那
若旦那

はいはいはい・・・おはよう・・・

熊五郎
熊五郎

おはようじゃありません、今何時だと思ってるんですか?

若旦那
若旦那

知らない、あたし今まで寝てたんだから・・・

若旦那
若旦那

寝ている者に起きている者が時を聞くとはこれいかに?

熊五郎
熊五郎

うるさいなぁ!あんた!

熊五郎
熊五郎

まあ年から年中あたしのところにいたってかまわないですけれどもね?あなたのためになりませんよ?

熊五郎
熊五郎

どっかで働いたり、奉公していればおとっつあんだってなんですよ?

熊五郎
熊五郎

『お前の料簡が治ったみたいだから許してやろう』なんてんでうちへ・・・

若旦那
若旦那

わかったわかった・・・だからあたしもね、奉公先をちゃんと決めたんです!

熊五郎
熊五郎

あらっ・・・どこで働こうってんです?

若旦那
若旦那

お前知ってるかな?浅草の観音様の脇・・・

若旦那
若旦那

間道をず~っと下へ抜けて行って土手へぶつかるちょいと左側にね、桜湯って湯屋があるんだ!銭湯だ!

若旦那
若旦那

そこへ行ってあたし湯屋として働くから!

熊五郎
熊五郎

あらっ!そうですか!あのね、桜湯ってのは大変にあたしの親類なんですよ?

熊五郎
熊五郎

ちょいとあたくしが一筆書いたものがありますから持ってってくださいな!

若旦那
若旦那

え?

熊五郎
熊五郎

何も言わずに使ってくれますから

若旦那
若旦那

ほう、紹介状・・・嬉しいね、こういうものがあると心強いけれどもね・・・

若旦那
若旦那

どういうわけであそこに働くことにしたか知ってるかい?知らないかい?

若旦那
若旦那

何日か前にね、あの近所のうちへ一晩泊めてもらってね、あくる朝に朝湯に行ったんだ・・・

若旦那
若旦那

ガラガラガラっと格子を開けて湯銭を払おうと番台を見て驚いた・・・

若旦那
若旦那

いい女が座ってんだよ・・・目が覚めるようないい女でね・・・

若旦那
若旦那

歳の頃なら二十七、八、三十凸凹・・・まあ昔からいい女は歳を隠すって言うから三十七、八かな・・・

若旦那
若旦那

ちょいと着物が地味だったから四十二、三・・・

若旦那
若旦那

化粧を落とすと五十二、三・・・

若旦那
若旦那

戸籍を調べて六十・・・

熊五郎
熊五郎

何を言ってんだよ!

若旦那
若旦那

まあまあ嘘のないところで三十凸凹のおつな年増ですよ・・・

若旦那
若旦那

常連客に話を聞いたらそこのおかみさんは近所でも評判の綺麗な女でね、本当にいい女!

若旦那
若旦那

お前のかみさんと大違い・・・

若旦那
若旦那

いやいや別に怒ることじゃないよ、冗談で言ってるわけじゃないんだから・・・

若旦那
若旦那

それでね、あそこのかみさんを見てあたしは奉公に行くことを決めたよ・・・

若旦那
若旦那

いや何がじゃないあたしが奉公してるってとね、むこうの亭主がまあ ~どういうわけだかぽっくり死ぬだろう・・・

熊五郎
熊五郎

死にますか?

若旦那
若旦那

死ぬんだよぉ!いい女の亭主ってのはすぐに死ぬもんなんだ

若旦那
若旦那

でもってあそこは土地、建物の権利いっさいがっさい合わせると数億の下値がありますよ?

若旦那
若旦那

そこをお前細腕一本のおかみさんに任せるわけにはいかないだろ?

若旦那
若旦那

誰か新しい亭主を見つけなければいけない!

若旦那
若旦那

だけども、あれだけの器量のいい、金離れのいい、それから頭の働く男はなかなかいないよ?

若旦那
若旦那

だからその三拍子そろってるあたしがそこへこっちから婿へ行きます・・・

熊五郎
熊五郎

あなた幸せだね・・・勝手にして・・・

若旦那
若旦那

勝手にしてじゃない、あたしが数億という金を持つだろ?

若旦那
若旦那

そしたらあなたの所にも四、五千万の金がど~んとお前の前に放り出す・・・

若旦那
若旦那

ほら遠慮なく受け取っといて・・・

熊五郎
熊五郎

は?いや受け取れないですよ・・・

熊五郎
熊五郎

いや受け取ってって・・・なんにもない・・・

若旦那
若旦那

いやあればって話だよ!

若旦那
若旦那

四、五千万の金をぽ~んと放り出して、遠慮なく受け取ったつもりで、今二千円貸して?!

熊五郎
熊五郎

何をくだらねえこと言ってんだ!早く行ってらっしゃい!

若旦那
若旦那

分かりました、行ってきますよ!

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柳家小三治が語る「湯屋番」は、日常の中に潜む笑いと人情の温もりを巧みに描き出します。彼の自然体の語り口、繊細な表現、そして情景描写の巧さが物語を一層引き立てます。

小三治の独特のユーモアセンスが織りなす笑いの瞬間は、観客を飽きさせることなく引き込んでいきます。

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若旦那
若旦那

あぁ~あ、やだやだ、ついこの間まで若旦那若旦那と言われていたあたしがまさか湯屋で奉公をすることになろうとは・・・

若旦那
若旦那

お釈迦~♪様でも~♪気が付くめえ~♪

若旦那
若旦那

ツッチャラカチャンチャン♪ツッチャラカチャンチャン♪っと・・・

若旦那
若旦那

お?あったよ、桜湯!ここがそのうちあたしの物になるかと思うと楽しみでしょうがないよ・・・

若旦那
若旦那

のれんがかかってますよ?男湯!女湯!

若旦那
若旦那

男湯・・・女湯・・・どちらにしようかな?

若旦那
若旦那

やっぱりこっちだな・・・

若旦那
若旦那

ガラガラガラ・・・ごめんなさい入りますよ~

湯屋の亭主
湯屋の亭主

ちょ、ちょっと待ちなさいあんた!そっちは女湯ですよ?

若旦那
若旦那

えぇ、好きです

湯屋の主人
湯屋の主人

いや好き嫌い聞いてるんじゃないよ!男湯はこっちですからね、こっちへ来て湯銭を・・・

若旦那
若旦那

いやいやあっしは客じゃねえ、実はこういう物を持ってきたんでちょいとご覧くださいな?

湯屋の主人
湯屋の主人

なんです?あぁ!頭の所からですか!奉公人を一人世話してくれと頼まれてたんだ!

湯屋の主人
湯屋の主人

そうするとお前さんがその奉公人?

湯屋の主人
湯屋の主人

ほぉ~!・・・はぁ~ん?・・・ふ~ん?・・・あぁ・・・

若旦那
若旦那

なんです?

湯屋の主人
湯屋の主人

なんですってお前さんがそれじゃあ、頭のとこの二階に居候してる名代の道楽者かい?

若旦那
若旦那

いや名代なんてほどじゃありません・・・

若旦那
若旦那

あたしはただね?周りを若い女の子にぐるっと取り囲まれて一杯やりながら・・・

若旦那
若旦那

『あら若旦那?そんなとこ触っちゃいやだわ?くすぐったいわ、嫌よ~!』

若旦那
若旦那

なんてんで、ほっぺたキュッ!痛い痛い痛~~~~い!・・・嬉しい・・・

若旦那
若旦那

なんていうのがあたしは好き!

湯屋の主人
湯屋の主人

変な人が来たねおい・・・大丈夫かいこれ・・・

湯屋の主人
湯屋の主人

じゃあまずやってもらうことと言えば、外回りかな・・・

若旦那
若旦那

よっ!なんでしょ?

若旦那
若旦那

背広をぱりっと着て鰐皮のカバンを持って、札束ふんだんに詰め込んで、自家用車かなんかに詰め込んで、日本各地の温泉なんかを回ってラジウムを発見してくる!

湯屋の主人
湯屋の主人

そんな外回りはない・・・

湯屋の主人
湯屋の主人

あのねぇ、裏にある大八車引っ張って来て、普請場行くんですよ・・・

湯屋の主人
湯屋の主人

それで木屑やらかんな屑を釜の焚き付け用にもらってくるの!

若旦那
若旦那

え?あれですかぁ!よしましょうよぉ!

若旦那
若旦那

だってあれでしょ?

若旦那
若旦那

汚半纏を引っ掛けて汚股引を履いて、汚草履を履いて汚車を引っ掛けて!それで汚手ぬぐいで・・・!

湯屋の主人
湯屋の主人

全部汚えじゃねえか!

若旦那
若旦那

いやだからさぁ!よしましょうよ~!

湯屋の主人
湯屋の主人

うるさいねぇまったく・・・それが嫌なら煙突掃除だ!

若旦那
若旦那

いやどんと汚れ仕事になりましたねぇ・・・

若旦那
若旦那

あっしはね、番台やりたいんですよ!番台!

湯屋の主人
湯屋の主人

いや無理だよ・・・

若旦那
若旦那

いや無理じゃない、あたしはそこをやりたいの!

湯屋の主人
湯屋の主人

なんで?

若旦那
若旦那

なんでじゃないでしょうよ・・・見えるじゃない?

湯屋の主人
湯屋の主人

何をわけの分からないことを言ってるんだよ・・・難しいんだよ!

湯屋の主人
湯屋の主人

はぁ・・・分かりました・・・ちょいと人手が足りない・・・

湯屋の主人
湯屋の主人

あっちであたしはおまんまを食べるように言われてますから、その間だけだよ?

若旦那
若旦那

あらそうですか、それはそれは・・・

若旦那
若旦那

おまんまはしっかり食べなきゃいけませんよ?ゆっくりよく噛んで食べるんですよ?

若旦那
若旦那

一口に100回は噛むんですよ?

若旦那
若旦那

さあ代わって代わって・・・それじゃあ行ってらっしゃ~い!

若旦那
若旦那

さあ念願の・・・ふっふっふ・・・この目でしっかりとこの芸術的な光景を焼き付けておかなければ!

若旦那
若旦那

まだ見ない・・・まだ見ない・・・うんとためるんだ・・・

若旦那
若旦那

せ~の・・・ぱぁっ・・・

若旦那
若旦那

はははっ・・・誰も入ってない・・・・・

若旦那
若旦那

それに比べてなんで男湯は・・・二匹三匹四匹五匹六匹七匹八匹!

若旦那
若旦那

あぁ九匹だったよ、湯舟の中で潜ってんのが一人出てきたよ・・・

若旦那
若旦那

また嫌だねぇ、あのおじさんは痩せちゃったね~!

若旦那
若旦那

なんのその男は裸百貫なんて言うけれども、あれじゃ十貫だよあれじゃ・・・

若旦那
若旦那

彫り物だってそうだ、昔は威勢よく唐獅子牡丹だったのが、すっかり肉が落ちちゃった・・・・

若旦那
若旦那

キャベツくわえたブルドックだよあれじゃ・・・

若旦那
若旦那

また隣のおじさんも太ってる嫌だねぇ・・・

若旦那
若旦那

あぁ、もういいよ!男湯はよそう!今入ってる奴らが出て行ったら男湯閉鎖!釘付けにしちまおう!

若旦那
若旦那

女湯ですよ女湯!今は誰もいないけれども通ってくる、そう!

若旦那
若旦那

芸者衆なんかがね、お妾になってるやつなんかが、昼間は旦那がいないからってんで、下駄の音色奏でながらカランコロンカランコロン♪

若旦那
若旦那

『へいいらっしゃいまし!新参者の番頭で!どうぞよろしく!』なんてんでね!気に入られてね!?

若旦那
若旦那

『お暇な時に遊びにいらしてね?』なんてなことになっちゃうんだよ!

若旦那
若旦那

そうすると俺は暇なときにちょいとおつな身なりをして、そのうちの前を何気なく通りかかる!

若旦那
若旦那

そしたら、外で掃除なんかしてる女中が気づいて『姐さん!?お湯屋の番頭さんがお見えになりました~!』なんてんで!

若旦那
若旦那

普段から恋い焦がれている男が来たと聞いたらもう!もう座敷の中から泳ぐように飛び出してくるよ?

若旦那
若旦那

『あらぁ~~!お湯屋の番頭さんじゃございませんの!?どうしたんです?どうぞこちらへ!

若旦那
若旦那

いやまた来るよ・・・

若旦那
若旦那

『そんなことおっしゃらないでいいからお上がり!』

若旦那
若旦那

いやでも・・・!

若旦那
若旦那

『いいからお上がりぃ~~~!お上がりぃぃぃ~~!上がって♡上がってぇ♡お上がりよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~!』

湯屋の客
湯屋の客

おいおい番台見てみろ番台・・・妙なやつが上がってるよ?

湯屋の客
湯屋の客

てめえの手をてめえで引っ張ってお上がりお上がり~って言ってるよ?

湯屋の客
湯屋の客

面白えからみんなで一列に並んで見てようじゃねえか!

若旦那
若旦那

手を取って上がられる・・・そうすると膳が運ばれてきて酒、魚だよ?

若旦那
若旦那

『兄さんおひとつ』

若旦那
若旦那

へい、そうですか!う~ん、うまい酒ですなぁ!爛漫で?

若旦那
若旦那

女にも酌をしてやるよ?女がくぅ~っと飲んで杯洗の水でゆすいでご返杯・・・

若旦那
若旦那

やってる間に女が凄いことを言うよ?

若旦那
若旦那

『あらお兄さん・・・今のお盃、あたしゆすがないで紅がついたまんまだったの・・・ご存じだった?』

若旦那
若旦那

なんてんでこっちを見る目の色っぽいこと!いやぁ!弱ったなぁぁぁ!!

湯屋の客
湯屋の客

おでこ叩いて弱ってるよあいつぁ!

湯屋の客
湯屋の客

おいみんな、あんまり口開けて見てると湯冷めしちゃうから入りながら見な!入りながら!

若旦那
若旦那

このまんま帰るのはおしい・・・

若旦那
若旦那

あっ!そうだ!帰ろうと思うってとね、ざぁ~っと雨が降ってきて夕立だよ!?

若旦那
若旦那

ゴロゴロ、ガラガラ、ゴロゴロ、ガラガラなんてんで雷が鳴る・・・

若旦那
若旦那

『まあ~いけないねぇ、婆や?蚊帳を吊っておくれ?あたしは雷様嫌いだから!』

若旦那
若旦那

なんてんで女は蚊帳を吊るってと中でガタガタ震えてる・・・

若旦那
若旦那

ゴロゴロ、ガラガラ、ゴロゴロ、ガラガラ!

若旦那
若旦那

『まあ~お兄さん?怖いでしょうからどうぞお入りになって?』

若旦那
若旦那

そうですかって蚊帳をめくって入ろうとする途端にぴかっと光って

若旦那
若旦那

ガラガラドッシャーーーン!!!

湯屋の客
湯屋の客

番台から落っこちたよおい!

若旦那
若旦那

『あたしゃお前が~~!』

湯屋の客
湯屋の客

なんか言いながら上がっていくよおい!

湯屋の客
湯屋の客

おいおい源ちゃん!源ちゃん!顔中血だらけじゃねえか!

源

あんまりあの野郎があんまり妙な声出すからよ!

源

石けんと間違えて軽石で顔をこすっちまった!

湯屋番というお話でございました・・・

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