年代によって、考えていることが違うというのを、ジェネレーションギャップなんて言いますが、落語の中でもご大家の若旦那とそのおとっつあんとは意見が合わないようで・・・
道楽が過ぎて、『勘当だ!』なんてんで家を追い出されて居候です・・・
親のうちの出入りしている商人の所とか、あるいは職人の所へ居候をするってんですけど・・・
居候はあんまりそのうちの人からはよく思われないなんてこともあります・・・
特にそのうちのかみさんなんかは怖いくらいでございますが・・・
湯屋番を聞くなら「柳家小三治」
柳家小三治が語る「湯屋番」は、日常の中に潜む笑いと人情の温もりを巧みに描き出します。彼の自然体の語り口、繊細な表現、そして情景描写の巧さが物語を一層引き立てます。
小三治の独特のユーモアセンスが織りなす笑いの瞬間は、観客を飽きさせることなく引き込んでいきます。
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ちょいとお前さん!どうすんだい!?
何が?
何がじゃないよ!居候だよ!
え?・・・あぁ、若旦那?
そうだよ!どうすんだよ!あの居候!
馬鹿・・・聞こえる・・・
いいだろ聞こえたって!居候に変わりはないんだからさ!
どうすんのーーーーー!!!
うるさいよお前は・・・
分かったよ、じゃあ今日ね、若旦那に小言を言って身の振り方決めさせるから気にしないでおくれ?お前はどっか行ってておくれ?
お向こうのおみっつあん所にでも行って茶でも飲んできな、ゆっくりでいいぞゆっくりで!頼んだよ?
あぁ~あ、まあかかあがうるさく言うのも分かるよ・・・
若旦那が二階でよく寝るんだこれが・・・
よく体から根っこが生えないかと思うよ・・・
若旦那!起きてくださいよ?ちょいとお話がございます!若旦那?
寝てんのかな・・・
ちょいとほうきでつつくか・・・
若旦那!大事な話がありますからね!降りて来てください・・・よっ!
若旦那!
もうちょっと左だ
そんなこと言ってちゃいけませんよ!降りて来てください!
はいはいはい・・・おはよう・・・
おはようじゃありません、今何時だと思ってるんですか?
知らない、あたし今まで寝てたんだから・・・
寝ている者に起きている者が時を聞くとはこれいかに?
うるさいなぁ!あんた!
まあ年から年中あたしのところにいたってかまわないですけれどもね?あなたのためになりませんよ?
どっかで働いたり、奉公していればおとっつあんだってなんですよ?
『お前の料簡が治ったみたいだから許してやろう』なんてんでうちへ・・・
わかったわかった・・・だからあたしもね、奉公先をちゃんと決めたんです!
あらっ・・・どこで働こうってんです?
お前知ってるかな?浅草の観音様の脇・・・
間道をず~っと下へ抜けて行って土手へぶつかるちょいと左側にね、桜湯って湯屋があるんだ!銭湯だ!
そこへ行ってあたし湯屋として働くから!
あらっ!そうですか!あのね、桜湯ってのは大変にあたしの親類なんですよ?
ちょいとあたくしが一筆書いたものがありますから持ってってくださいな!
え?
何も言わずに使ってくれますから
ほう、紹介状・・・嬉しいね、こういうものがあると心強いけれどもね・・・
どういうわけであそこに働くことにしたか知ってるかい?知らないかい?
何日か前にね、あの近所のうちへ一晩泊めてもらってね、あくる朝に朝湯に行ったんだ・・・
ガラガラガラっと格子を開けて湯銭を払おうと番台を見て驚いた・・・
いい女が座ってんだよ・・・目が覚めるようないい女でね・・・
歳の頃なら二十七、八、三十凸凹・・・まあ昔からいい女は歳を隠すって言うから三十七、八かな・・・
ちょいと着物が地味だったから四十二、三・・・
化粧を落とすと五十二、三・・・
戸籍を調べて六十・・・
何を言ってんだよ!
まあまあ嘘のないところで三十凸凹のおつな年増ですよ・・・
常連客に話を聞いたらそこのおかみさんは近所でも評判の綺麗な女でね、本当にいい女!
お前のかみさんと大違い・・・
いやいや別に怒ることじゃないよ、冗談で言ってるわけじゃないんだから・・・
それでね、あそこのかみさんを見てあたしは奉公に行くことを決めたよ・・・
いや何がじゃないあたしが奉公してるってとね、むこうの亭主がまあ ~どういうわけだかぽっくり死ぬだろう・・・
死にますか?
死ぬんだよぉ!いい女の亭主ってのはすぐに死ぬもんなんだ
でもってあそこは土地、建物の権利いっさいがっさい合わせると数億の下値がありますよ?
そこをお前細腕一本のおかみさんに任せるわけにはいかないだろ?
誰か新しい亭主を見つけなければいけない!
だけども、あれだけの器量のいい、金離れのいい、それから頭の働く男はなかなかいないよ?
だからその三拍子そろってるあたしがそこへこっちから婿へ行きます・・・
あなた幸せだね・・・勝手にして・・・
勝手にしてじゃない、あたしが数億という金を持つだろ?
そしたらあなたの所にも四、五千万の金がど~んとお前の前に放り出す・・・
ほら遠慮なく受け取っといて・・・
は?いや受け取れないですよ・・・
いや受け取ってって・・・なんにもない・・・
いやあればって話だよ!
四、五千万の金をぽ~んと放り出して、遠慮なく受け取ったつもりで、今二千円貸して?!
何をくだらねえこと言ってんだ!早く行ってらっしゃい!
分かりました、行ってきますよ!
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柳家小三治が語る「湯屋番」は、日常の中に潜む笑いと人情の温もりを巧みに描き出します。彼の自然体の語り口、繊細な表現、そして情景描写の巧さが物語を一層引き立てます。
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あぁ~あ、やだやだ、ついこの間まで若旦那若旦那と言われていたあたしがまさか湯屋で奉公をすることになろうとは・・・
お釈迦~♪様でも~♪気が付くめえ~♪
ツッチャラカチャンチャン♪ツッチャラカチャンチャン♪っと・・・
お?あったよ、桜湯!ここがそのうちあたしの物になるかと思うと楽しみでしょうがないよ・・・
のれんがかかってますよ?男湯!女湯!
男湯・・・女湯・・・どちらにしようかな?
やっぱりこっちだな・・・
ガラガラガラ・・・ごめんなさい入りますよ~
ちょ、ちょっと待ちなさいあんた!そっちは女湯ですよ?
えぇ、好きです
いや好き嫌い聞いてるんじゃないよ!男湯はこっちですからね、こっちへ来て湯銭を・・・
いやいやあっしは客じゃねえ、実はこういう物を持ってきたんでちょいとご覧くださいな?
なんです?あぁ!頭の所からですか!奉公人を一人世話してくれと頼まれてたんだ!
そうするとお前さんがその奉公人?
ほぉ~!・・・はぁ~ん?・・・ふ~ん?・・・あぁ・・・
なんです?
なんですってお前さんがそれじゃあ、頭のとこの二階に居候してる名代の道楽者かい?
いや名代なんてほどじゃありません・・・
あたしはただね?周りを若い女の子にぐるっと取り囲まれて一杯やりながら・・・
『あら若旦那?そんなとこ触っちゃいやだわ?くすぐったいわ、嫌よ~!』
なんてんで、ほっぺたキュッ!痛い痛い痛~~~~い!・・・嬉しい・・・
なんていうのがあたしは好き!
変な人が来たねおい・・・大丈夫かいこれ・・・
じゃあまずやってもらうことと言えば、外回りかな・・・
よっ!なんでしょ?
背広をぱりっと着て鰐皮のカバンを持って、札束ふんだんに詰め込んで、自家用車かなんかに詰め込んで、日本各地の温泉なんかを回ってラジウムを発見してくる!
そんな外回りはない・・・
あのねぇ、裏にある大八車引っ張って来て、普請場行くんですよ・・・
それで木屑やらかんな屑を釜の焚き付け用にもらってくるの!
え?あれですかぁ!よしましょうよぉ!
だってあれでしょ?
汚半纏を引っ掛けて汚股引を履いて、汚草履を履いて汚車を引っ掛けて!それで汚手ぬぐいで・・・!
全部汚えじゃねえか!
いやだからさぁ!よしましょうよ~!
うるさいねぇまったく・・・それが嫌なら煙突掃除だ!
いやどんと汚れ仕事になりましたねぇ・・・
あっしはね、番台やりたいんですよ!番台!
いや無理だよ・・・
いや無理じゃない、あたしはそこをやりたいの!
なんで?
なんでじゃないでしょうよ・・・見えるじゃない?
何をわけの分からないことを言ってるんだよ・・・難しいんだよ!
はぁ・・・分かりました・・・ちょいと人手が足りない・・・
あっちであたしはおまんまを食べるように言われてますから、その間だけだよ?
あらそうですか、それはそれは・・・
おまんまはしっかり食べなきゃいけませんよ?ゆっくりよく噛んで食べるんですよ?
一口に100回は噛むんですよ?
さあ代わって代わって・・・それじゃあ行ってらっしゃ~い!
さあ念願の・・・ふっふっふ・・・この目でしっかりとこの芸術的な光景を焼き付けておかなければ!
まだ見ない・・・まだ見ない・・・うんとためるんだ・・・
せ~の・・・ぱぁっ・・・
はははっ・・・誰も入ってない・・・・・
それに比べてなんで男湯は・・・二匹三匹四匹五匹六匹七匹八匹!
あぁ九匹だったよ、湯舟の中で潜ってんのが一人出てきたよ・・・
また嫌だねぇ、あのおじさんは痩せちゃったね~!
なんのその男は裸百貫なんて言うけれども、あれじゃ十貫だよあれじゃ・・・
彫り物だってそうだ、昔は威勢よく唐獅子牡丹だったのが、すっかり肉が落ちちゃった・・・・
キャベツくわえたブルドックだよあれじゃ・・・
また隣のおじさんも太ってる嫌だねぇ・・・
あぁ、もういいよ!男湯はよそう!今入ってる奴らが出て行ったら男湯閉鎖!釘付けにしちまおう!
女湯ですよ女湯!今は誰もいないけれども通ってくる、そう!
芸者衆なんかがね、お妾になってるやつなんかが、昼間は旦那がいないからってんで、下駄の音色奏でながらカランコロンカランコロン♪
『へいいらっしゃいまし!新参者の番頭で!どうぞよろしく!』なんてんでね!気に入られてね!?
『お暇な時に遊びにいらしてね?』なんてなことになっちゃうんだよ!
そうすると俺は暇なときにちょいとおつな身なりをして、そのうちの前を何気なく通りかかる!
そしたら、外で掃除なんかしてる女中が気づいて『姐さん!?お湯屋の番頭さんがお見えになりました~!』なんてんで!
普段から恋い焦がれている男が来たと聞いたらもう!もう座敷の中から泳ぐように飛び出してくるよ?
『あらぁ~~!お湯屋の番頭さんじゃございませんの!?どうしたんです?どうぞこちらへ!
いやまた来るよ・・・
『そんなことおっしゃらないでいいからお上がり!』
いやでも・・・!
『いいからお上がりぃ~~~!お上がりぃぃぃ~~!上がって♡上がってぇ♡お上がりよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~!』
おいおい番台見てみろ番台・・・妙なやつが上がってるよ?
てめえの手をてめえで引っ張ってお上がりお上がり~って言ってるよ?
面白えからみんなで一列に並んで見てようじゃねえか!
手を取って上がられる・・・そうすると膳が運ばれてきて酒、魚だよ?
『兄さんおひとつ』
へい、そうですか!う~ん、うまい酒ですなぁ!爛漫で?
女にも酌をしてやるよ?女がくぅ~っと飲んで杯洗の水でゆすいでご返杯・・・
やってる間に女が凄いことを言うよ?
『あらお兄さん・・・今のお盃、あたしゆすがないで紅がついたまんまだったの・・・ご存じだった?』
なんてんでこっちを見る目の色っぽいこと!いやぁ!弱ったなぁぁぁ!!
おでこ叩いて弱ってるよあいつぁ!
おいみんな、あんまり口開けて見てると湯冷めしちゃうから入りながら見な!入りながら!
このまんま帰るのはおしい・・・
あっ!そうだ!帰ろうと思うってとね、ざぁ~っと雨が降ってきて夕立だよ!?
ゴロゴロ、ガラガラ、ゴロゴロ、ガラガラなんてんで雷が鳴る・・・
『まあ~いけないねぇ、婆や?蚊帳を吊っておくれ?あたしは雷様嫌いだから!』
なんてんで女は蚊帳を吊るってと中でガタガタ震えてる・・・
ゴロゴロ、ガラガラ、ゴロゴロ、ガラガラ!
『まあ~お兄さん?怖いでしょうからどうぞお入りになって?』
そうですかって蚊帳をめくって入ろうとする途端にぴかっと光って
ガラガラドッシャーーーン!!!
番台から落っこちたよおい!
『あたしゃお前が~~!』
なんか言いながら上がっていくよおい!
おいおい源ちゃん!源ちゃん!顔中血だらけじゃねえか!
あんまりあの野郎があんまり妙な声出すからよ!
石けんと間違えて軽石で顔をこすっちまった!
湯屋番というお話でございました・・・
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