落語【宮戸川】台本 吹き出し風

落語 台本

ご将棋に凝るってと、親の死に目に会えないなんてことを昔からよく言いますが、やっぱりあれは昔の言葉でして・・・

今ですと、将棋よりも面白いものがずいぶんと増えましたが、しかし娯楽の乏しかった昔は本当にこのご将棋に凝って、親の死に目に会えないなんて人がいたそうですな・・・

そこまでいかなくとも、夢中になって将棋をさしている、それがおかげでもって、締め出しをくっちまうなんてことが昔はずいぶんあったそうですが・・・

宮戸川を聞くなら「古今亭志ん朝」

小気味よい口調と的確な人間描写に加え、色気のある「古今亭志ん朝」であれば、半七とお花のうぶなやり取りも、青春を思い出すかのように演じ分けることができるだろう。

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半七
半七

おとっつぁん!おとっつあん!

半七
半七

ちょいとあいすいませんが開けてくださいな!明日の晩からは早く帰りますから!

半七
半七

今夜も早く帰ろうと思ったんですがね、あと一晩付き合ってくれって言われて、よしゃよかったんですが、ちょっと手を出してしまったもんで・・・

半七
半七

つい夢中になりましたんで、どうもすいませんおとっつあん!開けてくださいな!

半七
半七

あのおっかさん・・・?明日の晩から早く帰りますから、開けてくださいな?

半七
半七

あのおとっつあん開けてくださいな!

半七
半七

おっかさん開けてくださいな!

半七
半七

なんだ掛け合いだねぇどうも・・・

半七
半七

なんだ、誰だと思ったらお向かいのお花さんじゃねえか?

お花
お花

まぁ、半ちゃんじゃありませんか・・・

お花
お花

どうなさいまして?こんな夜遅く・・・

半七
半七

いや今ね?友達と一緒に将棋さしてて締め出し、くらっちゃったんですよ!

お花
お花

あらそう・・・あたしも今ねぇ、友達と一緒に締め出し食べちゃったの!

半七
半七

なんだい食べちゃったってのは・・・

お花
お花

半ちゃんこれからどうなさるの?

半七
半七

いやぁうちの親父は強情ですからね?一度閉めちゃったら開けてくれませんから・・・

半七
半七

仕方がありませんから、これからおじさんのうちに行って泊めてもらいますよぉ!

お花
お花

あらまぁおじさんがいて羨ましいわねぇ・・・

お花
お花

あたしもおばさんがいるんですけど、ちょいと遠いのよ・・・

半七
半七

へぇ〜、どこなんです?

お花
お花

肥後の熊本なんです・・・

半七
半七

へぇ〜!そりゃ遠いや!

お花
お花

あのぉ〜、半ちゃんにお願いがあるんですけれども・・・

お花
お花

これからおじさんのうちにいくんでしたら、あたしも一緒に連れてって今夜一晩どこかに泊めてもらえないかしら?

半七
半七

いやそれはダメ!それはダメなんですよ・・・

半七
半七

もうとにかく親父の方もおじさんの方もこうやって毎晩のことですから、えぇ!もうしくじってますから・・・

半七
半七

こんな夜遅くに知らない女の人を連れてってごらんなさい?大変なことになりますよ!

お花
お花

いや知らないことはないわよ?半ちゃんとこのおじさんでしょ?よく知ってるわよ?

お花
お花

赤ら顏でもって、でっぷりと太った方でしょ?ほらぁ〜あの目の脇にコブのある方でしょ?

半七
半七

コブがあったっていいじゃないですか!

お花
お花

いいのよぉ!あったって!あれはいいコブよ!?

お花
お花

よろコブと言って・・・

半七
半七

何を言ってるんですか・・・そんなこと言っておだてたってダメですよ?

半七
半七

とにかくあたしはおじさんの所に行きますから!あなたその戸をどんどこどんどこ叩いて開けてもらいなさい!

半七
半七

ね?ごめんなさい!何を言ってんだい、冗談じゃない!

半七
半七

女の子なんて連れて行けるわけがねぇじゃねぇかな!

お花
お花

そんなこと言わないで連れてってちょうだいな!

半七
半七

なんだ付いて来てんじゃねぇか!弱ったねぇもう、花さん勘弁してくださいな・・・

半七
半七

本当のこといいますとね?私は薄情であなたを連れてかないわけじゃないんですよ?

半七
半七

実はうちのおじさんというのは、飲み込みのおじさんと言いましてね?なんでも自分一人で勝手に心得ちゃうおじさんなんですよ!

半七
半七

そんなところへ夜遅く、若い女の子を引っ張ってってご覧なさいよ!どう捉えるか分かりませんよ!?

お花
お花

どう捉えられったっていいじゃないですか、お互いになんでもないんですから〜

半七
半七

それがそういうわけにはいかないんですよ!ね?悪く思わないで下さい!

半七
半七

冗談言っちゃいけないよ!何を言ってんだい、ダメだってのに付いてくるんだから・・・

半七
半七

どうしてああ女ってのは図々しいかね!?

お花
お花

どうせあたしは図々しいですよぉ!

半七
半七

まだ付いてきてんのかい!ダメですよ付いてきちゃ!あいすいません、帰ってくださいよ!

半七
半七

あたしはどんなことがあったって、おじさんの家入っちゃったら開けませんよ?泊めるわけにはいかないんですから!

半七
半七

そのまんま引き返してくださいよ!じゃないとあなた自分の家から遠くになっちゃうんですよ?

半七
半七

ねぇ!帰ってください!ったってまだ付いてくるんだから・・・弱ったなぁどうも・・・

半七
半七

ねぇ帰ってくださいよ!あたしがやだってんだから!なぜそう・・・

半七
半七

よし!なら駆け出しちゃおう!駆け出しちゃえばこっちのもんだ!

半七
半七

さぁ〜どっこいしょ〜!どっこいしょ!こうすりゃ向こうだって諦めてくれるかってんだ!

半七
半七

どっこいしょ〜!どっこいしょ!もう離れたかな!?

半七
半七

なんだおいそばにいるねぇおい!足が速いんだからもう・・・

半七
半七

こうなりゃ早いとこおじさんとこ行っちゃうぞ!どんなことあったって開けないんだから!

半七
半七

おじさーーーん!開けてくださいよーーー!

半七
半七

おじさん!早く!開けてくださいよ!迫ってますから!

おじさん
おじさん

ん?ふあぁぁ・・・

おじさん
おじさん

うるせぇ野郎だなどうも、トロトロっとしたかと思うと、すぐにおじさーんおじさーんって叩き起こしやがって!

おじさん
おじさん

あいよ、わかったよ!そんなドンドン叩くんじゃねぇ!夜中の一軒家じゃねぇんだ!

おじさん
おじさん

分かってるんてんだい、うるせぇ野郎だな本当に!

おじさん
おじさん

ドンドン叩くなって!戸が壊れちまうよぉ!本当に・・・

おじさん
おじさん

また将棋でもって締め出し食っちまったんだろ?

おじさん
おじさん

いい若いもんが将棋なんざで締め出しを食うなよ!人並み優れたそっぽをしてやがって!

おじさん
おじさん

もっと他のことでもってしくじって来いよ!おじさんはもう飽きちゃったよ・・・

おじさん
おじさん

たまには女でも引っ張ってきてみろ!本当に・・・

おじさん
おじさん

ちょいとばあさん・・・またこのばばあもずいぶんよく寝るね・・・

おじさん
おじさん

寝てるんだか、死んでんだか分からねぇな本当に・・・

おじさん
おじさん

ちょいとばあさん!起きとくれ!

おじさん
おじさん

ばあさん!しょうがねぇな本当に・・・

おじさん
おじさん

おいばあさん!小網町の半七が来たよ!

おばあさん
おばあさん

はい!はい!あらぁまぁぁぁぁ〜〜〜!!

おじさん
おじさん

おいおい!どこ行くんだよふらふら危ねぇな!

おじさん
おじさん

何してんの!仏壇を開けて遺灰を出して、腰巻に付けんじゃねぇよ本当に!どうしたんだよ!

おばあさん
おばあさん

まぁおじいさん、あたしゃ宵の口からこんなことがありゃしないかと思って心配をしておりました・・・

おばあさん
おばあさん

なんでもこういう時には先にご先祖様から運び出して・・・

おじさん
おじさん

落ち着きなよ!どうしたってんだよ!

おばあさん
おばあさん

だって小網町で半鐘鳴らしてる(火事の合図)・・・

おじさん
おじさん

半鐘鳴らしてんじゃねぇの!小網町の半吉が来たの!

おばあさん
おばあさん

あらま、半坊が来たんですか!そう〜!あらまぁよく来たねぇ〜!

おじさん
おじさん

まだ表にいるんだよぉ!

おばあさん
おばあさん

あらまおじいさんったら寝ぼけて・・・

おじさん
おじさん

おめぇが寝ぼけてんだよ!

おばあさん
おばあさん

驚きましたよ、人間というものは寝ているときに魂が遊びに行ってるんですから?

おばあさん
おばあさん

そこをいきなりばあさんばあさんばあさん!って叩き起こされて、うまい具合に魂が帰ってきたから良さそうなもんの、もし帰りそびれたら・・・

おじさん
おじさん

なにをくだらねぇこと言ってんだよ!いいから早く開けてやれってんだよ!

おじさん
おじさん

えぇ?腰が痛くて立てねぇ?今すっと立ってたじゃねぇかよ!肝心なことになるとあそこが痛ぇここが痛ぇって・・・

おじさん
おじさん

いいよ!俺が開けるよ本当にしょうがねぇなぁ!

宮戸川を聞くなら「古今亭志ん朝」

小気味よい口調と的確な人間描写に加え、色気のある「古今亭志ん朝」であれば、半七とお花のうぶなやり取りも、青春を思い出すかのように演じ分けることができるだろう。

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おじさん
おじさん

まだ叩いてやがんだから・・・もういいよ!

おじさん
おじさん

今開けるから!本当にしょうがねぇ野郎だ・・・

おじさん
おじさん

よいしょっ!

おじさん
おじさん

おう!こっちへ入れ!

半七
半七

はぁ、どうも・・・はぁ、はぁ・・・

半七
半七

・・・はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・

おじさん
おじさん

なにしてんだよ!開けてやったんだから早く入れってんだよ!

半七
半七

・・・はぁ、はぁ、だからあたしはやだってんですよ!

おじさん
おじさん

俺の方がやだよ!なんだい!

半七
半七

あの、あたしはいい面の皮なんですから!

お花
お花

・・・

おじさん
おじさん

俺の方がいい面の皮なんですから!寝てるとこを叩き起こされて!

半七
半七

いやあの・・・肥後の熊本の方に行った方がいいってんですよ!

おじさん
おじさん

起きてて寝ぼけるってと張り倒すぞこん畜生・・・こんな夜遅くに肥後の熊本行けるわけねぇじゃねぇか!

おじさん
おじさん

開けてやったんだから早く入れってんだ、ぐずぐずしやがって本当に!いやな野郎だな!

おじさん
おじさん

てめぇのおかげでこっちは寝そびれちまってんだよ本当に!

おじさん
おじさん

冗談じゃ・・・

おじさん
おじさん

おい、お連れさんがあんじゃねぇかおめぇ・・・

おじさん
おじさん

先に一人で入るやつがあるかい!本当に薄情だなぁおめぇは・・・

おじさん
おじさん

んん・・・うまくやりやがったなぁ?

半七
半七

そ、そうじゃないんだおじさん!違うんだおじさん!

おじさん
おじさん

分かってるよ!なんか言うんじゃねぇよ!

おじさん
おじさん

俺はおめぇの親父とは兄弟だけども、あんな堅物と一緒にするなよ!?あいつとはわけが違うんだから!

おじさん
おじさん

大丈夫!なんか言うんじゃない!分かってるよ!おじさんに任しておきな!

おじさん
おじさん

おじさんがわっ!っとまとめて・・・

半七
半七

まとめちゃ困るんだよ!おじさん誤解を、実はね!

おじさん
おじさん

実はもなにもねぇじゃねぇか!今更ここまで来て恥ずかしがることはねぇだろ?

おじさん
おじさん

いいんだ!おめぇがそこにいるとねぇさんが入りにくいから先に二階へ上がっちゃえ!

おじさん
おじさん

黙って二階へ上がれってんだこん畜生!黙ってるってと向こう面かっぱらうぞ!

おじさん
おじさん

いいんだよ!なんか言うんじゃねぇ本当に・・・うまくやりやがって!

おじさん
おじさん

どうもこっちへお入りなさい!

お花
お花

どうも夜分遅くに伺いまして・・・

おじさん
おじさん

いえいえいいんですよ!こういうことは夜分くらいの方がいいもんですから・・・

おじさん
おじさん

さぁさぁ!さぁどうぞ!

お花
お花

あの、半ちゃんがいけないってのをあたしが無理に付いてきてしまいまして・・・

お花
お花

今晩どこでもいいですから泊めていただきたいんですけれども・・・

おじさん
おじさん

ええ結構ですよ!あたしの所はばばあと二人っきりですから、どうぞお気兼ねなく

おじさん
おじさん

さぁさぁ!あとはあたくしが閉めますから、野郎は二階に上がったんでどうぞ!

おじさん
おじさん

へへっ・・・あのハシゴは急になってますからよく掴まらねぇと・・・

おじさん
おじさん

へぇ上は低くなってますから、ちょいと頭をかがまねぇってと、かんざし落ちたりしますよ?大丈夫ですな?

おじさん
おじさん

あのな半公!布団が一組しかねぇからな!風邪引かねぇように仲良く寝るんだぞぉ!

おじさん
おじさん

おぉっほっほっほ・・・見たかばあさん今の娘さんを?

おばあさん
おばあさん

えぇ見ましたとも、あたし目が覚めちゃいました!

おじさん
おじさん

いい女だねぇ!俺も今までどこそこ小町だなんて言われんのを見たことあるけどもよぉ!
あんないい女ってのは初めて見たよ!

おじさん
おじさん

あの野郎は普段から、「おじさん!あたしは女ぐらい嫌いなものはありませんよ!」なんてなことを言うが、あの野郎の言うこともあてにならねぇなぁ!

おばあさん
おばあさん

そりゃあおじいさん年頃ですからねぇ・・・

おじさん
おじさん

そう言われてみりゃそうか!へへっ・・・

おじさん
おじさん

ああいう若ぇのを見るってとなんだな?俺たちの若い頃を思い出すな?

おばあさん
おばあさん

まぁおじいさんおよしなさいましよ〜!決まりが悪いぃ〜、なにを言ってるんですかぁ〜

おじさん
おじさん

な〜にが決まりが悪いだ!おめぇなんざ、決まりの方で悪いって言うよ!

おじさん
おじさん

一緒になった時なんざ、俺が二十二でおめぇが二十歳!二つ違いだったなぁ!

おばあさん
おばあさん

そうでしたねぇ、あの時は二つ違いでしたねぇ〜、まぁ~あっはっはっはっは・・・

おばあさん
おばあさん

あ〜っはっはっはっはっはっはっは〜!

おじさん
おじさん

いつまで笑ってやがんだよ!

おばあさん
おばあさん

だっておじいさん今だに二つ違い・・・

おじさん
おじさん

当たり前じゃねぇか!くだらねぇことで関心してんじゃねぇ!

おじさん
おじさん

だいぶ静かになっちゃったねぇ・・・どうしたのかな?

おじさん
おじさん

おい!半公ぉ!もう寝たのかぁ!

半七
半七

へぇ・・・今寝るとこですよ・・・

半七
半七

はぁ〜困っちゃったなぁ〜・・・

半七
半七

だからお花さん言ったじゃないですか!こういうことになるんですよぉ!

半七
半七

連れてきていいもんだったら、あたしだってあなたのことあんな風に帰れなんて言いませんよ!

半七
半七

それをこんな風に二人っきりにされちゃうんですよ?

半七
半七

話を聞いてもらってもうちのおじさんってのは勝手に一人で持って飲み込んじゃって、どんどんこんな所に二人にされちゃって・・・

半七
半七

差し向かえになってぇ・・・うぅぅ・・・

お花
お花

泣くことはないじゃありませんかぁ〜・・・

お花
お花

あたくしが付いてきたのが悪いんですから、どうかご機嫌を直してくださいまし・・・

お花
お花

なんとかひとつここに泊めていただいて・・・

半七
半七

泊めていただいてってあなた布団が一つしかないんですよ?

半七
半七

布団が一つでどうやって・・・どうやって寝たらいいんです!?

お花
お花

ですからあの、あたくしは起きてますから半ちゃんはどうぞお休みになってくださいな・・・

半七
半七

そういうわけにはいきませんよ!

半七
半七

あたくしが起きてますから・・・お花さんどうぞ寝てくださいな・・・

お花
お花

半ちゃんのおじさんのお家なんですから、どうぞ半ちゃん寝てくださいな・・・

半七
半七

分かんないねこの人は!あたしが起きてるから!

おじさん
おじさん

なんだいおい!ずいぶん大きな声だしてんねぇ!もうもめてんの!?

おじさん
おじさん

少し早すぎやしないかい!?

おじさん
おじさん

明日の朝になったら、ちゃんとおとっつあんとこに行って話をしてやるから!今夜は喧嘩しないで仲良く寝ちまいなよぉ!

おじさん
おじさん

寝ないってとおじさん、二階まで上がってってな?おめぇたちが寝るまでそばで見てるよおい!

半七
半七

弱ったなぁどうも・・・あぁいうおじさんなんだから・・・本当にしょうがねぇなぁ・・・

半七
半七

じゃあお花さん・・・こうして差し向かえでもって寝ないでいてもしょうがないですから!

半七
半七

なんとか寝ましょうったって、布団がひとつしかないからなぁ・・・

半七
半七

じゃ、じゃあこの布団に半分ずつ寝ましょう・・・

半七
半七

お互いに真半分に寝て、あたしがここにこうやって線を引きますから、線を引いて・・・

半七
半七

ううん・・・線を引いたってなくなっちゃいますね・・・

半七
半七

あっ、ここに紐がございますから、ここに紐をこうやって真半分のちょうどもう少しこっち側にこう・・・

半七
半七

こんなとこにこう・・・こんなとこでいいですかな?半分ずつ寝ましょう!

半七
半七

どんなことがあったってこっちに入ってきちゃいけませんよ?

半七
半七

入ってきたらあたし怒りますよ!入ってきちゃ・・・

お花
お花

わかってますよぉそんなに怖い顔して言わなくったって・・・

お花
お花

入ってきちゃいけないよって言われれば入ってきませんよ?

お花
お花

誰が入るもんですかぁ・・・入りませんとも・・・

お花
お花

寝ちゃうと分かんないけれども・・・

半七
半七

そりゃいけないよ!やだなぁ!

半七
半七

それじゃあ、あなた向こう向いて寝てくださいよ?いいですか?

半七
半七

あたしはこっち向いて寝ますから!お互い背中合わせで!

なんてんで、大変な騒ぎで・・・

『木曽殿(きそどの)と背中合わせの寒さかな』と言って、背中合わせというのはなんとなく肩の辺りから風が入ってくるような、なんか寝にくいようなもんでございますね・・・

二人が寝られないので、もそもそもそもそしているうちに、一天、にわかにかけこもります・・・

ポツリポツリと降ってきた雨が盆を返すようにざぁーー!っと降ってきます・・・

お花
お花

あらっ!半ちゃん!半ちゃん!雨が降ってきました!ねぇ半ちゃん?

半七
半七

雨が降ってきたってこっち来ちゃいけませんよ!あなた!なんですか本当に!

半七
半七

そりゃ雨だって降りますよ!お天気ばっかりだってくたびれるから!

半七
半七

なんですかそんなこと言ってこっちへ来ようと思って!

半七
半七

そっち行ってらっしゃい本当に!しっ!しっ!

お花
お花

しっだなんて言わなくていいじゃありませんかぁ〜、あたし雨が降るってと寂しい・・・

半七
半七

寂しくったっていけませんよ!そっちへ行きなさい!

そのうちにピカッと光るってと、ガラガラガラガラ!

お花
お花

半ちゃん雷様!雷様!

半七
半七

あたしが鳴らしてるんじゃないんですよ!
上でやってるんですから、上に掛け合いなさいよ!

ガラガラガラガラ!っとやっている間に今度は音が変わってまいりまして、カリカリカリ!

雷様もカリカリと鳴ると怖いもんで、カリぐらい怖いものはないですな・・・

カリがあったら早く返したほうがいいってなもんです・・・

ガラガラガラガラァ!っとやっている間に、目の前にピカァーー!っと真っ白になる!

ガラガラガラ!ずしーーん!ってんで、どっかそばへ落っこちたってんで・・・

あまりの怖さにお花がびっくりして半七の懐に飛び込んだ・・・

お花の冷たい前髪が半七の額に当たると、髪の脂と白粉(おしろい)の匂いが半七の鼻の中へぷ〜んと入った・・・

思わず我を忘れた半吉がお花の背中に手をかけて、力を入れてぐ〜っと引き寄せると・・・

裾が乱れて、燃え立ちるような緋縮緬(ひじりめん)の中から雪のように白いお花の足がすぅ〜!っと出てきた!

ここから先はどうぞ寄席に行って聞いて頂ければと思いますので、失礼いたします・・・

宮戸川を聞くなら「古今亭志ん朝」

小気味よい口調と的確な人間描写に加え、色気のある「古今亭志ん朝」であれば、半七とお花のうぶなやり取りも、青春を思い出すかのように演じ分けることができるだろう。

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