落語に出てくる人物はってと、これはもうお馴染ではっつぁんに熊さん、横丁の御隠居さん、馬鹿の与太郎、人がいいのが甚兵衛さん・・・
このはっつぁんとか熊さん、こういう連中がご隠居さんの所に遊びに行くのが、落語の方の幕開けになることがよくありまして・・・
道灌を聞くなら「柳家小さん」
道灌は代表的な前座噺ではありながらも、滑稽噺を得意とする柳家小さんが演じる道灌は楽しみなネタになる。福々しい表情と表裏のない純粋で自然、天然なはっつぁんが心地よい落語の世界を演出する。
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ご隠居こんちわ!

おお、はっつぁんかい、さあさあこっちへお入り

ああどうもどうも!

いやぁそれにしてもご隠居さんの所にくるってと、色んなガラクタが置いてありますがね!

なんだお前は・・来るなり失礼なやつだな

あれ?その後ろのやつ面白いですね・・・

屏風みたいなもんに絵がペタペタ貼ってありますけど・・・

なんですそれ?

これはな、貼り雑ぜの古屏風と言ってな

主に歴史画を扱って、古びたところが値打ち、昔の字や絵だね・・・

ああそうっすか、この一番上の絵は面白いですね!

これはね、有名な太田道灌だな

ああ、大きな土管ですか?

そうじゃない・・太田左衛門乃輔

のちに入道して、道灌となられた方だ

ああそうですか、それで何してるんです?

地にいて乱を忘れず、山中に狩倉(狩猟)にお出かけになったところだな

山の中に鳥や獣を取りに行ったってんだ

すると雨が降ってきた・・・

道灌公、雨具の持ち合わせがなかった・・

馬を走らせる道中ちらっと見てみると家が一軒あったので

雨具を借りようとその家へ訪れると、中から十五、六になる娘さんが出て来てな・・

道灌公が雨具を所望するとポウっと顔を赤らめて中へ入って、再び出てきたときに、盆の上に山吹の枝を一枝置いて

『お恥ずかしゅうございますが』と言って差し出したな

な、なんですその山吹の枝ってのは?

まあお前さんに分からないことも無理はないな・・・

その時道灌公にもお分かりが無かった・・・

しばし呆然となさっていると、ご家来が1人進み出て

『恐れながら申し上げます』

『古いお歌に「七重八重 花は咲けども 山吹の みのひとつだに なきぞ悲しき」というお歌がございます』

『山吹というのは花が咲いても実がならないもの・・・』

『お貸し申す蓑(みの=雨具)がございません・・・』

『と、「実の」と「蓑」をかけたこれはお断りの意味でございましょう』

と申し上げると道灌公、はたと膝を打たれ、『ああ余はまだ歌道に暗いな』とおっしゃって

そのままお城へ帰ったという、そういう絵だねぇ・・・

ああそうですかぁ・・・

なんだかよく分からねえけど早い話がその道灌て偉え殿様が、その娘に一つへこまされたと!

こういうわけですか?

まあそういう形になるかな・・・

へえ大したもんだ!あっしはねぇ、ちょっと分からねえところがあるんですよ!

なんだい?

『歌道に暗い』ってのは何です?

それは娘の出した歌のなぞが解けなかったろ?

歌の道に暗い、歌道に暗い!

ああ、なるほどね!これは面白えなこりゃあ!

あのすいませんけどご隠居さんねぇ!

その雨具の断りの歌ってのをちょいとあたくしにも書いてくれませんかねえ!

どうするんだい?

いや、あっしの所にもねえ!たちの悪い道灌が現れるんですよ!

なんだいそりゃ・・・

雨具持ってないことのやつを道灌ってんでしょ?

貸した雨具返したためしがねえんだい!

で、今度来たらさ!その歌見せて断ってやろうと思ってね!

お前さんの友達じゃ分からないだろうよ

いいんすよ!こっちさえ分かってりゃそれでいいんだから!

かなで書いてください!かなで!

書けた?すいませんじゃあねえあっしはこれで帰りますよ!

え?何がってね表見てちょいとご覧なさいよ!

雨!降って来てますよ!

これから家帰ってね、ちょいと道灌が訪れんの待ってますんで!

どうもありがとうございました!
道灌を聞くなら「柳家小さん」
道灌は代表的な前座噺ではありながらも、滑稽噺を得意とする柳家小さんが演じる道灌は楽しみなネタになる。福々しい表情と表裏のない純粋で自然、天然なはっつぁんが心地よい落語の世界を演出する。
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そら言わんこっちゃねえ、ぽつぽつ降ってきやがった、驚いたねぇこりゃあ!

家へ着く途端に大変な雨だねこりゃあ!ずいぶんと道灌が通るよ・・・

おう!いるかい!?

おっ?早速来やがったな?待ってました!

ちょっとすまねえ借りもんだ!

分かってるよぉ!雨具を借りに来たんだろ?

よせよ、俺かっぱ着てるよ!

あれ?この野郎かっぱ着てやがらぁ・・・

用意のいい道灌だなぁ・・・

なんだ道灌ってのは・・・

俺はこれからね、車引っ張って木場まで行くんだい!

帰りが遅くなるんだ!提灯貸してくれい!

提灯?お前どこの世の中に提灯借りに来る道灌がいるんだよぉ!

雨具だろ?

だからかっぱ着てるだろ!?

着てていいから借りろ!

変なこというなよおい!

じゃあさ、お前がさ?

『雨具を貸してくれ』とそう言ったら、俺がそうっと提灯を貸してやろうじゃねえか!

なんか言うことがおかしいなおめえ!

そう言えばいいんだな?

雨具貸してくれ!?

『雨具を貸してくれ』とそう言ったら、俺がそうっと提灯を貸してやろうじゃねえか!

この野郎ぉ・・やっと言いやがったなぁ・・・

こうなればこっちは女形だからな・・・

お恥ずかしゅう・・・

なんだこりゃあ?

いいから読め!

ナ、ナナ・・ヘヤヘ?ハハナハサケドモ?

この野郎、それはそうやって読むんじゃねえんだ!

いいか、よく聞いてろ?

七重八重!花は咲けども、山伏の・・・

味噌ひと樽と鍋と窯敷き

なんだこりゃあ!おめえの考えた都々逸か?

都々逸!?

それを都々逸なんて言うところを見ると!

おめえもよっぽど歌道に暗いな!

ああ!角(かど)が暗いから提灯借りに来た!
道灌を聞くなら「柳家小さん」
道灌は代表的な前座噺ではありながらも、滑稽噺を得意とする柳家小さんが演じる道灌は楽しみなネタになる。福々しい表情と表裏のない純粋で自然、天然なはっつぁんが心地よい落語の世界を演出する。
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