一言で「稽古屋」を解説すると…

女子にもてたくて稽古に行ったが、見当違いなことばかりしてしまう喜六の騒動噺。
主な登場人物

女にモテたい喜六です!

喜六に芸を身につけるよう教えた甚兵衛です!

稽古屋の師匠、市松でおます・・・
詳細なあらすじ
喜六は全然もてないため、どうすれば女子にもてるかを甚兵衛さんに相談する。甚兵衛さんから「芸を身につけると良い」と助言され、近所の稽古屋に行くことに。甚兵衛さんは喜六に一円を貸してくれ、喜六に芸名「一二三」を名乗るようにと言い送り出す。
喜六が稽古屋に行くと、舞台で稽古中の様子を覗き見し、うっかり格子戸を壊してしまう。中に招き入れられた喜六は、子どもたちの稽古の邪魔をしたり、居眠りをしたりする始末。
お稽古の内容を尋ねられると、
喜六「女子にもてる色事の稽古をしたい」
師匠の市松「色事は指南(思案)のほか」
1.江戸時代の稽古の種類と学び方

江戸時代の稽古には、大きく分けて以下のような種類があった。
① 武芸(剣術・弓術・槍術など)
- 対象: 武士が中心だが、町人や裕福な農民も一部学んだ
- 方法: 道場で型を学び、実践を積む
- 費用: 入門料や月謝が必要(庶民にはややハードルが高い)
② 学問(寺子屋・私塾)
- 対象: 武士・町人・農民の子ども(寺子屋は庶民も通えた)
- 方法: 手本を見て書き取り、暗記学習
- 費用: 寺子屋は安価だったが、私塾は高額な場合も
③ 芸事(茶道・華道・三味線・踊り・書道・能・狂言など)
- 対象: 町人・裕福な農民・武士の子女・芸者見習いなど
- 方法: 師匠のもとで見取り稽古、個別指導
- 費用: 道具代・月謝がかかるため裕福な人向け

落語「稽古屋」では小唄の指南がある描写があるため、芸事の稽古と言えるでしょう!
④ 実用的な稽古(商売・職人技)
- 対象: 商家の子弟・職人見習い(丁稚奉公など)
- 方法: 住み込みや見習いとして、実地で学ぶ
- 費用: 基本的には不要(ただし最初のうちは無給に近い)
2.『稽古屋』の稽古はどの位置づけ?
落語『稽古屋』で扱われる習い事は 「芸事」 にあたる。
特徴
- 庶民向けの稽古だが、裕福な町人向けの側面もある
- 町人が稽古に通っていることから、完全な上流階級の文化ではなく 一般庶民でも習える稽古 だったことが分かる。
- ただし、筆や紙を使うため ある程度の経済力が必要 だった。
- 「道具を使う芸事」としての習い事
- 書道は、茶道や三味線と並んで「道具を揃える必要がある」稽古。
- そのため、本当に貧しい庶民にとってはハードルが高く、どちらかといえば裕福な町人が教養として習うものだった。
- 寺子屋とは異なる個人指導スタイル
- 寺子屋では子どもたちが「読み書き算盤」を学ぶが、『稽古屋』のような書道の稽古は大人が個人で師匠について学ぶ形。
- この違いから、『稽古屋』の場面は 「教養のための習い事」 という位置づけにある。
3.稽古屋は「身分向上」の手段
- 武家に奉公するための準備として、町人の娘が通うケースが多かった。
- 武家側も 「どうせなら手習いが済んでいる娘を選びたい」 という需要があったため、親たちはこぞって稽古屋に通わせた。
- つまり、習い事は単なる趣味ではなく、家の未来を左右する重要な投資 だった。
江戸時代の稽古屋は、教養向上や良縁を得る手段として町人に広く利用され、特に武家奉公を目指す娘たちの親にとっては重要な投資だった。
しかし、落語『稽古屋』の喜助は、そのような目的意識はなく、モテたいという漠然とした理由で通おうとする点が対照的である。江戸の稽古屋には、音曲や踊りなどを広く浅く教える「五目の師匠」もおり、必ずしもプロ育成を目的とした場所ではなかったが、習い事の場としての社会的な役割が大きかった。
そのため、甚兵衛が喜助に1円を貸してくれるのも、単なる親切ではなく「習い事には費用がかかる」という江戸時代の常識を示すものであり、同時に「それだけの価値があるのか?」という皮肉も含まれている。
結局のところ、『稽古屋』は、学ぶ側の意識が低ければ、いくら金をかけても無駄になるという風刺を描きつつ、当時の習い事文化の本質を軽妙に突いているようにも見える。

そんなに難しく考えてもしょうがない(笑)
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