一言で「地獄八景亡者戯」を解説すると…

地獄に落ちた男たちが閻魔や人呑鬼を悪知恵で驚かす噺。
主な登場人物

鯖を食って死んだ男、喜六です!

ヤブ医者の甘井羊羹です・・・

インキチ祈祷の螺尾福海だ・・・

見物人の寿命を縮めた軽業師、野良一です・・・

丈夫な歯まで抜いて金にした歯抜き師、松井泉水じゃ・・・

地獄の閻魔大王じゃ・・・

四人の男達を丸のみした人呑鬼だぁ・・・
地獄八景亡者戯の詳細なあらすじ
鯖に当たって死んだ喜六は、冥途への道をとぼとぼ歩き、伊勢屋の隠居と再会する。
そこへ、大金持ちの若旦那が芸者や幇間を引き連れ、陽気な「あの世ツアー」で現れる。
三途の川では、奪衣婆が失業していたり、亡者たちが渡し賃をぼったくられたりと、冥途もすっかり世知辛い様子。
無事渡ると、冥途筋には芝居小屋や寄席、文化会館まで建ち並び、亡者たちは地獄でも遊びほうける。
閻魔庁では、本来の裁きに代わり「一芸を披露すれば極楽行き」となり、亡者たちは芸を競う。
だがインチキ医者、詐欺山伏、歯抜き師、軽業師の四人は裁かれ、地獄の釜や針の山で苦しめられることに。
しかし四人は地獄でも機転を利かせ、温泉気分で釜を乗り切り、軽業で針の山もすいすい突破。
怒った閻魔は巨大な人呑鬼を差し向けるが、四人は鬼の胃袋の中でも悪知恵を発揮し、鬼をくしゃみ、腹痛、おならで苦しめ、脱出を試みる。
たまらず鬼は便所に駆け込み、赤パンツを下ろして踏ん張るが、四人は肛門の上に井桁を組んでがっちり防御。
「ウーン、ウーン…」と鬼はついに泣き出し、閻魔大王のもとへ駆け込む。
人呑鬼「もはや…大王様、あんたを呑んで下すしかない!」――
閻魔 「わしを呑んでどうするのじゃ」
人呑鬼 「大王(大黄)呑んで、下してしまうのや」
地獄八景亡者戯を聞くなら「桂米朝」
地獄八景亡者戯を聴くなら、やっぱり桂米朝。緻密な描写と緩急自在の語りで、あの世のドタバタ劇を生き生きと描き出します。米朝ならではの品とユーモア、ぜひ耳で味わってください!
地獄の世界観:怖いはずが、どこか人間くさい

「地獄八景亡者戯」に描かれる地獄は、仏教の経典に登場するような、恐ろしく冷酷な世界とはだいぶ趣が異なります。
本来、仏教では八大地獄(等活・黒縄・叫喚・焦熱など)、阿鼻地獄といった果てしない苦痛の場が説かれ、亡者たちは容赦ない責め苦を受け続けるとされています。
閻魔大王は厳格な裁判官、奪衣婆は亡者の衣を剥ぎ取り、罪の重さを量る存在。
しかし、「地獄八景亡者戯」で描かれる地獄は――どこか世知辛く、そして滑稽です。
閻魔大王は人気取りに頭を悩ませ、奪衣婆はリストラされバーのママに転職。
亡者たちは三途の川で渡し賃を値切ったり、冥途筋で遊び歩いたり。
地獄というより、まるで「ちょっと不便な別世界」といったユーモア溢れる世界観が広がります。
ここに、落語ならではの 「死後の世界さえ笑い飛ばしてしまう」 明るさが光っています。
地獄社会は現代の縮図?
~笑いの奥に潜む鋭い社会風刺~
地獄八景亡者戯に登場する冥途のシステムをよく見ると、
そこには現代社会への皮肉や風刺がたっぷりと込められていることに気づきます。
- 【役所仕事】
閻魔庁の正門は、時間にならないと開かない。まるで現世の官庁と同じ「お役所仕事」。 - 【格差社会】
念仏も金次第。高い念仏を買えば罪が軽くなり、安物では許されない。「地獄の沙汰も金次第」とは、まさにこのこと。 - 【娯楽と消費文化】
芝居小屋、映画館、居酒屋、キャバレーが立ち並ぶ冥途筋。生きている間も、死んだ後も、人間は結局「遊び」と「消費」に夢中だという皮肉。 - 【人気取り政治】
閻魔大王までもが総選挙を控え、亡者たちにサービスをするという姿。
大王でさえ、世論と支持率を気にして右往左往している。
つまり、「地獄八景亡者戯」で描かれる地獄とは、
恐怖の世界ではなく、我々が生きる社会の鏡像なのです。
笑いながらも、「どこまでいっても人間は変わらないなぁ」と苦笑せずにいられない。
それが、この噺の本当の面白さです。
地獄の世界をさらに楽しむ!小ネタ集
ちょっとした小ネタを知ると、「地獄八景亡者戯」がさらに楽しくなります!
- 【三途の川の賽銭】
本来、三途の川を渡るには六文銭を支払うとされましたが、ここでは渡し賃が死因によって異なるという奇妙なルールに。
(フグ中毒死だと、渡し賃が10倍にふくれあがる!) - 【奪衣婆の失業話】
奪衣婆は、終戦後に風習が廃れて失業。閻魔大王に見初められて「二号」になり、さらにバー経営を始めるという破天荒な半生をたどります。 - 【地獄大学(獄大)】
地獄にも受験戦争あり!
鬼たちは名門「地獄大学(ゴクダイ)」に通うため、受験地獄を乗り越えねばならないとか。
現代社会の過酷な受験文化を皮肉った設定です。 - 【冥途筋の寄席】
寄席では桂米朝・桂枝雀の師弟会が超満員。地獄ですら、笑いが一番人を集めるという、落語への愛情がにじみます。
地獄八景亡者戯を聞くなら「桂米朝」
地獄八景亡者戯を聴くなら、やっぱり桂米朝。緻密な描写と緩急自在の語りで、あの世のドタバタ劇を生き生きと描き出します。米朝ならではの品とユーモア、ぜひ耳で味わってください!
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