落語【釜泥】台本 吹き出し風

落語 台本

昔から大泥棒として有名なのが石川五右衛門という・・・

あの人は釜ゆでの刑というので有名ですな・・・

大きな釜の中にお湯じゃない、油がグラグラいってるところへ、五右衛門をどば~んっと放り込んだ・・・

粉も衣も何もつけない、素揚げですからこれは本当に熱いなんてもんじゃないと思うんですけれども・・・

でも落語の中には石川五右衛門なんて有名どころは出てきません・・・

五右衛門の子分の子分のそのまた手下、そのまた三代子孫なんという随分と安直なところになってますけれども・・・

釜泥を聞くなら「立川談志」

立川談志の「釜泥」は、盗人とその間抜けさが引き起こす滑稽な一幕を描いた一席です。古釜を巡る騒動が、談志の鋭い語りで生き生きと表現され、聴く者を笑いの渦に引き込みます。人間の愚かさと愛嬌が光る、ユーモラスな古典落語です。

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兄泥棒
兄泥棒

おう!これでみんな集まったか?手下ども・・・

兄泥棒
兄泥棒

どうも俺達の先祖の五右衛門は評判がよくねえんだ、なにかってと釜茹で釜茹でって馬鹿にされんだろ?

兄泥棒
兄泥棒

これも全部、釜なんてものがあるからいけねえんだ!どうだ?

兄泥棒
兄泥棒

みんなで手分けをして世間中の釜という釜を全部盗んじゃおうじゃねえか!

兄泥棒
兄泥棒

この江戸の町から釜がなくなれば、誰も釜茹でなんて言わなくなるだろう・・・

子泥棒
子泥棒

えっ!じゃあ親分なんですか!?江戸じゅうの釜を盗んじゃう!?

子泥棒
子泥棒

か、釜?え、江戸中の?か、釜を?そ、そんなことしていいんですか?

兄泥棒
兄泥棒

かまわねえ・・・

なんて冗談を言いながら、さあ江戸中で釜泥棒が流行りだしまして・・・

色んな所で困ってしまったようなんですが、一番困ったのがお豆腐屋さんでございまして・・・

おじいさん
おじいさん

おばあさ~ん・・・ちょいとこっちへ来ておくれ?

おばあさん
おばあさん

はいはい・・・おじいさんお呼びでございますか?

おじいさん
おじいさん

おばあさ~ん・・・ちょいとこっちへ来ておくれ?

おじいさん
おじいさん

お呼びでございますか~?じゃないんだよ・・・

おじいさん
おじいさん

何度目だようちの釜が盗まれたのは・・・

おじいさん
おじいさん

豆腐屋が豆を煮る大釜を盗まれたら商売できないだろう?

おじいさん
おじいさん

今度釜盗まれちまったら、さすがに店は続けられない、店をたたまなくちゃいけないよ?商売できないだろう?

おじいさん
おじいさん

どうしたもんかねぇ・・・と色々考えた結果!

おじいさん
おじいさん

俺は今晩から釜の中で寝てやろうと思ってな!

おばあさん
おばあさん

あらおじいさん、釜の中で寝て一体どうなります?

おじいさん
おじいさん

どうなるってことはない、泥棒が盗もうってんで持ち上げるだろ?

おじいさん
おじいさん

その時にぐらっ!っと揺れるからその時に目が覚めるよ?

おじいさん
おじいさん

そしたら俺が蓋をぽ~んと跳ね上げて、芝居気取りで見栄を切ってやろうと思ってね!

おじいさん
おじいさん

釜中鹿之助!!知らねえかぁーーー!!どんじゃらん~!

おじいさん
おじいさん

なんてなぁ!

おばあさん
おばあさん

はっはっは!よ~よ~よ~よ~!おかま屋!

おじいさん
おじいさん

変な褒め方するねぇ・・・俺が釜中鹿之助って言ったらすぐに目を覚ましてくれ?

おばあさん
おばあさん

大丈夫大丈夫・・・

おばあさん
おばあさん

あたしは歳とって目はかすみましたけど、耳だけは若いものに負けませんから!

おじいさん
おじいさん

ああそうか、じゃあ耳のいいところでパッと起きてな、金だらいかなんかでガンガ~ンと引っぱたいて

おじいさん
おじいさん

泥棒だ!なんて大きな声で叫んだら、長屋の衆がとっ捕まえてくれると思うからな

おばあさん
おばあさん

うまくいきますか?

おじいさん
おじいさん

まあまあやって見なくちゃ分からねえ・・・

おじいさん
おじいさん

そうこう言ってるうちにだいぶ夜も更けてきたな・・・

おじいさん
おじいさん

俺はそろそろ釜の中へ入るから・・・

おばあさん
おばあさん

どうぞどうぞ・・・ちょうど今空いてます

おじいさん
おじいさん

当たり前だ、二人暮らしで釜が混んでてどうすんだよ・・・

おじいさん
おじいさん

じゃあ入るからちょいと抑えてて・・・

おじいさん
おじいさん

よっこらしょっのしょっと・・・

おじいさん
おじいさん

ばあさん?釜の中入ったよ!?

おばあさん
おばあさん

どんな塩梅です?

おじいさん
おじいさん

う~ん・・・住めば都って言うのかねぇ・・・

おじいさん
おじいさん

なんだかシーンとしてていいよ?

おばあさん
おばあさん

そうですか、それじゃあおじいさんお気をつけて!

おばあさん
おばあさん

おやすみさ~い!よっこらせっと!

おじいさん
おじいさん

おばあさ~ん・・・どうして蓋をピッタリ閉めるの?

おじいさん
おじいさん

明日釜開けたらあたし窒息してるよ!?ちょいと蓋ずらしな?

おじいさん
おじいさん

それでね、あたしが釜中鹿之助って言ったら起きるんですよ?

おばあさん
おばあさん

大丈夫!耳だけは!耳だけはいいんだから!

おじいさん
おじいさん

そうかい、頼んだよ・・・

おじいさん
おじいさん

それからね、明日の朝起きてきて、いつものように朝いきなり釜に火つけるんじゃないよ?

おじいさん
おじいさん

あたしを釜から出して、それから豆仕込んで火をつけるんだよ?分かってるね!?

おばあさん
おばあさん

・・・

おばあさん
おばあさん

・・・え?

おじいさん
おじいさん

あぶねえばばあだな!あぶねえ野郎だ本当に・・・

おじいさん
おじいさん

それじゃ寝ちまうよ・・・

おじいさん
おじいさん

さあこれで来るなら来いってんだ、でもなぁ・・・これで泥棒が入ればいいけどな・・・

おじいさん
おじいさん

入らなかったら釜ん中でぼ~っと一人で座ってんのは退屈だよ・・・

おじいさん
おじいさん

おばあさ~ん!寝たのかい?

おばあさん
おばあさん

はい、今横になりましたぁ・・・

おじいさん
おじいさん

やっぱり聞こえてるんだね・・・

おじいさん
おじいさん

あのね、ちょっとこんなことしたいから支度しておくれ?

おばあさん
おばあさん

へ?どんなことです?

おじいさん
おじいさん

いやだからこんなことしたいから!支度しておくれ!

おばあさん
おばあさん

どんなことです?

おじいさん
おじいさん

だからこんなことだよ!

おばあさん
おばあさん

どんなこと?

おじいさん
おじいさん

こんなこ・・・夜が明けちゃうよ!酒の支度だよ!

おばあさん
おばあさん

お釜の中で酒なんか飲む人はありません・・・

おじいさん
おじいさん

ぐずぐず理屈をこねないで早く支度をしなさい!

おじいさん
おじいさん

そうそう・・・はいはい、確かに受け取ったよ・・・

おじいさん
おじいさん

ばあさん!どうしてそうピッタリ閉めたがるの?

おじいさん
おじいさん

物には愛想がなくちゃいけないよ?一杯でいいからお酌して・・・

おばあさん
おばあさん

無理ですよ、あんたお釜の中の小さなおちょこへ上からお酒をつぐなんて・・・

おばあさん
おばあさん

そんな天井から目薬を差すような針の穴を通すような、ありの巣穴へおしっこをするような・・・

おじいさん
おじいさん

うるせえな!分かったよ!一人でやるよ!

おじいさん
おじいさん

ありの巣穴へおしっこって・・・やったことがあんのかあいつは?

おじいさん
おじいさん

やったことがねえと思いつかねえよな・・・昼間何してんだろうな・・・

おじいさん
おじいさん

まあそんなことはどうだっていいんだ、あれ?

おじいさん
おじいさん

もう~なんかつまみでも一緒に乗っけてくれりゃいいのに、ぐずぐず理屈こねてもう・・・

おじいさん
おじいさん

だけどこれまた普段の酒も飲む場所が変わると美味いねぇ、ははは・・・

ってんでちびちびやっておりますと、酒の酔いと昼間の疲れがみえたんでしょう・・・

こっくりこっくりと居眠りをしたかと思ったらいつの間にかぐっすり寝込んでしまった・・・

真夜中時分いくら厳重に戸締りをしてあっても、そこは泥棒商売ですな・・・ 二人そろりと忍び込む・・・

釜に縄をくるっとかける、中にはおじいさんが入ってるとも知らないで・・・

この大釜を表へどっこいしょってんで担ぎ出した・・・

子泥棒
子泥棒

あっはっはっは・・・兄貴うまくいきましたね?

子泥棒
子泥棒

大きな釜ですね、つぶして売ったらいくらになりますかねぇ?

兄泥棒
兄泥棒

そんなことはどうでもいい・・・

兄泥棒
兄泥棒

俺たちは先祖五右衛門の供養のためにやってんだ、黙って担げ・・・

子泥棒
子泥棒

黙ってたって見てください?今晩十五夜ですよ?

子泥棒
子泥棒

月夜に釜を抜くってのはこのことですねぇ!

兄泥棒
兄泥棒

うるせえよ!黙って歩けってんだよ!

ごぉぉぉーーー!・・・す~・・・

がぁぁぁぁぁーーーー!!・・・す~・・・

兄泥棒
兄泥棒

おい!え?じゃねえよ、釜担ぎながら寝るなよ!

子泥棒
子泥棒

え?いやあっしは寝てませんよ?大きな目がほら!開いてるでしょ?

兄泥棒
兄泥棒

いびきかいて寝てたじゃねえか!

子泥棒
子泥棒

いやあっしは・・・気のせいですよ!

兄泥棒
兄泥棒

そうかなぁ・・・確かに聞こえたんだけどな・・・なんだか気味が悪いな・・・

おばあさ~ん・・・おばあさ~ん・・・

兄泥棒
兄泥棒

おい引っぱたくぞお前!釜かついでる時にばあさん呼んでどうすんだよ!

子泥棒
子泥棒

あっしは呼んでませんよ!空耳ですよ!

兄泥棒
兄泥棒

そうかなぁ・・・なんか薄気味悪いけど・・・

おばあさん水を一杯おくれぇ!!

兄泥棒
兄泥棒

釜が化けたぁ!

ってんで、泥棒二人は釜を放って逃げちゃった・・・

おじいさん
おじいさん

おぉ!ぐらっと来たぐらっ!これは来たなぁ!

おじいさん
おじいさん

今俺が見栄をきかせて飛び出すぞぉ!?

おじいさん
おじいさん

よいしょ・・・っこらしょのしょっと!

おじいさん
おじいさん

あらっ!あぁ!しまった!

おじいさん
おじいさん

今夜は家を盗まれた・・・

釜泥を聞くなら「立川談志」

立川談志の「釜泥」は、盗人とその間抜けさが引き起こす滑稽な一幕を描いた一席です。古釜を巡る騒動が、談志の鋭い語りで生き生きと表現され、聴く者を笑いの渦に引き込みます。人間の愚かさと愛嬌が光る、ユーモラスな古典落語です。

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