昔は暮れの風物詩と申しますとお餅つきでございまして、町内からぺったんぺったん餅をつく音が聞こえるなんというのは、これはまた風情があるもんでございますけれども・・・
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ちょっとお前さん!?お前さん!

え?

えじゃないよ!?今日は何の日だか分かってんの?

大晦日だよ大晦日!分かってんのかい?

そりゃあ分かってるよ・・・それがどうした?

どうしたじゃないよ、うちだけだよ、町内で餅ついてないの!どうすんのよお餅!ねぇ!

お餅?

そうよ!つこうよ!

お餅?

つこうったって金がねえんだから、無理だよ・・・

そんな餅なんて食わなくったって大丈夫だよ!死なないから!

むしろ逆だぞ?餅食って死んでる爺さん婆さんたくさんいるんだぞ!?あぶねえんだ!

何言ってんだい!お餅だよ!

もう分かったよ・・・じゃあつくか?

つけるの?

つけるのったってお前がつくってんだからしょうがねえやなぁ・・・つこうじゃねえか・・・

その代わりお前、餅つくときにちょっと手伝ってもらうけれども、嫌とかなんとか言うんじゃねえぞ?

言わないよぉ!お餅つけるんだったらあたしなんだってするよぉ!

ほう、分かった・・・じゃあ俺ちょっと町内ひと廻りしてな、うちの前でな、餅屋のふりして声かけっからよ、お前中で返事しろよ?

なんだい?

餅屋のふりして声かけるから、返事しろよな!でかい声で!

なに『ふり』って・・・

いや餅つけるわけねえだろ?な?

だから餅つくふりをすんだよ、ぺったんぺったん音鳴らせば、町内の人も「あぁあそこも餅ついてるな」と気づくだろ?

なんだいそれは・・・ふりって・・・

いいからうるせえな!黙ってろ!行ってくるから返事しろよ!

あぁ・・・寒い・・・貧乏はしたくねぇもんだなぁ・・・

大晦日に餅つく真似しなくちゃいけねえんだもんな・・・

あぁ~あ、一人で三役か、忙しいねこりゃ・・・

誰も見てねえかな・・・恥ずかしいなこれ・・・

『おう竜公!金太!』

『へい親方!なんでございますか!?』

『大工の八五郎さんのお宅はどちらだい?』

『ええ!ここ真っすぐ行って右曲がって三軒目でございますよ!』

『あぁそうか!じゃあそろそろな、車から臼(うす)をおろせ?お長屋の端こすらねえように大事に運べよ?』

『へい!かしこまりました!いくぜ!』

『はいよ!よっこらしょ!よいしょ!』

『よっこらしょ!よいせっ!そいやっとぉ!』

恥ずかしいなぁ・・・俺は一人で何やってんだろうか・・・

『あぁ着いた!ごめん下さい!こんばんわ!ごめん下さい!こんばんわぁ~!』

なにしてんだよあいつは・・・

おい!返事しろってそう言ったろ!

来たよ馬鹿が本当に・・・

は~い、どちら様~?

俺だよ!

それじゃ何にもならないじゃないか!なんだい俺だってのは!?

あぁそうか・・・

『へえ餅屋でございます!』

餅屋さんでございますか、どうぞ開いてますよ・・・

『そうですか!こんばんわ!こんばんわ!こんばんわぁ!』

うるさいねぇ・・・何してんのよ・・・

これから餅屋が三人上がってきたところだよ・・・

これから家へ上がってこの家の主も演じなくちゃならねぇ、忙しいや・・・

おぉ、餅屋さんうちは夫婦二人っきりだからな!たんとはつかないぞ?そこら辺は勘弁してくれな?

『へい!よろしゅうございますよ!旦那!』

おうおみつ?おみつ!?・・・返事しろこの野郎・・・おみつ!

うるさいねぇ・・・なに!?

お供えの大きさなんだけど、どのくらいがいいかな?

あぁそう・・・大きい方がいいんじゃないかねえ!

あぁそう、お前も合わせてくれろよ、うまいこと言って・・・

よしっ!じゃあな、ごす餅にそれから伸し餅が二枚で頼むぜ!

『へい!かしこまりました!』

おう!おみつ?おみつ!?

うるさい・・・今度はなんだい!?

餅屋さんに祝儀をはずんでやってくんねえか?

金なんかあるわけないでしょう?

馬鹿かお前は・・・俺がやって俺がもらうんだよ・・・なんでもいいから鼻紙でも出せよ・・・

鼻紙でもいいの?ちょっと待って・・・

なんであたしこんな人と一緒になっちゃったんだろうねぇ・・・

分かったよ!うるさいねぇ!今オマケつけてあげるから!

ズズズぅぅ~~!!!(鼻水をすする音)

ほら・・・

汚いねお前は・・・親父これ祝儀ってほどでもねえが、若い衆の頭の上からばらばらっと振舞ってやってくんねぇな!

『へぇ!ありがとうございます!おう!旦那から祝儀頂戴したぜ!?礼を申し上げろ!』

『あぁ!そうですか!旦那ぁ!ありがとうございます!』

いやいや構わんよ!

『旦那恐れ入りまして・・・』

いやいや何と言うことは・・・

『旦那!本当にありがとうございます!』

な~に!どうってことはないさぁ!あっはっはっはぁ!

馬鹿だねぇこの人は・・・何やってんだろうね・・・

おみつぅ~!

うるさいねぇ・・・今度はなんだい?

お餅屋さんに酒を振舞ってやってくんねえか?

酒なんてないよ!

なんでもいいんだ、水でも持って来いよ!俺が飲むんだから!

はいはい・・・水でいいの?分かったからうるさいねぇ・・・

はい!お酒!

ありがとうな、さあ親父!これ振舞い酒だ!一杯ひっかけて威勢よくやってくんねえな!

『あぁそうですか!こちとら酒には目がねえもんでございますからありがとうございます!』

『ほら見ろ!酒だ!なぁ!うまそうだなぁ!この透き通って匂いのない所なんてたまりませんな!いただきますよ!』

『・・・ごくっ・・・ごくっ・・・ごくっ・・・』

『あぁ~!』

寒いぃぃ・・・

お前さんどうしたの今度は・・・土間降りてそんなとこ座って何してんの?腰が冷えるよ!?

うるせえこれからな、釜の前に陣取って蒸籠(せいろ)から威勢よく煙が出てるところを・・・

『ごほっ・・・ごほっ!・・・ごほっ!・・・』

三回むせるところが芸の細かい所よ・・・

おうおみつな!どんぶり鉢に湯入れて持ってこい・・・

え?また飲むのかい?

飲むんじゃねえよ・・・

どうすんの?

餅つくときには湯でしめしながらやるんだよ!

本当につくわけじゃないでしょ?いらないよ・・・

お前な!湯でしめしながらやらねえと、米粒が飛び散って仕方がないから湯でしめす・・・

だから!本当にやるわけじゃないでしょ!?いらないよお湯なんか・・・

お前は男心が分かってないな・・・

ないものはしょうがねえけどあるものは揃えてえじゃねえか!

湯なんか沸いてないよ、水でいいかい?じゃあほら・・・どんぶり鉢・・・

おう!揃ったな、それでいいや・・・よしっ!おう!おっかあ臼持って来い!

な~に?

臼持って来い!

どこにあんの臼なんて?

あるじゃねえかよ・・・

ないようちに臼なんか!

あるよ!

どこに!

あるよ!

おまえの臼を持って来いってんだよ!

な~にあたしの臼って!?

けつ出せ・・・

な~に!?

けつ出せってそう言ってんだ・・・

なんであたしがお尻出すのよ・・・

おまえがけつ出して、俺がぺったんぺったん音出すんだよ!

知ってるか?これをすなわち『尻餅』・・・

くだらないねぇ!

分かったよ・・・あたしだって女なんだ、いっぺん言っちゃったんだから出すよ・・・

ほら!おやり!

おやりって背中突っ張ったってダメだよ・・・頭下げろ頭・・・頭下げて尻を持ち上げろ・・・

だめだお前・・・臼が風呂敷に包んだままじゃねえか・・・包みをほどけ・・・

どういうこと?

けつ出せよ!

寒いよ・・・

寒くないよ!ついてるうちに温かくなってくるんだから!

それ痛くて火照ってくるんじゃないの!?

いいから!早く!ぱっと!ぱっと!おう・・・

出たね・・・あらぁ・・・お前男らしいね・・・こういう所は・・・

一緒になって結構経つけどこんな明るい所でまじまじと見たのは初めてだよ・・・

お前ここにホクロが・・・

やめとくれよ!あたしだって初めてだよ!

じゃあちょっとの間我慢しろよ・・・

『よ~し!竜公!金太!威勢よくいこうか!』

『へい!親方!いきますかぁ!』

『よ~し!ペタン!よいしょ~!ペタン!こらせ~!ペタン!どっこいしょ~うぉ~う~おぅ~!』

こねくりまわさないでよ!くすぐったい!

こういう風にやらないと米粒が飛び散ってしょうがねえんだ・・・

『よいしょ~!ペタン!こらせ~!そいなぁ~!今年は臼が新しいから慣れるまで骨が折れるな!』

『よい!ペタン!ほらせ!よい!よい!よい!よい!ペタンペタンペタンペタン!』

痛いよぉ~お前さん!

痛かないよ・・・我慢しろってんだ・・・

さあさあつき終わった・・・そっちへ持っていけ持っていけ・・・もうひと臼いくぞ?

・・・まだやんの?

ひと臼で終わることはねえだろ?

だって痛いもの・・・

あ、本当だ・・・けつの片側だけ真っ赤になっちゃった・・・

向き変えろ!向きを!なっ?よし!

『よ~し!蒸籠から米をここに出して!お~!すごい湯気だなぁ!熱そうだ!ちょいと冷ますかな!ふ~ふ~!』

寒いよふいたら!

そんなことないよ・・・臼が寒いってことはねえだろ?

もっとも、うすら寒いってのはあるけどな・・・いくぞっ!

『ほらよ!ペタン!ほらせ!ペタン!ほらよ!ほらせ!よい!よい!よい!ペタンペタンペタン!ほらせ!ほらよ!水だっ!』

冷たいよ!いやだ水なんかかけたら!

ああ悪い悪い・・・ちょっと祝儀(鼻紙)で拭いてやろうか?

やめとくれよ・・・自分で出来るよぉ!

『よっ!ペタン!せっ!ペタン!ほらせっ!ペタン!よっ!よっ・・・ペタン・・・』

あっ・・・おまえ屁やりやがったなぁ!

なにを食ったらこんな匂いなんだ馬鹿!もろに顔に浴びちゃったじゃないか!

俺じゃお前くさ餅になっちまうじゃねえか!これでもくらえ!

引っ掻いちゃいや!

俺じゃお前くさ餅になっちまうじゃねえか!これでもくらえ!

引っ掻いちゃいや!

これすなわち掻き餅ってんだ!

もうくだらないねぇ・・・あたしもう寝るよぉ・・・うぅ・・・

あぁ~あ・・・泣いちゃったよ・・・

本当に泣いてんのか?まさかうす泣きじゃねえだろうな?

何を言ってんだい本当に・・・ちょいと!お餅屋さん!

『はいよ!おかみさん何でございますか?』

あとどのくらい残ってますの?

『後ひと臼ですな!』

それじゃあ残りのひと臼は・・・

『お供えですか?』

いいえ、おこわにしてください・・・
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尻餅を聴いて
オチを少しだけ解説すると…おこわの場合は、ふかすだけなので、つかなくてもいいのです。
おかみさんも相当痛かったはずですね。
江戸っ子な旦那だけではなく、そのおかみさんもまた、自分の言ったことは嫌々ながらもやり通す根性の座った女性だったというわけですね。
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