「先々の時計になれや小商人(こあきんど)」なんて言いまして、昔は商人が色々なものを担って売りに参りましてな・・・
昔はよほどの御大家でないと時計なんてものは備えてございません・・・
ですからまあ、日の当たり具合とか、お腹のすき具合でもって「ああ~もう何時頃になるかな」なんてまして・・・
その時に商人が違う時間に参りますと「あの豆腐屋さんがきたからもう昼だ」とか「あの豆屋さんが来たから何時ごろになる」なんて・・そうなると商人も一人前にございますな・・
売り声なんぞも工夫をして気を使うもんでございますが・・・
南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」
落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。
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おいおい・・呼びにやったらすぐ来なきゃダメだぞ?
お前だってもう二十歳(はたち)だ・・・
裸足(はだし)じゃねえ、下駄はいてきたよ
何言ってんだ、お前の歳だよ!
ああ・・あたいの歳か、あたいの歳なら二十だ・・・
二十のことをはたちってんだ!
じゃあ三十はいたちか?
何言ってんだ!そんな歳があるか!
お袋さんが遊ばしておいても困るから、おじさんの商売を手伝わしてくれと・・・
お前さんの親父さんも小商人・・・
まあおじさんの商売ってのは八百屋だがな?
これから一つお前を八百屋に仕込んでやろうと思ってな・・・
まあ始めはまあ難しいことはできねえ、今年は南瓜の当たり年だな・・・
そうだな、南瓜でも売ってこい・・・
へへへ、南瓜たぁ色気がねえなぁ・・・
生意気なことを言うな、南瓜野郎が南瓜を売るんだ、こんな確かなことはねえや・・・
おばあさんが荷作りしてくれた、土間ごらんよ?
大きいのが十、小さいのが十、まあ勘定のしやすいように十ずつ入ってるからな?
じゃあ両方でもって二十歳だな?
何を言ってやがんだ、これは二十でいいんだよ!
大きい方は十三銭で、小せえ方は十二銭だ・・・
こいつは元値だよ?売るときは上をみて売りなよ?
え?
おめえだって商売人の倅だろ?上みることぐらい心得てるだろ?
売るとき上を見ればいいんだろ?
大丈夫だよ、ちゃあんと見るから
じゃあくどいことは言わねえ・・・
暑いからなるべく日陰を通るようにしてな、で、大通りより裏通りのほうがいいな・・・
裏長屋のおかみさん連中に売れるってやつだ・・・
あとは客の言うなりにだ・・・
言うなりに?
ああ、腹立ててちゃあ言うなりになれねえ・・・
ふ~んそうか、じゃあ言うなりになるよ・・・
それじゃあな、支度が出来たらその天秤と荷を担いでな・・・
おいおいふらふらじゃねえか?天秤と荷がそこまで重いか?
肩を使ってるから ダメなんだ、腰をきれ腰を!
この野郎、包丁持ってきやがった・・・
違う!腰をうまく使えと言ってるんだ!
そうそうそう、そしたらな、その草鞋(わらじ)を履いてちょいと一回りしてきな・・・
へ~い・・・
今言ったように暑いから日陰を通るようにしてなあ!大通りより裏通りの方がいいぞ!
腹立てるなよ言うなりにな!売り声は大きな声でやれよ!
売るときゃ上を見て!
へいへいっ!
南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」
落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。
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うるせぇなあ~全くなぁ・・・
後から後から色んなこと言いやがって・・・
おじさん呼んでるって言うからなんだと思って行ったら南瓜売れってんだからなぁ・・・
嫌になっちゃうなぁ・・・
南瓜食うやつがあるからこしらえるのか、こしらえるやつがあるから食うのか知らねえが
間の悪い奴は間に入って売るようなことをしやがる・・・
日本はいい国だと思っていたが、今だに南瓜食って喜んでやがる・・・
南瓜のおかげで暑いや・・・
売り声は大きな声でって言ってたが何て言やあいいんだ?南瓜だから南瓜か?
南瓜・・・
南瓜!・・南瓜っ!
カボチャ!!かぼ~ちゃっっ!!
なんでえこの野郎?誰が南瓜だって!?
へへへ、売ってるんだよ・・・
何だ売ってんのか、後ろから南瓜南瓜言うから、俺が言われてんのかと思ったぜ・・・
南瓜に似てんのはおかしいやい・・・
へへへ、南瓜には似てねえな・・・
どっちかって言えばじゃがいもだ・・・
いうじゃねえか、そんでお前唐茄子だろ?
同じく言うなら唐茄子って言った方が 売れるぞ?
そうか?
唐茄子屋でござい・・・
売れねえ・・・
今言ったばかりで売れるかい!
じゃあ何て言えばいいんだい!
だからよ・・・
唐茄子屋でござ~~い!
その通りでござ~~い!
真似をしちゃいけねえ!向こう行け!
おじさんうめえなあ・・・
先に立ってやってくんねえか?俺が後から売って歩くから・・・
何を言ってやがる、向こう行け!
おじさん買っておくれよ
いらねえよ!俺ぁ今から湯に行くんだから!
湯行ってもいいから買いなよ
湯に唐茄子持ってったってしょうがねえだろ?
だってヘチマ持っていく人もいるじゃねえか・・・
つまんねえこというない!
そらぁヘチマは洗えるかも知れねえが、唐茄子は洗えねえじゃねえか!
じゃあ唐茄子持って一緒に湯入ってりゃあいいや・・・
どうなるんでい!?
どっちが南瓜か分からねえ・・・
こん畜生!
ははははは、怒ってやがる・・・
南瓜よりもいいんだと思ってやがる
南瓜は食えたってあいつの頭は食えたもんじゃねえ・・・
こん畜生!
でもいいこと教わったなぁ、南瓜って言うより唐茄子の方がいいもんなあ・・・
じゃあ唐茄子でやってみるかな?
おじさん表通りはダメだけど裏通りはいいってぇからな・・ ・
裏通りへ入ってみようかな・・・
あれ?随分狭い路地だなあ・・・
ここへ入ってみるか・・・
こういうところの方が売れるかもしれねえからな・・・
え~狭い路地・・・ああそうじゃねえ・・・
え~唐茄子!唐茄子屋でござい!
おお、だんだん上手くなってきちゃったなこりゃあ!
唐茄子の温かいの!出来立ての唐茄子!ホヤホヤの唐茄子!
ああ、ダメだこの路地は抜けらんねえやこりゃ・・・
前に倉があって進めねえや・・・
そうかそうかじゃあ帰・・おっ?
さあ大変だ!天秤が引っ掛かって回れねえ・・・
えれぇ所に入ってきちまったもんだ、どうしよう、困っちゃったな・・・
ここ泊まるようなことになるなら枕持ってくりゃ良かったなぁ・・・
お~う!誰だ俺の家に何かぶつけてやがんのは!
おう困っちゃたんだ、これ回れなくなっちゃったんだ・・・
路地広げてくれ!
路地が広がるか!
だったら前の倉どけろ!
何だこいつは?馬鹿な野郎だな!
天秤担いで回ってやがる、天秤おろして体回してみろい!
ん・・・ははは回れた・・・
回れたじゃねえこの野郎!
俺のとこの格子をてめえ傷だらけにしやがって!張り倒すぞ!
針なんぞ倒したって驚かねえ・・・
殴るてんだよ!
いくつ?
てめえと俺とは今喧嘩になってんだぞ?
殴る回数なんていちいち数えるか!いくつになるかわからねえ!
はは・・こりゃ困っちゃったなぁ・・・
おじさん向こうの言うなりになってろって言ったけど そう殴られちゃ困っちゃうな・・・
じゃあしょうがねえ、殴られよう・・・
おい!入ってくんなこん畜生!!
だって今殴るって言ったじゃねえか!
さあ、殴れ!
お?おかしな野郎だな
さあ殴れって言われてぽかっと殴ったんじゃいけねえや・・・
俺もついカッとなって言い過ぎた・・・
うん・・・まあ勘弁しろ
勘弁出来ねえから殴れ!
何だこいつ!変な野郎だな!
殴った後で唐茄子買ってくんねえかな?
なんだ、おめえ唐茄子屋か?
そう!唐茄子屋でござい!
ははは!改めて名乗りを挙げなくてもいいや!
年は若えが感心だなぁ! 殴られてまで商売しようだなんてなぁ!
よし気に入った!荷をこっちへ見せてみろ!
これか?これはなにかい?新しいのかい?
うん新しい、今まで河岸で泳いでた
魚じゃねえんだから・・・これは本場か?
本場本場
どこだ?
分からねえ
なんだい、唐茄子の本場だから山だろう!
うんそう、箱根山(火山)で取れた・・・
そんなところでとれるかよ、これはうまいかな?
うまいよこれは調味料が入ってるぜ!
うまいこと言いやがんな!商売上手だな!
う~ん。これは何か?いくらだ?
大きいほうは十三銭、小さいほうは十二銭
おおそうかい、じゃあ大きいの二つもらおうかな・・・
五十銭でつりはあるか?
いやつりはないよ
あっ、じゃあ五十銭にまけとくよ
上にまけちゃいけねえよ!
じゃあこまっけえの出せ、良さそうなの二つ取れ!
そうか
おめえ何してんだい?
いいんだ売るときは上見てなくちゃいけねえからな・・・
上見てるうちに早く取れ
変な野郎だな、俺の方で取れってか?な~に余計に取るものか
おっ!他のお客も来てるよ!
おうこいつ唐茄子屋だ!ひょうきんな野郎だよ!
何だか訳の分からねえとぼけたことを言いやがってな?
品物はいいよ!十三銭と十二銭だ。買うかい?
大きいほう?ひとつでいいか?じゃあ銭は俺が立て替えておくかな
え?お染さんもおじいさんもおばあさんも?
おみっつあんもみんな買うのかい?おじさんも買ってくれんのかい?
おう唐茄子屋!お客さんも混んできてなにしてやがんだい
おうそうか?ああ早くしてくれ・・・
眩しくってしょうがねえやな、ぐずぐずすんな!
なんだよおい、こっちは唐茄子の運搬係だなぁ・・・
ってんで親切な人もあるもんでして骨折ってそっくり売ってくれました。
おい!唐茄子屋!
もういいか?
ははは・・かくれんぼしてんじゃねえや本当に・・・
こっちきなよ!
あ~くたびれた・・・
嘘をつけ、俺の方がくたびれた!
唐茄子あっちへ持ってったりこっちへ持ってったり大変だ!
唐茄子なくなっちゃったなあ・・・
売れたんだよ!
うん、お金が落っこちてる・・・
落っこちてるんじゃねえ、それはおめえのだ!
ああそうか、いくらあればいいんだい?
そんなことわかるだろ?いくつ持ってきた?
ええ?十三銭が十、十二銭が十?
良く勘定して見ろ。二円五十銭あんだろ?
おじさんうめえこといいやがんなあ・・・
売るときは上を見てろって言ってたけど、 上見てる間にみんな売れちまいやがった
商売なんざわけねえもんだな・・・
ほらそこに一銭落っこちてるよ!?
ああ・・本当だ、一銭落っこちてる・・・
ここにがま口も落っこちてる・・・
何を言ってやがるんだい・・・
俺が手に持ってるじゃねえかよ!
へへへ軽くなっていいじゃねえか、じゃあ帰ろう
おいおい全く愛嬌のねえ野郎だなぁ!俺が骨を折って売ってやったんだ!
黙って帰る奴があるか!ありがとうございますくらい言ってみろ!
どういたしまして
南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」
落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。
\Amazon Audileで聞けます/
さあ与太郎が帰ってきまして・・・
おじさ~ん!!
何だもう帰ってきたのか?ちゃんと一回りしてきたのか?
何?みんな売れた?
本当か?どれこっちへ見せてみろ・・・
なるほどかご空にしてきた・・・
おばあさんこいつは馬鹿どころじゃねえや、そっくり売ってきた!
どうしたいおめえ隅に置けねえな?
じゃあ真ん中に行くか
そういう意味じゃねえや、よく売ってきたな!
へへへ、面白えなんてんでみんな買ってくれた
なるほどなぁ!おめえみたいなのはかえって可愛がられていいんだ!
おじさんおめえのことなめてたよ、売上出してみろ?
ああそう、この中へ入れて来た
おめえの親父も商売うまかったがな、親父以上だ
わずかな時間にこれだけの物を・・・
なんだおめえ手慣れてんなあ、元と別にしてやがんだ・・・
儲けはどうした?
え?
いや儲けはどうした?
儲けはそれだ
いやこんなに儲けるわけはねえんだ、上みたやつがあんだろ?
うん、見た
それここへ出しなよ!
出せない
何だ出せないってのは?
どれだけおめえが上みたかおじさんだってみてえじゃねえか、 だしてみなよ!
ははっいやそんな分からねえこと言ったってダメだ
見ちゃったんだから出せねえよ
何だその見ちゃったからってのは?
じゃあおめえいくらで売ったんだ?
十三銭と十二銭
元じゃねえか!上みてねえじゃねえか!
見たよ!こうやってこうして・・・
口開けてたら喉の方まで陽が入りやがって、喉からからに乾いちゃった・・・
何も落っこちてこなかった・・・
この馬鹿野郎め!
じゃあ、おじさんが上みろってのをおめえは空見てやがったのか?
ああ
ああじゃねえこの呆れた野郎め!
おじさんが上を見ろと言ったのは掛け値をしろってことだ!
いいか!十三銭は十五銭、十二銭は十四銭に売るから二銭ずつ儲かんだ!
馬鹿野郎!空見てる奴があるか!掛け値をせずに女房子が養えるか!
女房子なんかねえもの
だからあればって話をしてんだ!どうやって飯を食うと思う!?
箸と茶碗さ
箸と茶碗で飯を食うのは当たり前だ!
ええ~ライスカレーは、しゃじ(スプーン)で食う
てめえは並大抵な馬鹿じゃねえな!
元で売ってくるよりだったらうちで昼寝してた方がましだ!
二十歳にもなりやがってしっかりしろ!
二十歳なんてなりたくねえ!
なりたくねえったっておめえは二十歳だよ!
誰がした?
誰がしたっていうやつがあるか!もういっぺん行って来い!
ああ~また担がされたよ・・・
全くしょうがねえなぁ、あのじじいは・・・
今度は十五銭と十四銭に売ってこいって、冗談じゃねえや全く・・・
年だって別に二十歳になりたくてなったわけじゃねえんだ・・・
ああ、またさっきのとこ来ちまったよ・・・
親方ぁ~!!
おう!何だ唐茄子屋じゃねえか!忘れもんか?
買っとくれよ
よせさっき買ったばかりじゃねえか、そうはいかねえ・・・
それでもいいから買いなよ
なんだ~?そうか、まあ俺んとこは好きだから買っといてやろう・・・
じゃあ、さっきの大きいのもらおう!十三銭のひとつ!
あれ今度は十五銭・・・
なんだって値が上がった?
おじさんに怒られちまった・・・
あの十三銭と十二銭は元だって・・・
売るときは上みろっていうから知らねえから、こうやって空見て眺めてたらそうじゃねんだ
上見るってのは 掛け値をすることだ
十三銭は十五銭、十二銭は十四銭に売るから、ほ~らそこで二銭ずつ儲かる・・・
売る方は利口だな、買うやつは馬鹿だ
ははは、親方買え
何を・・・
ははは、どうも俺ぁ様子がおかしいと思ったんだ・・・
ひょうきんでとぼけてんのかと思ったら、そうじゃねえんだ
それがおめえの生地だってんだ、おめでたいよ・・・
ん?へへへ・・・
明けまして?
かわいそうに・・・おめえはいくつだ?
え?
あたいの年?あたいの年は~え~っと・・・
六十!
馬鹿なことを言うな、おめえ見たとこ二十歳ぐれえだな?
そう!元は二十歳!四十は掛け値!
おいおい年に掛け値する奴があるか!
だって掛け値しなくちゃ女房子が養えねえ・・・
南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」
落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。
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