落語【南瓜屋】台本 吹き出し風

落語 台本

「先々の時計になれや小商人(こあきんど)」なんて言いまして、昔は商人が色々なものを担って売りに参りましてな・・・

昔はよほどの御大家でないと時計なんてものは備えてございません・・・

ですからまあ、日の当たり具合とか、お腹のすき具合でもって「ああ~もう何時頃になるかな」なんてまして・・・

その時に商人が違う時間に参りますと「あの豆腐屋さんがきたからもう昼だ」とか「あの豆屋さんが来たから何時ごろになる」なんて・・そうなると商人も一人前にございますな・・

売り声なんぞも工夫をして気を使うもんでございますが・・・

南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」

落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。

\Amazon Audileで聞けます/

旦那
旦那

おいおい・・呼びにやったらすぐ来なきゃダメだぞ?

旦那
旦那

お前だってもう二十歳(はたち)だ・・・

与太郎
与太郎

裸足(はだし)じゃねえ、下駄はいてきたよ

旦那
旦那

何言ってんだ、お前の歳だよ!

与太郎
与太郎

ああ・・あたいの歳か、あたいの歳なら二十だ・・・

旦那
旦那

二十のことをはたちってんだ!

与太郎
与太郎

じゃあ三十はいたちか?

旦那
旦那

何言ってんだ!そんな歳があるか!

旦那
旦那

お袋さんが遊ばしておいても困るから、おじさんの商売を手伝わしてくれと・・・

旦那
旦那

お前さんの親父さんも小商人・・・

旦那
旦那

まあおじさんの商売ってのは八百屋だがな?

旦那
旦那

これから一つお前を八百屋に仕込んでやろうと思ってな・・・

旦那
旦那

まあ始めはまあ難しいことはできねえ、今年は南瓜の当たり年だな・・・

旦那
旦那

そうだな、南瓜でも売ってこい・・・

与太郎
与太郎

へへへ、南瓜たぁ色気がねえなぁ・・・

旦那
旦那

生意気なことを言うな、南瓜野郎が南瓜を売るんだ、こんな確かなことはねえや・・・

旦那
旦那

おばあさんが荷作りしてくれた、土間ごらんよ?

旦那
旦那

大きいのが十、小さいのが十、まあ勘定のしやすいように十ずつ入ってるからな?

与太郎
与太郎

じゃあ両方でもって二十歳だな?

旦那
旦那

何を言ってやがんだ、これは二十でいいんだよ!

旦那
旦那

大きい方は十三銭で、小せえ方は十二銭だ・・・

旦那
旦那

こいつは元値だよ?売るときは上をみて売りなよ?

与太郎
与太郎

え?

旦那
旦那

おめえだって商売人の倅だろ?上みることぐらい心得てるだろ?

与太郎
与太郎

売るとき上を見ればいいんだろ?

与太郎
与太郎

大丈夫だよ、ちゃあんと見るから

旦那
旦那

じゃあくどいことは言わねえ・・・

旦那
旦那

暑いからなるべく日陰を通るようにしてな、で、大通りより裏通りのほうがいいな・・・

旦那
旦那

裏長屋のおかみさん連中に売れるってやつだ・・・

旦那
旦那

あとは客の言うなりにだ・・・

与太郎
与太郎

言うなりに?

旦那
旦那

ああ、腹立ててちゃあ言うなりになれねえ・・・

与太郎
与太郎

ふ~んそうか、じゃあ言うなりになるよ・・・

旦那
旦那

それじゃあな、支度が出来たらその天秤と荷を担いでな・・・

旦那
旦那

おいおいふらふらじゃねえか?天秤と荷がそこまで重いか?

旦那
旦那

肩を使ってるから ダメなんだ、腰をきれ腰を!

与太郎
与太郎

この野郎、包丁持ってきやがった・・・

与太郎
与太郎

違う!腰をうまく使えと言ってるんだ!

旦那
旦那

そうそうそう、そしたらな、その草鞋(わらじ)を履いてちょいと一回りしてきな・・・

与太郎
与太郎

へ~い・・・

旦那
旦那

今言ったように暑いから日陰を通るようにしてなあ!大通りより裏通りの方がいいぞ!

旦那
旦那

腹立てるなよ言うなりにな!売り声は大きな声でやれよ!

旦那
旦那

売るときゃ上を見て!

与太郎
与太郎

へいへいっ!

南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」

落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。

\Amazon Audileで聞けます/

与太郎
与太郎

うるせぇなあ~全くなぁ・・・

与太郎
与太郎

後から後から色んなこと言いやがって・・・

与太郎
与太郎

おじさん呼んでるって言うからなんだと思って行ったら南瓜売れってんだからなぁ・・・

与太郎
与太郎

嫌になっちゃうなぁ・・・

与太郎
与太郎

南瓜食うやつがあるからこしらえるのか、こしらえるやつがあるから食うのか知らねえが

与太郎
与太郎

間の悪い奴は間に入って売るようなことをしやがる・・・

与太郎
与太郎

日本はいい国だと思っていたが、今だに南瓜食って喜んでやがる・・・

与太郎
与太郎

南瓜のおかげで暑いや・・・

与太郎
与太郎

売り声は大きな声でって言ってたが何て言やあいいんだ?南瓜だから南瓜か?

与太郎
与太郎

南瓜・・・

与太郎
与太郎

南瓜!・・南瓜っ!

与太郎
与太郎

カボチャ!!かぼ~ちゃっっ!!

ある男
ある男

なんでえこの野郎?誰が南瓜だって!?

与太郎
与太郎

へへへ、売ってるんだよ・・・

ある男
ある男

何だ売ってんのか、後ろから南瓜南瓜言うから、俺が言われてんのかと思ったぜ・・・

ある男
ある男

南瓜に似てんのはおかしいやい・・・

与太郎
与太郎

へへへ、南瓜には似てねえな・・・

与太郎
与太郎

どっちかって言えばじゃがいもだ・・・

ある男
ある男

いうじゃねえか、そんでお前唐茄子だろ?

ある男
ある男

同じく言うなら唐茄子って言った方が 売れるぞ?

与太郎
与太郎

そうか?

与太郎
与太郎

唐茄子屋でござい・・・

与太郎
与太郎

売れねえ・・・

ある男
ある男

今言ったばかりで売れるかい!

与太郎
与太郎

じゃあ何て言えばいいんだい!

ある男
ある男

だからよ・・・

ある男
ある男

唐茄子屋でござ~~い!

与太郎
与太郎

その通りでござ~~い!

ある男
ある男

真似をしちゃいけねえ!向こう行け!

与太郎
与太郎

おじさんうめえなあ・・・

与太郎
与太郎

先に立ってやってくんねえか?俺が後から売って歩くから・・・

ある男
ある男

何を言ってやがる、向こう行け!

与太郎
与太郎

おじさん買っておくれよ

ある男
ある男

いらねえよ!俺ぁ今から湯に行くんだから!

与太郎
与太郎

湯行ってもいいから買いなよ

ある男
ある男

湯に唐茄子持ってったってしょうがねえだろ?

与太郎
与太郎

だってヘチマ持っていく人もいるじゃねえか・・・

ある男
ある男

つまんねえこというない!

ある男
ある男

そらぁヘチマは洗えるかも知れねえが、唐茄子は洗えねえじゃねえか!

与太郎
与太郎

じゃあ唐茄子持って一緒に湯入ってりゃあいいや・・・

ある男
ある男

どうなるんでい!?

与太郎
与太郎

どっちが南瓜か分からねえ・・・

ある男
ある男

こん畜生!

与太郎
与太郎

ははははは、怒ってやがる・・・

与太郎
与太郎

南瓜よりもいいんだと思ってやがる

与太郎
与太郎

南瓜は食えたってあいつの頭は食えたもんじゃねえ・・・

ある男
ある男

こん畜生!

与太郎
与太郎

でもいいこと教わったなぁ、南瓜って言うより唐茄子の方がいいもんなあ・・・

与太郎
与太郎

じゃあ唐茄子でやってみるかな?

与太郎
与太郎

おじさん表通りはダメだけど裏通りはいいってぇからな・・ ・

与太郎
与太郎

裏通りへ入ってみようかな・・・

与太郎
与太郎

あれ?随分狭い路地だなあ・・・

与太郎
与太郎

ここへ入ってみるか・・・

与太郎
与太郎

こういうところの方が売れるかもしれねえからな・・・

与太郎
与太郎

え~狭い路地・・・ああそうじゃねえ・・・

与太郎
与太郎

え~唐茄子!唐茄子屋でござい!

与太郎
与太郎

おお、だんだん上手くなってきちゃったなこりゃあ!

与太郎
与太郎

唐茄子の温かいの!出来立ての唐茄子!ホヤホヤの唐茄子!

与太郎
与太郎

ああ、ダメだこの路地は抜けらんねえやこりゃ・・・

与太郎
与太郎

前に倉があって進めねえや・・・

与太郎
与太郎

そうかそうかじゃあ帰・・おっ?

与太郎
与太郎

さあ大変だ!天秤が引っ掛かって回れねえ・・・

与太郎
与太郎

えれぇ所に入ってきちまったもんだ、どうしよう、困っちゃったな・・・

与太郎
与太郎

ここ泊まるようなことになるなら枕持ってくりゃ良かったなぁ・・・

ある男
ある男

お~う!誰だ俺の家に何かぶつけてやがんのは!

与太郎
与太郎

おう困っちゃたんだ、これ回れなくなっちゃったんだ・・・

与太郎
与太郎

路地広げてくれ!

ある男
ある男

路地が広がるか!

与太郎
与太郎

だったら前の倉どけろ!

ある男
ある男

何だこいつは?馬鹿な野郎だな!

ある男
ある男

天秤担いで回ってやがる、天秤おろして体回してみろい!

与太郎
与太郎

ん・・・ははは回れた・・・

ある男
ある男

回れたじゃねえこの野郎!

ある男
ある男

俺のとこの格子をてめえ傷だらけにしやがって!張り倒すぞ!

与太郎
与太郎

針なんぞ倒したって驚かねえ・・・

ある男
ある男

殴るてんだよ!

与太郎
与太郎

いくつ?

ある男
ある男

てめえと俺とは今喧嘩になってんだぞ?

ある男
ある男

殴る回数なんていちいち数えるか!いくつになるかわからねえ!

与太郎
与太郎

はは・・こりゃ困っちゃったなぁ・・・

与太郎
与太郎

おじさん向こうの言うなりになってろって言ったけど そう殴られちゃ困っちゃうな・・・

与太郎
与太郎

じゃあしょうがねえ、殴られよう・・・

ある男
ある男

おい!入ってくんなこん畜生!!

与太郎
与太郎

だって今殴るって言ったじゃねえか!

与太郎
与太郎

さあ、殴れ!

ある男
ある男

お?おかしな野郎だな

ある男
ある男

さあ殴れって言われてぽかっと殴ったんじゃいけねえや・・・

ある男
ある男

俺もついカッとなって言い過ぎた・・・

ある男
ある男

うん・・・まあ勘弁しろ

与太郎
与太郎

勘弁出来ねえから殴れ!

ある男
ある男

何だこいつ!変な野郎だな!

与太郎
与太郎

殴った後で唐茄子買ってくんねえかな?

ある男
ある男

なんだ、おめえ唐茄子屋か?

与太郎
与太郎

そう!唐茄子屋でござい!

ある男
ある男

ははは!改めて名乗りを挙げなくてもいいや!

ある男
ある男

年は若えが感心だなぁ! 殴られてまで商売しようだなんてなぁ!

ある男
ある男

よし気に入った!荷をこっちへ見せてみろ!

ある男
ある男

これか?これはなにかい?新しいのかい?

与太郎
与太郎

うん新しい、今まで河岸で泳いでた

ある男
ある男

魚じゃねえんだから・・・これは本場か?

与太郎
与太郎

本場本場

ある男
ある男

どこだ?

与太郎
与太郎

分からねえ

ある男
ある男

なんだい、唐茄子の本場だから山だろう!

与太郎
与太郎

うんそう、箱根山(火山)で取れた・・・

ある男
ある男

そんなところでとれるかよ、これはうまいかな?

与太郎
与太郎

うまいよこれは調味料が入ってるぜ!

ある男
ある男

うまいこと言いやがんな!商売上手だな!

ある男
ある男

う~ん。これは何か?いくらだ?

与太郎
与太郎

大きいほうは十三銭、小さいほうは十二銭

ある男
ある男

おおそうかい、じゃあ大きいの二つもらおうかな・・・

ある男
ある男

五十銭でつりはあるか?

与太郎
与太郎

いやつりはないよ

与太郎
与太郎

あっ、じゃあ五十銭にまけとくよ

ある男
ある男

上にまけちゃいけねえよ!

ある男
ある男

じゃあこまっけえの出せ、良さそうなの二つ取れ!

与太郎
与太郎

そうか

ある男
ある男

おめえ何してんだい?

与太郎
与太郎

いいんだ売るときは上見てなくちゃいけねえからな・・・

与太郎
与太郎

上見てるうちに早く取れ

ある男
ある男

変な野郎だな、俺の方で取れってか?な~に余計に取るものか

ある男
ある男

おっ!他のお客も来てるよ!

ある男
ある男

おうこいつ唐茄子屋だ!ひょうきんな野郎だよ!

ある男
ある男

何だか訳の分からねえとぼけたことを言いやがってな?

ある男
ある男

品物はいいよ!十三銭と十二銭だ。買うかい?

ある男
ある男

大きいほう?ひとつでいいか?じゃあ銭は俺が立て替えておくかな

ある男
ある男

え?お染さんもおじいさんもおばあさんも?

ある男
ある男

おみっつあんもみんな買うのかい?おじさんも買ってくれんのかい?

ある男
ある男

おう唐茄子屋!お客さんも混んできてなにしてやがんだい

与太郎
与太郎

おうそうか?ああ早くしてくれ・・・

与太郎
与太郎

眩しくってしょうがねえやな、ぐずぐずすんな!

ある男
ある男

なんだよおい、こっちは唐茄子の運搬係だなぁ・・・

ってんで親切な人もあるもんでして骨折ってそっくり売ってくれました。

ある男
ある男

おい!唐茄子屋!

ある男
ある男

もういいか?

与太郎
与太郎

ははは・・かくれんぼしてんじゃねえや本当に・・・

与太郎
与太郎

こっちきなよ!

与太郎
与太郎

あ~くたびれた・・・

ある男
ある男

嘘をつけ、俺の方がくたびれた!

ある男
ある男

唐茄子あっちへ持ってったりこっちへ持ってったり大変だ!

与太郎
与太郎

唐茄子なくなっちゃったなあ・・・

ある男
ある男

売れたんだよ!

与太郎
与太郎

うん、お金が落っこちてる・・・

ある男
ある男

落っこちてるんじゃねえ、それはおめえのだ!

与太郎
与太郎

ああそうか、いくらあればいいんだい?

ある男
ある男

そんなことわかるだろ?いくつ持ってきた?

ある男
ある男

ええ?十三銭が十、十二銭が十?

ある男
ある男

良く勘定して見ろ。二円五十銭あんだろ?

与太郎
与太郎

おじさんうめえこといいやがんなあ・・・

与太郎
与太郎

売るときは上を見てろって言ってたけど、 上見てる間にみんな売れちまいやがった

与太郎
与太郎

商売なんざわけねえもんだな・・・

ある男
ある男

ほらそこに一銭落っこちてるよ!?

与太郎
与太郎

ああ・・本当だ、一銭落っこちてる・・・

与太郎
与太郎

ここにがま口も落っこちてる・・・

ある男
ある男

何を言ってやがるんだい・・・

ある男
ある男

俺が手に持ってるじゃねえかよ!

与太郎
与太郎

へへへ軽くなっていいじゃねえか、じゃあ帰ろう

ある男
ある男

おいおい全く愛嬌のねえ野郎だなぁ!俺が骨を折って売ってやったんだ!

ある男
ある男

黙って帰る奴があるか!ありがとうございますくらい言ってみろ!

与太郎
与太郎

どういたしまして

南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」

落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。

\Amazon Audileで聞けます/

さあ与太郎が帰ってきまして・・・

与太郎
与太郎

おじさ~ん!!

旦那
旦那

何だもう帰ってきたのか?ちゃんと一回りしてきたのか?

旦那
旦那

何?みんな売れた?

旦那
旦那

本当か?どれこっちへ見せてみろ・・・

旦那
旦那

なるほどかご空にしてきた・・・

旦那
旦那

おばあさんこいつは馬鹿どころじゃねえや、そっくり売ってきた!

旦那
旦那

どうしたいおめえ隅に置けねえな?

与太郎
与太郎

じゃあ真ん中に行くか

旦那
旦那

そういう意味じゃねえや、よく売ってきたな!

与太郎
与太郎

へへへ、面白えなんてんでみんな買ってくれた

旦那
旦那

なるほどなぁ!おめえみたいなのはかえって可愛がられていいんだ!

旦那
旦那

おじさんおめえのことなめてたよ、売上出してみろ?

与太郎
与太郎

ああそう、この中へ入れて来た

旦那
旦那

おめえの親父も商売うまかったがな、親父以上だ

旦那
旦那

わずかな時間にこれだけの物を・・・

旦那
旦那

なんだおめえ手慣れてんなあ、元と別にしてやがんだ・・・

旦那
旦那

儲けはどうした?

与太郎
与太郎

え?

旦那
旦那

いや儲けはどうした?

与太郎
与太郎

儲けはそれだ

旦那
旦那

いやこんなに儲けるわけはねえんだ、上みたやつがあんだろ?

与太郎
与太郎

うん、見た

旦那
旦那

それここへ出しなよ!

与太郎
与太郎

出せない

旦那
旦那

何だ出せないってのは?

旦那
旦那

どれだけおめえが上みたかおじさんだってみてえじゃねえか、 だしてみなよ!

与太郎
与太郎

ははっいやそんな分からねえこと言ったってダメだ

与太郎
与太郎

見ちゃったんだから出せねえよ

旦那
旦那

何だその見ちゃったからってのは?

旦那
旦那

じゃあおめえいくらで売ったんだ?

与太郎
与太郎

十三銭と十二銭

旦那
旦那

元じゃねえか!上みてねえじゃねえか!

与太郎
与太郎

見たよ!こうやってこうして・・・

与太郎
与太郎

口開けてたら喉の方まで陽が入りやがって、喉からからに乾いちゃった・・・

与太郎
与太郎

何も落っこちてこなかった・・・

旦那
旦那

この馬鹿野郎め!

旦那
旦那

じゃあ、おじさんが上みろってのをおめえは空見てやがったのか?

与太郎
与太郎

ああ

旦那
旦那

ああじゃねえこの呆れた野郎め!

旦那
旦那

おじさんが上を見ろと言ったのは掛け値をしろってことだ!

旦那
旦那

いいか!十三銭は十五銭、十二銭は十四銭に売るから二銭ずつ儲かんだ!

旦那
旦那

馬鹿野郎!空見てる奴があるか!掛け値をせずに女房子が養えるか!

与太郎
与太郎

女房子なんかねえもの

旦那
旦那

だからあればって話をしてんだ!どうやって飯を食うと思う!?

与太郎
与太郎

箸と茶碗さ

旦那
旦那

箸と茶碗で飯を食うのは当たり前だ!

与太郎
与太郎

ええ~ライスカレーは、しゃじ(スプーン)で食う

旦那
旦那

てめえは並大抵な馬鹿じゃねえな!

旦那
旦那

元で売ってくるよりだったらうちで昼寝してた方がましだ!

旦那
旦那

二十歳にもなりやがってしっかりしろ!

与太郎
与太郎

二十歳なんてなりたくねえ!

旦那
旦那

なりたくねえったっておめえは二十歳だよ!

与太郎
与太郎

誰がした?

旦那
旦那

誰がしたっていうやつがあるか!もういっぺん行って来い!

与太郎
与太郎

ああ~また担がされたよ・・・

与太郎
与太郎

全くしょうがねえなぁ、あのじじいは・・・

与太郎
与太郎

今度は十五銭と十四銭に売ってこいって、冗談じゃねえや全く・・・

与太郎
与太郎

年だって別に二十歳になりたくてなったわけじゃねえんだ・・・

与太郎
与太郎

ああ、またさっきのとこ来ちまったよ・・・

与太郎
与太郎

親方ぁ~!!

ある男
ある男

おう!何だ唐茄子屋じゃねえか!忘れもんか?

与太郎
与太郎

買っとくれよ

ある男
ある男

よせさっき買ったばかりじゃねえか、そうはいかねえ・・・

与太郎
与太郎

それでもいいから買いなよ

ある男
ある男

なんだ~?そうか、まあ俺んとこは好きだから買っといてやろう・・・

ある男
ある男

じゃあ、さっきの大きいのもらおう!十三銭のひとつ!

与太郎
与太郎

あれ今度は十五銭・・・

ある男
ある男

なんだって値が上がった?

与太郎
与太郎

おじさんに怒られちまった・・・

与太郎
与太郎

あの十三銭と十二銭は元だって・・・

与太郎
与太郎

売るときは上みろっていうから知らねえから、こうやって空見て眺めてたらそうじゃねんだ

与太郎
与太郎

上見るってのは 掛け値をすることだ

与太郎
与太郎

十三銭は十五銭、十二銭は十四銭に売るから、ほ~らそこで二銭ずつ儲かる・・・

与太郎
与太郎

売る方は利口だな、買うやつは馬鹿だ

与太郎
与太郎

ははは、親方買え

ある男
ある男

何を・・・

ある男
ある男

ははは、どうも俺ぁ様子がおかしいと思ったんだ・・・

ある男
ある男

ひょうきんでとぼけてんのかと思ったら、そうじゃねえんだ

ある男
ある男

それがおめえの生地だってんだ、おめでたいよ・・・

与太郎
与太郎

ん?へへへ・・・

与太郎
与太郎

明けまして?

ある男
ある男

かわいそうに・・・おめえはいくつだ?

与太郎
与太郎

え?

与太郎
与太郎

あたいの年?あたいの年は~え~っと・・・

与太郎
与太郎

六十!

ある男
ある男

馬鹿なことを言うな、おめえ見たとこ二十歳ぐれえだな?

与太郎
与太郎

そう!元は二十歳!四十は掛け値!

ある男
ある男

おいおい年に掛け値する奴があるか!

与太郎
与太郎

だって掛け値しなくちゃ女房子が養えねえ・・・

南瓜屋を聞くなら「柳家小さん」

落語界初の人間国宝、五代目柳家小さんは滑稽噺を得意とし、福々しい表情と愛嬌に満ち溢れている。南瓜屋に出てくるどこか憎めない与太郎を表裏なく純粋に表現できる落語家は、五代目柳家小さんの右に出る者はいない。

\Amazon Audileで聞けます/

コメント

タイトルとURLをコピーしました