落語【時そば】台本 吹き出し風

落語 台本

音声ありver(フル)は以下のボタンから!

江戸時代では夜になりますってと二八そばなんてものが流行りましたが、どういう訳で二八そばなんて名前になったかってぇますと、 それはその頃の商いが二八の一六文だったなんて言います・・・

もう一説ございます・・・

そばはそば粉だけではそばにならない・・・

そば粉を八分、うどん粉を二分使いますところから、二八そばという・・・

どっちが本当かは分かりませんがどうやら銭勘定の方が本当のようでございます・・・

その頃はもうみな二八の十六文と決まっておりました・・・

夜にくりだす蕎麦屋なんてのは担ぎます上の所に屋根がありまして、軒下に風鈴がぶら下がってる・・・

この風鈴が担ぐ腰の振りようでもって、チンリンチンリンチンリンチンリン・・・音を立てます・・・

親ばかちゃんりん蕎麦屋の風鈴なんてものはこれから始まったってえますが、江戸の町を・・・

時そばを聞くなら「柳家小さん」

三代目柳家小さんが上方の時うどんを江戸噺として移植したのが「時そば」。その後、五代目柳家小さんの十八番として演じられ、人情味あふれる演技で、江戸時代の風情と笑いをたっぷり楽しめます。

\Amazon Audileで聞けます/

蕎麦屋
蕎麦屋

そば~~~~~~~~~~~~~~

あるお男
あるお男

ちょっと待ってくれ蕎麦屋さん!

ある男
ある男

おう!何ができるんでい!?

ある男
ある男

え?花巻に卓袱(しっぽく)?

ある男
ある男

おう!そうかい!じゃあ卓袱熱くこしらえてもらおうかなぁ!

ある男
ある男

いやあそれにしても寒いなあ!

蕎麦屋
蕎麦屋

ええ・・お寒うござんすねぇ・・・

ある男
ある男

おらぁすっかり風邪ひいちゃったぁ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へへ・・・どうもこのところ陽気が良くございませんからねえ・・・

ある男
ある男

まあ大したことはねえや!おめえんとこの熱いそば、か~っとたぐっちまってよ?

ある男
ある男

帰って横にでもなれば抜けちまうだろ!

ある男
ある男

だからひとつ熱くして頼むぜ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へい・・よろしゅうござんす・・・

ある男
ある男

どうだい?蕎麦屋さん景気は?

蕎麦屋
蕎麦屋

ええ、どうも不景気で困ります

ある男
ある男

そうかい!まああんまり気にするなよ?

ある男
ある男

昔っからよく言うやつだよ!

ある男
ある男

悪いやつは必ずいいなんてこと言うもんなあ!

ある男
ある男

商売は商い(あきない)なんていうもんだ、飽きずにやらなくちゃいけねえやな!

蕎麦屋
蕎麦屋

うまいこといいますな!

蕎麦屋
蕎麦屋

商売は商いでもって飽きずにやらなくちゃいけないなんぞは・・・

ある男
ある男

いやそりゃあそうじゃねえかと思うってんだよ!

ある男
ある男

商売ってても色々あるけどよぉ!?色々手ぇ出してどうも上手くいかねえなんて

ぶーぶーぶーぶー言ってりゃあいいなんてもんじゃねえやな!

ある男
ある男

これだなって思ったらそれを離さずにいるってと、いつか芽吹くってもんじゃねえか!

ある男
ある男

本当だよ?商売ってのは飽きずにやらなくちゃいけないってのはこのことだよ!

ある男
ある男

お?お!?おめえんとこの行燈(あんどん)変わってんなあ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へえ・・てまえ共は当たり屋と申しまして・・・

ある男
ある男

お!?当たり屋!?いいじゃねえか当たり屋なんて!

ある男
ある男

こちとら江戸っ子だ!縁起担ぐぜ!本当だよ!

ある男
ある男

それによ?大きな声じゃ言えねえけども、向こうでもってガラっポン!

ある男
ある男

勝負ってんで時々俺ぁ悪さするんだ!大当たりなんて嬉しいじゃねえかよ!

ある男
ある男

俺ぁ縁起担ぐわけじゃねえけどよ!

ある男
ある男

夜分に表出てつっつっつっって歩いてるときにおめえんとこの行燈見たら、どれだけ腹一杯だろうが、食欲なかろうが立ち寄るからな?

ある男
ある男

そのつもりでいてくれ?

蕎麦屋
蕎麦屋

へえ・・よろしくごひいきに・・・

ある男
ある男

いやぁ、ごひいきってことでもねえけどよぉ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へい、親方お待ちどう様でございます

ある男
ある男

え?早えなおい・・・

ある男
ある男

ちょいと無駄話してる間に親方お待ちどう様です、嬉しいねえおい!

ある男
ある男

こちとら江戸っ子だい!気が短えんだよ!?

ある男
ある男

あつらえたもんが中々出てこねえ、催促してやっと持ってくるなんてのは、うめえもんも不味くなっちゃうもんな!

ある男
ある男

本当だよ?ちょいと無駄話してる間に『へい、親方お待ちどうさん』・・・

ある男
ある男

これだよ!

ある男
ある男

お?おめえんとこ、この割りばし使ってんの?

ある男
ある男

大したもんだんねぇ~・・・

ある男
ある男

この界隈ずいぶん蕎麦屋もでるけどねえ・・・おめえんとこだけだよ、この割りばし使ってんのは!

ある男
ある男

大概の所は割りばしってても、すでに割れてんだよ!?

ある男
ある男

誰が使ったかも分からねえもんを使わされるってのは心持が悪いやな!

ある男
ある男

いいどんぶりだねえ・・・

ある男
ある男

物は器で食わせろなんて言うけども本当だぜ?

ある男
ある男

中身が少々不味くったってどんぶりがいいってとうまく食えるからなあ!

ある男
ある男

こりゃあいいどんぶりだぁ!

ある男
ある男

うはぁ~!いいにおいだこりゃあねえ!

ある男
ある男

俺ぁよ!蕎麦っ食いだろ?

ある男
ある男

蕎麦のにおいだけでうめえか不味いか分かっちまうんだから!

ある男
ある男

本当だよ!?俺ぁ蕎麦っ食いだからよぉ!

ある男
ある男

ほらいいにおいだ!

ある男
ある男

ふ~ふ~・・・ふ~・・・

ある男
ある男

ずずっ(つゆを飲む音)・・・

ある男
ある男

はぁぁ~~・・・

ある男
ある男

いいつゆ加減だねぇ・・おい・・だしが効いてるよ?

ある男
ある男

かつお節いれたろぉ!?たいしたもんだこりゃあ!

ある男
ある男

ふ~ふ~・・・

ある男
ある男

ずずっ・・・

ある男
ある男

はぁぁ~~

ある男
ある男

いいつゆ加減だ、まったくなあ!つゆがうま過ぎるってと蕎麦食う前につゆなくなっちまうよ!?

ある男
ある男

うわぁっとぉ!!見ろこれ!!

ある男
ある男

まあ見ろったっておめえがこしらえたんだから改めて見るこたぁねえけどよ!?

ある男
ある男

蕎麦ってのはこういう風に細くなくっちゃあいけねえやな!

ある男
ある男

中にはうどんじゃねえかって思うくらい太い蕎麦があるけどな?あんなのは江戸っ子の食うもんじゃねえやな!

ある男
ある男

蕎麦ってのはこう、つ~~っと細いところがいいんだから!嬉しくなっちゃうなぁもう!

ある男
ある男

ふ~~・・ふ~ふふ~~~・・・

ある男
ある男

ずず~ずるっ!ずずず~(蕎麦をすする音)・・・

ある男
ある男

・・・

ある男
ある男

こしが効いててうまい蕎麦だねえ!こりゃあ!

ある男
ある男

ぽきぽきするしこしこするってえのはまさにこのことだよ!

ある男
ある男

嬉しいねえ!江戸っ子だよ!おめえも江戸っ子だろ?ははっ!!

ある男
ある男

ふ~ふ~ふ~・・・

ある男
ある男

ずる~ずるずるっ!ずずずず~~~・・・

ある男
ある男

はぁ~・・・ずずず~~ずず~・・

ある男
ある男

おい!ずいぶんちくわ厚く切ったじゃねえかおい!

ある男
ある男

いいのか?こんなに厚く切っちゃってよぉ!

ある男
ある男

大概どこだって薄っぺらいよ?あんなものは痛々しくっていけねえやな!

ある男
ある男

こう厚く切ってあるってとぶつぶつっと音が聞こえるようでいいじゃねえか!

ある男
ある男

嬉しいなあ!江戸っ子だもんなぁ!

ある男
ある男

本物じゃねえかこりゃあ!本物のちくわ使ってんの!?

ある男
ある男

驚いたねえ!大概どこだって「ふ」だよ「ふ」!

ある男
ある男

病人じゃああるめえし、「ふ」なんておかしくって食えねえってんだ!

ある男
ある男

本物使ってこれだけぶつぶつっと厚く切ってるってのは嬉しくなっちゃうなあ!

ある男
ある男

驚いっちゃたよぉ!夜鷹そばでこんな上等なものめったにあるもんじゃ・・

ある男
ある男

ふ~ふ~~!!ずずっず~!ずずずっ!ずっ・・・

ある男
ある男

・・・はぁ~~~・・・はぁ~~・・・

ある男
ある男

おう!蕎麦屋さん!俺もう一杯と言いてえんだけどよ!

ある男
ある男

脇でもって不味いの食らっちゃったんだ!

ある男
ある男

おめえんとこは口直しだぜ!すまねえけども一杯で勘弁してくれ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へえ、よろしゅうございます・・・

ある男
ある男

いくらだい!?

蕎麦屋
蕎麦屋

十六文頂戴いたします

ある男
ある男

十六文?ああそうかい!銭細けえんだ構わねえか?ほらいくよ!?

ある男
ある男

一(ひい)・・二(ふう)・・三(みい)・四(よう)・・五(いつ)

・・六(むう)・・七(なな)・・八(やあ)・・・

ある男
ある男

おう!!今何時(なんどき)でい!

蕎麦屋
蕎麦屋

九つです

ある男
ある男

おうそうか!!

ある男
ある男

十、十一、十二、十三,十四,十五、十六・・・

と数えるってとほいっと行っちまった・・・

これを、脇で突っ立って見ていたやつがございまして・・・

時そばを聞くなら「柳家小さん」

三代目柳家小さんが上方の時うどんを江戸噺として移植したのが「時そば」。その後、五代目柳家小さんの十八番として演じられ、人情味あふれる演技で、江戸時代の風情と笑いをたっぷり楽しめます。

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与太郎
与太郎

驚いたねあの野郎は!べらべらべらべら喋りやがって!

与太郎
与太郎

男のおしゃべりはみっともねえなんていうぐらいなもんだ!男の面汚しだぜ本当に!

与太郎
与太郎

それもいいけど、はなからしまいまでおめえ蕎麦屋褒め倒してやがんだから・・

与太郎
与太郎

色々なこと言ってやがったなあ・・・

与太郎
与太郎

箸は割りばしで機嫌を取り、ちくわは本物で厚く切れ・・・

与太郎
与太郎

何を言ってやがんでい!

与太郎
与太郎

ああ次から次へと褒めるところを見るってと、あの野郎そのうち食い逃げするんじゃねえかと思ったら銭払って行きやがったよ!?

与太郎
与太郎

ますます勘弁出来ねえ野郎だあいつは・・・

与太郎
与太郎

江戸っ子じゃねえな!追っかけてって張り倒してやろうかと思ったよ!

与太郎
与太郎

一杯食おうが半分食おうが客の勝手だよ!?

与太郎
与太郎

不味いから半分残したら蕎麦屋がすまねえと思えばいいんでい!何も謝るこたぁねえや!

与太郎
与太郎

「すまねえけども一杯で勘弁してくれ」

与太郎
与太郎

「よろしゅうございます・・・」

与太郎
与太郎

何がよろしゅうございますだ!

与太郎
与太郎

「いくらだ?」「十六文・・・」

与太郎
与太郎

笑わせやがらぁ!十六文ってのは天下で決まってる値段じゃあねえか!

与太郎
与太郎

いちいち聞くこたぁねえんだあんなものは!!

与太郎
与太郎

銭は細かくったって構わねえか?って細かくったってでかくったってよ!

与太郎
与太郎

同じ銭じゃねえか!いちいちくどくど言うこたぁねえじゃねえか!!

与太郎
与太郎

またその銭蕎麦屋の大きな手にもってって、ひとつずつ声をかけて丁寧に勘定してやがったね!

与太郎
与太郎

一(ひい)・・二(ふう)・・三(みい)・四(よう)・・五(いつ)・・六(むう)・・七(なな)・・八(やあ)・・・

与太郎
与太郎

あんなとこでもって時聞いてやがんだから!

与太郎
与太郎

蕎麦屋さん今何時でい?九つです。十・・十一・・・・

与太郎
与太郎

・・・あれ?

与太郎
与太郎

おかしいんじゃねえか?

与太郎
与太郎

あれぇ!?

与太郎
与太郎

一(ひい)・・二(ふう)・・三(みい)・四(よう)・・五(いつ)

・・六(むう)・・七(なな)・・八(やあ)・・・

与太郎
与太郎

今何時だ。九つです。十・・・

与太郎
与太郎

あ、やったねあいつぁ!!

与太郎
与太郎

やりましたねえ!偉いねあいつぁ!

与太郎
与太郎

江戸っ子だねあいつぁ!

与太郎
与太郎

こりゃあ驚いた!こりゃあ蕎麦屋生涯気づかないよ!

与太郎
与太郎

ははははっ!

与太郎
与太郎

俺もやろう!

その晩はあいにく、細かい銭がございませんで、あくる晩揃えておくってと奴(やっこ)さん待ちかねて表へ飛び出したってやつで・・・ 

蕎麦屋
蕎麦屋

そば~~~~~~~~~~~~~

与太郎
与太郎

お~い!蕎麦屋さ~んちょいと待ってくれ~!

与太郎
与太郎

蕎麦屋さ~ん!蕎麦屋さ~ん!お~~い!!

与太郎
与太郎

お・・お~~い!!蕎麦屋さん!

与太郎
与太郎

おう!!何だよ!ちょっと待てお前!俺さっきから呼んでんじゃねえか!

与太郎
与太郎

何が出来んの?花巻に卓袱?卓袱熱くこしらえてもらおうかなぁ!

与太郎
与太郎

それにしても今日は寒いなぁ!

蕎麦屋
蕎麦屋

え~今晩はだいぶお暖かいようでございます

与太郎
与太郎

え?あ、そうか・・・

与太郎
与太郎

今晩は暖けえけどよ、あの昨晩!昨晩は寒かったなあ!

蕎麦屋
蕎麦屋

ええ、昨晩は大変にお寒うございました

与太郎
与太郎

俺ぁすっかり風邪ひいちまったよ!

蕎麦屋
蕎麦屋

あたくしもひきました

与太郎
与太郎

いや俺ぁよすっかり風邪ひいちゃった!

蕎麦屋
蕎麦屋

いやあたくしもひきました

与太郎
与太郎

いや俺がひいたっつてんだよこの野郎!強情な奴だなこいつぁ!

与太郎
与太郎

おめえに熱いのこしらえてもらって、それをカッ!っとたぐっちまって家帰って横になってりゃ抜けるだろってんでひとつ熱くして頼むぜ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へい、よろしゅうございます・・・

与太郎
与太郎

どうだい蕎麦屋さん景気は!?

蕎麦屋
蕎麦屋

ええ左様でございますなぁ!

蕎麦屋
蕎麦屋

世間様ではみなさん不景気だ不景気だとおこぼしでございますが手前どもでは多くお得意様がございましてな?

蕎麦屋
蕎麦屋

おかげ様で大変うまくやっております!

与太郎
与太郎

・・・ああそう・・・そらぁよかったねぇ・・

与太郎
与太郎

そらぁとってもいいんじゃないの?

与太郎
与太郎

でもまあそういうこと気にするこたぁねえやねえ!?昔っからよく言うんでい!

与太郎
与太郎

いいやつは必ず悪いなんてこと・・・

与太郎
与太郎

こりゃあ言わねえほうがよかったな・・・

与太郎
与太郎

まあ・・まあいいや!

与太郎
与太郎

でもよ!商売はよ!?飽きずにやらなくちゃいけねえってことだい!

与太郎
与太郎

商売は飽きずにやらなくちゃいけねえ!!

蕎麦屋
蕎麦屋

へえ、商い(あきない)って言いますからなぁ・・

与太郎
与太郎

・・・そうですねえ・・へえ~~・・・

与太郎
与太郎

・・・う~んと・・・おめえんとこの行燈は~

与太郎
与太郎

あれぇ?

与太郎
与太郎

おめぇんとこの行燈、的に矢が当たってねえな・・・

与太郎
与太郎

おめえんとこの行燈、矢が二本書いてあるねえ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へえ、手前どもは「やや」と申しまして

与太郎
与太郎

ややぁ!?なんだか俺やになっちゃったなあ!

与太郎
与太郎

まあでもいいや、二本書いてあるってのはね?一本ってのはこれぁ可哀想だよ!第一強情でいけねえや!

与太郎
与太郎

「や」!ってのはこれはいけねえや!

与太郎
与太郎

「やや」・・いいなぁ「やや」は!いいよぉ!?

与太郎
与太郎

どうでい?今度会うとき、もう一本足しといてくれよ?

与太郎
与太郎

そうするってと賑やかになっていいよおめえ!

与太郎
与太郎

「ややや」!なんてよ!?いいじゃねえかこれ!

与太郎
与太郎

おめえんとこの行燈見たら腹一杯だろうが食欲なかろうが食いに行くからそのつもりでいてくれ?

蕎麦屋
蕎麦屋

へい、よろしくごひいきに・・・

与太郎
与太郎

いやぁ!ごひいきってほどのことは出来ねえけどさ!

与太郎
与太郎

本当だぜおい!!ははは!はは・・は・・

与太郎
与太郎

・・・はぁ・・

与太郎
与太郎

・・・

与太郎
与太郎

・・・まだか?

蕎麦屋
蕎麦屋

へ?

与太郎
与太郎

いや、まだ出来ねえのかよ?

蕎麦屋
蕎麦屋

あ、どうもあいすいません・・・

蕎麦屋
蕎麦屋

今うっかりしておりましたら火が消えてしまいました・・・

蕎麦屋
蕎麦屋

今火をおこしておりますからそのうち出来上がります

与太郎
与太郎

おい冗談じゃないよおめえ!こちとら江戸っ子だい!気が短えんだい!!

与太郎
与太郎

あつらえたもんが中々出てこねえ!

与太郎
与太郎

催促してやっと持ってくるってのはうめえもんも不味くなっちゃう・・・けどよぉ!

与太郎
与太郎

あの~~・・・あぁ・・・まあいいやっ・・・

与太郎
与太郎

江戸っ子ったって色々あるもんな!気の長えのもあれば気の短えのもあるしよ!

与太郎
与太郎

俺はもうごく気の長え方の江戸っ子だからよぉ!もうゆっくりやってくれい!

与太郎
与太郎

はぁ・・・

与太郎
与太郎

・・・

与太郎
与太郎

おい!それにしてもちょいと長えんじゃねえか!?

蕎麦屋
蕎麦屋

へい親方お待ちどう様です

与太郎
与太郎

そうそうそうそう!これだよ!これ!

与太郎
与太郎

ちょいと無駄話してる間に「親方お待ちどう様です」これだぁな!

与太郎
与太郎

だけどおめえんとこは偉いと思ってさ!

与太郎
与太郎

ずいぶんこの界隈蕎麦屋もあるけどな?割りばし使ってんのおめえんとこだけだい!

与太郎
与太郎

大概割りばしっつってもすでに割れてんだよ!?

与太郎
与太郎

そんな割れた箸誰が・・・

与太郎
与太郎

あぁ・・割れてんのか・・・

与太郎
与太郎

まあいいや・・・この方が割る世話がなくていいもんな!

与太郎
与太郎

本当に客に骨折りかけさせねえなんて大したもんだよおめえんとこは!優しい心遣いってもんだよぉ!

与太郎
与太郎

おい・・おい!!

与太郎
与太郎

先濡れてんじゃねえかよ・・・

与太郎
与太郎

誰か食ったんじゃねえかこれで!

与太郎
与太郎

そうじゃありません?

与太郎
与太郎

あ~あ、ねぎのきれっぱしなんかついてやがる・・・

与太郎
与太郎

まあいいや拭いときゃ一緒だこんなもんは!なあ!

与太郎
与太郎

だけど物は器で食わせろなんて言うけども全くだ!

与太郎
与太郎

中身が少々不味くったってどんぶりがいいってとうまく食えるからよぉ!

与太郎
与太郎

そうなるってとおめえんとこのどんぶりは・・・

与太郎
与太郎

ひびだらけじゃねえかよおい・・・ただのひびならともかく、ふちが欠けてるわ・・・

与太郎
与太郎

こんなもんでつゆ飲んでうっかり口切っちまったらどうすんだよおめえ・・・

与太郎
与太郎

いいかげんしろよ・・・

与太郎
与太郎

まあいいんだよこういうもんは、向こうにまわしちゃえ向こうに・・・

与太郎
与太郎

あれ?回したらまた出てきやがった・・・

与太郎
与太郎

あれ?あれぇ!

与太郎
与太郎

ふちがまたまんべんなく欠けてんねえ!重宝などんぶりだぁ!

与太郎
与太郎

どんぶりにもノコギリにも使えるってんだ!本当に・・・

与太郎
与太郎

無駄がなくっていいやな・・・

与太郎
与太郎

俺ぁ蕎麦食いに来たんだ、どんぶりかじりに来たわけじゃねえからよ!?

与太郎
与太郎

だけど蕎麦の匂いだよ?匂い匂い・・・俺蕎麦っ食いだからよ!

与太郎
与太郎

匂い嗅いだだけでうまいか不味いか分かっちゃうよ?だって俺ぁ蕎麦っ食いだもん・・

与太郎
与太郎

これだよ!この匂いはだしにかつお節使ってんな?匂い嗅げばす~ぐ分かっちゃうんだから!

与太郎
与太郎

ふ~ふ~・・・ずずっ(つゆを飲む音)・・・

与太郎
与太郎

・・・

与太郎
与太郎

ちょっと湯入れてもらおうかねえ・・・

与太郎
与太郎

あ~!びっくりした!口の中で何が起きちゃったんだよ!

与太郎
与太郎

甘い辛いなんていうけどもこれ口が曲がっちゃうぜ!

与太郎
与太郎

・・・まあいいんだよ!

与太郎
与太郎

俺別につゆ飲みに来たわけじゃねえからよ!!

与太郎
与太郎

おめえ蕎麦屋だもんな!つゆ屋じゃねえもんな!

与太郎
与太郎

蕎麦だよ蕎麦!!細い蕎麦が値打ちだわな!

与太郎
与太郎

江戸っ子だもんこちとら!中にはうどんじゃねえかと思うような太え蕎麦があるけどよ!

与太郎
与太郎

ええ?そんなもの・・・

与太郎
与太郎

うどんかこれは!?

与太郎
与太郎

これうどんにしたってちょっと太すぎるぜ?

与太郎
与太郎

まあいいや!こっちの方が噛みがいがあっていいやなあ!

与太郎
与太郎

だけどなあ!ぽきぽきするシコシコする、これだよぉなあ!!

与太郎
与太郎

こちとら江戸っ子だべらぼうめえ!!

与太郎
与太郎

ふ~ふ~ふ~・・・・ずるずずず~~!!!

与太郎
与太郎

ふずずる~・・じゅるじゅるるる

与太郎
与太郎

・・・ごほ!ごほっごほっ!!

与太郎
与太郎

一気にすするもんじゃ・・・ごほ!!ごほっ!!!

与太郎
与太郎

こんな太いそば・・ごほっ・・・

与太郎
与太郎

じゅるじゅるるるる・・・じゅるるるる!!・・

与太郎
与太郎

べとべとだよこりゃあ!

与太郎
与太郎

・・・まあいいや!この方が噛む世話がなくっていいやな!

与太郎
与太郎

腹具合の悪い時にはごくいい蕎麦だよおい!

与太郎
与太郎

俺ぁ腹具合の悪い時はおめえのこと探すからよぉ!

与太郎
与太郎

だけど・・これ驚いたなぁ本当に・・・

与太郎
与太郎

・・う~ん・・・はぁ・・・

与太郎
与太郎

じゅるじゅるるる・・・じゅるるるる!!・・・

与太郎
与太郎

おう!おめえちくわ入れたか?

与太郎
与太郎

入れた?

与太郎
与太郎

入ってますったって俺実はさっきから探してたんだけどよぉ!いくら探したってねえじゃねえか!

与太郎
与太郎

どこにあんだよぉ!忘れたんじゃねえか!?

与太郎
与太郎

確かに入れました?本当!?

与太郎
与太郎

おかしいなぁ・・おめえ入れ・・・

与太郎
与太郎

あった~!あったよ~!

与太郎
与太郎

俺ぁてっきりどんぶりの柄かと思っちゃったよ・・・

与太郎
与太郎

よくまぁこう薄く切ったねぇおい!これ包丁で切ったんじゃねえカンナで削ったんだろう!?

与太郎
与太郎

包丁で切りましたぁ!?

与太郎
与太郎

いい腕だねぇ!!

与太郎
与太郎

見ろ!向こうに月が透いて見えるじゃねえか!

与太郎
与太郎

だけどねぇ、いいんだおめえんとこいくら薄くったって!大概世間では「ふ」使ってんだ「ふ」!

与太郎
与太郎

あんなもんは病人の食うもんだ!おかしくって食えるかってんだ!

与太郎
与太郎

こちとら江戸っ子だぁ!それへいくってとお前のとこは本物だわな!な?

与太郎
与太郎

・・・

与太郎
与太郎

ふだな!!

与太郎
与太郎

本物のふだなこれは!!俺ずいぶん食ってなかった本物のふは!

与太郎
与太郎

俺ぁ近頃ふが食いてえなと思ってたんだ!ちょうどよかったよ!?

与太郎
与太郎

実をいうと俺病人だから・・・

与太郎
与太郎

なんだか情けなくなってきちゃったなぁ・・・

与太郎
与太郎

じゅる~!!じゅるじゅじゅっ!!・・・はぁ~~あ~~・・・・

与太郎
与太郎

じゅるるる~じゅっじゅるっ!・・・

与太郎
与太郎

な~んだこりゃあ・・・もう嫌んなっちゃったぁ!!

与太郎
与太郎

俺よ!もう一杯と言いてえんだけど脇でもって不味いの食らっちゃったんだ!

与太郎
与太郎

おめえんとこは口直しだい! 悪いんだけど一杯で勘弁してくれ!

蕎麦屋
蕎麦屋

へい、よろしゅうござんす

与太郎
与太郎

いくらでい?

蕎麦屋
蕎麦屋

十六文頂戴します

与太郎
与太郎

十六文?

与太郎
与太郎

これこれこれこれ!!十六文十六文!

与太郎
与太郎

こっち手ぇ出してくれ!銭細けえんだ勘弁してくれ!?

与太郎
与太郎

いくよ!?

与太郎
与太郎

一(ひい)・・二(ふ)・・三(み)・・四(よ)・・五(いつ)

・・六(む)・・七(なな)・・八(や)

与太郎
与太郎

今何時だぁ!?

蕎麦屋
蕎麦屋

四つです

与太郎
与太郎

五(いつ)!六(む)!七(なな)!八(や)・・・

f:id:messicoo:20171106224721p:plain
花巻
f:id:messicoo:20171106224758p:plain
卓袱(しっぽく)

時そばを聞くなら「柳家小さん」

三代目柳家小さんが上方の時うどんを江戸噺として移植したのが「時そば」。その後、五代目柳家小さんの十八番として演じられ、人情味あふれる演技で、江戸時代の風情と笑いをたっぷり楽しめます。

\Amazon Audileで聞けます/

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