落語【水屋の富】宝くじに当たった人が幸せになる方法はこの落語のオチにある

落語 台本

昔は、いろんな商売がある中で水を売って歩くという商売がありました・・・

  水売りと言うのと、水屋というのがございました・・・水売りというのは、夏場になるとよくでてきたそうでございます。  

天秤を担いで、後ろの方に水が入っている桶があって、前の方にはちょいと屋台があります。そこに茶碗ですとか、あるいはざらめとか白玉とか色んなものを扱ってある。

  これを担いで歩いて、日向で休んでいる人のそばに行って、「ひゃっこい!ひゃっこいひゃっこい!」なんて言いながら歩いて行くと、

男

おう!水一杯くれねぇか!?

水屋
水屋

へい!ありがとうございます!そのまんまでよろしゅうございますか?

男

おういいよ!

中には「ざらめ入れてくれ!」とか、「白玉うかしてくんねぇな!」というので、これで喉を潤すというような、これが水売りでございます。

 そして、水屋さんの方はというと、そんな気取ったものではございません。それこそ各家庭に飲料水を売って歩く、こういう商売が水屋さん。

  この江戸という時代には、水道というものがございました。だけど、これはいいところの町だけです。ほんのごく一部なんです。上水道のお水が飲めたのは・・・  

もちろん上水道がない場所もございます。じゃあ、井戸を掘ればいいだろうという話ですが、江戸というのは、あらかたが埋立地でございます。  

ですから、いくら掘ったって、綺麗な水が出るわけがない。とてもじゃないけど、飲料水としては使えない・・・  

だからまあ体を洗うとか、あるいは洗濯をする、ちょいと水をまくくらいの時にしか使えない井戸なんです。  

だからどうしても飲み水というと、この水屋さんから買うんですな。   水屋さんというのは、短い天秤の両方に桶を下げまして、その中にいっぱい水を入れて、そして売りに来る。  

だいたいお得意様が決まっていますので、方々に廻って水を汲んできてというような・・・  

水というのは山の手の方にございまして、そこにいい水が出る井戸がございます。そこと契約を致しまして、毎日そこで水を汲んじゃあお得意様へ配る・・・

  また戻ってきて、水を汲んでまた行くというような・・・山の手から下町へ行くんですからこれは大変です。  

だけども、必ず水を持っていけば売れるんです。生活には必要ですから・・・   持っていけば売れるので、その時分の出商人の中では、ちょいとなんかやってみようかな、金になる商売はないかという人は必ずみんな水屋になる・・・  

そうすると、それなりに儲けがあるわけです。いい商売といえばいい商売です。  

ですが、車でもって、桶に水を入れて、それを積んで引っ張っていったりするんじゃなくて、担いで行くんですから、そりゃあ山の手から下町へと行ったら大変な距離になります。   そこをひょいひょいと行くには水というのは重いもんです。

いくらいっぱい入る桶と言ったって長屋をず〜っと突っ切って入れば、水もなくなっちゃいます。   また汲みに行って、また下町に戻ってきてお得意様を廻るというような具合で、これは大変に疲れます・・・  

そこにきて、夏はよろしゅうございますけれども、冬場になるってとこれは冷たいもんです。ひび、あかぎれがのべつ!   それからもっと辛いというのが、休むことができない・・・  

もうお得意様は水屋さんをあてにしてますから、水がこないと、湯茶は飲めないし、何しろおまんま炊くことができませんから、もうとにかく水屋さん水屋さんというので、待っている。   だから雨が降ろうが槍が降ろうってやつです。

休むときには、もう何日か前から仲間に言っておいて、「俺のお得意やっておくれよ、頼むよ!」というので、それから休む・・・  

朝起きて、頭が痛い、お腹が痛いってんで、休むことはできません。休むことができないというくらい辛いことはないでしょうな。  

確かに儲かりはしますけれども、これは厄介な商売だなということになりまして・・・  

長いこと水屋をしておりました男が、「この商売はどうしたって歳をとってからもできる商売じゃない、今のうちに商売替えをしておいて、女房を持って、楽な商売をやりたいもんだ」・・・  

それについて、何か蓄えをしていたわけじゃなかったので、まとまった金が欲しいというので、千両富を一枚買いました・・・

これを神棚に入れて、一生懸命朝まで拝んでいる・・・このご利益があったんでしょうか・・・

男

おめでとうございます!間違いなく、あなたに千両が当たりました!

水屋
水屋

じゃ、じゃあ、あの千両・・・いただけますか!?

男

えぇ、それがあのご存知でしょうけれども今すぐですと、二割引かれますよ?

男

八百両でございます

男

来年の2月までですと、千両まる取りでございますが?どちらになさいます?

水屋
水屋

えぇ、そりゃあもう今すぐにいただきたいですが・・・

男

あぁそうですか!それじゃあ八百両!ただいま!

水屋
水屋

えぇ、そりゃあもう今すぐにいただきたいですが・・・

八百両という金を急いで、風呂敷へ包んでこいつを抱えて、自分の長屋へ帰ってくる・・・自分のうちへ入るってと、心張り棒をかけて、行燈に明かりを入れて・・・

水屋
水屋

はぁ〜・・・どうだい、ありがてぇなぁ!どうも!

水屋
水屋

ありがとうございますありがとうございます!おかげさまで、八百両当たりました!

水屋
水屋

お宮を新しくさせていただきますんで!どうもありがとうございました!

水屋
水屋

あぁ〜よかったねぇ〜!俺も運が上向いてきたねぇ〜!こんだけの金がありゃあなんか新しい商売ができるよ?

水屋
水屋

あぁ〜よかったねぇ〜!俺も運が上向いてきたねぇ〜!こんだけの金がありゃあなんか新しい商売ができるよ?

水屋
水屋

何がいいかなぁ!慣れねぇことをやって損しちゃつまらねぇからなぁ!

水屋
水屋

俺にでもできることをまずやろう!ね!

水屋
水屋

駄菓子屋をやるとか、荒物屋とか、儲けは薄くても確かな商売がいいよ?

水屋
水屋

そのうちに女房を持ってさ、二人で商いをやっているうちに、形になってきたら人を雇って、どんどん広げてって、しまいにはどこか表通りに大きな店を持とうじゃねぇか!

水屋
水屋

はぁ〜!ありがてぇ!もとでが出来たよ!どうだい!?この金の重みってのはないねぇ!

水屋
水屋

これは後でもって、新しい商売見つけたらこれでいいんだから!それまではずっと商売をしてなくちゃいけねぇ!

水屋
水屋

そうなるとこの金だな・・・こんな重いもの持って、商売にいくわけにはいかねぇ・・・

水屋
水屋

かといって、俺ぁ一人者だからうちに置いておくわけにもいかねぇ・・・

水屋
水屋

誰かに預けるか?預けるったってなぁ・・・

水屋
水屋

この人ならばという人でも金となれば、料簡が変わってなぁ・・・

水屋
水屋

なんかおっかねぇやなぁそれじゃあ・・・

水屋
水屋

あ!あの質屋の番頭に頼んで、質屋の蔵の中に入れてもらおうかな?

水屋
水屋

あいつは気のいいやつだから変な気は起こさねぇと思うけれども・・・

水屋
水屋

ただおしゃべりだからねぇあいつは!俺が富で当たったなんてことを喋られると困るよ?

水屋
水屋

本当は私はあなたの親類ですよなんて会ったこともねぇやつが来たらとんでもねぇや・・・

水屋
水屋

仲間だってなんだってそうだよ?ちょっと困ってるから貸してくれ?なんて言われたら、どんどん広がるよ?

水屋
水屋

やっぱりどっかに隠さなくちゃいけねぇか・・・隠すところなんてありゃしねぇやな・・・

水屋
水屋

あるとすりゃ押入れかい?

水屋
水屋

でもなぁ・・・

水屋
水屋

もし泥棒が入ってきて、全体を見回して、何にもねぇからってどこ見ると言やぁ押入れに目がいくよ?

水屋
水屋

ガラッと開けて金がありゃ、そりゃ持ってっちゃうよ・・・

水屋
水屋

だけどなぁ、ガラクタがいっぱいあるからなぁ・・・

水屋
水屋

その中にさっと置いておけば、開けても「なんだガラクタばっかりじゃねぇか!」ってことになる・・・

水屋
水屋

でもひょっとすると何かあるかもしれねぇなってんで見られたらダメだ・・・弱ったねぁ・・・

水屋
水屋

あ!押入れの中に汚ねぇ古い葛籠(つづら)があるんだ・・・

※葛籠・・・蔓(つる)で編んだ、衣服などを入れる箱系のかご。

水屋
水屋

あの中に入れておこうじゃねぇか!そうすりゃ大丈夫だ!

水屋
水屋

泥棒入ってきて、何にもねぇな・・・

水屋
水屋

この押入れか?ってんで、すっと開けてガラクタばかりじゃねぇか・・・何にもありゃしねぇ・・・

水屋
水屋

でも念のために見てみようってんでなぁ・・・

水屋
水屋

いや、何にもねぇガラクタばっかりじゃねぇか!汚ねぇ葛籠があるぞ!?この中には何にもねぇだろうなぁ!

水屋
水屋

でも念のために・・・って探られたらしょうがねぇなぁ・・・

水屋
水屋

そうだ!あの葛籠の中にボロがいっぱい入ってあるんだ!ボロの下に入れておこうじゃねぇか!

水屋
水屋

泥棒が入ってきて、このうちは何にもねぇ、あの押入れかな?ってんでガラッと開けてみて、ガラクタばかりだ何にもねぇ、なんかないか?何にもねぇな・・・

水屋
水屋

おぉ、こんな所に汚ねぇ葛籠があんなぁ!この中には何にもだろう!でも念のために見てみようってんで、すっと開けて・・・

水屋
水屋

何にもねぇ、やっぱりな!う〜ん・・・ボロばかりじゃねぇか・・・

水屋
水屋

ボロの下になんかあるかな?

水屋
水屋

・・・見られるねぇ・・・

水屋
水屋

こりゃまずいねぇ・・・弱ったねぇどっかねぇなぁ!

水屋
水屋

あ!そうだ神棚神棚!ここに乗っけておこうじゃねぇか!そうすりゃ分からねぇ!

水屋
水屋

神様に当てさせてもらったんだから、神様に守ってもらおうじゃねぇか!

水屋
水屋

泥棒が入ってきて、何にもねぇなってんで、押入れすっと開けてガラクタばかりだ、葛籠の中になんかあるかな?何にもねぇ・・・

水屋
水屋

なんだボロばかりじゃねぇか!ボロの下にはなんかあるか?っても何にもねぇんだからよ!?ざまぁみやがれってんだ!

水屋
水屋

あぁ〜やっぱりこんな所に入るんじゃなかったなんて言って帰るよ?

水屋
水屋

本当に何もねぇうちだな!って振り返って、ひょっと神棚に目が入って・・・

水屋
水屋

・・・まずいな・・・

水屋
水屋

しょうがねぇな、隠すところがねぇじゃねぇかおい・・・

水屋
水屋

あぁそうだ!ここにしよう!

畳あげて根太(ねだ)を剥がして、土台の柱のとこに五寸釘を三本トントントントン!っと打って、こいつをぐっと曲げておいて、風呂敷包みをそこへひゅっと掛けておく・・・上から根太、畳をかぶせて、

水屋
水屋

よし!これでいいだろう!

水屋
水屋

泥棒ってのはわずかな間に入ってきて、仕事をするんだから、こんな畳をあげて調べるなんてことはしねぇよ!?

水屋
水屋

よぉ〜し!これいいや!

水屋
水屋

さぁ明日も商売に行かなくちゃならねぇんだから、湯に入ってきて、さっさと寝よう!

湯の帰りに酒を三合ばかり買い込んで、てめぇでもってせんべい布団を敷いてそこにあぐらをかくってと、女房はどんな女がいいかとか・・・

どういう商売がいいかとか、まるで夢を魚に酒を飲んでいる・・・   いい心持ちになって、そのまます〜っと寝てしまう・・・

野郎
野郎

おい・・・おい・・・

野郎
野郎

おい!

水屋
水屋

え・・・な、なんだいお前さん・・・

野郎
野郎

金出せ・・・

水屋
水屋

金!?か、金なんざ俺ぁねぇよ!

水屋
水屋

ねぇことはねぇよ・・・おめぇ今日富で当たったろ?八百両あるはずだ

野郎
野郎

俺はおめえの後をずっとつけてきたんだ・・・

野郎
野郎

出さねぇってと、このドスでおめぇの土手っ腹に風穴開けるぞ!

水屋
水屋

ちょ、ちょっと待ってくれ!お、お、俺は金は持ってるけども、あれは渡したくねぇんだ!

野郎
野郎

出さねぇ!?こんちくしょう!

水屋
水屋

うわぁぁぁぁっったった!!

水屋
水屋

だぁぁぁぁ!

水屋
水屋

だぁぁぁぁ!

水屋
水屋

・・・はぁ・・・はぁ・・・

水屋
水屋

夢か・・・

水屋
水屋

あぁ〜怖かったなぁ・・・

しばらく経つってと表の戸がガタガタガタガタいってるんで、なんだろうな?と思って見ているうちに、表からドーン!と鳴って、心張り棒がコロ〜ンと外れるってと、戸を開けて入ってきたのは旅人でございます・・・

  草鞋を履いて、尻を高く端折って、山道の手ぬぐいでほっかむりをして、  

旅人
旅人

おう!俺はこの先の賭場でもってな?役人が入ってきたんだ、役人を斬って逃げてきた・・・

旅人
旅人

死罪は免れねぇ!高飛び(遠くへ逃げる)をしなくちゃならねぇ・・・

旅人
旅人

お前は金があるそうだな!

旅人
旅人

ここへ金を出せ・・・出せぇ!

水屋
水屋

ま、待ってくれ!あの金は出したくねぇんだ!

旅人
旅人

そんなこと言わねぇで出さねぇとてめぇ!

水屋
水屋

勘弁してくれぇーーーー!!

逃げるってと後ろから追いかけてきて・・・

旅人
旅人

こんちくしょう!!

水屋
水屋

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

水屋
水屋

ぁぁぁぁぁぁ・・・夢だよぉぉ・・・

水屋
水屋

やだなぁこういう夢は見たくねぇなぁ・・・

とろとろっとすると、今度は坊主のやつが鎌を持って入ってきて、いきなり水屋の首のところへ引っ掛けて・・・

坊主
坊主

こんちくしょう!金出さねぇと首刈っちゃうぞ!

水屋
水屋

首刈らねぇでくれぇ!

坊主
坊主

じゃあ金出すか!

水屋
水屋

金は出さねぇ!

坊主
坊主

じゃあ首刈っちゃうぞぉ!やぁぁぁぁ!!

水屋
水屋

うわぁぁぁぁぁ!!

なんてんで寝るってとそういうやつが湧いて出てくる・・・とても寝ちゃいられません・・・「 

そうこうしているうちに夜が明けてきたので、商売に行かなくちゃいけねぇってんで、支度をして家を出ます・・・

天秤と桶は井戸の方に預けてありまして、持って帰ってくるのが長い釣瓶竿(つるべざお=井戸で水を汲みあげる時に使う)で、この釣瓶竿を縁の下に突っ込んで・・・

水屋
水屋

あぁ〜あればいいんだ、この金が・・・

水屋
水屋

コツ〜ン、コツ〜ン・・・

水屋
水屋

昨夜は寝られなかったんで、今日は早く帰ってきて寝ようなぁ!

水屋
水屋

・・・なんだあの野郎は・・・見かけねえ野郎だね・・・

水屋
水屋

見かけねぇ野郎が長屋へ入ってきて、何やってんだい・・・

水屋
水屋

方々うちを見てやがんな・・・

水屋
水屋

おう!

男

はい?

水屋
水屋

はいじゃないよ!?何してやがんだよ!なんか用かいこの長屋に!

男

いやうちを探してるんだい

水屋
水屋

うち?誰のうちだい!?

男

わしのうちだよ

水屋
水屋

わしのうちっておめぇここに住んでねぇじゃねぇか!

男

いやこれから住もうと思ってさ、うち探してんだよ

水屋
水屋

いやもうないよ!もうすっかり塞がっちゃってんだ!

男

そうかい?ここへ来るってと、空いてるって聞いたんだけどなぁ・・・

水屋
水屋

そんなことはねぇんだ、みんな塞がっちゃったんだ!

水屋
水屋

空いてるとこはねぇよ!帰ったほうがいいよ!他あたんな他!

水屋
水屋

冗談じゃねぇや・・・こっちは引っ越して出て行くまで素性の知れねぇやつには来てもらいたくねぇ・・・

水屋
水屋

さぁさぁ商売に行こう!

屑屋
屑屋

屑ぅーーーー!屑ぅぅーーーー!

水屋
水屋

見かけねぇ屑屋だね・・・あら?長屋へ入って行ったよ?

水屋
水屋

方々見てやがんなぁ!冗談じゃねぇ!あぶねぇな!

水屋
水屋

方々見てやがんなぁ!冗談じゃねぇ!あぶねぇな!

水屋
水屋

おい!屑屋さん!?

屑屋
屑屋

へい!お祓いで?

水屋
水屋

いやそうじゃねぇんだよ!おめぇここに初めて来たな!

屑屋
屑屋

へい!左様でございます!

水屋
水屋

ダメだよ?ここはちゃんと決まった屑屋さんが来るんだ!

水屋
水屋

人の縄張り荒らしちゃダメじゃねぇか!

屑屋
屑屋

いやそうなんですがねぇ・・・

屑屋
屑屋

てめぇのお得意先だけじゃどうしてもうまくいかねぇんですよ!

屑屋
屑屋

儲からねぇんで!お願いしますよ、ここでちょいと商売させておくんなさい!

水屋
水屋

そういうわけにはいかねぇよ!ダメだダメだ!

水屋
水屋

お前に祓ってもらったら今度はいつも来ている屑屋さんに申し訳ねぇじゃねぇか!

水屋
水屋

他行って商売しろ!他行って!冗談じゃねぇや本当に・・・

水屋
水屋

油断がならねぇや本当に、早く商売に行かなくちゃならねぇや・・・

水屋
水屋

なんだあの野郎は?目つきの悪い野郎だねぇ!俺と目が合ったらすっと反らしやがったよ?

水屋
水屋

おい、長屋の方行ってるぞ、冗談じゃねぇや!あの野郎昨日俺のこと付けてきたかもしれねぇからな!

水屋
水屋

れぁぁ・・・向こう行っちゃったか、違ったんだな、よかったよかった・・・

水屋
水屋

早く行かないとダメだ、遅れちゃう遅れちゃう!

水屋
水屋

ん?なんだあの野郎変な顔してるねぇ・・・あぁ向こう行ったか・・・よかったよかった

女

おはようございます!いってらっしゃい!

水屋
水屋

はいよ〜!どうも〜!

水屋
水屋

なんだあの女は・・・やけに愛想がよかったねぇ・・・

水屋
水屋

おはようございます、いってらっしゃいってどういうことだい?

水屋
水屋

油断ならねぇ、長屋の方に行ったよ?おい長屋入ってちゃった!あぶねぇな!

水屋
水屋

あぁ源さんとこのかみさんか・・・友達のかみさん分かんないようじゃしょうがねぇなぁ!

水屋
水屋

なんだあの人は怪しいな!

なんてんで、誰見ても怪しく見える・・・  

行ったり来たり行ったり来たりして、中々商売に行かれない・・・  

やっと踏ん切りを付けて、よ〜し!ってんで、向こうへ行きまして、水を汲んでお得意様先へ行くと、おかみさん連中が待っています。

女

何をしてんだい水屋さん本当にしょうがないねぇ!

女

うちの人おまんま食べないで仕事行っちゃったじゃないかさぁ!何をしてたんだよぉ!

水屋
水屋

どうもあいすいません!ただいま!

女

早く汲んでおくれよ!

水屋
水屋

わかりましたぁ!

なんてんで、方々に水を汲んで、配って、また水を汲んで、次のお得意様先へ行くとまた小言をくう・・・  

こんなことを繰り返して、ヘトヘトになって長屋へ帰って参りまして・・・

水屋
水屋

はぁ・・・はぁ・・・

水屋
水屋

あぁ〜くたびれた、これだけが楽しみだ・・・

水屋
水屋

コツ〜ン・・・コツ〜ン・・・

水屋
水屋

あぁよかったよかった!くたびれたなぁ本当に!昨夜ろくに寝てねぇからなぁ〜

水屋
水屋

今夜はもう何にも食いたくねぇや!一杯飲んで寝ちゃおう!

寝るってとまた、

半公
半公

おい・・・おい、おい!

水屋
水屋

ん?なんだお前建具屋の半公じゃねぇか!

水屋
水屋

おめぇ手に鑿(のみ)なんか持ってやがってなんだ!

半公
半公

おめぇ富で当たったろ?

半公
半公

三百両貸してくれ、頼むからよぉ!貸してくれぇ!

水屋
水屋

そうはいかねぇ!

半公
半公

そうはいかねぇ!?

半公
半公

よ〜しこの野郎!この鑿でおめぇの喉を突っつくぞ!

水屋
水屋

できんならやってみろ!

半公
半公

こんちくしょう!

水屋
水屋

あっ!痛い痛い!

水屋
水屋

うわぁぁぁぁぁ!!

水屋
水屋

夢だぁ・・・今夜もこれかよ、やだなぁ・・・

またトロトロっとして、今度は魚屋が入ってきて、

魚屋
魚屋

金貸してくれぇ!

水屋
水屋

金は貸さねぇ!

魚屋
魚屋

貸さねぇってと三枚におろしちゃうぞ!?

水屋
水屋

やれるもんならやってみろ!

魚屋
魚屋

よ〜し三枚に!

水屋
水屋

うわぁぁぁ〜!ひぇぇぇ〜!

なんてんで、もう色んなのが入ってくる・・・今度は畳屋が入ってきて、畳針の長〜いやつを持ってきて、

畳屋
畳屋

金出さねぇと目の玉突っつくぞぉ!

水屋
水屋

そんな痛いのは嫌だぁ!

畳屋
畳屋

痛いもクソもあるか!てめぇこの野郎!ブスッ!

水屋
水屋

うわぁぁぁ〜!

なんてんで、大工が入ってきてノコギリで切られるし、とてもじゃないが寝ていられない・・・朝になっちゃったもんですから、すぐに支度をして表へ出る・・・

水屋
水屋

あぁ昨夜も寝られなかった冗談じゃねぇや・・・

水屋
水屋

コツ〜ン・・・コツ〜ン・・・これだけが楽しみだよ

水屋
水屋

あぁ〜くたびれちゃったよ、今夜こそは早く帰ってきて、さっさと寝よ!

水屋
水屋

なんだあいつは?三人で相談してやがんねぇ!俺見たら話やめたよ?

水屋
水屋

三人がかりでやられちゃたまんないよ?冗談じゃねぇや!

水屋
水屋

あぁ、向こう行っちゃった・・・

水屋
水屋

さぁ、早く行かなくちゃいけねぇ、またお得意様に怒られちまうからね・・・

水屋
水屋

お?なんだ座って煙草吸ってるやつがいるよ?脇に荷物おいて、あんなところで一服してんのかい?

水屋
水屋

こんなに朝早くから一服するのもおかしいじゃねぇか!ほらほら荷物背負ってったよ?

水屋
水屋

あの中に金いれて持ってこうってんだな?冗談じゃねぇや!

水屋
水屋

長屋の方に行きやがった!あぁ向こう行っちゃった、よかったよかった違った違った・・・

水屋
水屋

あぁ!なんだあのこどもたちは!長い竿を持って駆け出してやがる!

水屋
水屋

あの竿で突っ込むつもりだな!あぶねぇあぶねぇ油断ならねぇ!

水屋
水屋

あぁ向こう行っちゃった、よかったよかった・・・

水屋
水屋

あぁ!なんだこの犬は!怪しい犬だ!

なんてんで、また行ったり来たり行ったり来たりでもって、水を汲んで、お得意様へ持っていく・・・  

また「何をしてたのぉぉぉ!」ってんで小言をくらって、ヘトヘトになって、また長屋へ帰ってくる・・・

水屋
水屋

あぁ〜これだけが楽しみだ・・・コツ〜ン・・・コツ〜ン・・・

水屋
水屋

あぁ〜よかったよかったありがてぇありがてぇ・・・

その晩も寝るってと、浪人者が入ってきて

浮浪人
浮浪人

金を出さんかぁ!おのれぇぇ〜〜!ブスり!

水屋
水屋

あいたぁぁぁぁぁ!!

今度はまさかり持ったやつが出てきたり、丸い帽子を被って、長〜い髭を生やした青龍刀持ったやつが・・・

?

チョウーーワァァァ!!

なんてんで、入ってきたり、もうとっても寝ちゃあいられない・・・あくる朝になってまた支度をして、  

水屋
水屋

あぁ〜これが大事だ、これが何よりの楽しみだ、はぁ〜!

ってんで商売に出かけていく・・・  

すぐ向かいに独り者がおりまして、これはヤクザの下回りで、ここんところ盗られて盗られて盗られてどうにも二進も三進もいかない・・・  

隣人
隣人

なぁんだ、あの水屋の野郎は・・・

隣人
隣人

愛想のいいやつなのに、顔あわせてもぼんやりして、挨拶もしやがらねぇ・・・

隣人
隣人

毎朝ここんところ、いや帰ってきた時もそうだが、縁の下へ竿突っ込んでなんか引っ掻き回してんだ

隣人
隣人

なんかあるのかなぁ・・・俺もやってみよう

なんてんで、同じように長い竿を持ってくるってと、

隣人
隣人

この辺だねぇ確か・・・この辺になんかあんのか?

隣人
隣人

ん?なんか当たって・・・コツっ・・・

隣人
隣人

あ!当たった!なんかあるんだ!よ〜し!

隣人
隣人

この辺だな!?よっ!おっ!

隣人
隣人

あぁぁぁ!金だ!ありがてぇ!

これを持って、すっとずらかっちゃった・・・そんなことは知りません、水屋さん・・・

水屋
水屋

はぁ〜・・・これが何よりの楽しみだ・・・

水屋
水屋

コツ〜ン・・・

水屋
水屋

・・・っと鳴らねぇ!!どうしたんだ!

水屋
水屋

あぁぁぁぁ!ない!ない!金がない!

水屋
水屋

あぁぁぁぁ!持ってかれちゃったんだ!

水屋
水屋

はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

水屋
水屋

これで苦労がなくなった・・・

水屋の富を聞いて

確かに宝くじは当たったら嬉しいですが、その金額が大きすぎると、水屋みたいにいらぬプレッシャーがかかって、精神的に追い込まれますね。

水屋さんが富で当てた八百両は現代に置き換えると一両13万円ですから、きりよく一両10万円だとしても8000万円は手に入れていることになります。

8000万円もあったら、十分な暮らしができますね。またお金は使わないと意味がないということも、水屋の富は陰ながら教えてくれます。

無駄にお金を持っていると、自分のプレッシャーになるし、入ってきたお金は早々に使ったりした方が精神的に楽&自分のためになるのかもしれません。

特にこの時代に、銀行はありませんから。

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