落語【竹の水仙】台本 吹き出し風

落語 台本

世の中には名前を残した方というのが数多くいらっしゃるようでございます・・・

何か発明発見をして名前を残した方、あるいは善根を積んで名前を残した方、色んな方がいらっしゃいます・・・

大工さんの方で、それも彫り物・細工物の方で名前を残した方に、甚五郎利勝という方がいらっしゃいます・・・

飛騨山添の住人だったそうですが、十三の時に、三代目墨縄甚兵衛の元に弟子入りをいたしまして、二十歳になりました時には師匠墨縄が眼を見張るばかりの上達を遂げていたそうですが・・・

そこで、甚五郎に『あたしはお前さんに教えることはみんな教えてしまって何もない・・・、あたしの弟弟子で玉園というのが京にいる、お前も京へ行って修行をするように・・・』

添え状を持たせまして、京におります玉園という方のところへ甚五郎を差し向けます・・・

文面を読んでみますと、『この人間は大層腕の確かな人間だ・・・ただしちょっと人も変わっている・・・酒も好きだけれども面倒を見てくれ』という文面のために、伏見に一軒うちを持たせまして、甚五郎を住まわせます・・・

ある時、御所から何か珍しいものをこしらえろという御下命が下りましたので、甚五郎にも腕試しだ、何かこしらえてみろ・・・

言われて甚五郎が竹で水仙をこしらえて御所に献上いたします・・・

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役人
役人

誰の作りしものだ?

玉園
玉園

手前どもにおります甚五郎という者が作りましたものにございます・・・

役人
役人

目どおり許す!

すぐに御目通りを許されて、大層なお褒めの言葉をいただいて、この時に左官というものを許されたんだそうでございます・・・

左甚五郎という名人がいるということが、日本全国津々浦々にだぁ〜っと広がりまして・・・

しかし元々変わった人ですから、あまりそういうことを鼻にもかけずに、伏見のうちでぶらぶらしている・・・

ある日のこと・・・

ごめんくださいまし!ごめん下さいまし!

甚五郎
甚五郎

はぁ〜い・・・

甚五郎
甚五郎

なんだい・・・

ちょっとお伺いいたしますが、左甚五郎先生のおたくはこちらでございましょうか?

甚五郎
甚五郎

うん・・・甚五郎のうちはここだよ・・・

恐れ入りますが、お目にかかりたいのでございますが・・・

甚五郎
甚五郎

お目にかかってるよ・・・もうお目にかかってるよ・・・

あなた様が有名な甚五郎先生で?

甚五郎
甚五郎

何か不審なことでもあるのか?

いえいえそうではございませんで、失礼をいたしまして・・・

藤兵衛
藤兵衛

実は手前は、江戸は駿河町三井八郎右衛門の所の番頭で、藤兵衛という者でございますが・・・

藤兵衛
藤兵衛

このたび主が、さるお方から運慶先生がこしらえました恵比寿を一体手に入れまして・・・

藤兵衛
藤兵衛

しかし、どうも恵比寿一体では具合が悪い、このたび左官を許されました甚五郎先生に大黒様を彫っていただいて、恵比寿大黒一対にして商売繁盛として残したい・・・

藤兵衛
藤兵衛

これをお願いに上がったような次第でございますが・・・

甚五郎
甚五郎

運慶先生のこしらえた恵比寿を手に入れた?お前さんそこに持ってるのか?

甚五郎
甚五郎

ちょいとこっちへ見せておくれ?どういう・・・

甚五郎
甚五郎

これかい・・・さすがに運慶先生だけのことはある、いい出来だ・・・

甚五郎
甚五郎

お顔がいい・・・福々しいお顔をしていらっしゃる、大した出来だ・・・

甚五郎
甚五郎

よし!あたしが大黒を彫ろう!

藤兵衛
藤兵衛

失礼でございますが、お代はいかほどで?

甚五郎
甚五郎

百両だ

藤兵衛
藤兵衛

え?

甚五郎
甚五郎

百両だ

藤兵衛
藤兵衛

あの、大黒様一体ででございますか?

甚五郎
甚五郎

高いと思ったらおよし・・・あたしの方から彫らせてくれと頼んだわけじゃない・・・

甚五郎
甚五郎

お前の方から彫ってくれと頼んだ・・・

甚五郎
甚五郎

しかしお前に聞くが・・・

甚五郎
甚五郎

三井は百両の金で土台がぐらつくのかい?

藤兵衛
藤兵衛

とんでもない話でございます!それでは何分よろしくお願いしますが・・・

藤兵衛
藤兵衛

手付けはいかほど置きましたらよろしゅうございましょう?

甚五郎
甚五郎

三十両も貰っておこうか・・・

藤兵衛
藤兵衛

ここに三十両という金がございますので、お納めのほどを・・・

藤兵衛
藤兵衛

百両のうち手付けに三十両・・・残りの七十両は出来上がりまして、お届けに上がりますので・・・

藤兵衛
藤兵衛

いつ頃出来上がるでございましょう?

甚五郎
甚五郎

わからない・・・

藤兵衛
藤兵衛

いや手前出来ますまで、この京に逗留(とうりゅう)いたしまして、出来ましたら江戸にもって帰りたいと思いますが・・・

甚五郎
甚五郎

そりゃ無理だ・・・

甚五郎
甚五郎

一年先になるか五年先になるか・・・

甚五郎
甚五郎

第一江戸で出来るか京で出来るか、奥州でできるか、どこで出来るかわからない・・・

甚五郎
甚五郎

出来た時にはこちらからお前さんの方に知らせてやるから・・・

甚五郎
甚五郎

お前さんそこまで取りにおいで・・・

甚五郎
甚五郎

それでもし出来なかったらこの三十両・・・

甚五郎
甚五郎

香典だと思って諦めとくれ・・・

藤兵衛
藤兵衛

何分よろしくお願いします!

甚五郎先生ここで三十両という金が手に入りましたために、もう京も見飽きてしまった・・・

繁盛を極めている江戸見物に行きたいということを玉園に話しますと、何事も修行のためだ、のんびりと行ってこい・・・

許しが出ましたので、すっかり支度を整えておいおい江戸に下ってまいりまして・・・

しかし元々呑気な人ですから、まっすぐ江戸には入りませんで・・・

あっちに遊びこっちに見物し・・・

今一歩で江戸に入るという神奈川の宿に入りました時にはもう懐の中には一文無し・・・

着ている着物も汚れ放題汚れて、荒んだ帯を締めて、擦り切れたわらじをつっかけて神奈川宿へ・・・

昔の宿場でござますので、暮れ方になりますと、道の両側に宿の客引き女中が真っ白におしろいを塗ってお神楽のお面のような顔をしまして、さかんにお客さんを呼び込んでおります・・・

ここへ甚五郎が入ってまいりまして・・・


女中
女中

もし〜!そちらのお客様?お泊まりではございませんか?

甚五郎
甚五郎

俺のことか?

女中
女中

いいえ、後ろの御出家様のことです!

甚五郎
甚五郎

誰も俺を呼ばねぇなぁ・・・

甚五郎
甚五郎

懐の中が一文無しってのが、透けて見えんのかねぇ・・・

甚五郎
甚五郎

早く呼んでくれねぇと宿を出ちまうよ・・・また野宿かい?

甚五郎
甚五郎

呼んでくれたらそこへ潜り込んじまうんだが・・・

甚五郎
甚五郎

早いとこ呼んでくれねえかなぁ・・・

もし!そちらのお客様!お泊まりではございませんか?

甚五郎
甚五郎

・・・俺のことか?

ええ!左様でございます!

甚五郎
甚五郎

よし!しめた!

なんでございます?

甚五郎
甚五郎

いやいやよく呼んでくれた!お前のうちに厄介になろう!

これはどうもありがとう存じます!どうぞこちらへ!

おい!お客様だよ!支度をして!

金兵衛
金兵衛

ようこそおいでをいただきまして!手前が当宿の主の大黒屋金兵衛と申しますが・・・

甚五郎
甚五郎

大黒屋金兵衛?欲の深い名前だねぇ・・・

金兵衛
金兵衛

まあその代わりと言ってはなんですが、当宿では一切奉公人をおきませんで、手前と家内とが親切を旨としてやっておりますが・・・

甚五郎
甚五郎

あたしはね、そういう所が大好きだ!

甚五郎
甚五郎

ことによると、当分お前の所に厄介になるよ?

金兵衛
金兵衛

ありがとうございます、ごゆっくりお過ごし下さいまし・・・

甚五郎
甚五郎

酒が好きだ・・・飲ませておくれ・・・

金兵衛
金兵衛

どうぞ、お召し上がり下さい!

甚五郎
甚五郎

1日三升だ・・・

金兵衛
金兵衛

三升!?

甚五郎
甚五郎

朝一升、昼一升、夜一升・・・

甚五郎
甚五郎

あたしは1日三升飲まないと二日酔いになる・・・

金兵衛
金兵衛

どうぞ、たんとお召し上がり下さい・・・

甚五郎
甚五郎

ここは神奈川だ・・・美味い魚はいくらでもあるだろう・・・

甚五郎
甚五郎

お前達に任せるから、美味い魚を食べさせておくれ?

金兵衛
金兵衛

承知をいたしました!

甚五郎
甚五郎

それからねぇ・・・茶代だのをいちいち出すのは面倒だ、まとめてでいいだろう?

金兵衛
金兵衛

どうぞお気遣いなく!

金兵衛
金兵衛

手前どもは何十日お泊まりいただきましても、お発ちになります時にまとめて頂戴しておりますので・・・

甚五郎
甚五郎

そうかい・・・それを聞いて安心した・・・

甚五郎
甚五郎

あ、それからね、怒っちゃいけないよ?いいかい?

甚五郎
甚五郎

お前さん達を決して疑ぐるわけじゃない・・・怒らないでおくれ?

甚五郎
甚五郎

実はね・・・この懐の物だ・・・

金兵衛
金兵衛

たいそう膨らんでますなぁ!

甚五郎
甚五郎

重くて仕方がない!

金兵衛
金兵衛

左様でございましょうなぁ!

甚五郎
甚五郎

帳場へ預けなくてはいけないのだが、あたしはあたしのものは自分の身につけておかないと心が落ち着かない・・・

甚五郎
甚五郎

だからひとつ勘弁しておくれ・・・

金兵衛
金兵衛

そりゃあもうお客様のご自由でござますので!

金兵衛
金兵衛

ただ、充分お気をつけになって・・・

甚五郎
甚五郎

それからねぇ、色んなことを言って申し訳ないが、静かな所が好きな人間だ・・・

甚五郎
甚五郎

部屋も静かな所へいれておくれ?

金兵衛
金兵衛

ちょうどいいところでございます!

金兵衛
金兵衛

二階の一番端に上段の間という所がございますので、そこへお入り願います!

甚五郎
甚五郎

ジョウダンの間?ふざけながら入るんだな?

金兵衛
金兵衛

なんです?

甚五郎
甚五郎

冗談の間

金兵衛
金兵衛

こりゃあどうも恐れ入りましたな!どうぞごゆっくり!

なんてんで、この甚五郎先生、毎日毎日朝一升昼一升夜一升・・・

三升の酒を飲んでゴロゴロゴロゴロしておりまして・・・

時間が経つにつれまして、台所を預かっているかみさんが黙っていませんで・・・

おかみ
おかみ

ちょいとちょいと!ちょいと!なんだいあの二階の客は!

おかみ
おかみ

酒飲んで部屋でもってゴロゴロゴロゴロしてんねぇ!

金兵衛
金兵衛

いいじゃねえか・・・客が二階の部屋で酒飲んでゴロゴロしてんのに不思議なことはないよ?

金兵衛
金兵衛

これが醤油を飲んでんだったら気味が悪いよ?

金兵衛
金兵衛

なんにもありゃしないじゃないか!

おかみ
おかみ

何言ってんだよぉ!本当にもう・・・

おかみ
おかみ

食べる魚だってそうだよ?

おかみ
おかみ

鯛やヒラメやたこやいかって竜宮城みたいなこと言ってんじゃないか!

おかみ
おかみ

お前さんの前だけどねぇ、あの人はそんな贅沢なことを言えるような身分じゃないと思うよ?

おかみ
おかみ

着ているものをご覧よ、着ているものを!あれは正宗だよ!?

金兵衛
金兵衛

なんだい着物が正宗ってのは?

おかみ
おかみ

触ると切れるよあれは・・・ああいう着物を正宗ってんだよ!

おかみ
おかみ

ご覧なさい、泊まってから一文の宿賃もいれないから台所のものはみんなきれちまったよ!

おかみ
おかみ

米はきれるし、砂糖はきれるし、麦はきれるし、塩はきれるし、味噌はきれるし、醤油はきれるし、薪はきれるし、炭はきれるし・・・

おかみ
おかみ

きれないのは包丁と2人の腐れ縁だよ!

金兵衛
金兵衛

・・・よく喋るねお前は・・・どう・・・

おかみ
おかみ

どうもこうもないよ!半分だけでもいいから宿賃貰っておいでよ!

金兵衛
金兵衛

それだめなんだよ・・・

おかみ
おかみ

どうしてなんだよ?

金兵衛
金兵衛

あの人が泊まるとき、何十日お泊まりいただきましてもお発ちになる時に・・・

おかみ
おかみ

言ったかはしれないけれどもさぁ!探りを入れてみるんだよ!

金兵衛
金兵衛

なんだいその探りを入れてみるってのは?

おかみ
おかみ

毎日部屋にいたのでは退屈でございましょう?

おかみ
おかみ

いかがでございましょう?神奈川八景でもご参詣なさいませんか?

おかみ
おかみ

なんでしたらこちらの方でご案内してもよろしゅうございますから・・・

おかみ
おかみ

これ行かないって言ったら危ないんだからね?

おかみ
おかみ

実は、この神奈川宿で決まったことでございますが、どんなお馴染みのお客様でも五日にいっぺんずつはお勘定いただくようになりましたからって言ってちょいともらっておいでよ!

金兵衛
金兵衛

分かった!行ってくるよ本当にもう!

金兵衛
金兵衛

本当にもう嫌なかかあだ・・・

金兵衛
金兵衛

人のこと見りゃぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ言う・・・冗談じゃねぇや・・・

金兵衛
金兵衛

え〜ごめんくださいまし!ごめんくださいまし!

甚五郎
甚五郎

ふっふふふ・・・ご亭主か・・・まあまあこっちへお入りよ!

甚五郎
甚五郎

汚い部屋だが・・・

金兵衛
金兵衛

あたしのうちだよここは・・・

金兵衛
金兵衛

えぇ、そうやって毎日お部屋でゴロゴロなさってるのは退屈でございましょう?

甚五郎
甚五郎

退屈しない・・・この窓から下を見ていると面白いな・・・

甚五郎
甚五郎

女は通るし、男は通るし、犬と猫は追っかけっこするし、退屈しない・・・面白いな・・・

金兵衛
金兵衛

いかがでございましょう?神奈川八景でもご参詣なさっては?

甚五郎
甚五郎

・・・絵で見てるからいい・・・

金兵衛
金兵衛

絵で!?

甚五郎
甚五郎

絵の方が腹が減らない・・・くたびれないな・・・

金兵衛
金兵衛

危ねぇなぁどうもな・・・

金兵衛
金兵衛

実はですな、近頃決まったことではございますが、当神奈川宿ではどんなお馴染みのお客様でも五日にいっぺんずつはお勘定を・・・

甚五郎
甚五郎

くれるのか?

金兵衛
金兵衛

そうじゃございません!頂戴することになったんでございますが・・・

甚五郎
甚五郎

勘定か・・・そろそろ言われる頃だと思った・・・

甚五郎
甚五郎

だいぶ下の方でキーキーキーキー聞こえてた・・・・

甚五郎
甚五郎

いくらになった?

金兵衛
金兵衛

ありがとう存じます・・・書付を持ってまいりましたので・・・

金兵衛
金兵衛

ただいままでのお勘定が二両三分三朱ですが・・・

甚五郎
甚五郎

二両三分三朱?間違いないかい?

金兵衛
金兵衛

間違いじゃございませんで・・・

甚五郎
甚五郎

安い!安すぎる!

金兵衛
金兵衛

ありがとう存じます!ぐっと勉強させていただいておりますので・・・

甚五郎
甚五郎

しかしな、二両三分三朱というのは半端だ・・・

甚五郎
甚五郎

どうだ?三両にしてお前に渡そう・・・

金兵衛
金兵衛

これはどうも!ありがとう存じます!

甚五郎
甚五郎

それでいいか?

金兵衛
金兵衛

結構でございます!

甚五郎
甚五郎

ご苦労様・・・

金兵衛
金兵衛

いや、あの・・・お勘定が三両三分三朱でございますんで!

甚五郎
甚五郎

だからさ!そこへあたしが一朱足して三両にしてお前に渡そう・・・

金兵衛
金兵衛

ありがとう存じます!

甚五郎
甚五郎

それでいいだろう?

金兵衛
金兵衛

ええ!結構でございます!

甚五郎
甚五郎

ご苦労様・・・

金兵衛
金兵衛

・・・お金が出ませんな?

甚五郎
甚五郎

金か?

金兵衛
金兵衛

はい・・・

甚五郎
甚五郎

金は・・・

甚五郎
甚五郎

ない!

甚五郎
甚五郎

へへへ・・・

金兵衛
金兵衛

なにぃ!?なんだじゃあお前さん一文無しかい?からっけつかい?

甚五郎
甚五郎

なんだいそのからっけつってのは・・・ないんだよ!

金兵衛
金兵衛

お前さん商売はなんだ、商売は?

甚五郎
甚五郎

番匠だ・・・!

金兵衛
金兵衛

なんだその番匠ってのは?

甚五郎
甚五郎

江戸でいう大工だな・・・

金兵衛
金兵衛

大工!?

金兵衛
金兵衛

あ、そう・・・

金兵衛
金兵衛

大工だったらなんだよ、宿賃の代わりにどっか傷んでるとこやなんかを直してもらおうじゃないか!

金兵衛
金兵衛

そうだ!試しにね、ここへ棚を吊っておくれ!

甚五郎
甚五郎

やめた方がいい・・・俺の吊った棚は物を乗せると落ちるぞ?

金兵衛
金兵衛

嫌な大工だねおい・・・

甚五郎
甚五郎

がたがた言わなくてもいい・・・裏にだいぶ立派な竹やぶがあるな?

金兵衛
金兵衛

ああ、あれはうちの竹やぶだよ?自慢の竹やぶなんだよ!

金兵衛
金兵衛

春先になるといいタケノコがぴょこぴょこ飛び出してね、あれはうちの竹やぶだよ!

甚五郎
甚五郎

すまないが、よ〜く切れるノコギリを一丁持ってきな・・・

金兵衛
金兵衛

どうするんだい?

甚五郎
甚五郎

ノコギリを持って竹やぶの中へおいで・・・

甚五郎
甚五郎

竹やぶの中で宿賃を払う算段をする・・・

金兵衛
金兵衛

・・・ノコギリ持ってぇ?竹やぶの中へ?

金兵衛
金兵衛

俺をバラバラにするつもりだな?

甚五郎
甚五郎

そんなことを言うな・・・

甚五郎
甚五郎

宿賃を払わない上にお前に怪我をさせる、そんなことはしない・・・

甚五郎
甚五郎

いいから持ってきな・・・

金兵衛
金兵衛

分かったよ!

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金兵衛
金兵衛

おっかあ!お前は目が高い!

金兵衛
金兵衛

あれ!一文無し!

おかみ
おかみ

だろぉぉ〜!?どうも目つきの悪い嫌なやつだと思ったよぉ!

おかみ
おかみ

お前さんはろくな客を読んでこないねぇ!本当にまあ!どうすんのさ!

金兵衛
金兵衛

どうするんだってな?よく切れるノコギリを一丁持ってこいって言うんだよ・・・

おかみ
おかみ

ノコギリをどうすんのさ!

金兵衛
金兵衛

ノコギリを持って裏の竹やぶに来いってんだ・・・

金兵衛
金兵衛

竹やぶの中で宿賃を払う算段をするって・・・

おかみ
おかみ

・・・ノコギリ持って?お前さんが一緒に竹やぶへ!?

おかみ
おかみ

どうも二、三日前から影が薄いと思ってたんだよ!?

おかみ
おかみ

お前さんバラバラに・・・

金兵衛
金兵衛

変なこと言うなよ!?おっかあまでそんなこと言ってやがんだから・・

金兵衛
金兵衛

おい!一文無し!

甚五郎
甚五郎

そう一文無しと言うなよ・・・

甚五郎
甚五郎

ノコギリ持ってきた?

金兵衛
金兵衛

持ってきたよ!

甚五郎
甚五郎

持ってきたら裏の竹やぶへおいで・・・

甚五郎
甚五郎

ほぉ・・・いい竹が揃ってるねぇ・・・

金兵衛
金兵衛

おう、さっきも言った通り自慢の竹やぶ!これはみんな孟宗竹ってやつだ!

甚五郎
甚五郎

ちょいと待ってておくれ・・・

甚五郎
甚五郎

ん・・・この竹とこの竹を二本、長さを三尺くらいに揃えて切っておくれ?

金兵衛
金兵衛

自分で切ればいいだろ、自分で切れば!

甚五郎
甚五郎

あたしが算段をするんだからお前が切りな・・・

甚五郎
甚五郎

人間体を動かさないと鈍るぞ・・・

金兵衛
金兵衛

おめえにそんなこと言われると思わなかったよ・・・

甚五郎
甚五郎

切れたか?ちょいと待ってておくれ・・・

甚五郎
甚五郎

ん、ここに細めの竹がある・・・長さを揃えて切っておくれ?

甚五郎
甚五郎

切れたか?切れたら座敷へ持ってきな・・・

甚五郎
甚五郎

そこへ置いて・・・宿賃を払う算段がついたらお前を呼ぶから・・・

甚五郎
甚五郎

それまで決して中を覗いてはいかんぞ?覗くと俺は算段をしない・・・

金兵衛
金兵衛

覗かないよ!鶴の恩返しじゃねえんだから・・・

金兵衛
金兵衛

早いとこ算段しておくれよ!

ピタッと閉めて下の階へ降りていく・・・

この様子をじっと見ておりました甚五郎が懐から取り出しました包み・・・

中から出しましたのが飛騨を発ちますときに師匠墨縄が譲ってくれた大鑿(おおのみ)・小鑿(このみ)・・・

命よりも大事に身につけていたもの・・・

これを取り出しますと、コツコツカリカリコツコツカリカリなにかやり始めた・・・

だいぶ夜がふけましてから、


甚五郎
甚五郎

ご亭主や!ご亭主や!

金兵衛
金兵衛

うるせえなぁあの一文無しはもう・・・

金兵衛
金兵衛

文無しのくせにえばってやがんだから・・・

金兵衛
金兵衛

人がせっかく寝てんのに変な声で起こしやがって本当にもう・・・

金兵衛
金兵衛

変な客呼び込んじゃったな本当に・・・

金兵衛
金兵衛

なんだい、一文無し?

甚五郎
甚五郎

いちいち一文無しと言うな・・・算段が出来た・・・

甚五郎
甚五郎

こっちへお入り・・・汚い部屋だが・・・

金兵衛
金兵衛

そっちこそ汚い汚い言ってるじゃねえか!なんだい?

甚五郎
甚五郎

出来た・・・

金兵衛
金兵衛

何が?

甚五郎
甚五郎

さぁ・・・これだ・・・

金兵衛
金兵衛

なんだいそれは?

甚五郎
甚五郎

なんだいそれって見て分からないかい?

金兵衛
金兵衛

竹っぺらの先になにか丸いもんがぶら下がってんねぇ・・・なにそれ?

甚五郎
甚五郎

竹でこしらえた、水仙のつぼみだ・・・

金兵衛
金兵衛

つまらねぇもんこしらえてもう・・・どうすんだよ、本当にもう・・・

甚五郎
甚五郎

同じくここに竹でこしらえた花立がある・・・

甚五郎
甚五郎

この中に水をいっぱいに汲んで、この水仙をさしておいてお前のうちの一番目にかかる所にかけておいて・・・

甚五郎
甚五郎

紙に売り物と書いて貼っておきな・・・

甚五郎
甚五郎

明日になれば必ず買い手がつく・・・ついたら宿賃を払う・・・

金兵衛
金兵衛

ついたら?・・・たら?

金兵衛
金兵衛

たらだのだろうてえのはあまりあてにならねえけれどもな・・・

甚五郎
甚五郎

お前に言っておくが、この花立の中の水をきらすと大変なことになるぞ?

金兵衛
金兵衛

分かったよもう・・・夜遅いんだからもうこっちへ貸しなよ!

そこは人のいい親父でございますので、花立の中に水をいっぱいにいたしまして、この中に竹の水仙をさして、表の目立ちます釘に立てかけて半紙に売り物と書いて奥へ入ります・・・

もう真夜中近くでございます・・・

宿屋稼業というものは朝の早いものですので、暗いうちに大戸を開けて、気になりますので昨日の花立を手にとってひょっと中を見て・・・


金兵衛
金兵衛

漏るんじゃねえかこれは・・・ずいぶん水が少なくなってんねぇ・・・

金兵衛
金兵衛

漏るような花立こしらえる・・・ろくな腕じゃねぇなぁあれは・・・

金兵衛
金兵衛

水きらすなってそう言ってたよな・・・

また水を入れておいて、中へ入ります・・・

この時に、何かの都合で朝早〜く神奈川宿に参りましたのが、肥後熊本の御曹司、細川越中の守様の行列が神奈川宿へ入って参りまして・・・

殿様の御駕篭が大黒屋の前に差し掛かりました時に・・・

お天道さまが上がってあたり一面に朝日がぱぁ〜っとさしますと、どういう仕掛けがしてございましたのか、竹でこしらえた水仙のつぼみがパチっと小さな音を出して立派に竹でこしらえた花が開いてあたり一面になんとも良い香りが漂いまして・・・

これを御駕篭の中でご覧になりました越中の守様が駕籠を止め、ピタッと止まりまして、ジッと駕籠の中からこれを見て・・・

越中守
越中守

刑部(ぎょうぶ)?刑部はおらぬか?

刑部
刑部

お呼びでございますか?

越中守
越中守

余はあれにかかっている竹の水仙たいそう気に入った・・・

越中守
越中守

求めて参れ、本陣で待っておるぞ?

そのまま御駕篭は本陣宿・・・

あとへ残りましたお側用人の大槻刑部・・・

ただただ堅いだけの人でございます・・・

堅いだけということは物を何も知らない人ということでございまして・・・

刑部
刑部

ったく・・・うちの守様は勝手だねぇ・・・

刑部
刑部

見るもの見るものみんな欲しがるねぇ・・・

刑部
刑部

あんなつまらねぇもの、俺が休みの日にこしらえてやるっての・・・

刑部
刑部

金出して買うことはねぇんだ・・・

刑部
刑部

許せよ・・・

金兵衛
金兵衛

いらっしゃいまし!

刑部
刑部

その方が主か?

金兵衛
金兵衛

手前が当宿の主、大黒屋金兵衛と申しますが・・・

刑部
刑部

欲の深い名前だな!

金兵衛
金兵衛

よく言われます・・・何のご用で?・・

刑部
刑部

実はな、拙者は越中の守様の側用人の大槻刑部という者である・・・

刑部
刑部

今お殿が御駕篭でご通行になって、あれにかかっている竹の水仙、たいそう御意にめした・・・

刑部
刑部

値(あたい)はいかほどだ?

金兵衛
金兵衛

なんです?

刑部
刑部

聞いてないのかお前は?殿がたいそう気に入った!

刑部
刑部

値(あたい)はいかほどだ?

金兵衛
金兵衛

あたいですか?・・・うちはあたいはない・・・

金兵衛
金兵衛

夜の中蕎麦屋が引っ張ってくるのが屋台・・・

刑部
刑部

何を申しおる!?日本人かお前は!

刑部
刑部

値段はいくらだと聞いておる!?

金兵衛
金兵衛

値段ですか、値段なら値段ってそう言ってくださいよ?

金兵衛
金兵衛

あたいはあたいはって言うから・・・

金兵衛
金兵衛

・・・ん〜!?

刑部
刑部

どうした?

金兵衛
金兵衛

あ、いや今これをこしらえました者が二階におりますから聞いて参ります!

金兵衛
金兵衛

恐れ入りますが、しばらくお待ちください・・・お茶を差し上げて!

金兵衛
金兵衛

おい!一文無し!

甚五郎
甚五郎

また始まりやがったな?どうした?

金兵衛
金兵衛

か、買い手がついた!

甚五郎
甚五郎

買い手がついたか・・・相手はどんなやつだ?

金兵衛
金兵衛

どんなやつだなんてことを言うと口が曲がるぞ?

金兵衛
金兵衛

名前を聞いて驚くな?

金兵衛
金兵衛

肥後熊本のお殿様、細川越中の守様だ!

甚五郎
甚五郎

おお!越中か!

金兵衛
金兵衛

そんなふんどしみたいな言い方すんなよ!

金兵衛
金兵衛

それでおめえ珍しい腕持ってんじゃねえか、今朝見たときはこう丸くなってたんでえ・・・

金兵衛
金兵衛

それがあの侍と喋りながらふっと見たらなんだかこう、花みたいに開いてんじゃねえか!

金兵衛
金兵衛

珍しい腕持ってんじゃねえか・・・

金兵衛
金兵衛

まああんなもんは売ったって五文か十文だが、相手は大名だ、どうだ?

金兵衛
金兵衛

思い切って一朱ぐらいなことを言ってみるか?

甚五郎
甚五郎

馬鹿なことを言うな・・・お前のとこの宿賃が二両三分三朱・・・

甚五郎
甚五郎

これを一朱で売ってどうする・・・

金兵衛
金兵衛

じゃあいくらって言うんだ?

甚五郎
甚五郎

そうだなぁ・・・他の大名であればいま少し欲しいところであるが・・・

甚五郎
甚五郎

越中の守様であれば、二百両もらっておこう・・・

金兵衛
金兵衛

自分で言ってきな!自分で!そんなこと言うような余裕はないよ?

金兵衛
金兵衛

そんなこと言ってみろ!

金兵衛
金兵衛

たかだか竹で作った水仙で二百両とは足元を見るのにもほどがある!

金兵衛
金兵衛

長いやつを引っこ抜いてギラリ!スパン!って首でも切られてみなよ!?

金兵衛
金兵衛

明日っから表歩くのに方向がつかなくなっちゃうよ!

甚五郎
甚五郎

無闇やたらに刀は抜くものではない・・・せいぜい殴られるくらいだ・・・

金兵衛
金兵衛

だから嫌なんだよ・・・お前今・・・

金兵衛
金兵衛

お前の前だが、この世に人と生まれて、何が苦しいと言って金儲けをするぐらい苦しいことはない!

甚五郎
甚五郎

行って苦しんでこい・・・

金兵衛
金兵衛

行ってくるよぉ馬鹿ぁ!

金兵衛
金兵衛

あいつはいいんだよ、二階で言ってりゃいいんだからもう・・・

金兵衛
金兵衛

言うこっちの身にもなってみろよ・・・

金兵衛
金兵衛

大変長らくお待たせを致しました・・・

刑部
刑部

なんだ司会者みたいなやつが出てきたな・・・

金兵衛
金兵衛

ええ、二階のやつの言うことには、他の大名であれば、いま少し欲しいところであるが・・・

金兵衛
金兵衛

越中ならば・・・

刑部
刑部

なにぃ!?

金兵衛
金兵衛

私がそう言ったんじゃないですよ!二階のやつがそう言ったんですよ!

金兵衛
金兵衛

『そんなふんどしみたいなこと言うな!』って・・・

刑部
刑部

お前の方も大概だな・・・いくらと申した?

金兵衛
金兵衛

ええ・・・二階のやつが申しますのには、他の大名であればいま少し欲しいところであるが・・・

刑部
刑部

うむ・・・

金兵衛
金兵衛

越中の守様であれば・・・

金兵衛
金兵衛

¥☆○×¥$☆^<%+€/!

刑部
刑部

何を言ってんだお前は・・・

刑部
刑部

はっきり喋れ!いくらだと申した?

金兵衛
金兵衛

ですからあの・・・他の大名であらば・・・

刑部
刑部

そこは分かった!いくらだと申した?

金兵衛
金兵衛

あの・・・越中の守様であれば・・・これだと申しました(手で二の形を作る)

刑部
刑部

ほう、左様か!二十文か?

金兵衛
金兵衛

・・・話がまるで合わねえなぁどうも・・・

金兵衛
金兵衛

二百両だと申しておりましたが!

刑部
刑部

なに!?二百両?

刑部
刑部

たかだか竹で作ったものに二百両とは、足元を見るにもほどがある!この馬鹿たれ!

金兵衛
金兵衛

ほら言わんこっちゃねぇ・・・だから殴られるってそう言ったんだ・・・

金兵衛
金兵衛

殴って買ってくれるならいいけれども買ってくれねえもんな・・・

金兵衛
金兵衛

真っ赤になって帰っちゃったよ!どうすんだよ!

甚五郎
甚五郎

怒るな怒るな・・・しばらく表で立ってて見ろ・・・

甚五郎
甚五郎

いまお前を殴ったやつが青くなって戻って来て、

甚五郎
甚五郎

『主よ、最善は手荒な真似をしてすまなかった・・・どうだ?先ほどの水仙わしに譲ってもらいたい』と・・・

甚五郎
甚五郎

お前の前に両手をついて、頭を下げる・・・

金兵衛
金兵衛

本当かよぉおい!どうもおめえの話は夢で屁踏んづけてる気がするが・・・

金兵衛
金兵衛

じゃあ立ってて見るよ!

こちらは大槻刑部でございます・・・

物を知らない人でございますから、竹細工を二百両と言われてかっかとしながら戻ってまいりまして・・・

刑部
刑部

殿!ただいま戻りましてございます!

越中守
越中守

刑部か・・・待ち兼ねておったぞ?いかがであった?

刑部
刑部

それがあまりに高価でございまして・・・

越中守
越中守

高いと申すか、いくらじゃと申した?

刑部
刑部

先方が申しますのには・・・

刑部
刑部

他の大名であれば・・・いま少し欲しいところであるが・・・

越中守
越中守

うん・・・

刑部
刑部

越中の守様であれば・・・これじゃと申しております・・・

越中守
越中守

なに?他の大名であらばもう少し欲しいところであるが、余であればこれじゃと?

越中守
越中守

ほう、そうか!二万両か!?

刑部
刑部

・・・話がまるで合わねえなぁどうも・・・

刑部
刑部

二百両だと申しおりましたが・・・

越中守
越中守

なに?二百両?

越中守
越中守

刑部、その方それを高いと申して求めてこなかったか?

越中守
越中守

物を知らんのにもほどがあるぞ?あれを作ったものを誰だと心得る?

越中守
越中守

初めて左官を許された名人、甚五郎の作りし物だ・・・

越中守
越中守

よいか?あの品は京の大内山に一品、あの旅籠に一品、この世にふたつという品である・・・

越中守
越中守

それを二百両だと高いと申して、求めてこぬたわけがどこにある!?

越中守
越中守

すぐに行って買い戻して参れ!

越中守
越中守

もしもあの品が売れて買い戻せなかった時には大槻刑部!

越中守
越中守

その方役目不届きにつき、切腹を言い渡す!

刑部
刑部

そんな馬鹿な!

こちらは宿屋の親父でございます・・・

本当に戻ってくるのかしらと、表でぼ〜っと立ってましたけれども・・・

慌てて本陣を飛び出しました大槻刑部、よほど慌てたと見えまして、下駄と草履を片っぽずつつっかけて、砂塵をまいてぶぁ〜っと・・・

金兵衛
金兵衛

きたきたきたきた!

金兵衛
金兵衛

あの野郎俺のこと殴りやがって畜生め!仇打つのはこの時だ!

とばかりに、慌てて竹の水仙を店の中へしまいこみますと、『売り切れました』とこれは悪いやつがいるもんでして・・・

刑部
刑部

許せよ!

金兵衛
金兵衛

いばるな!!

刑部
刑部

主!さきほどは手荒な真似をしてすまなかった・・・

刑部
刑部

どうか先ほどの水仙、二百両で売ってもらいたい・・・

金兵衛
金兵衛

あれねぇ・・・

金兵衛
金兵衛

あれ今三百両になったんですがなぁ!

刑部
刑部

わずかの間に百両も値が上がったのか!?

金兵衛
金兵衛

我々は変動相場制をとっておりますので!

金兵衛
金兵衛

あなたさっきひとつ殴ったでしょ?

金兵衛
金兵衛

ひとつ殴るごとに百両ずつ上がることになってるんで!

刑部
刑部

三百、五百はいと安いこと!どうか拙者に譲ってもらいたい!

金兵衛
金兵衛

あなたに伺いますが、どういうわけでそんな高い金を出してあれをお買い求めになるんです?

刑部
刑部

主・・・その方には分からぬか?

刑部
刑部

物を知らぬのにもほどがある!これを作りし方をどなたと思う!?

刑部
刑部

このたび左官を許された名人、甚五郎の作りし物だ!

金兵衛
金兵衛

へっ!?あの一文無しが!?

金兵衛
金兵衛

あの有名な甚五郎先生!?

刑部
刑部

どうか拙者に譲ってもらいたい!

三百金払って、大槻刑部・・・

竹の水仙を抱えて意気揚々と本陣を引き上げます・・・

あとへ残った宿屋の主人が驚いた・・・ 


金兵衛
金兵衛

おっかあ!

おかみ
おかみ

なんだよ?

金兵衛
金兵衛

おめえな、あの二階の人!あれただの人じゃねえ!

おかみ
おかみ

ただだよあれは!一文も払わないんだから、ただ・・・

金兵衛
金兵衛

とんでもない話だ!あの人が今有名な甚五郎先生だ!

おかみ
おかみ

はぁ〜!あの人が!?

おかみ
おかみ

目つきが上品だと思ったよ!

金兵衛
金兵衛

よくそういうことを言えるね!謝っちまおう!一緒に来な!

金兵衛
金兵衛

ごめん下さいまし!ごめん下さいまし!

甚五郎
甚五郎

おぉご亭主か・・・おかみさんも一緒じゃないか、まあこっちへお入り・・・

金兵衛
金兵衛

汚い部屋でございますが、そうさせていただきますんで!

金兵衛
金兵衛

左甚五郎先生とはつゆ知らず、数々のご無礼どうかお許しのほどを!

甚五郎
甚五郎

知られちゃったか、勘弁しておくれ・・・

甚五郎
甚五郎

お前達をからかうつもりじゃなかった・・・

金兵衛
金兵衛

とんでもございません・・・

金兵衛
金兵衛

あの竹の水仙でございますが、三百両で売れましたので、どうぞお納めのほどを・・・

甚五郎
甚五郎

三百両?あたしが言ったのは二百両だよ?

甚五郎
甚五郎

百両はそっちの儲けだ、そっちへとっときな・・・

金兵衛
金兵衛

いえとんでもございません!

甚五郎
甚五郎

いいからとっときな、考えてみればあたしが卸屋、お前が小売屋、百両はお前の儲けだ・・・

甚五郎
甚五郎

あとはあたしがもらっておくから、ちょいとお待ち・・・

甚五郎
甚五郎

さっ、ここに五十両ある・・・

甚五郎
甚五郎

これを宿賃、そして今までかけた迷惑料としてとっておいておくれ・・・

金兵衛
金兵衛

いえ!とんでもございません!

甚五郎
甚五郎

いいからとっておきな・・・

甚五郎
甚五郎

余ったらおかみさんに着物の一枚でも買ってやっとくれ、正宗でないやつをな・・・

甚五郎
甚五郎

あえて憎まれ口をきかせてもらうが、宿屋稼業をしていればどんな客が来るか知れない・・・

甚五郎
甚五郎

身なりで決して人の良し悪しを決めてはなりませんぞ?

金兵衛
金兵衛

恐れ入ります・・・甚五郎先生にお願いがございます!

甚五郎
甚五郎

ん?なんだな?

金兵衛
金兵衛

いかがでございましょう?

金兵衛
金兵衛

神奈川中の竹を買い占めますので、あの竹の水仙をこてこてこしらえていただいて・・・

甚五郎
甚五郎

馬鹿なことを言っちゃいけない・・・

甚五郎
甚五郎

お前さんの前だが、私は再びあれは作らぬつもりだ・・・

金兵衛
金兵衛

へ?どうしてでございます?

甚五郎
甚五郎

考えてご覧なさい・・・

甚五郎
甚五郎

竹に花を咲かせれば・・・

甚五郎
甚五郎

寿命が縮む・・・

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画像参照元:ゲオ宅配レンタル

オチが分からない方へ

竹の寿命は、種類にもよりますが、数十年~百数年と言われています。

竹は寿命を迎えると稲に似た花を咲かせて枯れてしまいます。

竹に花を咲かせる=寿命が縮むということを掛けたオチになっております。

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