落語【子ほめ】台本 吹き出し風

こっちへお上がり

どうしたしばらくじゃないか、何か用か？

乱暴な人だねぇ・・・世の中にただの酒なんてあるかい？

あたしのうちはね、灘（なだ）っていうお酒の本場さ・・

ただじゃない、灘の酒だ！

なんてえことを言うんだい！

お前さんはね、腹の中にはなんにもないことは分かってるんだが、口が悪い・・・

神田のご隠居さんもお前のことをずいぶん言って怒って帰ったが、なんかしくじったろ？

この頃いかないのかい？

ちょいとお待ちよ・・・ご普請を褒めるのは難しいよ？

自分でなんども建てたお方じゃないと急所急所が褒められないもんだよ？

お前褒めたのか？

偉いなぁ・・・床の間を一番初めに見て褒めたか？

全部いっぺんにって、何て言って褒めたんだ？

変な褒め方だねえ・・そしたらどうしたい？

変なとこで慰めるんだねえ・・・何て言って慰めた？

なぜそんなことを言うんだよ！そんなことを言ったら誰でも怒るじゃないか！

仮にお前さんが往来歩いていて、しばらく会わない人にばったり出くわすだろ？

お前さんのお世辞がいいと、その人がお酒の一杯くらい御馳走してくれるよ？

その人の懐に入るんですよ

あったかだなんてことがあるか・・・

しばらくお目にかかりませんが、どちらへ行ってらっしゃいました？ってお言葉をかけてごらん？

仮にだよ？その人が商売のことで地方へ行っていたとおっしゃる・・・

そしたら、どうりで色がお黒うございますなぁ！なんてことを言う・・・

商売熱心だって意味が込められている！喜ぶもんなんだ！

色の黒い分だけ、お金儲けでしょうなぁ！と油をかける・・・

何を言ってるんだ・・・

あなた様なんぞは元が白いんですから故郷の水で洗えば、元の通り白くなります、ご安心くださいまし・・・

なんてことを言ってごらん？

どっか行って一杯飲もうか？なんてことを言うから・・・

言う

何を言ってるんだ・・・それで言わなかったら奥の手を出す

どっから出すなんてことがあるか・・・

その人のお歳を聞いてごらんよ？親しみが増すもんだ・・・

お歳はおいくつでございます？って聞いて、仮にだぞ？

四十五だとおっしゃる・・・

そうしたら、四十五とはお若く見えますな、どう見ても厄そこそこですってなことを言う・・・

百じゃあない・・・厄！

なんにも知らないんだねお前さん・・・

男の大厄を四十二としてある、ふたっつみっつ若く言う・・・

いくつになっても若く言われるのは嬉しいもんだ・・・

また、そう見るのが礼儀だよ？

五十の人は四十五、六と言えばいい・・・

五十五、六・・・

その順だよ！

大変な人だねぇ・・いくつでもいいからふたっつみっつ若く言うんだよ！

いくつでも！

な～にを言ってるんだ・・お前さんには話が出来ないよ・・・

子供を若く見てどうするんだよ、子供の言葉は難しいよ？

親御さんを喜ばせる・・・

これはおたくのお子さんですか？どうも福々しゅうございますな・・・

おじいさんに似て長命相がおありだ・・・

栴檀（せんだん）は双葉（ふたば）より芳しく、蛇は寸にしてその気を表すとやら申します・・・

あたくしもこういうお子さんがあやかりたいあやかりたいと・・・

やってごらん・・・

歌いだしってのはあるかい・・・「これはおたくのお子さんでございますか？」だよ

ここでか？お前が？やってごらん・・・

そうそう・・・・

何を言うんだよ・・・福々しゅうございます！

でたらめ言うんじゃないよ！長生きの相がある・・・

長命相がおありになさいます！

そんな乱暴なのがあるかよ・・・

栴檀というものは芽の出たときから匂いがいい・・・

栴檀は双葉より芳しく、蛇は寸にしてその気を表すとやら申します・・・

あたくしもこういうお子さんがあやかりたいあやかりたいだ！

そんなずぼらな奴があるか・・・

覚えたか？

初日ってのはあるかい・・・

う～ん難しいもんだなぁ・・・お世辞ってのは今日が初日だからなぁ・・・

上手くできりゃいいけれども・・・四十五、六のやつがこねえかな？

多すぎたり、少なすぎたり半端なやつばかり来やがる・・・

あそこへ来たやつは四十五、六だ・・へへへ・・・こゃいいけれども・・・

こんちわ！！

しばらくお目にかかりませんが、どちらへ行っておりました！？

あぁ・・そうか知らねえんだ・・・

あなたはどなたです？

あたしも知りません・・・それじゃああいこだ！

ずいぶん色が黒いねえ！

なんだ怒ってっちゃったよあいつ！

・・・そうだよ、年頃はいいけれどもあいつのこと知らねえんだもんなぁ・・

知ってる奴で四十五、六じゃねえといけねえんだもんなぁ難しいなぁ・・・

四十五、六で知ってるやつはぁ～・・・

あっ！あれは知ってるぞ？角の伊勢屋の番頭だ・・・

知ってら！四十五、六・・きたきた！

あいつの懐へ入って驚かしてやろう・・・

番頭さぁ～～ん！！番頭さん！こんちわ！

なんだ向こうから懐に入って来やがった・・・

しばらくお目にかかりませんがどちらへ行ってまいりました？

あっ・・・そうだよぉ・・この人さっき会ったんだよぉ～・・・

うっかり湯にも行かれねえや・・・

湯で会いましたねぇ！

湯で会う前はしばらくでしたなぁ！

お店の御用で上方？へへっ・・お出でなすった・・

どうりで色が少々お黒うございますなぁ！

うん！真っ黒！

黒いねぇ！そんなに黒い分だけお金儲けでございましょう！！

・・・ってのはどうだい？

あなたなんか元が黒いんだから、故郷の水で洗えば・・・真っ黒になっちゃう！

あ・・逆か・・・まあいいや、見えなくなれ！

どうだ、おごらねえかい？

おごらねえかい？

じゃあ・・・奥の手を出すぞ？

時に番頭さん、おいくつです？

そりゃあつらいよ、聞かなきゃなんねえんだもの・・・

それ聞くのが奥の手なんだから・・・いくつです？

だめ？あぁ・・・だめですか・・・お気の毒で・・・

もちませんか？

だめってといくつです？

ああ！いっ・・・いっぱい？・・・

いっぱいってのは聞いてこなかったなぁ・・・

いっぱいとはお若く見えますなぁ！

どうみても八分目くらい！

さよなら・・・

上手くいかねえやこりゃあ・・子供の方へ取り掛かろう・・・

どっか子供を褒めるとこ・・・

あるある！そういえば、たけのうちでお産があるってそう言ってたよ？

うちのかかあがそう言ってた・・・

お長屋のお付き合いで、五十円ずつあげたよって言ってたからな・・・そこ行ってみよう！

たけさんこんにちわ！

赤ん坊が生まれたんだって？

ちっとも知らなかったんだよ！お悔み申し上げます・・・

赤ん坊褒めに来たの！

おう・・・まだ生きてるか？

どこにいんの？

あ・・いたいた・・いた！

大きい赤ん坊だねえ！！

大きいねえ！だけどこの赤ん坊老けてるねえ！

白髪生えて、歯が抜けて、しわだらけで、眼鏡かけて・・・

あぁいけねえ・・・おとっつあんが昼寝してんのか・・・

赤ん坊にしちゃ老け過ぎてると思った俺ぁ！

なんだここにおかみさんいたんじゃねえか！

隅っこの方に布団よっかかってるから分かんねえんだよ・・・

女のくせして鉢巻してやがる・・・威勢がいいなぁ・・・

喧嘩か？相手は誰だ？

おかみさん赤ん坊生んだんだって？そうかい！

ごくろうさん、くたびれたろ？どこにいんの生んだ赤ん坊は？

これ？あっ、これかぁ！なんだこりゃ小せえやぁ！生意気に動いてやがる！

これかみさんが産んだの？今？産んだばっかり？産みたて？

おかみさんの本当の子かい？おかみさんにちっとも似てないねぇ！

サルの子みたいだねえ！真っ赤だねえ！これ茹でたの？

じゃあ青けりゃ青ん坊だ！おっ、手を出したよ？

可愛いねえ！小さい拳固だ！

うん、こんな可愛いちっぽけな手でこいつったら五十円ずつ取りやがって！

この赤ん坊人形みてえだなぁ！

ふふ・・腹押したら、きゅ～っだ！

時にたけさん、これはおたくの子でございますか？

どうもふくぶくぶくぶくぶくぶく・・・

どうも福袋から出たようです！

外道も福引で取れたようで！おじいさんに長命丸飲ませたかい？

栴檀の石段が高すぎるってんだよ！？

蛇が一寸じゃ短え短えってんだ！

あたしもこういうお子さんがかやつりてえ、かやつりてえ！

時にお歳はおいくつです？

一つとはお若く見えますなぁ！

ただみたいです！