しじみ売りを聞くなら「立川志の輔」
立川志の輔の「しじみ売り」は、しじみを巡る庶民の暮らしと哀愁を描いた温かみのある一席です。志の輔の繊細な語りが、登場人物たちの人間模様を丁寧に紡ぎ、心に沁みる物語を作り上げます。笑いと感動が交錯する、聴き応えのある作品です。
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おじさん買っておくれ?買っておくれよぉ!?
うるせえなあ!買わねえんだ!
何べん言ったらわかるんだよ!
おめえが持ってくるようなしじみは、うちじゃ扱わねえんだよ!
そんなこと言わないでさあ!買っておくれよ!
あの、いつものしじみとは違うからさ!
何をぬかしやがんだ!いつもと同じしじみじゃねえか!
そうじゃないんだよ、今日はさ、川ん所で頼んだんだよ!
「この店で買ってもらえるように、いいしじみだけ集まってください!」って言ったら
「よし分かった!」って言ってみんな集まってくれたんだ!
ほら、このざるの中にあるんだからさ!
大人からかうようなこと言うな!えぇ!?
あのな、そんなことどうでもいいから出て閉めろ!雪が吹き込んで寒いから!
早く!よそ行って買ってもらえよ!
よそじゃ買ってもらえないから、この店来るんじゃないかさぁ!
よそで買わねえもん何でうちで買わなきゃなんねえんだい!
いやだってさあ、小さい店は小さいから買いたくても買えないの!
だけどさ、おじさん所は大きいお店だからさ、買えるんだよ!!さぁ!
大きいお店というのは、小さいお店が出来ないことをやるのが大きい店の役目だ
何をぬかしやがんだいこん畜生・・・出てけったら出てけ!!
寒いから!早く出てけってんだよ!
おうおうおうおう、大きな声するなよ・・・
あっ!どうも旦那、いらっしゃいまし!どうぞお入りになってください!
いや、今ちょっとこの小僧に小言言っておりまして・・・
なんだ子供相手に怒鳴って・・・
店の外まで聞こえてるぞ、大人げない・・・
いやぁ~大人げない何て言いますけど、こいつは子供のように見えて子供じゃないんですよ!
なんだその子供のように見えて子供じゃないってのは?
だってもう毎日のようにうちにしじみ売りに来るんですよ!
で、こんなしじみ、うちじゃ扱わないんだって言ってるのに毎日毎日きやがって!
今日なんかもう
「今日のしじみは違うんだ!しじみに頼んでいいやつだけ集まってもらったんだ!」
って、こういうこと言いやがるんですよ!
ほぉぉ、面白えじゃねえか・・・
坊主・・・いいしじみだけ集まってんのか?
はい!あのおじさん!見てくださいしじみ!
みんな胸張ってるでしょ!?
おじさんしじみのどこが胸だかわかんないけど・・・
ということはなにか、おまえしじみと話が出来るのか?
はい!あ、あの話も出来るし名前も知ってますよ!
しじみに名前があんのか!?
これなんか、しじみその1・・これがその2・・その3・・・
ふっふふふふ・・・あっははは!
いいってことよ!よし、おじさん買ってやろう!
ありがとうございます!お椀に一杯八文です!
何杯いりますか?
ん?そうだなぁ・・・
いいよ全部買ってやるよ
いいよ全部買ってやるよ
え!?おじさん全部!?全部!?
あ、あ・・あたいも!?
いやお前はいらないよ・・・
おめえ買ったってしょうがねえじゃねえか・・・
ありがとうごぜえます!!ど、どこにあけましょうか?
ん?そうだなぁ・・・
表行ってな、あそこに橋あるだろ?その上から川へ全部開けちまいな?
え?逃がしちまうんですか?もったいない・・・
もったいねえことはねえだろ・・・
また明日いいしじみさんだけ集まって下さいよって言ったら、 また同じのがそこに集まるんじゃねえのか?
あ、そうですね!本当ですね!
分かりました!じゃあ逃がしてきます!
うん、でな、逃がしおわったらまたこの店に来な・・・
おじさんこの店のどっかで一杯やってるだろうから・・・
一緒になんか温かいもんでも食おうじゃないか
分かりました!それじゃあ急いで行ってきます!
いいよ急がなくても!外雪が降ってるから!滑るから!
分かった分かった!待ってるから!
気を付けるんだぞ!?転ぶんじゃねえぞ~!!
可愛い坊主だな・・・
どうもすいません旦那、おいでになる早々、なんかもうお金を使わせることになってしまいまして・・・
何をぬかしやがんだお前は・・・
俺もお前もどう見たって、あの坊主よりは銭がある・・・
な?
それに見たか今?
こんな寒い中を雪の上、裸足でもってわらじ履いて・・・
手なんぞあかぎれだか霜焼けだか知らねえがお前、血にじませて・・・
たまには買ってやれ・・
すいません・・・
あ!そういえばお連れさんが、あの離れの方に待ってらっしゃいます!
今ご案内を・・・
いい、いいから!奥なんだろ?
始めて来たって分からぁ、離れくらい・・・
それより、あの坊主がここへ戻ってきたら俺のいるところまで連れて来てくれ?頼んだぞ?
へい、分かりました!あのすいませんが、まだあの・・・
店ぇ開けてないもんですからまだ、あの仕込みもたいして終わっとりませんで!
ろくなものはありませんが・・・
ああいい、朝っぱらからだ、大したこたぁねえから頼んだぞ?
へい!分かりました!どうぞごゆっくり!
あ!兄貴!!寒かったでしょ~!
なに、誰も案内してこないの!?
ったく気の利かない店だな~!
いや違うんだ、俺がいいってそう言ったんだよ、うん・・・
ふぅ、いい店だなぁ・・・
ええ、前はちょくちょく来てたんですが・・・
お~そうかい、いつ戻ったんだ江戸に?
あの、一昨日です
まあどこ行ってたってことでもないんですが・・・
早え話が江戸にいると厄介なことがあるから、いられないですけどね・・・
それにしても兄貴の噂はどこ行っても持ちきりだ!
どこいってもあんな人に会いたいな、 あんな人がくれるお金をもらいたいな~って!
どこの誰だか知っていたら、こっちの方から頼みに行きたいくらいだ!なんてことを方々どこ行っても!
居酒屋なんかで脇で聞いてると、俺ぁどこの誰だか知ってるぜ!っておもわず言っちゃいたくなるんだよ!
おう、余計なこと言うなよ?
だけどさぁ~兄貴ぃ、俺も兄貴みてえになりたいやな・・・
いいよ、そういう話はするんじゃねえ・・・
お!坊主坊主!こっちだこっちだ、坊主!
いいからいいから!そこ開けて入ってきな!
はあはあはあ・・・
おじさん!ありがとうごぜえました!
逃がしてきたか?
はい!すっごい喜んでました!
「味噌汁にされるんじゃないかなってそう思ってたら、逃がしてもらってうれしい!おじさんによろしく」ってそう言ってました!
兄貴兄貴、なんすか?この坊主は?
なんだって・・・小さくたってしじみ屋さんだ・・・
なっ?ほら、こっちのあったかいとこ来な
それにしてもお前さん、毎日こうやってしじみ売ってんのかい?
はい!
いくつだい?
十一です
ふ~ん、偉いな、普通なら遊びたい年だろうに・・・
よっぽど店の旦那がうるさいこと言うのか?
店とかで売らされてるんじゃないもん・・・
あ、あたいは自分でとって自分売ってんの・・・
だから、その、言ってみるとあたいが旦那ってこと・・・
そうだな旦那だな・・・
さあ旦那!卵焼き食いな、卵焼き食いなよ
ありがとごぜえやす・・・
持って帰っていいですか?
え?いいじゃねえか別に・・・
箸ねえか?
そうじゃねえんです、おっかさんと姉ちゃんに持っていきたいんです
ほお、お前おっかさんと姉ちゃんと暮らしてんのか?
おとっつあんは?
三つの時死んだ・・・
そうか、そら悪いこと聞いたな・・・
おっかさんと姉ちゃんは何してるんだい?
何にもしてない、寝てる・・・
寝てる?
患ってる・・・
患ってる?
まあおっかさんはなぁ、年ってのもあるかも知れねえが・・・
姉さんっておめえの姉さんだろ?どう年離れてたってまだ若えんじゃねえのか?
どうして患ってる?
おじさん、この話そんな聞いてもあまり面白くないから、この先そんな聞いてもしょうがないですよ・・・
小僧~・・・
兄貴が聞いてらっしゃんだ!言えよ!
いいからお前は黙っておけ・・・
いいんだ、言いたくないなら言わないほうがいい・・・
それより、さっきのしじみの代金払わなくっちゃな
いくらだい?
わかんない・・・
わかんないってお前一杯いくらだ?八文?
それじゃお前何十杯あるか数えたら分かるんじゃねえのか?
わかんない・・・
だ、だって売り切れたことなんて一回もないし・・・
ざるの中に何十杯あるかなんてわかんない・・・
だって一日百文売れることもないですから・・・
え~と、じゃあおじさんいっぱい買ってくれたから・・・
ん~と・・・百文におまけしちゃう!
いいよお前におまけしてもらわなくても・・・
よしわかった、それじゃあここに二百置く・・・
これでいいか?
ありがとうごぜえます・・・
本当に?本当にいいんですか?ありがとうごぜえます
それからな、ここに5両ある・・・
いやぁこれはお前にじゃねえ・・・
帰ってお前のおっかさんと姉ちゃんに、あったかいもんでも食べさせてやんな・・・
しじみ売りを聞くなら「立川志の輔」
立川志の輔の「しじみ売り」は、しじみを巡る庶民の暮らしと哀愁を描いた温かみのある一席です。志の輔の繊細な語りが、登場人物たちの人間模様を丁寧に紡ぎ、心に沁みる物語を作り上げます。笑いと感動が交錯する、聴き応えのある作品です。
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お、おじさん・・これはダメです、受け取れない・・・
なんでだ?
ダメです、とにかくもらえないんです・・・
小僧~!
兄貴が下さると言ってるんだ、もらえお前~!
五両出てきたとき俺が欲しかったじゃねえか!
なんで俺が欲しいものおめえが断るん・・
うるさいよ、お前は黙ってな・・・
どうした坊主?おっかさんか誰かが知らない人からお金もらっちゃいけねえってそう言ってんのか?
姉ちゃんが朝いつも出掛ける時、知らない人にもらっちゃいけないよって毎日言うから・・・
ふ~ん、まあ間違っちゃいねえやなぁ・・・
知らねえ人に金もらう、別に褒められたことじゃねえからなぁ・・・
だけど何でそう毎日言うんだろうな?
おじさん、でも本当にこの話は聞いても面白くないですよ・・・
小僧~~~~!!
だからいいからお前は・・!!
よし分かった分かった!いい!男ってもんはな言いたくねえことは言わねえほうがいい!
うん・・それでいい・・
いいがな、坊主?おじさん一言でも面白え話してくれって言ったか?
別に面白え、面白くねえは関係ねえんだ・・・
ただお前さんとこうして縁があって出会えて、お前さんが偉いなと思うから・・・
どうしてかな?と思って聞いただけだ、別に面白え話してくれってんじゃねえんだ・・
まあお前がどうしても言いたくなきゃ、別に聞かなくたっていいやな・・・
そんなおじさん、そんなこと言わないでください・・・
お、おじさんは買ってくれましたし、おじさんはいい人だと思いますから、いいです・・・
分かりました、話をします・・・
あっ!でもそっちのおじさんは聞かないでください・・・
な、お前こん畜生!
いいからいいから・・怒るな・・
さあ、聞かせておくれお前の話を・・・
は、はい、あれは・・三年前の話です・・・
うちの姉ちゃん新橋の所でもって芸者やってたんです・・・
ほぉ、じゃあ綺麗なんだ?
は、はい!すっごい綺麗です!すっごく綺麗でお客さんもいっぱいきました
中でも紙問屋の若旦那で正之助さんて人が姉ちゃんのこと好きになって、 姉ちゃんもその人が好きになって・・・
じゃあ一緒になろう! って言ったのに若旦那の両親が、芸者なんかと一緒になんてさせられねえ!
と言うんで、 会わせてもらえないので二人で旅出ちゃった・・
ふ~ん、それはかわいそうだな・・・
で、どうしたい?
しばらくして箱根ってところに泊まってたら雨が降って、動けなくなって・・・
部屋にいたら隣のふすまが開いて、人相の良くない二人が入ってきたんですって・・・
で、姉ちゃんは色んなとこで三味線聞いてもらってお金稼いで、若旦那は碁で色々な所で教えてあげて旅してたんですって・・・
二人がつまらないから碁でもやろうって言われて・・・
若旦那は碁が好きですし上手ですから、じゃあやりましょうってやったんですって・・・
そしたら、しばらくしてから、どうも気が入らない、 金がかかってないとつまらないとか言ってお金を賭けようってことになって
でも若旦那は上手で強いですから、いいですよって始めたんです・・・
一両かけようって若旦那が勝って、また一両かけようってまた若旦那が勝って・・・
そしたら向こうが少ないからだもっと大きく賭けよう、 五両って・・・
やってみると若旦那が負けるんです・・
それでまた一両にすると若旦那が勝って、十両って言うと向こうが勝つんです・・・
お金が少ないと若旦那が勝って、大きいと向こうが勝つんです
そりゃあイカサマか?
後でわかったんですって・・・
2人はもうすっごい、そこら辺りではみんな知ってるんですって、悪い2人で・・・
気がついたら百両負けてて、二人が払ってもらおうって言うけど、 若旦那はそんなお金ありませんって言うと、じゃあそこにいる女をもらっていくって 言うから・・・
若旦那はそれだけは止めてくださいって言って一生懸命止めるんですけど、相手は二人で殴ったり蹴ったりしながら 姉ちゃん連れて行こうとして
もうあの時は、ダメだと思ったって、若旦那そう言ってました・・・
そしたら反対側のふすまが開いて、ひとり入ってきたんですって・・・
すごいいい男の人だったって姉ちゃんそう言ってました・・・
『隣で聞いてれば同じ江戸からの人が困ってるのは見捨てちゃ置けないから、助けに来た』
『お前たちそんなに金が欲しかったらこれを持っていけ!』
って言って懐から百両出して、 二人に投げつけたんですって・・・
百両?
二人は慌てて拾って、ありがとうごぜえましたありがとうごぜえましたってペコペコして
そしたらその男の人が仲直りの印に一杯飲もうってなって、お酒を飲み始めたんですって・・
お前たちサイコロはできるのかって聞いたら、二人もできると言うので、サイコロでもやって遊ぼうと言って、 サイコロ使ってまたお金かけたんですって・・・
そしたら、その男の人がすっごく強くて渡した百両全部取り返しちゃったんですって・・・
『お前たちみたいな弱いものだとみるとつけこんでくる奴はとても許せない!』
『今役人呼んで引き渡すからそのつもりでいなっ!』
って言ったら二人はもう転がるようにして逃げて行っちゃったんですって・・・
で、そのあと何で二人でこんなところを旅をしてるんだ?って聞かれて
おとっつあんとおっかさんが許してくれないからって話をしたら
『それは必ず話せば分かってもらえるからあきらめないで話をしなさい』
『ただ、このまま江戸に戻ってもしょうがないから、せっかく来たんだったらお伊勢さんにお札をもらって帰って、それをおとっつあんとおっかさんの前に出して頼めば必ず許してもらえるから』って
『ここに五十両という金があるからこれを持って旅をしなさい』って言って、五十両くれたんですって・・・
『俺はどこどこのこういうものだからもし願いが叶ったら、訪ねて来てくれたら祝いの酒で一杯飲もう』ってそう言って下さったんですって・・・
姉ちゃんと若旦那はホントに!嬉しかったってそう言ってましたよ・・・
・・・いい話だな
ねえ兄貴!!いい話ですよねえ!
何お前こんな話お前もったいぶらねえで、 ポンポンポンと言やぁいいじゃねえか!
おじさん聞いてたんですか?
聞いてるよ!なん・・
いいから!お前は・・・
おじさんもいい話だと思う、それからどうしたい?
ここまではいい話なんです・・・
それからお伊勢様に向かって旅をして、 どこかの宿で朝起きて帳場の所でお金を払ってたら
何人ものお役人がどかどかどかっと 入ってきて
急に若旦那の手ぇつかんでこの金はどうした!って言われたんですって・・・
何が何だかよく分からないけど、どうしたんですか?って聞いたら
「この金はある屋敷から盗み出されたお金だ!ここにちゃんと印がある。こっちへ来い!!」って言われたんですって・・・
でも違いますこれはもらったんですって言えばよかったのに、若旦那拾ったんですって言ったんですって・・・
だってお役人に拾ったってどこでだ?って聞かれて、そんなの嘘なんだからどこどこで拾いましたって言っても、すぐばれちゃうでしょ?
この二人は連れて行け!って言うので、とうとう連れてこられて、今若旦那は牢屋の中にいます・・・
姉ちゃんは家にいますけど大家さんが見張ると言うので家にいます・・・
でも毎日若旦那がかわいそうだかわいそうだって食べる物も喉を通らなくて・・・
どんどん痩せてもう動けなくなって・・・
若旦那が言ってくれればいいんです・・・
若旦那がもらったって言ってくれれば、 若旦那は・・戻って・・来れるのに・・・
戻って来れればあたいもしじみ売らなくて いいのに・・・
でも恩を仇で返すわけにはいかないからって言って、ずっと言わないからあたいはしじみ売ってんの・・・
あたいだって欲しいよこのお金・・・
欲しいけど 姉ちゃんが毎日そう言うから、もらえない・・・
話はこれでおしまい!あたい喉乾いちゃった!
熊、ちょいとそこの鉄瓶の湯、冷ましてやんな・・・
そうか、大変だったな・・・
だけどな坊主、ここにあるこの金は そんな金じゃねえんだ・・・
安心して持ってきな・・・
姉ちゃんが泣くから、まあ渡すときこう言ってみな・・・
この金をくれたおじさんが こう言ってたとな・・
大変だったな、でもまあ印がついてたってことは刻印があったってこったな・・・
してみりゃあそれは盗み出された金だ・・・
ということはその人は泥棒ということになるな・・・
でもな泥棒だってきっと命懸けだい・・・
せっかく命懸けで盗んだ金をそう無闇に人に渡さねえんじゃねか?
本当に助けてやりたいと思ったからくれたんじゃねえのかなと・・
気持ちの入ってねえ堅気な金よりよっぽど・・・
まあ、ありがたいと思わなきゃあやってられないんじゃないかなと・・・
まあまあまあくれた人がそう言ってたと・・・
ひょっとしたら受け取ってくれるかもしれねえじゃねえか
もし断られたらここ戻ってこい・・・
おじさんまだずっとここにいるから・・・
なっ!どうだい?
・・・ありがとうござえます・・ありがとうごぜえます・・・
そう言って渡します、 おじさん本当ににありがとうごぜえます・・・
それからその卵焼きつつんでもらって持って帰んな・・・
転ぶんじゃねえぞ。 気を付けてな・・・
これからもな、おっかさんと姉ちゃんのために・・・
一生懸命やりな・・・
ありがとうごぜえます・・・それじゃあ帰ります・・・
そっちの何にもくれなかったおじさんも、ありがとうごぜえました!
うるせえなこの野郎!!
お前~最後っ屁か!この野郎~!!
閉めてけ閉めてけピタッと!!
ホントにまあ~~!!
兄貴~あんなガキに五両もやることはないじゃないすか!!
ペラペラペラペラ・・・
ホントか嘘かもわかりゃあしないじゃねえですか!?
まあそうだな・・そうかもしれねえ・・・
でもホントのことだからしょうがねえやな・・・
え?
確かに三年前だったな・・・箱根の宿でもって揉めてる男と女・・
助けてやろうと思って行った・・・
五十両やったのは俺だい・・・
あ、兄貴だってんですか?
弱いもの相手にやりたい放題・・・
癪に障る野郎だ、なんとかしてやらねばと思って盗みに入って取った金三百両・・・
刻印がついてるとは思わなかったな・・・
あくる日の出来事だい、盗んだ金を調べる間もなかった・・・
で、あとは世間にまいちまった・・・
早え話があの坊主にしじみ売らせてんのは俺だい・・・
でもさ、姉さんのこと兄貴は助けたんじゃないすか!
まあそうかもしれないが、若旦那っていう男だよ・・・
口割れば済むのを、恩をあだで返せないって口割らずに牢屋の中にいるんだから・・・
聞かなきゃよかったな・・・
兄貴!!兄貴はいいことしてんのにそんな・・・
しょうがねえやな・・・
なあ熊、年貢の納め時だな・・・
いまさらながら名乗って出るか・・・
兄貴!!戻って来れねえよ
兄貴の助け待ってる人もたくさんいるのに!兄貴がいなかったらその人たちはどうなるんだよ!!
お前が救ってやるんだよ・・・
兄貴~!!
なんだってこんな場所で聞いちまったかな・・・
俺ぁ俺のために牢屋で歯食いしばって耐えてる奴のこと知ってて、枕高くして寝れるほど根性はねえからな・・・
ここらでおわりだ、行こうか・・・
そんな兄貴・・・
いいからよ・・・
おう親父!ありがとうな!
あっ!ありがとございました!
おう!銭はここに置いた
え?いやこんなにもらえないですよ!
いいってことよ、また今度来た時な、頼むよ・・・
そうでございますか・・・ありがとうございました!
お気をつけて・・・
店の主の声を背中に受けて表に出てまいりましたこの男・・・
江戸は文政年間。
九十九の屋敷に忍び込みまして三千両もの金を盗み出し、 世間の貧しい人々に分け与えたところから、義賊と言われました
ご存じ鼠小僧次郎吉・・・
寒いな、また雪か・・
シャバで見る雪はこれで見納めかもしれねえな・・・
兄貴~!行かなきゃならねえのかよ~!
ああ、人のために行くんじゃねえ・・・
自分のために行くんだよ・・・
ああそうだ、これから別れたらよ俺の家行ってくれ・・・
奥の六畳間、畳をあげるとでっけえ袋の中にさらに袋が二つある・・・
勿論金だ・・・
お前が世間にばらまいてやってくれ、頼んだぞ・・・
兄貴!俺が代わりに行く!俺が代わりに・・・
わかったわかった、大きな声出すなよ・・・なっ?
お前が今そう言ってくれただけで十分だ・・・
もし俺たちのやってることが間違ってなけりゃ、お天道様が必ずまた俺たちを引き会わせてくれる・・・
それ楽しみに生きようや・・・
じゃあ、あばよ・・・
おじさ~~ん!おじさ~~ん!
おう?坊主?どうした坊主!?
あんまりうれしかったもんで、ざる置き忘れて帰っちゃった!!
なんだ、おう坊主、しじみ屋がざる忘れたらなんねえからな・・・
大事な商売道具だ・・・あったか?
ありました!
おじさん、おじさんのこと忘れないよ・・・
おう、おじさんもお前のこと忘れない・・・
そうだ坊主、近々いいことあるぞ・・・
え?
ど、どんないいこと?
そうだな、お前さんがもう、しじみも売らなくてもいいくらいだな・・・
あ!わかった!
わかった・・けどさ・・・
でもなんかいくらなんでもおじさんに悪いな・・・
悪いなって・・お前・・・
俺が何をするのか知ってんのかい?
知ってるよ!
あたいの代わりにしじみを売ってくれるんだ
しじみ売りを聞くなら「立川志の輔」
立川志の輔の「しじみ売り」は、しじみを巡る庶民の暮らしと哀愁を描いた温かみのある一席です。志の輔の繊細な語りが、登場人物たちの人間模様を丁寧に紡ぎ、心に沁みる物語を作り上げます。笑いと感動が交錯する、聴き応えのある作品です。
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