予期せぬこととというのは生きていれば誰でも体験することだと思いますけれども・・・
しかしこの予期せぬことが起こる確率というのは、人それぞれでだいぶ違うようでございます・・・
海外を転々とされる方であれば、色んな人種に会うわけですから、知らない言語やわけのわからん部族に絡まれるということもあるでしょうから、それだけ予想してないことも起きやすい・・・
反対に、毎日自分の家で仕事をしたり、ゴロゴロしたりしている人は何にもそういう出会いがありませんから、大体全てが予想通りに動いていきそうなもんですな・・・
やはり自分でわけのわからない状況の中に入って行くと最後には予想してないことが起きそうなもんでございます・・・
あ～あ・・・どっかに仕事はないかなぁ・・・
いつまでも遊んでるわけにはいかねえやなぁ・・・
昨日またおっちゃんに怒られた・・・
『いつまでぶらぶら遊んでるんだ！25にもなって』って・・
悔しいから言い返してやったんだ・・・
『誰が２５だ！俺は２８だ！』ってなことを言ったらますます怒っちまったなぁ、へへへっ・・
けどまあ言い訳するわけじゃないけれども、俺に向いてる仕事というものがないんだよなぁ・・・
まずこんな体だ、力仕事はだめだ・・・
それからあまり賢くないから、難しい責任を持たされるような仕事もだめだし・・・・
口下手だから人と話すような仕事もできない・・・
それから朝が弱い！
10時頃くらいから仕事にかかって、美味しい昼ご飯がついて、昼寝したい時にはできて・・・
夜遅いのもだめなんだよなぁ！
16時くらいに仕事が終わって！まあこれだけの仕事だから贅沢は言えないな！うん・・・
贅沢は言わないけれども、給料は一日に・・三万円くらいがいいなぁ・・・
これだけしか条件がないのに、なんで仕事がないのかねぇ・・・
ん？なんか張り紙がしてあるぞ？なになに・・・
『若い男募集！誰でもできる簡単な仕事？一日三万円・・・』
いいな・・・やってみようかな・・・
難しい仕事だったらあれだからちょっと言って聞いてみるか・・・
ってんで、男は張り紙に書いてある住所へと向かった・・
ん？ここ・・・動物園じゃないか！
まあいいか・・聞いてみよ！
こんにちわ～！こんにちわ～！
はいどうぞ・・開けて中へお入り・・・
どうも・・・あの表の張り紙を見て来たんですけれども、あの若い男募集って書いてた！
へ？
・・・あ！あれを見て！？あぁ！そうですか！
さあさあ入って来て下さい！そこに座って座って！
私がこの動物園の園長の山田と申します、さっそく面接を始めますが・・・
あなたお歳は？
歳？２８です！
ほぉ、いいですなぁ・・・それで体は丈夫ですか？
体？あまりいいとは言えないです・・・
ふむ・・・よろしいよろしい・・・今からすぐ働けますか？
今からすぐ！？えぇ、大丈夫です！
素晴らしい・・・あなた雇います
へ？それで面接終わり？それで一日三万円って本当ですよね？
はい、間違いありません！ちゃんとその日ごとにお支払いします
あぁそうですか・・・それで私の仕事というのは？
今からお話します・・・
実はつい先週のことなんですが、うちの人気者の虎が死にましてな・・・
虎が死にましたか！
えぇ、それが子どもたちに大人気の虎でした！分かりますよね？
ええ・・・
我々からすると子どもたちを悲しませたくないんですよぉ・・・分かりますよね？
へえへえ・・・
だからあんたが虎になるんです！分かりますよね？
へえへえ・・・
へ？私の仕事は？
虎です！
無理です・・・私人間ですので・・虎の経験ないので！
何も本当の虎になれと言ってるわけじゃない・・・
虎の毛皮を着るんだよ！
虎の毛皮ですか？
そうそう、『虎は死しても皮残す』なんてことを言う・・・
死んだ虎の皮だけを残しました・・・
そこで違う虎が動物園に来る間だけ、あなたに中に入ってもらうとこういうわけなんです
あぁなるほど・・本物の虎の代わりに偽物を見せるということですか？
ゴーストライターならぬゴーストタイガーですなぁ！
そんなうまいこと言わないでもいいんですよ・・・
まあちょっとの間だけですから！あんたに中に入ってもらいます
はあそういうわけですか・・・
でもねぇ！あたしにも仕事の条件ってものがありますから！
ほう・・・仕事の条件というと？
まず力仕事はダメです・・・
力はいりません・・・
いりませんか？
ええ、檻の中をぐるぐる歩いてもらうだけでよろしいです
あぁ、そうかぁ・・・あまり賢くないんでね！
賢い人は虎になりません・・・ぴったり！
あぁどうも・・・あ！あたし口下手で！
しゃべったらいけません・・・虎の方が口下手です・・・
あぁ、そうかぁ・・・朝が弱いんでね！
10時開園です・・・
あ！夜も弱い！
16時で閉まります・・・昼ごはんもついて三万円、どうです？
やりますやります！あたしにピッタリの仕事です！虎になります！
本当に！？そんな人日本中探してもいないと思っていました！
あぁよかったよかった！
それじゃあこの虎の毛皮を！よっこいしょっ！
うわぁ！ふわっふわですなぁ・・・
それじゃあ着させてもらいます！
足から・・・よいしょ・・・
次は手をこう入れて・・・ああここはチャックで締めるんですね・・・
次は頭を・・・はぁでっかい頭！
よいしょよいしょ・・・ほぉ、虎だ・・・俺は虎だ！
わぉぉぉ・・・わぉぉぉぉぉ！わぉぉぉぉぉぉぉぉ～～～～ん！！
遠吠えはしなくてもいいんですよ・・・
さあさあじゃあ檻の中へ入って入って、あぁ、頭気を付けてね？
入りましたね？それじゃカギ閉めますんで！
ちょちょっ！なんで鍵締めるんです？
いやお客さんが信用するじゃないですか
ああなるほど・・・それであたしはここで何をしたらいいんですかねぇ！？
何もしないで檻の中歩いてもらうだけでよろしいです・・・
歩くだけ！？歩くだけでいいんですか？どうやって歩けばいいんですかね？
不器用な人ですな・・・虎は歩くときにはコツがあるんですよ・・・
足と頭を反対に持っていくんですよ・・・よろしいですか？
１・・２・・３・・のリズムをとって・・・
１、２、３・・・１、２、３・・１、２、３・・・
ほお！うまいですなぁ！あんたが虎をやりなさい！
何を言ってるんですか・・・あなたがやるんです！
あぁ・・・そうですか・・・あの山田さん？
なんですか？
お昼ご飯はどうなってますかね？
ああ、ちゃんと時間になったらエサを放り込みます！
エサ？人が食べるもんでお願いしますよ？
あ！それから山田さん！？
あんまり虎が山田さん山田さん呼ばないで下さい・・・
不自然ですから・・・どうしたんですか？
あの～虎はここでたばこ吸ってもいいですか？
あんた頭おかしいんじゃないですか？
虎がたばこ吸いますか？辛抱してください！
そうですか・・・辛いなぁ・・・
あの山田さん！
もうなんですか！？
虎はおしっこするときは片足あげるんですか？
しょうもないこと聞かないでくださいよ・・・
トイレはあの小さな岩谷のとこで隠れてやってください・・・
それじゃあそろそろ開園時間ですからお願いしますよ？
分かりました！それじゃあまたなんかあったら山田さ～ん！って呼びます！
呼んじゃいけません！がんばってやりなさい！
ははは！まさか虎になるとは思ってなかったなぁ・・・
ほぉ～！たくさん人が入ってきたぞ！？
おお？ずいぶんと人が集まってきたな、人気があったんだな、この虎は・・・
おお、子どもたちがたくさんだ、ははは、子供らがなんか言ってるぞ？
なになに？この虎怖い？へへへ、怖いだろぉ・・・
おっ、こっちでもなんか言ってるなぁ・・・
なになに？石を？ぶつけてやれ？・・・悪いガキだなぁ・・
ちょっと脅かしてやるか・・・
うぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・
ワン！
間違えた間違えた！虎はワンとは言わないぞ！
はぁ～・・この女の人綺麗だなぁ・・・足長～、スカート短いなぁ～・・・
虎が痴漢で捕まることはないよなぁ・・・
へへっ・・・覗いてしまえ！
いい仕事だぁ・・・へへへ・・・
それにしても腹がへったなぁ、昼まで待てないぞぉ・・・
あっ、あの子美味そうなパン食ってるなぁ・・・
腹減ったなぁ・・・パン食いたいなぁ！
うぅぅぅぅぅ・・・わぅぅぅぅぅぅ！・・・パンくれぇ・・・
・・・おかあちゃん！？今この虎パンくれって言ったよ？
何を言ってんだよおまえは・・・虎がしゃべるわけがないじゃない・・・
言ったんだよ！
言うわけない！
言ったって！
わうぅぅぅぅぅ・・・・言ったぁ・・・・
ほらほら！
パンあげてみるわ・・虎さ～ん、はいっ
わぅぅぅぅぅぅ・・・ありがとうぉ・・・
頭が邪魔で食べられない・・・いいや！
手で掴んで食べてしまえ！メリメリメリメリ・・・
おかあちゃん！この虎、顔の中から顔が出てきた！
ピンポンパンポーン・・・
ご来場の皆さまに申し上げます！
虎の檻の前にお集まりください！ただいまよりショーが始まります！
ショー！？聞いてないな・・・
俺はなんにもできないぞ？誰だ？マイク持って出てきた！
さあ！本日はご来演いただきまして、厚く御礼申し上げます！
ただいまより当動物園が誇る一大猛獣ショーをご覧に入れます！
あそこにおりますライオンを！虎の檻へと放ち入れます！
どちらにも朝からエサは与えておりません！
密林の王、虎と百獣の王ライオン！いかなる死闘激闘が展開されましょうか！
どちらかが殺されるまでこの戦いは続きま～す！さあどうぞ～～～！！
聞いてない聞いてない！！開けたらダメ開けたらダメ！！
ちょっと山田さ～～～ん！！！助けて山田さーーーん！！！
うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・
がぁぁぁぁぁぁ！！！
いやぁぁぁぁ！！あっち行ってあっち行ってぇ！！
殺されるぅ！！食われてしまうぅ！
三万円は安いこれじゃあ！助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ！！
心配すんな・・・・俺も三万円で雇われた・・・
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