落語【紙入れ】台本 吹き出し風

落語 台本

昔はよく呉服屋さんですとか小間物屋さんなんかが、若い連中にお得意廻りをさせるってと、中にはそそっかしいおかみさん連中かなんかが、こういう若い連中となんか妙なことになってしまうことがよくあったようなそうですな・・・

紙入れを聞くなら「古今亭志ん朝」

上品な江戸弁と小気味の良い語り口が特徴の古今亭志ん朝。まさに江戸の「粋」な人物が表現され、落語初心者にとっても理解しやすい。その上品さから、若旦那な花魁などの色っぽい落語も得意とし、紙入れは、そんな古今亭志ん朝の良さが詰まった一席。

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新吉
新吉

う~ん・・弱っちゃったなぁ・・・

新吉
新吉

あそこのご新造から手紙もらっちゃったよ・・・

新吉
新吉

今夜旦那はお帰りにならないから来てくれってんだ・・・

新吉
新吉

行かれるわけねえじゃねえかなぁ・・・

新吉
新吉

あそこの旦那にはひとかたならねえ世話になってるんだ・・・

新吉
新吉

『新吉!困ったことがあったら、わき行くなよ!?俺ん所に来いよ!どんな相談にでも乗るぜ!』

新吉
新吉

って我が子のように可愛がってくれてるんだよ?

新吉
新吉

行けるわけがねぇ・・・

新吉
新吉

でもねえ・・・

新吉
新吉

『今夜来てくれないときには、こちらにも覚悟があります』って・・・

新吉
新吉

これは穏やかじゃねえやなぁ・・・

新吉
新吉

あのご新造のことだから、行かねえってと意地悪するんだろうねぇ・・・

新吉
新吉

番頭さんがそう言ってたよ?

新吉
新吉

『お得意様先の奥様に可愛がられなくちゃいけねえぞ?』

新吉
新吉

『もし可愛がられていれば、旦那しくじってもちゃんととりなしてくれる・・・

新吉
新吉

『男というものは女の言うことをちゃんと聞くもんだけども女はそうはいかない』

新吉
新吉

『いったんしくじってしまったら、いくら旦那がとりなしてくれても許しちゃくれないから、奥様には可愛がられてろよ!』

新吉
新吉

ってそう言われてんだよなぁ・・・

新吉
新吉

そうだ・・・

新吉
新吉

じゃあちょっと行ってすっと帰って来よう・・・それならいいだろう!

ってんで奴さん妙な心もちで浴衣を着たまま湯に入っちゃったようなへんてこな気持ちで・・・先方へ出掛けて行く・・・

ご新造
ご新造

あらまぁ・・・どうしたんだねぇ・・・

ご新造
ご新造

ちっとも飲んでないじゃないか・・・

ご新造
ご新造

ね、新さん?もっと、ね?お飲みよ、ね?お飲みよ!

新吉
新吉

い、いやぁもう結構でございます、もう充分にいただきました・・・

新吉
新吉

あたくしお酒は弱いもんですから酔っ払っちゃいますんでもう結構でございます・・

ご新造
ご新造

いいじゃないかぁ、酔ったらあたしが介抱するよ?

ご新造
ご新造

ね?もっとお飲みよ・・・

新吉
新吉

いえ!もう本当に結構でございます、遠慮はいたしません・・・

新吉
新吉

それにもうだいぶ遅くなりましたから、もうこの辺でそろそろ・・・

ご新造
ご新造

帰るのかい?やだよぉ・・・

ご新造
ご新造

婆やも帰しちゃったしさぁ・・・

ご新造
ご新造

うちにはあたし1人っきりなんだよ?

ご新造
ご新造

寂しいから今夜・・・

ご新造
ご新造

泊まってっておくれよ・・・

新吉
新吉

え・・・

新吉
新吉

と、とんでもありませんよ!泊まるなんて!

新吉
新吉

旦那の留守に伺ってこうしてお酒いただいてるだけでもいけないことなんですから!

新吉
新吉

泊まるなんてそんなのとんでもありませんよ!あたくしは帰りますよ!

ご新造
ご新造

そんなこと言わないでいいじゃないかぁ・・ね?

ご新造
ご新造

手紙に書いてるけど本当にお帰りにないんだよ・・・

ご新造
ご新造

箱根へお仲間と一緒にお出かけになってね、明日じゃないってとお帰りがないんだから、ね?

ご新造
ご新造

お前さんがここへ来てんのを知ってんのは、お前さんとあたし二人だけなんだから!

ご新造
ご新造

ね?

ご新造
ご新造

二人が喋らなきゃ分かんないんだからさ!

ご新造
ご新造

いいじゃないかぁ・・・ねぇ・・

ご新造
ご新造

お前さんが帰った後にだよ?急に泥棒でも入ってきたらどうすんの?

ご新造
ご新造

お得意様に何か間違いがあってもいいってのかい?

新吉
新吉

え?いや、そりゃあいいとは思いませんけれども・・・

新吉
新吉

あたしがいた方が間違いが起きそうな気がするんです・・・

ご新造
ご新造

何を言ってんだねぇ・・・

ご新造
ご新造

いいじゃないかぁ・・ねぇ・・・新さん・・

ご新造
ご新造

あたしに恥をかかせないで!ね?

ご新造
ご新造

どうしても帰るってんだったらいいよ?あたしにも考えがあるから・・・

ご新造
ご新造

旦那が帰ってきたら『旦那の留守に新さんが来て私に言い寄った』ってそう言うよ?

新吉
新吉

冗談言っちゃいけませんよ!とんでもない!あたしは・・・

ご新造
ご新造

だからそう言うってんだよ!どうすんの?

ご新造
ご新造

あたしの言うことと、新さんの言うこと、うちの旦那どっちの言葉を信用するかってやつだよ・・・

新吉
新吉

そ、そんなこと言われたら困りますよ!や、やめてください!

ご新造
ご新造

言うよあたしは!どうしたって・・

ご新造
ご新造

それが嫌だったら泊まってっておくれ?どっちにすんの?どっちにすんだよ!

新吉
新吉

ど、どっちにって・・・困っちゃったなぁ・・

新吉
新吉

ど、どうしたらいいんです!?

ご新造
ご新造

いいじゃないかさぁ、ここまで来ちゃったんだから・・男らしくない・・

ご新造
ご新造

はっきりおしよ!今夜泊まってきな!

新吉
新吉

う、う~ん・・・

なんてんでどうしていいか分からない・・・もうこうなるってとやけですな・・・

仕方がない、しらふじゃとてもいられないってんで、湯呑二、三杯でもってきゅ~っとやっちゃった・・・

空きっ腹にやったもんですからすっかりいい心もちになっちゃった・・・

それを通り越して気持ち悪くなっちゃった・・・

ご新造
ご新造

どうしたの?え?気持ちが悪い?

ご新造
ご新造

しょうがないねぇ、いきなりあんなに飲むからだよ・・・

ご新造
ご新造

ちょっと横になるってと楽になるよ?こっちおいで!

次の間をすっと開けるってと、ちゃんと床が延べてあります・・・

ご新造
ご新造

さっ、早く着物を脱いで横になんなさい!

ってんで、新吉を横にしておいてご新造が、お膳をすっかりきちっと片づけまして・・・

あと裏の閉まりをあらためて、自分も着物を脱ぐってと長襦袢になる・・・

鏡台の前に座って鼻の頭をみっつばかりぽんぽんっとはり倒しておいて、顔の左右をあらためて、んっとうなずいたりなんかして・・・

襖をすっと開けて・・・

ご新造
ご新造

新さ~ん・・・

ってんで布団の中へ入ってきた・・・

ドンドンドン!

旦那
旦那

今戻りましたよ!!ちょいと開けておくれ!今戻りましたよ!

ご新造
ご新造

あらっ!ちょいと新さん!大変だよ!旦那お帰りになったよ!

新吉
新吉

へっ!?だって今夜は旦那お帰りにならないってとそう言ってたじゃないですか!

ご新造
ご新造

だってしょうがないじゃないか!表でもってああやって、待ってらっしゃるから!

ご新造
ご新造

さあさあ、早く起きて!着物を着て裏から逃げるんだよ!?裏から逃げて!

ご新造
ご新造

いいかい?今あたし履物取って来るから!

ご新造
ご新造

すぐに支度をするんだよ?もう~本当に・・・

ご新造
ご新造

何をしてんだよ~!まだそんなことをしてんのかい!?

ご新造
ご新造

早くさぁ!羽織の紐なんかどうだっていいんだよ!さあ早く裏へ逃げんの!

ご新造
ご新造

そっちじゃない戸棚開けちゃってどうすんだよ!そっちじゃないこっちだよ!?

ご新造
ご新造

何をしてんだい、そんなところぐるぐる生えずりまわってんの!?こっちへ来なさいっての!!

ご新造
ご新造

柱へ登ってどうすんだよ!本当にもう・・・

ご新造
ご新造

こっちにおいでよ!

ってんで、手を取って裏からぽ~んと表へ出された・・・

奴さん夢中になってうちへ出てきた・・・

新吉
新吉

はぁ・・・はぁ・・・

新吉
新吉

あぁ~怖かった・・・よせばよかった・・・

新吉
新吉

どうして俺行っちゃったんだろ・・・行かなきゃよかったなぁ~!

新吉
新吉

あぁ・・嫌な心もちだ・・まだドキドキしてるよ・・・

新吉
新吉

見つかんなくてよかったなぁ・・・

新吉
新吉

はぁ・・着物はちゃんと着てきたろ?

新吉
新吉

煙草入れは、あるね・・・紙入れがここに・・・

新吉
新吉

あれ?・・・ここに紙入れが・・

新吉
新吉

紙入れがない!

※紙入れ・・・現代で言うところのお財布

新吉
新吉

そうか!・・・床の間のとこにおいて来ちゃった・・・

新吉
新吉

着物を脱いだ時にすっとそこに置いてそのまま横になっちゃったんだ・・・

新吉
新吉

慌てて着物を着てそのまま出てきちゃったんだ・・

新吉
新吉

まずいなぁ!・・・あれ旦那よく知ってんだよ・・・

新吉
新吉

旦那にこないだ買ってすぐに見せたんだから・・・

新吉
新吉

旦那にいいでしょ?って言ったら

新吉
新吉

『あぁ!今時中々こんなものは手に入らねえぞ!大事にしろよ!』って言われたんだ・・・

新吉
新吉

『なんだい!新吉が来てたじゃねえか!』ってこういうことになる・・・

新吉
新吉

まずいねぇ・・・

新吉
新吉

だけどなぁ、お勘定取りに来てて、忘れてっちゃったんですって言えば・・・・

新吉
新吉

でもなぁ・・・

新吉
新吉

こりゃだめだ、ご新造からもらった手紙をあの紙入れには挟んであるんだ・・・

新吉
新吉

『新吉の紙入れじゃねえか』ってんで持つ途端にぽろっと落ちて読まれちゃそのまんまだ・・・

新吉
新吉

はぁ・・・店へ談じ込んでくるよぉ・・・

新吉
新吉

あぁ~あ・・・しくじっちゃったなぁ・・

新吉
新吉

せっかく一生懸命やってきたのにつまんねえことでしくじっちゃったなぁ・・・

新吉
新吉

とてもいられねえや・・・

新吉
新吉

夜逃げしよう・・・だけどなぁ、悔しいねえ・・・

新吉
新吉

そうだ・・ことによると旦那、あの紙入れ見ねえかもしれないよ?

新吉
新吉

こっちにお座敷でもって飲んでて、そのまんま酔っ払ってすっとお休みになる、気が付かねえ・・・

新吉
新吉

これはご新造が分からないようにちゃんとどっかにしまっておいてくれる・・・

新吉
新吉

分かんないのに逃げることはねえやなぁ・・・明日の朝行ってみよ・・・

新吉
新吉

おはようございます!って言って

新吉
新吉

『てめえはなんて野郎だ!!』って言われたら

新吉
新吉

さようなら!ってそれから逃げたって遅くねえやなぁ・・・

新吉
新吉

そうしよ・・・

なんてんで、奴さん、一晩中まんじりともいたしません・・・

あくる朝早く起きるってと旦那のうちの前へやってきた・・・

紙入れを聞くなら「古今亭志ん朝」

上品な江戸弁と小気味の良い語り口が特徴の古今亭志ん朝。まさに江戸の「粋」な人物が表現され、落語初心者にとっても理解しやすい。その上品さから、若旦那な花魁などの色っぽい落語も得意とし、紙入れは、そんな古今亭志ん朝の良さが詰まった一席。

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新吉
新吉

ご新造が起きてて、旦那が寝ていてくれりゃいいんだけどなぁ・・・

新吉
新吉

どうなってるかねぇ・・・

新吉
新吉

あっ・・旦那起きてるよ・・・早いねえこちらの旦那はねぇ・・

新吉
新吉

商人の鏡だなぁ・・火鉢んところでたばこ吸ってるけれども・・・

新吉
新吉

なんか考え込んでるなぁ・・・

新吉
新吉

あれは紙入れ見つけた顔かな?それとも商売のこと考えてるのか、どっちだろうなぁ・・・

旦那
旦那

ふぅ~・・・

旦那
旦那

どなたです?のれんの間からのぞき込んでなんか言ってるのは?

旦那
旦那

ご用がお有りでしたらこっちへお入りなさい!

新吉
新吉

見つかっちゃった・・・まずいなぁどうも・・・しょうがねえや・・・

新吉
新吉

お、おはようございます!

旦那
旦那

なんだおい!新吉じゃねえか!こっち来ねえな!

新吉
新吉

へぇ・・・

旦那
旦那

上がんなよ!

新吉
新吉

へぇ・・・おはようございます・・・

旦那
旦那

なんだよおめえ・・・どうしたんだよ・・

旦那
旦那

いつも自分の家みてえにずかずかずかずか上がり込んでくるやつが、今日はいつもと様子が違うじゃねえか!

旦那
旦那

どうしたい?なんかあったのかい?

新吉
新吉

なんか・・・

新吉
新吉

ありませんでしたか?

旦那
旦那

こっちが聞いてんだよ!

旦那
旦那

えぇ?どうしたんだい?

新吉
新吉

えぇ・・実はそのぉ・・・

新吉
新吉

暇乞いに上がったんでございますが・・・

※暇乞い(いとまごい)・・・ 別れを告げること

旦那
旦那

暇乞いだぁ?朝っぱらから寂しい話だね・・・

旦那
旦那

どうしたんだい?

新吉
新吉

へぇ・・・どっかへ逃げようかと思いまして・・・

旦那
旦那

なんかあったのかい?

新吉
新吉

へい・・居られなくなっちゃったんです・・・

旦那
旦那

店の金でも使い込んだのか?

新吉
新吉

いえそうじゃないんです・・・

旦那
旦那

おめえはそういうことするやつじゃねえやなぁ・・・う~ん・・・

旦那
旦那

ははぁ・・・まさかおめえことによるってと女じゃねえか?

新吉
新吉

へぇ・・・そうなんです・・

旦那
旦那

そうかぁ・・へへっこの野郎!朝っぱらからのろけに来やがったぁ!

旦那
旦那

なぁ!いいよ!やんねえやんねえ!若いうちだよ!

旦那
旦那

歳をとったらいくらいい銭使ったっていい顔されねえや!

旦那
旦那

おめえなんざそっぽはいいんだし、働きもんだ!女が放っておくわけがねぇ!

旦那
旦那

結構だよ!やんねぇやんねぇ!

旦那
旦那

へへっ・・・あぁ、でも居られねぇ・・・

旦那
旦那

あぁ!そうか分かったぞ!おめえどっかのお嬢さんとできたな?

旦那
旦那

親にどうしても許してもらえねえってんで、しょうがねえ!

旦那
旦那

二人してどっかへ逃げちまおうって寸法だな?そんなところじゃねえのか?

新吉
新吉

いえ、お嬢様じゃないんです・・・

旦那
旦那

違う?ふ~ん・・・

旦那
旦那

なんでいその相手は?何者だよ?言ってみねえはっきりと!

旦那
旦那

ことによるってと俺が間に入ってまとめてやろうじゃねえか!

新吉
新吉

それは・・・だめなんです・・・

旦那
旦那

なんだ、だめなんですってんのは!俺だってそれぐらいの口は・・・

旦那
旦那

ははぁ・・・ことによるってとその相手は主ある華じゃねえか?

旦那
旦那

誰かの持ち物じゃねえか?どっかのかみさんじゃねえかってんだよ!

新吉
新吉

へぇ・・・

新吉
新吉

そうなんです・・・

旦那
旦那

新吉!!そりゃあ良くねえぞ!?

新吉
新吉

どうもあいすいません!勘弁してください!ごめんください!どうもすいません!

旦那
旦那

そんなところでぺこぺこ謝ったってしょうがねえじゃねえか!

旦那
旦那

おめえそりゃあよした方がいいや・・・

旦那
旦那

『人の女房と枯れ木の枝は登りつめたら命懸け』ってんだ、ろくなことはねえぞ?

旦那
旦那

よしなよしな!

旦那
旦那

で、どこのかみさんなんでい・・・

新吉
新吉

へぇ・・・それが・・あたしのあるお得意先のご新造なんです・・・

旦那
旦那

ふむ・・・

新吉
新吉

旦那にもだいぶ可愛がってもらってるんです・・・

旦那
旦那

だったらおめえ、なおさらそんなことしちゃ済むめえ・・・

新吉
新吉

へぇ・・・ですけどご新造から手紙もらったんです・・・

新吉
新吉

『今夜旦那がお帰りがないから来てくれ』ってんで、行ったんですよ・・・

旦那
旦那

そんなことでもって行くことはねえじゃねえか!

旦那
旦那

行っちゃすまねえと思わなかったのか?

新吉
新吉

思ったんですけれども、もし来ない時にはこちらにも覚悟があるって書いてあるんです・・・

旦那
旦那

ふ~ん・・・それで行ったのかい?

旦那
旦那

それでどうした?

新吉
新吉

行ったら、婆やもいないしご新造が1人っきりなんです・・・

旦那
旦那

ふむふむ・・・

新吉
新吉

それでお酒の支度がしてあって、飲めって言うんです・・・

旦那
旦那

向こうのかみさんが?飲めって?

旦那
旦那

ふふっふふふ・・・

旦那
旦那

うまくやりやがったなぁ!で、どうした?

新吉
新吉

ちょっと飲んで帰ろうと思ったんです・・・

新吉
新吉

したら泊まってけってんです・・・

旦那
旦那

泊まってけって!?

旦那
旦那

ふ~ん・・で、どうした?

新吉
新吉

あたくし断ったんですけれども、『もし泊まらないと帰ってきたら旦那にあることないことしゃべる』ってんですよ・・・

新吉
新吉

あたくしのっぴきならなくなって、それで・・・

新吉
新吉

泊まることになったんです・・・

旦那
旦那

おめえが!?ふむふむ・・・

旦那
旦那

まあそうなるわなぁ!しゃーねえや!その場合だったら俺だって泊まるよ!

旦那
旦那

で、どうした?

新吉
新吉

それであたしが先に布団に入ってたら、そのご新造が長襦袢一つになって・・・

新吉
新吉

すぅ~っと入ってきたんです!

旦那
旦那

ふんふんふん!!それでそれで!?

新吉
新吉

そしたらそこへ旦那が帰ってきたんです・・・

旦那
旦那

間抜けな所に帰って来やがったねぇ!

旦那
旦那

で、どうした!?

新吉
新吉

それで裏から逃がしてもらったんです・・・

旦那
旦那

じゃあ何か?旦那に見つかってねえのか?見つかってない!?

旦那
旦那

そうかそうか!よかった!もう二度と行くんじゃねえぞ!?

旦那
旦那

はぁ・・・そりゃ良かったじゃねえか!

旦那
旦那

見つかれば大変なことになってたんだ!見つかんなかったらいいよ!

新吉
新吉

それで裏から逃がしてもらったんです・・・

旦那
旦那

もし万が一そういう誘いを受けても二度と行くんじゃねえぞ!?今度は!

旦那
旦那

そんなこと、しくじったっていいじゃねえか!うちが付いてるんだよ!

旦那
旦那

心配することはねえ!なぁ!

旦那
旦那

そうかぁ、じゃあなにもおめえ逃げることはねえやな!

新吉
新吉

それがあのぉ・・忘れ物をしちゃったんです・・・

旦那
旦那

何を!?

新吉
新吉

紙入れを忘れちゃったんです・・

旦那
旦那

紙入れ?向こうの旦那はその紙入れはおめえのもんだって知ってんのか?

新吉
新吉

えぇ・・・知ってるんです・・・

旦那
旦那

だけどおめえが勘定を取りに行って忘れて来たとかなんとか言えば!

新吉
新吉

それも考えて見たんですけども・・・

新吉
新吉

そのご新造からいただいた手紙、紙入れの間に挟んであるんです・・・

旦那
旦那

馬鹿だねお前は!

旦那
旦那

そんなもの読んだら破いちゃうとか燃やしちゃうとかするもんだよぉ!

旦那
旦那

後生大事にお札じゃあるめえし、とっておくやつがあるかい!

旦那
旦那

本当にしょうがねえなぁ・・・

旦那
旦那

じゃあその紙入れが見つかったかどうかってところだ!

新吉
新吉

そうなんです・・・

旦那
旦那

見つかったのかい!?

新吉
新吉

・・・ぅ・・・

新吉
新吉

み、見つかったんでしょうか?

旦那
旦那

何を言ってんだよ、どっちなんだい!?

新吉
新吉

そ、そのぉ・・・

ご新造
ご新造

おはよう新さん!

ご新造
ご新造

まぁあなたどうしたんです?二人で心配そうな顔をして・・・

旦那
旦那

え?あぁ、いや新吉がな?

旦那
旦那

どっかのお得意様のご新造にからかわれたらしいんだ、手紙もらって!

旦那
旦那

『今夜旦那が帰ってこれないから来ておくれ』とかなんとか書いてたから、行くことにいたんだと!

旦那
旦那

それで泊まるということになって、布団の中に二人で入る途端に帰って来ねえはずの旦那が帰ってきたんだとさ

旦那
旦那

それで慌てて裏へ逃がしてもらったんだけれどもね?

旦那
旦那

そこのご新造からもらった手紙をはさんだ紙入れを!

旦那
旦那

そのうちに忘れてきちゃったってんだよ!

旦那
旦那

それを旦那に見つけられてやしねえか、それが心配でしょうがねえってんで、野郎の顔見てごらんよ!

ご新造
ご新造

あらまぁ・・本当に・・・

ご新造
ご新造

青い顔してるじゃないの・・・

ご新造
ご新造

新さんまぁ気が小さいのねぇ・・・

ご新造
ご新造

そう~・・そらまぁ心配でしょうけれどもねぇ・・・

ご新造
ご新造

それはあたし、大丈夫じゃないかと思うわ~

ご新造
ご新造

ねぇ?

旦那
旦那

そうかな?

ご新造
ご新造

だって考えてごらんなさいよぉ・・いい?

ご新造
ご新造

まあ旦那の留守に若い人をうちに入れて楽しもうなんて人ですからねぇ・・・

ご新造
ご新造

あたしそういうところに抜かりはないと思いますよ?

ご新造
ご新造

新さんを逃がしちゃってすぐに、その旦那をうちに入れやしませんよ・・・

ご新造
ご新造

なんか見つかっちゃまずいものがありゃいないかってあたりをよく見て

ご新造
ご新造

もし紙入れがあれば、『あ!これは具合が悪い!』ってんで

ご新造
ご新造

ちゃんと旦那に分かんないようにしまってありますよぉ・・・

ご新造
ご新造

大丈夫大丈夫・・・

ご新造
ご新造

ねぇあなたぁ・・・

旦那
旦那

そらそうだなぁ!

旦那
旦那

よしんば見つかったところで、てめえの女房とられるような野郎だよ!?

旦那
旦那

まさかそこまで気が付かねえだろう!

紙入れを聞くなら「古今亭志ん朝」

上品な江戸弁と小気味の良い語り口が特徴の古今亭志ん朝。まさに江戸の「粋」な人物が表現され、落語初心者にとっても理解しやすい。その上品さから、若旦那な花魁などの色っぽい落語も得意とし、紙入れは、そんな古今亭志ん朝の良さが詰まった一席。

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