落語の中に出てくる泥棒というのは、とにかく何をやってもうまくいかないというのがお決まりのようでございますけれども・・・
ある貧乏長屋で、路地に入って来た泥棒が『こんなところはもう何もなかろう』ってんで引き返そうとすると・・・
置泥を聞くなら「立川談志」
立川談志の「置泥」は、騙し合いと人間の欲が絡む、痛快で皮肉な一席です。長屋の男と泥棒の間で繰り広げられる巧妙な駆け引きが、談志の鋭い語りで一層際立ちます。笑いの中に深い洞察を感じさせる、聴き応えのある名作です。
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あれ?戸が開いて・・・
土間でなんか燃えてるんじゃねえのか?
・・・なんだよおい・・・ごほっ!ごほっ!
どんぶり鉢の中で板切れ燃やしてるじゃねえか・・・
俺が入ったから良かったようなものの、また狭くて汚い家だねぇ・・・
真っ暗でよく見えねえけれども・・・
だけどな、こういう所が貧乏暮らしをしながら、金をたんまり貯めこんでるんだ・・・
こっちはおめえ泥棒やって何十年のベテランよ・・・
お、家主か、あんなとこで寝てやがる・・・
おう・・・起きろよ・・・
起きてるよ・・・
わぁっ!起きてたの!?
うん・・・
おめえが覗き込んで入って、火消すところまでず~っと見てた・・・
そしたら黙ってないでなんか言えよ!
自分の家なんだから喋ったって、黙ったって勝手じゃない・・・
まあそらそうだけどよ・・・
出せよ・・・
え?
出せよ・・・
何を?
何をってこの野郎・・・
俺を誰だと思ってんだよ!
知らないよ・・・
だって、初めて会ったんだよね?誰?
俺は泥棒だ!
ダメだよ、大きな声を出しちゃ・・・
この長屋は元相撲取りとか、危ない光物作ってる奴が住んでるんだ
捕まったら八つ裂きにされちまうよ?
大きな声出さない方がいいよ・・・
・・・し、知らねえと思って、いい加減なことばかり言ってんじゃねえぞ?
いやいや本当だってば!嘘だと思うなら、まあいいけど・・・
どうぞ?大きな声出してください・・・
出せば?
とにかく金を出せ・・・
いや出せったってないんだよ・・・
ないわけがねえだろ?貧乏暮らししながら金貯めてんだろ?
ねえわけがねえ、あるはずだよ!
いやおめえが決めるなよ・・・
俺がないとそう言ってるんだから・・・
ないってば!
出さねえのか・・・
そうか、じゃあ今から出せるようにしてやるからな・・・
(刃物を取り出す・・・)
綺麗だな、ぴかぴか光ってるじゃねえか・・・
これが目に入らねえのかよ!
入らねえよ・・・
俺の目は紙くず入れじゃねえからよ・・・
見えねえのかって言ってんだよ!
見えてるよ!わぁ綺麗だなって褒めたろ最初に!
金出さねえとぶち殺すぞ?
本当に?
今まで何人やったと思ってんだ・・・
いいとこ来てくれたよ・・・
俺今生きてるのが嫌で死にてえなと思ってた所なんだ・・・
でも自分で死ぬ度胸もねえからどうしようかなと思ってるところへ、あぁありがてぇ・・・
もう助けると思って殺して・・・
ねぇ~・・・殺して!
お、お前、命を粗末にするんじゃないよ・・・
なんで死にてえんだよ?
いや俺大工なんだけども、博打好きでね?
こないだも道具箱質屋に入れて銭こしらえて、そうそう五円で質入れしたんだよ・・・
そしたら最初は良かったんだけども、すっかり負けちゃってね・・・
もう三日三晩何にも食ってねえんだよ・・・
もう今までもこれからもまた同じようなこと繰り返すんだよ・・・
もうぅ・・・もう生きてたってしょうがねぇからさ・・・
殺せぇ・・・ぐすっ・・・
殺じでぐれぇ~!
真面目に働けよ!
人間は真面目にやってればなんとかなるもんなんだから!
本当にもう・・・働け!
今更言われたってもう遅いよ・・・
道具箱もねえし、仕事もできねえし、もう仕事もできねえ・・・
今からったって・・・
じゃ、じゃあ道具箱がありゃ仕事をすんのか?
ありゃするけどねえしさ・・・ぐすっ・・・死ぬしか・・・
本当に働くんだな?もう博打はやらねえんだな?
・・・五円で質に入れたってそう言ってたよな?
はい・・・
え・・・なにこれ?
五円札だよ・・・
これで道具箱質屋から出せるだろ?
これおめえ・・・だって・・・
そんな見ず知らずの人にこんなことしてもらっちゃ悪いよ・・・
でも死ぬんだろ?前向きに生きろよ!
すまないねぇ・・・本当に?
ぐすっ・・・ありがてぇ・・・
だけどねぇ、やっぱりこれ返すよ・・・
え?だって質屋に・・・
いやあの質屋に持ってったの二か月前でさ・・・
それっきり利息も払ってねえもんだからよ・・・
よせよおい・・・
なんで俺が利息の面倒まで見なきゃいけねえんだよ・・・
いやだから、だからそんなことまでお前に頼めないからさ・・・
だから気持ちだけありがてえなって受け取っておくからさ・・・
殺してぇ~!
・・・利息いくらだ?
二円・・・
金は大事に使えよ・・・
・・・すまねえなぁ・・・本当にいい人だね・・・
とても他人とは思えない・・・
じゃあ悪いんだけども・・・体触って?
なんだ、気持ち悪いな・・・
え?なんだお前裸じゃねえか!ふんどし一本?
腹巻、半纏、股引もみんな質屋に入れちゃっって・・・
これは、利息も込みで二円でいいんだけど・・・
お、お前・・・なんかじわじわくるな・・・
そ、それは・・・それはお前!
だよなぁ・・・ごめん・・・
俺なんか親切されるとすぐ甘えて言いたくなっちゃうんだ・・・
ごめん、そこまで甘えられないよな・・・
この五円も返すから・・・
なんでこんな家入っちゃったのかな・・・
ほら、もう札ねえから細けえけど、2円・・・
ありがとう・・・三日三晩何にも食ってねえんだけど・・・
そうか・・・
じゃあ五十銭あるから、米買って食え・・・
俺おかずの方も好きなんだよ・・・
この野郎!いいかげんにしろよ!?
この最中におかずとか言ってる場合じゃねえだろ?
そうだよなぁ、贅沢言ってる場合じゃねえよなぁ・・・
ぐすっ・・・
俺おかずがないと飯食えねえんだよぉ・・・
うぅぅ・・・
・・・はぁ・・・じゃあほら・・・な?
はい・・・やるから・・・これでいいだろ?
もういいや、ほら!もうみんなやるから!
・・・ぐすっ・・・本当にみんなかな・・・
今財布の底つまんでなかった?
見てたのかよ・・・
ほらっ・・・これで全部だよ!
すまねえ・・・いやでもこれ返す・・・
なんでだよ!?これだけありゃ道具箱質から出して!
着物も全部出して、米買っておかず買って!
いやでもさ・・・明日それで仕事から帰ってきたら・・・
いや明日すぐにお給金もらえるわけじゃないからさ・・・
もう一文無しだよ・・・元の木阿弥だよ・・・
道具箱質に入れて、それで明後日はもう仕事できないから・・・
・・・
・・・そこまで悟られちゃしょうがねえ・・・
・・・ここにな・・・俺がいざって時の・・・
俺がいざって時のためだぞ!?
一円札一枚縫い込んであるんだよ・・・
これやるよ!
悪いなぁ・・・
なんか催促したみたいで・・・
催促したじゃねえか!
大きな声出すなよ・・・
どこ行くの?
帰るんだよ!
あぁ・・・じゃあ気を付けてな・・・
あの路地行くと右行っちゃだめだよ?
右行くと交番があるからね?捕まっちゃうから・・・
今日は捕まるようなことはしてねえんだよ!
大きな声出すなよ!黙ってろよ!
じゃあ気を付けて・・・あっ・・・
ねぇ、あの・・・ちょっと・・・待って・・・
泥棒----!!!
おいおい!大きな声を出すなよ!
なんだ泥棒とは!
いや名前知らないからさ・・・
ちょっと頼みがあるの・・・
俺はもう一文無しなんだよ!
今じゃないんだよ・・・
季節の変わり目にまた来てくれ・・・
置泥を聞くなら「立川談志」
立川談志の「置泥」は、騙し合いと人間の欲が絡む、痛快で皮肉な一席です。長屋の男と泥棒の間で繰り広げられる巧妙な駆け引きが、談志の鋭い語りで一層際立ちます。笑いの中に深い洞察を感じさせる、聴き応えのある名作です。
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置泥を聞いて
金と縁のなさそうな人とは関わらない方がいいですね(笑)
この演目を聴きながら、『ヒモ男』って昔からいたんだなぁ・・・と思いました。
ヒモ男の特徴として
①依存心が強い
置泥に出てきた男のように、ちょっと甘やかした瞬間依存してきます。
②口がうまい
自分が有利な方向にもっていくために、一芝居うったりうまく嘘をつくのが得意です。置泥の男も見事に泥棒の同情を誘いましたね。
③金遣いが荒い
賭け事が大好きで、お米だけでも十分なはずなのに、おかずまで求めてしまう。そんな人は要注意ですね。
④継続性がなくすぐ諦める
道具箱を質屋に入れている時点でどうかとも思いますが、5円もらって道具箱を取り返しても給料その日はもらえないから、また道具箱質に入れるってそんなのは普通は通りませんよね(笑)
泥棒もその段階でもう『ヒモ男に貢ぐ女』になっていたということですね。
⑤非常に短絡的
目先のことしか考えていないので、簡単に賭け事をします。まあ、なんとかなるかはなんとかならないです。
きっとまた男は泥棒からもらったお金で賭け事をして、同じことを繰り返しますね。
最後の『季節の変わり目に来てくれ』というオチの通り、また助けてもらう気満々ですからね(笑)
落語の中では男同士のやり取りでしたが、もう完全に現代で言う『ヒモ男にせがまれて怒りながらも仕方なくお金あげちゃう女子』の場面を切り取ったものです。
古典落語は数百年後の起きることを予言しているのでしょうか?
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