落語【短命】台本 吹き出し風

落語 台本
旦那
旦那

なんか用があるのかいお前さん?

与太郎
与太郎

えぇ!どうしても教わりてぇことがあってやって来たんですがね?

与太郎
与太郎

これから悔やみに行ってくるんですよ!ですから、悔やみの文句を教えてもらいたくって!

旦那
旦那

悔やみの文句なんて、そんなもん誰でも知ってるじゃないか・・・

与太郎
与太郎

だから!決まりきってることをさっと人前で言えれば一人前だっていうけれども全くだね・・・

与太郎
与太郎

あっしはこないだ生まれて初めて悔やみに行ったよ?あんなに 難しいとは思わなかったよ?

与太郎
与太郎

泣いてる後家さんを前にして、『さてこの度は』と頭を下げた・・・

※後家・・夫に死別し、再婚しないで暮らしている女性。

旦那
旦那

うまいじゃないか・・・たいてい悔やみの枕詞は『さてこの度は』だ・・・

与太郎
与太郎

ここまではうまくいった!『しめた!』と思って顔をあげたのがいけなかったね・・・

与太郎
与太郎

お仏壇に美味しそうなものがず〜っと並んでる・・・

与太郎
与太郎

それ見たら思わず『ごちそうさま』って言っちゃった・・・

与太郎
与太郎

泣いてる後家さんが笑い出しちゃってね!?しまらねぇったらありゃしねぇんだよ?

与太郎
与太郎

だから聞いてる相手がポロっと涙が出るような、そんな名文句を教えてもらいてぇと思ってね?

旦那
旦那

そんな名文句なんてものは、私は知らないが・・・

旦那
旦那

ただ悔やみの文句ってのは大体決まっている・・・

旦那
旦那

この度は、悲しい出来事でございます・・・

旦那
旦那

老少不定定めがたきは人の命、若いから死なない、年を取っているから亡くなるというものではございません・・・

旦那
旦那

人には定められた命、定命というものがございます・・・

旦那
旦那

あなたがあんまりお嘆きになりますと、亡くなった方が浮かばれません・・・

旦那
旦那

今後のことをしっかりやっていくことが亡き人への何よりのご供養でございましょう・・・

旦那
旦那

くらいのことを言ってな?あちら様忙しかったら手伝って帰って来ればいいんだ!

旦那
旦那

一体誰がお亡くなりになったんだい?

与太郎
与太郎

あのね!伊勢谷の旦那がまた死んじゃったの!

旦那
旦那

お前は不思議なことを言うね・・・『また』っていうのはどういうことだい?

与太郎
与太郎

いやだからだから!俺ぁ気が短ぇから横っ腹から物を言ったから分からねぇんだ!

与太郎
与太郎

8年くらい前にあそこの大旦那亡くなりましたろ?

与太郎
与太郎

いい人だった・・・仏と言われた方だ・・・

与太郎
与太郎

あの大旦那が亡くなった後でおばあちゃんとお嬢さんが残った!

与太郎
与太郎

一人娘!婿取りだ!これが実にいい女だよ?

与太郎
与太郎

あそこの店が繁盛すんのわね、あのお嬢さんの顔見たさ!

与太郎
与太郎

なんとも言えねぇ非の打ち所がない美人!どんなお婿さんを取るのかな、噂をしているってぇと!

与太郎
与太郎

二人まとまった婚礼の当日!手伝いに行ってびっくりしたね!

与太郎
与太郎

な〜んていい男なんだろう!

与太郎
与太郎

いい男ってのは嫌味があるもんだが、嫌味も何にもねぇし、すっきりして二人並んだらまるで一対のお雛様・・・

与太郎
与太郎

結構だねというので、高砂屋!するってとおばあちゃん安心したものか、十日後にしてこの世を去ってしまった・・・

与太郎
与太郎

夫婦二人だけ、仲はめっぽうよろしい・・・

与太郎
与太郎

と、1年半ほどすると、元々色白の婿さんが白いのを通り越して、抜けるように青くなった・・・

与太郎
与太郎

見舞いに行こうかな?と思ったら死んじゃいましたよ・・・

旦那
旦那

間に合わなかったんだねぇ・・・

与太郎
与太郎

で、あんなお嬢さんがさぁ!1年半で後家さんになっちゃった!

与太郎
与太郎

あれだけの御大家だから二度目のお婿さんをと!お婿さんが来た!

与太郎
与太郎

こりゃあまた驚いた・・・先の亭主に懲りたって言っても二度目の亭主、ありゃなんだい!?

与太郎
与太郎

骨太くて、血なまぐさくて、脂ぎってる・・・

与太郎
与太郎

だからみんなでブリのあらってあだ名をつけたよ?

与太郎
与太郎

あんなブリのあらのブ男と、あんな美人がうまくいくのかなったって、女ってのは不思議だねぇ・・・

与太郎
与太郎

結構だなと思っていると、ブリが今度は鮎になっちゃったよ?

与太郎
与太郎

あらいいかな?と思ったら、寝込んだってんだ・・・

与太郎
与太郎

見舞いに行こうかな?と思ったら、死んだ・・・

旦那
旦那

なんだい、いつも間に合わないんだねお前は・・・

与太郎
与太郎

だって先方が待っててくれないんだもん!

与太郎
与太郎

それで三人前の亭主は、1年半どころじゃないよ、8ヶ月ももたないでおさらばしちまったよ?

与太郎
与太郎

これからあっしは行こうってんだがね?なんだってあそこの亭主は来る亭主来る亭主あんなにコロコロコロコロ死んじゃうのかねぇ?

旦那
旦那

それはお前考えてみればわかりそうなものだよ?

旦那
旦那

女房の器量が良すぎる、夫婦仲が良すぎる、亭主に暇がありすぎる、これを俗に三過ぎると言ってね?

旦那
旦那

大抵亭主は短い命、短命なんだよ・・・

与太郎
与太郎

なんです?その短命ってのは?

与太郎
与太郎

短い命と書いて、短命・・・長い命と書いて、長命・・・

与太郎
与太郎

そんなに仲良いと、亭主は死んじゃうの?

旦那
旦那

良いったって良すぎるほど、いいんだろ?

与太郎
与太郎

それだ!二度目のあのブリのあら!なんだいあの仲の良さ!

与太郎
与太郎

ブリのあらが亭主の時ね、庭の木の枝垂れちゃってるから切ってとくれって頼まれたから、承知しましたってんで、あっしは登って、足かけてノコギリ引いてたよ?

与太郎
与太郎

高いところからひょいっと見たら、障子が少しばかり開いてたから、中が丸見え・・・

与太郎
与太郎

女中さんがすっかり支度してて、女中さんがお支度が出来ましたってとね?

与太郎
与太郎

清ちゃん下がっててください・・・

与太郎
与太郎

もったいねぇ話だ、あのお嬢さんがお給仕をすんだよ?こともあろうに相手はブリのあらだよ?

与太郎
与太郎

お嬢さんが茶碗の蓋をパッと取ると湯気がぽ〜っと出て美味しそうなご飯・・・

与太郎
与太郎

するとお嬢さんが茶碗を持つ・・・箸より重いもん持ったことねぇお嬢さんが茶碗を持つと手首が折れそう・・・

与太郎
与太郎

ご飯をふわっ・・・ふわっ・・・

与太郎
与太郎

変わってんだよあのうちは!あっはっは!ご飯をふわっとよそうんだよ!

旦那
旦那

当たり前じゃねぇか・・・どこのうちだって飯はふわっとよそうんだよ!

与太郎
与太郎

嘘だよぉ!俺んちなんかは兄弟大勢で育ったろ?少なく見せようと思って、叩いたもんだよ?

旦那
旦那

それはお前のうちが変わってんだよ・・・

与太郎
与太郎

あぁそうか・・・なんだい変なとこで恥掻いちゃったなぁ・・・

与太郎
与太郎

よそったものをお嬢さん素直に出さねぇんだよ?脇へ手をついちゃっって、体をガクッと

与太郎
与太郎

あなたぁ〜・・・

与太郎
与太郎

ってね!?色っぽいんだよ〜!?

与太郎
与太郎

するとブリのあらがまるで、終電車が出るような声出しやがってね?

与太郎
与太郎

へぇぇぇぇ〜〜〜!ってなこと言いやがってね?で、手を出すだろ?

与太郎
与太郎

お嬢さんの差し出す手をブリのあらがね、茶碗を持ってるお嬢さんの手を、ぐっと握ってね?

与太郎
与太郎

それでお嬢さんの顔をこう見てね?

与太郎
与太郎

お前・・・昨夜は楽しかったね・・・この世の中なんで野暮な昼間があるんだろうか?

与太郎
与太郎

お前・・・昨夜は楽しかったね・・・この世の中なんで野暮な昼間があるんだろうか?

与太郎
与太郎

おバカじゃねぇかあいつはぁ!この世の中夜ばかりだったらねぇ!お天道様まごまごしちゃうよ!?

与太郎
与太郎

冗談じゃねぇや!昼あっての夜だろうよ!するとお嬢さんが、

与太郎
与太郎

そうねぇ〜なんてなことを言って合わせてやがんだから、いつまで経っても茶碗は二人の真ん中!あっしは気が短ぇからさ!余計なお世話だろうけども!

与太郎
与太郎

早く食え!

与太郎
与太郎

って言っちゃったね!その声が聞こえたどうかは知らねぇがお嬢さんがね?箸の上へご飯粒を三つばかり乗っけてね?

与太郎
与太郎

あなた・・・私が食べさせてあげますから、お口あ〜んしてください・・・

与太郎
与太郎

お口あ〜んって顔か?ブリのあらは!?あいつぁ顔中口だよ?

与太郎
与太郎

あんなものは茶碗ごとぴゅう〜っと投げておけばいいんだよ!飯だけ食べて、茶碗吐き出したらそれでいいんだから!

与太郎
与太郎

それをなんだい、あのでけぇ口をわざわざおちょぼ口にしやがって、おぉぉぉ〜!って!

与太郎
与太郎

するとお嬢さんがぽんっと入れて、素直に入ったわ・・・昨夜みたい♡

与太郎
与太郎

あなた・・・胃にさわるから、噛んで食べてちょうだい・・・

与太郎
与太郎

胃にさわるわけねぇじゃねぇか!ブリのあらはなんだって飲み込めんだから!したらブリのあらが、

与太郎
与太郎

よく噛み噛みしたらおいちぃ〜♡なんてバカなこと言いやがってね?

与太郎
与太郎

あたしはそれ見ながら、ノコギリ切ってたろ?乗ってる間に切っちゃって、落っこちたよ!?腰を打って痛ぇの痛くねぇの・・・

与太郎
与太郎

世の中に仲のいい夫婦がいるなんてのは噂では聞いてる、この目でも見たけども、あんな仲のいいのはねぇよ!?

旦那
旦那

そうだろ?そういう風に仲が良すぎるから早死にするんだよ・・・

旦那
旦那

なぜってわかるだろ?蓋を取るとぽ〜っと湯気が上がってるご飯・・・

旦那
旦那

これをふわっとよそって、形を作って色っぽくあなたと言って差し出す・・・

旦那
旦那

受け取ろうとするブリのあら・・・

旦那
旦那

手と手が触れる・・・ぐっと握れば吸い付くような、白い肌のご本の指・・・あたりを見ると誰もいない・・・

旦那
旦那

顔を見るとぞくっとするほどのいい女・・・

旦那
旦那

早死にだろ?

与太郎
与太郎

分かんねぇな・・・なんでだよぉ!変じゃねぇかよぉ!

与太郎
与太郎

だってよ、そうだろ?差し出すだろ?手と手が触れる?じわじわ死ぬ?

与太郎
与太郎

あ!指から毒が移るんだ!

旦那
旦那

人というのはそんな毒なんてなくともあっという間に逝くんだよぉ!分かんないかねぇお前は・・・

旦那
旦那

川柳にあるだろ?「何よりも、そばが毒だと医者が言い」と・・・

与太郎
与太郎

へぇ〜!そばが毒なのかい?今度うどんにしようかな・・・

旦那
旦那

いやそうではなくてな・・・「新婚は夜することを昼間する」と言うだろう?

与太郎
与太郎

夜すること?・・・あ!あれか!子供作るやつ!?

旦那
旦那

そう!

与太郎
与太郎

なんだよ!そうならそうと最初から言え!そうポン!と言えば俺ぁ勘がいいからど〜んと分かっちゃうんだ!

与太郎
与太郎

あんたがじわじわじわじわ言うからなんだか分かんなくなっちゃうんだよぉ!俺ぁ勘がいいんだから!

旦那
旦那

鈍いよお前は!あたしゃ口を酸っぱくして言ってんじゃないか・・・

与太郎
与太郎

そうか!なるほど!それで短命、早死に!

与太郎
与太郎

よっ!なるほどよく分かりました!ありがとうございました!それじゃあっしはこれで!ごめんなさい!

与太郎
与太郎

なるほどねぇ、無駄に年とっちゃいないね、あの人は!

与太郎
与太郎

ああいうことはぽ〜んと言えばいいんだから!そうすりゃ俺はど〜んと分かっちゃっうんだから!物事分かりやすいんだから!

与太郎
与太郎

それを、茶碗をパッと開けるぽ〜っと湯気が出て、それをふわっとよそう・・・

与太郎
与太郎

なんて言うと、俺は食いてぇな!っと思って分かんなくなっちゃうんだから!

与太郎
与太郎

あ!あんだけ話してたら腹減っちまったな!家帰って飯食ってから、それから行こう!

与太郎
与太郎

おう!今帰ってきたよ!

女房
女房

どこのたくってんだよ!

与太郎
与太郎

お前そういう言い方ねぇだろ?

与太郎
与太郎

亭主が帰ってきたんだ、おかえりなさいくらい言ったらどうなんだい、のたくってるってやつがあるかい!?

与太郎
与太郎

俺飯くいてぇんだよ、飯支度しろよ!

女房
女房

出てるよぉ!

与太郎
与太郎

お前そんなつっけんどんに言うなよ!出てるよったって、二缶ばかり猫の茶碗が乗ってるだけじゃねぇか!

女房
女房

いいじゃないか猫の茶碗だって・・・あんたが食べた後に綺麗に洗っておけば、猫はなんとも言いやしないよ・・・

与太郎
与太郎

俺んちはどっか違ってるよおい!

与太郎
与太郎

それじゃあまりにも味気ねぇじゃねぇか!俺の茶碗よそってくれやい!

女房
女房

うるさいねぇ、女房使えばいいと思ってんだから・・・もう十年早いんだから・・・

女房
女房

ほら貸しな?待ちなっての!本当にあんたは気が短いんだから!今あたしがよそってあげるから!

女房
女房

よっこいしょ!はいっ!

与太郎
与太郎

・・・そりゃお前よそうじゃなくて、すくうってんだよ・・・

与太郎
与太郎

何のためにしゃもじがあんだよぉ!

与太郎
与太郎

何でお前しゃもじでこうやってよそわねぇんだよ!それじゃドブ掃除してるみてえじゃねぇか!

女房
女房

何いってんだよぉ・・・

女房
女房

しゃもじを使うとしゃもじにご飯粒がついて、これ長い間水につけておかないと綺麗に落ちないの!

女房
女房

女の苦労が分かんないんだから・・・何だって口に入れりゃ同じじゃねぇか!

女房
女房

じゃあもうやってあげるよ本当に・・・うるさいねぇ!

女房
女房

よいしょ!よいしょ!パンパンっと!ほら!取れぇ!

与太郎
与太郎

わぁっ!放ったね、お前は・・・

与太郎
与太郎

俺は慣れてるから受け取れるんだぞ!?慣れてねぇ亭主なら向こうへ飛んでっちまう!

与太郎
与太郎

これじゃあ味もそっけもねぇじゃねぇか!頼むからよぉ!脇へ手をついて・・・

与太郎
与太郎

えへへ・・・形作って、色っぽく、あなた・・・ってやってくれよぉ!

女房
女房

バカだねぇ〜!男ってのは外で覚えてきちゃあ女房にやらせんだからくだらないことを!やだやだ本当に・・・

女房
女房

生き恥晒すようなもんじゃないかぁ!生きて町内歩けないよ!?

女房
女房

やらなきゃいけないの?じゃあやるよ!

女房
女房

死んだ気になりゃなんでもできるんだから!貸しな!本当に・・・

女房
女房

どうやんの?こうやって?脇へ手をつくの?・・・こう?

女房
女房

あっはっは!車にひかれた犬ころみたいじゃないか・・・もう早く取って?誰かに見られたら大変だから!

女房
女房

早く!ほら!ワン!

与太郎
与太郎

おいよせよ!そんなことやらないで、あなたぁ〜!って色っぽくやってくれな!

女房
女房

分かったよぉ!あなた〜・・

与太郎
与太郎

なんだいやりゃできんじゃねぇか!あっ!ダメ!引っ込めちゃダメ!

与太郎
与太郎

手と手が触れて、あたりを見ると誰もいない・・・うっふっふっふ・・・

与太郎
与太郎

顔を見ると・・・

与太郎
与太郎

・・・

与太郎
与太郎

・・・俺は長生きだ・・・

短命を聞いて

実に色っぽい?お話でした。この主人公の気持ち、男の私としては、結構共感できます笑

自分が覚えたことを女房にやらせてみたくなる、そういう妄想が頭の中にふわ〜っと広がる・・・しかしながら、この落語【短命】の中では最後のオチのところで、残念ながら、妄想通り、期待通りの展開にはならなかったようですね。

落語には、こう言った色っぽい系のお話もずいぶんあって、同じ落語でも笑わせが違います。今回のようなちょっと下ネタ?のような感じの落語もあれば、完全なバカが出てくる話もあるし、逆に真面目すぎる人が違う方向にいくことで生まれる笑いのお話なんかもあります。

今回のような多少色っぽい系のお話もいくつか紹介しておきますので、そちらもぜひご覧になってみてください。 

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