一言で「お見立て」を解説すると…

吉原の花魁が大嫌いな田舎大尽を追い返すために「死んだ」と嘘をつき、墓参りまでさせてしまう滑稽噺。
主な登場人物

杢兵衛に帰ってもらいたい花魁、喜瀬川です!

喜瀬川花魁に会いたい杢兵衛大尽でがす!

杢兵衛大尽と喜瀬川を会わせないよう嘘をつく若い衆です!
お見立ての詳細なあらすじ
吉原の花魁・喜瀬川は、大嫌いな田舎者の杢兵衛大尽が訪れ、機嫌が悪い。彼は喜瀬川に惚れ込み、「年季が明けたら夫婦になる」と信じ込んでいるが、喜瀬川は全く相手にしていない。
喜瀬川は若い衆の喜助に「病気と嘘をついて追い返して」と頼むが、杢兵衛は「見舞いに行く」と譲らない。困った喜助が「亡くなった」と告げると、杢兵衛は「そうか、帰るか」と納得しかけたが、「墓参りをする」と言い出す。焦った喜助は適当に「山谷」と答えてしまう。
喜助は仕方なく杢兵衛を山谷の墓地へ案内し、適当な墓を「喜瀬川の墓」として見立て、線香の煙で墓石を隠す。杢兵衛が涙ながらに手を合わせるが、煙の合間から戒名を確認すると、全く関係のない名前ばかり。
杢兵衛「一体、喜瀬川の本当の墓はどれなんだぁ?」
喜助「どれでもよろしいのをお一つ、お見立てください」
お見立てを聞くなら「古今亭志ん朝」
上品な江戸弁と小気味よい語り口が魅力の古今亭志ん朝。「お見立て」では、花魁の冷淡さと若い衆の機転、田舎大尽の滑稽さを見事に描き分ける。洒落た会話の妙と軽快なテンポで、江戸の粋な笑いを存分に楽しめる一席だ。
遊郭の「お見立て」とは?

「お見立て」とは、江戸時代の遊郭で行われていた制度の一つで、客が遊女を選ぶ儀式的な行為を指す。遊郭では、一度店に訪れただけで遊女と遊べるわけではなく、特定の手順を踏む必要があった。
- お見立ての流れ
- 揚屋(あげや)での待機
- 客はまず「揚屋」と呼ばれる待合所に通され、酒や料理を楽しみながら待つ。
- 花魁道中や「張見世(はりみせ)」
- 遊女が格子越しに座っている「張見世」で客が顔を見て選ぶ。
- 人気のある遊女ほど直接会うことは難しく、すぐに遊べるわけではなかった。
- 初回は「馴染み」にはなれない
- 高級遊女ほど、一見の客とは直接遊ばず、まずは「お見立て」として顔合わせ。
- 実際に遊べるまでには、何度も通い、信用を得る必要があった。
- 「馴染み」になるまでの過程
- 何度か訪れ、遊女と関係を築くことで、ようやく本格的な遊びができる。
- 揚屋(あげや)での待機
「お見立て」は単なる選択ではなく、客が遊女に認められるまでの儀式的な過程でもあった。遊女の人気によっては、簡単に指名できない場合も多く、特に花魁クラスになると、数回通わないと直接会えないことも珍しくなかった。
落語「お見立て」のオチでは、この「お見立て」という言葉を皮肉に用い、墓の選択に結びつけている点が巧妙である。
花魁とはどこまで仲良くなれるのか?
吉原の花魁は、単なる遊女ではなく、高級な芸者のような立場も兼ね備えており、すぐに親密な関係になれるものではなかった。
- 花魁との距離感
- 一見の客は「お見立て」の段階で顔を合わせるが、すぐに二人きりになれるわけではない。
- 何度も通い、多額の金を使い、「馴染み」になることでようやく個人的な付き合いが許される。
- 花魁とのプライベートな関係
- 花魁は、店の規則に縛られていたため、個人的な外出はできず、私的な恋愛関係を築くのは難しかった。
- ただし、極めて裕福な客が長期間通い続けることで、「馴染み客」として特別扱いされることはあった。
- さらに、稀に花魁と客が「身請け」の形で正式な夫婦関係になることもあったが、それには莫大な金額が必要だった。
- 花魁と客の関係性の制限
- 遊女と客の関係は、基本的に遊郭内で完結するものだった。
- 客が深入りしすぎると、遊郭の規則によって強制的に関係を断たれることもあった。
- 落語「お見立て」のように、客が「夫婦になる」と思い込んでしまうのは、実際にはありえない話である。
つまり、花魁とは単なる遊び相手ではなく、ある種のステータスシンボルでもあった。客は、ただの情事ではなく、花魁との時間を「粋な遊び」として楽しんでいたのである。
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