一言で「三枚起請」を解説すると…

同じ起請文をもらった三人の男が、女郎を問い詰めるも、彼女にうまくかわされてしまう噺。
主な登場人物

喜瀬川から起請文をもらった若旦那、亥のさんです!

喜瀬川から起請文をもらった棟梁です!

喜瀬川から起請文をもらった、おしゃべり清公です!

三人に「夫婦になろう」と起請を渡した女郎、喜瀬川です♡
文七元結の詳細なあらすじ
唐物屋の若旦那・亥のさんは、吉原の女郎・喜瀬川に夢中で、彼女から「年期が明けたら夫婦になる」と書かれた起請文をもらっていた。しかし、棟梁も同じ起請文をもらっており驚く。
そこへ「おしゃべり清公」が来て話を聞くと、彼もまた同じ起請文を受け取っていた。しかも、清公は大金を貢いでいたため、三人は怒り、仕返しを決意する。
三人は吉原へ乗り込み、茶屋で喜瀬川を呼び出す。棟梁が彼女を問い詰めると、「そんなの一人に決まってる」とシラを切る。しかし、「若旦那に書いただろ?」と追及されると、「白くて太った米粒みたいな男?」、「清公にも書いただろ?」と言われると、「ヒョロヒョロの桃の木みたいな奴?」と開き直る。
三人が勢揃いすると、喜瀬川は堂々と「騙すのが商売さ」と言い放つ。
棟梁「起請を何本も書くような汚ねぇ真似するってと、『嫌で起請を書く時は熊野で烏が三羽死ぬ』ってんだ」
喜瀬川「あら、そう。だったら嫌な起請をどっさり書いて世界中の烏を殺したいよ」
棟梁「殺してどうする?」
喜瀬川「朝寝がしたい」
三枚起請を聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の「三枚起請」は、飄々とした語り口と独特の間が魅力。騙された三人の男の間抜けさと、したたかな喜瀬川の対比を軽妙に演じ分け、落語ならではの笑いを存分に引き出す。志ん生ならではの味わい深い話芸で、粋で滑稽な江戸の世界を楽しんでほしい。
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起請とは?

「起請(きしょう)」とは、誓約書や誓詞のことで、江戸時代には恋愛や金銭の約束ごとを証明するために書かれることがあった。特に遊郭では、遊女が客に対して「私はあなた以外の人とは結婚しません」「年季が明けたら夫婦になりましょう」といった内容の起請文を書くことがあった。
しかし、遊女は多くの客を相手にして商売をする身。そのため、真に受けると痛い目に遭うことも少なくなかった。「三枚起請」では、亥のさん・棟梁・清公の三人がまさに同じ手口で騙されていたわけだ。
「起請を何枚も書くと烏が死ぬ」とは?

江戸時代、嘘の誓いを立てることは大きな罪とされていた。そのため、神仏の前で誓約を破ると罰が当たると信じられていた。
特に熊野三山(和歌山県)では「熊野牛王宝印(くまのごおうほういん)」と呼ばれる特殊な起請文があり、これを破ると熊野の神が怒り、烏が三羽死ぬという言い伝えがあった。これは、「神聖な誓いを破ると天罰が下る」という意味の警句のようなものだ。
この熊野には、神の使いとされる「八咫烏(やたがらす)」がいると信じられていた。八咫烏は、日本神話では神武天皇を導いた聖なる鳥として知られている。誓いを破った本人は、血を吐いて地獄に落ちると言われている。
喜瀬川は「どうせたくさん嘘の起請文を書いているから、世界中の烏を殺したい」と開き直っており、遊女のしたたかさと商売人としての割り切りが表れている。
「朝寝がしたい」とはどういう意味?
遊郭の遊女たちは、基本的に夜の仕事をしていたため、朝寝をする時間はほとんどなかった。遊女は早朝から客を送り出し、その後も身支度や店の雑務に追われる生活を送っていた。
そのため、「朝寝がしたい」という言葉は、「自由になりたい」「束縛から解放されたい」という遊女の本音を示している。
これは、単なる怠けたいという意味ではなく、当時の遊女たちが過酷な生活を送っていたことの象徴的なセリフともいえる。喜瀬川の言葉には、「男を騙してでも金を稼ぎ、少しでも楽をしたい」という切実な思いが込められているのかもしれない。
なぜカラスが「三匹」なのか?
① 熊野三山との関連
熊野信仰では、「熊野三山」(熊野本宮大社・熊野速玉大社・熊野那智大社)が重要視されています。
この三つの神社が熊野の神々を象徴しているため、「誓いを破ると熊野のカラス(三羽)が死ぬ」という言い伝えが生まれた可能性があります。つまり、三羽のカラスが死ぬ=熊野の神々の怒りが示されるという意味が込められていると考えられます。

画像参照:熊野本宮観光協会より
② 八咫烏(やたがらす)との関連
熊野の神の使いとされる「八咫烏(やたがらす)」は、三本足のカラスとして描かれます。三本足には、「天・地・人」や「過去・現在・未来」など、様々な象徴的な意味があるとされています。
「三羽のカラスが死ぬ」というのも、三本足のカラスと関連付けて、神聖な誓いを破ることの重大さを強調しているのかもしれません。
③「三」は強調や縁起の数字
日本では、古くから「三」という数字が強調表現や縁起の良い数字として使われてきました。「三本の矢」や「三人寄れば文殊の知恵」のように、何かを強調する際に「三」を使うことが多いです。
そのため、「カラスが三羽死ぬ」というのも、「一羽」ではなく「三羽」とすることで、誓いを破った際の天罰の重大さを強調する意味合いがあると考えられます。
三枚起請を聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の「三枚起請」は、飄々とした語り口と独特の間が魅力。騙された三人の男の間抜けさと、したたかな喜瀬川の対比を軽妙に演じ分け、落語ならではの笑いを存分に引き出す。志ん生ならではの味わい深い話芸で、粋で滑稽な江戸の世界を楽しんでほしい。
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