柳家小さんの落語がすごい!特徴・逸話・おすすめ音源を徹底解説。

落語家紹介

落語ファンなら一度はその名を耳にしたことがあるであろう、五代目 柳家小さん(やなぎや こさん)。

昭和から平成にかけて活躍し、落語家として初めて「人間国宝」に認定された人物です。

柔和な表情と温厚な語り口。
肩肘張らずにフッと笑わせてくれる小さんの落語は、まさに“自然体の芸”。
そして剣道七段の腕前を持つ異色の落語家でもありました。

この記事では、小さんの魅力、芸風の特徴、代表演目、音源の楽しみ方までを詳しく紹介します。

柳家小さんとは?

本名小林 盛夫(こばやし もりお)
生年月日1915年1月2日
没年月日2002年5月16日(享年87歳)
出身地長野県長野市(育ちは東京)
所属落語協会(第七代会長)
特筆事項落語家初の人間国宝(1995年認定)、剣道範士七段

画像引用:著名人の墓巡り~昭和の偉人と出会う旅~より

小さんは戦前に入門し、二・二六事件では動員先で『子ほめ』を披露するなど、激動の昭和をくぐり抜けた落語家。

戦後、蕎麦のすする音ひとつで爆笑を取る“滑稽噺の名人”として一世を風靡します。

一門の大きさ、芸の継承、人格、すべてにおいて落語界を支えた存在でした。

柳家小さんの落語スタイル|話し方・演出の特徴

聞きやすさ癖がある ーー〇ーー 明瞭で聞きやすい
アレンジ古典に忠実 〇ーーーー 現代的アレンジ
知名度知る人ぞ知る ーーーー〇 国民的知名度
間(ま)の取り方じっくり ー〇ーーー 小気味よい
愛嬌渋い ーーー〇ー 親しみやすい

そばのように香り高く、落語のうま味を伝えた男

  • 脱力でも緻密でもない、“素”のままの語りで観客を包む落語の王道
  • 日常のひとコマを切り取り、共感と可笑しみをにじませる“粋”な芸
  • 声・表情・間で“情景”を描く。派手さはなくとも、にじみ出る深みが魅力

言葉を押しつけず、笑いを取りにいかず――
柳家小さんの語りには、“自然な間合い”がありました。

それはまるで剣道の達人が構えるような、静けさの中に張りつめた集中がある間。
そして、こちらが気づいた時には「笑い」がすっとそこにある、そんな不思議な芸です。

決して声を張らず、大げさな演出もしない。
けれど、小さんの落語には江戸の粋と庶民の息づかいが、じんわりとにじんでいます。

得意としたのは滑稽噺。
けれどその底には、人情や哀愁、そして凛とした美意識が流れていました。

「笑わせる」ではなく、「気づけば笑っている」。
それが、小さんの落語です。

柳家小さんに対する、評価やコメントをまとめました。

故人ではありますが、落語界初の人間国宝であり、多くの弟子を輩出した五代目・小さん師匠を挙げたいと思います。

現在活躍している小三治、さん喬、権太楼、市馬など名だたる師匠方はみな小さん師匠の弟子ですね。あの立川談志師匠も、もとはと言えば小さんの弟子でした。

滑稽噺を得意とする小さんの芸風は、華やかではないものの、抜群の人物描写によってすっかり噺に引き込まれてしまいます。何度聴いても飽きない芸は、まさに名人というにふさわしいと感じます。

『うどん屋』『笠碁』『短命』などの演目がおすすめです。

引用:みんなのランキングより

『粗忽長屋』が一番好きですが、
とにかく馬鹿馬鹿しければ、馬鹿馬鹿しい噺ほど、
笑えてしまいます。

それに、繰り返し聴くほど、
新たな発見があります。

『時そば』のような有名なものでも、
何回か聴いてやっと分かることばによる伏線が
あるのだと知りました。
小さんの芸のなせる技だと感じます。

落語は何回も聴かなくてはならないものなのですね。

どなたが聴いても、うならなずにはいられません。

引用:Amazonカスタマーレビューより

ボソボソっと喋るのにおかしい、面白い、笑ってしまう。小さんという名前にある伝統ですね。聴いてても疲れないので、毎日聴いてます。

咄の中の人物、一人一人がとても魅力的で、小さんの愛情を感じます。
落語以外にも、インタビューや「寝床」のお芝居も入っていました。

ハナシカ
ハナシカ

完全”自然派”の落語。すっとぼけた登場人物がホンモノに見える。

「そば芸」の極意と、落語へのこだわり

滑稽噺を得意とした小さんは、特に「そばをすする芸」で知られます。高座で演じるその仕草は、あたかも目の前にそばがあるかのように見える名人芸。

実生活でも“落語家らしさ”を崩さぬ人で、そばを食べる際には汁を端にちょんとつけて食す姿が定番でした。

最晩年には「一度でいいから、思いっきり汁にそばを浸して食べてみたかった」と語ったという、まるで登場人物さながらの後悔が、小さんらしいユーモラスな逸話です。

剣道と落語、二つの道を極めた男

13歳から剣道を始め、東京市大会で優勝。中耳炎により職業剣士の道を断念するも、範士七段まで昇り詰めました。

自宅を改装して道場を設け、弟子たちに稽古をつけるなど、剣道への情熱は生涯絶えませんでした。

「落語と剣道、どっちが好きかと聞かれたら、剣道って言いますよ」と話していたという一言は、まさに“間合い”を重視した自然体の語りとも重なるエピソードです。

穏やかさと情の深さがもたらした“混乱”

性格はとても穏やかで、人に優しく情にもろい人物だったと言われます。落語家の生活を改善しようと「真打昇進制度」を整備したのも小さんでした。

しかしその優しさと周囲の意見をよく聞く姿勢が、協会分裂や昇進試験をめぐる混乱を引き起こす要因にもなってしまいました。あくまで“誰も取り残さない落語界”を目指したその姿勢が、時に周囲との衝突を生んだのです。

真打昇進試験制度の導入

1970年代、落語界では若手の台頭が目覚ましく、「真打ちの席が限られている」問題が顕在化していました。これに対し、五代目小さんは会長として、実力のある若手をもっと早く真打ちにして、生活を安定させようと考えたわけです。

その改革のひとつが「真打昇進試験制度」。この制度では、審査に通れば年齢やキャリアに関係なく真打ち昇進が可能となり、結果として大量の若手真打ちが誕生しました。

分裂の引き金:6代目三遊亭圓生の反発

この制度に猛反発したのが、当時の大名人・六代目三遊亭圓生

圓生は、

「芸が完成していない者を真打にするのは、落語の品格を壊す」
という“芸第一主義”を貫く人で、昇進基準の緩和は落語界の質を落とす行為だと考えました。

彼にとって小さんの改革は「落語界の堕落」と映ったわけです。

結果:圓生一門を中心とした大量脱退

圓生は小さんと何度も話し合いを求めましたが、小さんは

「話し合いの場に来てくれなかった」とも語っており、
二人の信頼関係は修復できず。

そして1978年、圓生を筆頭とする13名の真打ちが落語協会を脱退。

これが、いわゆる「落語協会分裂騒動」です。

談志との「因縁」と、あの再会

破門となった立川談志との不仲も、落語界の語り草です。10年以上の断絶の末、ある襲名披露の楽屋に談志が突如訪問。

何も語らぬ小さんに談志が“理屈”で絡み、ついには「てえげえにしやがれッ!」と一喝。談志が「何を“てえげえ”にすりゃいいの?」と返す――

もはや親子漫才のようなやりとりに、周囲は笑いをこらえるのが必死だったとか。最後まで本音でぶつかり合った師弟関係が、小さんの人間味を物語っています。

引用:日本経済新聞「小さんvs.談志 「親子ゲンカ」に出くわした」より

柳家小さんのおすすめ演目3選

「時そば」|“間”と“音”で魅せる、そばの名人芸

created by Rinker
Audible

古典落語の定番『時そば』。小さんの十八番として知られるこの演目では、ただのそばを食べる仕草が見事な芸に昇華されています。

そばをすする音のリアルさ、汁のつけ方、箸の運び。どれを取っても自然で、それでいて“見せる芸”になっているのが小さんのすごさ。まるで目の前に本物のそばがあるような錯覚にさえ陥ります。

剣道の間合いのような“間”の取り方も絶妙で、登場人物の間抜けさと、それをじわじわ笑いに変えていく自然体の語りが魅力です。

「粗忽長屋」|小さん節が光る、ズレた男たちの悲喜劇

ドタバタな粗忽者たちを描いた『粗忽長屋』。話の構造自体は単純でも、登場人物の“ちょっとズレた”感じをどう演じ分けるかで噺の面白さが大きく変わってきます。

小さんの演じる粗忽者は、どこかに“人の良さ”がにじんでいて、ただのバカ騒ぎでは終わりません。微妙な表情の変化や声色、言葉のトーンで、キャラクターに命を吹き込む名演。

笑わせようとせず、自然に笑いが湧いてくる。この噺こそ、小さんの本領発揮といえる一席です。

「南瓜屋(かぼちゃや)」|のんびり与太郎と掛け値の珍騒動

created by Rinker
Audible Studios on Brilliance

『南瓜屋』は、与太郎がかぼちゃ売りに挑戦する、ナンセンスでのどかな滑稽噺。

小さんの語り口は、与太郎の純朴さと世間ズレしたやりとりに絶妙にマッチし、聞いているうちに自然と笑いがこみ上げてきます。

掛け値の意味がわからずに元値で売ってしまったり、年齢まで「掛け値」してしまう与太郎のやりとりには、小さんならではのゆったりとした“間”と脱力感がにじみ、噺の緩やかな可笑しみを引き立てます。

淡々と進む展開の中で、ずれているようでどこか憎めない与太郎と、それを演じる小さんの“自然体の妙”が光る一席。

日常にあるズレや間抜けさが、こんなにも愛おしく思える――そんな魅力が詰まった作品です。

柳家小さんの音源はどうやって聞く?

媒体備考
CDNHKはじめ複数の映像/音源が存在
サブスク(スマホ)89種類の音源が存在
Youtube複数のアップロードあり(無断アップロード)

CD|NHKを中心に音源・映像がたくさん

画像引用:Amazonより

柳家小さんのCD・映像はセットでもバラ売りでも数多く残されています。TSUTAYA DISCASでもCDがレンタルできるため、コスパ良く音源を聞くことができます。

画像引用:TSUTAYA DISCASより

Amazon Audible

画像引用:Amazon Audibleより

Amazon Audibleには、柳家小さんの音源が89種類存在し、有名どころの噺がほとんど網羅されています。そのため、CDや映像を購入するより、Amazon Audibleで聞いた方がオトクと言えます。

Amazon Audibleでの収録数は、立川談志に続き、二番目に多い収録数です。

落語家Audibleの収録数
立川談志176種類
古今亭志ん生61種類
柳家小さん89種類
古今亭志ん朝8種類(うち演目2種類のみ)
三遊亭圓楽78種類
三遊亭圓生64種類
金原亭馬生45種類

おすすめの演目は、上記でも紹介した「時そば」「粗忽長屋」「南瓜屋」です。

Youtube

Youtubeで「柳家小さん」と検索すると、たくさんの音源を見ることができます。

無断転載なのでオススメしませんが、柳家小さんのドキュメンタリーも見ることができます。

まとめ|“何気なさ”に芸が宿る、柳家小さんという名人

柳家小さんは、「爆笑」でも「号泣」でもなく、“くすり”と笑わせ、“じんわり”と沁みる落語を極めた名人でした。

派手な仕草も声色も使わず、自然な語りと間で、人物の心情や空気をそっと描き出す。その芸風は、まるで日常の会話のようでいて、実は緻密に構成された話芸の結晶でした。

蕎麦をすする仕草一つ、顔の向き一つにまで気を配りながらも、それを「芸」として見せつけることなく、あくまでさりげなく、飄々と。

“そばと落語”を世に広めた男――そんな肩書きすらも笑いに変えてしまう、自然体の落語家。

自由奔放な談志や、精密な職人芸の圓生と比べると、小さんの芸はあまりにも静かで柔らかい。
しかし、その柔らかさの中にこそ、本物の芯の強さと“人間の可笑しみ”が息づいていました。

柳家小さんの落語は、今もどこかで誰かを、ふとした瞬間に笑わせ続けています。
まずは一席、「何気ない」ようで「忘れられない」小さんの世界に、耳を傾けてみてください。

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