江戸時代でございまして、麻布の茗荷谷というところに屑屋さんで、清兵衛さんという人がいる・・・
この人は曲がったことが大嫌いな人で人呼んで「正直清兵衛」といわれてました・・・
今日も清正公様の脇を「屑ぅ~~」ってんでやってくる・・・
井戸の茶碗を聞くなら「桂歌丸」
桂歌丸の「井戸の茶碗」は、親しみやすい語り口と豊かな感情表現が光る一席です。落ち着いたトーンと絶妙な間で、笑いと人情のバランスを見事に描き出し、心温まる感動を届けます。Amazon Audibleの落語コンテンツの中でも最もレビューの多くなっています。
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あの、屑屋さん?
へい!
みるってと年頃17,8になります、娘さん・・・
つぎはぎだらけの汚~い着物を着ておりますがどことなく品がございました・・・
あの恐れ入りますがこちらへ入ってきていただけないでしょうか?
あっ、へい!分かりました!伺いましょう!
案内されてやってまいりました裏長屋でもって
あの、父上、屑屋さんを連れてまいりました・・・
おおそうか、これは屑屋さん!やあやあすまなかったな、さあどうぞ!
こちらへ入ってな、そこをピタリと閉めてください
いや~実は屑が溜まったんでもってってもらいたい
ああ左様でございますか、ありがとうございます
ええ~っと・・こちら様は初めてでございますな!
これからあたくしちょくちょくこちらへ参りますので、屑が溜まりましたらどうぞひとつとっておいて下さいまし!
他の屑屋より値良く頂戴いたしますんで!
おおそうか・・ではそういたそう
ただいま測ってみましたところ七文とちょいとでございますが
こちらさん初めてでございますので今日は八文で頂戴して参ります
いや~それは真にすまんなぁ、うん・・・
それからなあ屑屋さん、ここにあるこの仏像だがな・・・
これを、二百文で買ってもらえないかな?
え?これですか?
いや~まことに申し訳ないんですが、あたくしこういうものは頂かないんでございますよ・・・
なぜだ?
大変お恥ずかしい話でございますけどもね、あたくし目が利かないんでございますよ・・・
ええ、値踏みができないものでございますからね・・・
値打ちがあるものを安く買って脇でもって儲かっちゃったぁ~なんていうものは、どうもこう気持ちの悪いもんでございますし・・・
それとは逆に損をしてしまうなんてのもあれですから一切扱ってないんで、屑ばかりなんでございます・・・
やあ・・・そうかもしれんがな・・・
屑屋さん、そこをまげて何とかひとつ買ってもらいたい・・・
いや、訳を話さなければ分からんかもしれんが、わしは今でこそこんなみすぼらしい恰好をしておるが、千代田卜斎(ちよだぼくさい)と申してな
両刀を手挟んでおったが、つまらんことで意地を張ってな・・・
今ではここで昼間子供を集め素読の指南をいたし、 夜になると表通りへ出て占卜(占い)を生業としておるが、十日ばかり前に雨に 打たれて風邪をひいてな・・・
やれ医者や薬だと色々と金がかかる・・・
真に恥ずかしい話であるが蓄えというものがないのだ・・・
真に困っておる・・・
なんとか!二百文で買ってもらいたい屑屋さん! この通りだ!
おおっとっとっとぉ!いけませんいけません!
なんですよあなたぁ・・・
いくらご浪人なさってるからってお侍さんじゃあありませんか!
あたくしなんぞに頭下げる必要はありません・・・
いえ!お話はよく分かりました、ええ困ってる時はお互い様でございますが・・・
こちら様だけ特にというわけにはいかないんでございますよ・・・
今までお断りしてきた方に申し訳が立ちませんからなあ・・・
ですからこうしましょう!
あたくしこれを二百文で預かってまいります・・・
脇へ持ってって売れましたらね?
儲かった分の半分あたくしに手間賃として頂戴いたしますが、 その半分はこちらへお届けに上がります・・・
そういうことにしていただけたら、あたくしここに二百文出すことができますが、いかがなさいます?
いやいや、そういうことをせずとも屑屋さんが勝手に扱ってくれればいい・・・
何にせよ二百文で買ってくれればそれでいい・・・
いや!そうさせてください!
それでないってとあたくしはお引き受けはできません!
よろしゅうございますか?じゃあそう致しましょう!
ということで仏像の方の二百文、屑の方の八文を置いて、 屑を籠の中にいれてその上に仏像を乗っけるってと、こいつを担いで「屑ぅ~」っと やってまいりましたのが目黒白金の細川屋敷の長屋下・・・
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屑ぅ~~~
これこれ!!屑屋!屑屋!
へい!あっ・・お呼びになりましたか?
うむ、呼んだ!こちらへ戻れ!
お前の担いでおる籠の中に仏像のようなものが 見えるがそれはなんだ?
へ?あ、これですか?お目に留まりましたか?
ええ左様でございます!ええ!こちら仏様でございます!
大分古物のようだが・・・
ええ、かなり古いようなもんでございますよ!
手に取ってみたいがな、門を入ってくるとかなり手間がかかる・・・
拙者いまからそこへざるに紐をつけて下すから、その上に乗せなさい・・・
へえ左様でございますか、分かりました!
それじゃあ乗せますよ!
どうぞお引き下さいまし!いかがでございます?
いやぁ、これは中々良いな・・大層古いが中々良い仏様だ・・・
いやあ気に入った!
ん?ごとごと申しておるな・・・
腹籠りか・・・これは良い!
仏像の中に小さな仏様、仏像が入っているのを腹籠りといいまして大変に縁起がいいと 言われていまして・・・
これは気に入ったぞ!買って遣わそう!いくらだ?
ええ~そうですな・・・
二百文で預かってまいりましたんで、それより高く売れればいくらでもよろしいんです!
なんだ欲がないな、拙者もなるがたけ値良く買って遣わすが、実はな・・・
真に申し上げにくいが今懐都合があまり良くない・・・
どうだ?まあ精一杯のところで三百では売れぬか?
え?三百?ええ結構でございます!ええ、百儲かりますんでな!
先方へ五十届けてあたくし五十いただきますんで、よろしくお願いします!
よし!では、ざるに入れて下すから受け取れよ!
へい!ありがとうございます!
う~ん・・・良助!良助!
へい!お呼びでございますか?
こちらへ入れ・・・今屑屋からこの仏様を買った・・・
明日からこれを拝むぞ?
大層すすけておる、綺麗にしたい・・・
金盥(かなだらい)を塩で磨いて清めてな、 ぬるま湯を入れて新しい手ぬぐいを一本添えて持ってきなさい
ぬるま湯の中に仏像を入れてあっちをこすりこっちをこすりしているうちに、 台座の紙がブツブツっとはがれ、ごとっと何かがぬるま湯の中に入った・・・
ああ中の仏像が出てきたんだなっと思ってす~っと出してみるってと 金の布で包んである・・・
何だろうなと思って開けて見ると 紙の下から出てきたのは金でございます、小判です・・・
数えてみるってと五十両はある・・・
いやあ、良助!なんとしよう?
へえ、大した儲けでございますな!
たわけたことを申すな!
わしは仏像は買ったが中の小判を買った覚えはない・・・
これを売ったものは中に何が入っているか知らずに買ったに違いない・・・
元の持ち主に戻してやりたいがどこの誰だか全くわからない・・・
屑屋の名前も聞いておらん・・・
困ったことにあいなった、いかがいたそう・・・
左様でございますか・・・
あたくしが思いますのには屑屋って商売もまた、ほかの商人と同じように
おおよそ回るところが決まっているものと思われますので、 また近々ここを通ると思いますが・・・
おお!そうかそれでは明日から屑屋を改めよう!
あくる日になるってと例の目黒白金の細川屋敷の長屋下のところでもって陣取ってましてね・・・
屑ぅ~~
これこれ!屑屋!屑屋!
へい!あっどうも!へえ、お呼びになりましたか?
うむ!呼んだ!被り物を取ってこちらへ見せよ!
へえ?何か御払いものですか?
それはどうでもよい!とにかく被り物を取って顔をこちらへ見せよ!
ああ左様でございますか?
ええどうも、え~何でございましょう?
何をしておる!早く被り物を取って顔を見せろ!
へ?
いや見せておりますが・・・
うん?へ?
・・・それ顔か?
いや~妙な顔をしておるな、何とも言えん顔であるな・・・
その顔で表を歩くか?
歩きますよ・・・
良い度胸をしておるな!お前ではない!あちらへ行け!
ええ~何か御払いものを・・・
そのようなものはない!向こうへ行け!
へい・・・
屑ぅ~~
これこれ屑屋!こちらへ参れ!被り物を取って顔をこちらへ見せよ!
長い顔をしておるな!馬にも勝るぞ!お前ではない向こうへ行け!
何ってんで、通る屑屋さんことごとく顔を改められる・・・
清正公様の境内に小さな掛け茶屋がございまして・・・
昼飯時分になりますってと そのあたりで流しておりました色んな商人が集まりまして弁当を使って 一服していくというような・・・
通ったかい?細川様の屋敷の下・・・
通りましたよ!
やられたかい?被り物を取って顔を見せろっての?
ああ!やられたやられた!
どうしてあんなことをしてんのかねえ・・・
御あし(お金)のかからねえ遊びをするじゃねえか本当に・・・
被り物を取って顔をこっちへ見せろ!!こういうんだ・・・
見せたら、「それ、顔か?」って・・・
顔です!って言ったら「何とも言えん顔をしておるな!」ってんで
「それで表を歩くのか?誠にいい度胸だ!」ってんでね
何だか知らねえけど褒められたんだかけなされたんだか分からねえ!
けなされてんだよ馬鹿だねえ!他のもんもそうらしいねえ・・・
そうなんだよ、あたしもそうだったよ!
被り物とって顔見せたらねえ!
長い顔だ!馬にも勝るぞ!ってんで褒められた!
けなされてんだよぉ!!褒められてるんじゃないんだよ!
しょうがないねえみんな、 どうしてあんなことをしてんのかねえ・・・
おいおいおいおい・・おい!
なんだいみんな顔のことを何か言われたって グズグズ文句言っちゃあいけませんよ!
あの若いお侍さんが探してる顔だったら生きちゃいられないよ!
へ~どうして?
知らないのかい?何してんだか分からないの?
分かんねえよ・・・
なあ!みんな分かんねえよな?
うん・・・なんなんだい!
ありゃあ、あそこで敵(かたき)探してんだよ
敵探してる?あれ敵探してんのかい?
へ~知らなかったねぇ・・・
若そうだけども強そうなお侍だろ?ねえ下から見たって相当稽古してる顔つきしてたよ?
あの人のおとっつあん、あの人のおとっつあんの敵を探してんだよ!
あ!親の仇!?
そう!そのおとっつあんは腕がたつよ?
その息子ってんだからねえ・・・
ええ・・っとちょいと伺いますがそのお話どうも私に関係ありそうでございますが・・・
ん?誰?
ああ清兵衛さんじゃないか・・・
どうしたの?しばらく顔見てなかったけれど・・・
いやぁ、あたくし風邪ひいちゃってねえ・・・
それで治ったから 久しぶりに出てきたんですよ・・・
それでね?その話私にかかわりがあるように思えましてねえ・・・
というのもねぇ、四、五日前にねえ・・・
この先の裏長屋でもってあるご浪人さんから、あの~仏像をね?
二百文で預かったんですよ・・・
それをどなたかにさばいてもらおうかと思っているうちに、あの細川様の屋敷の下の所でもって お侍さんに売ったんですよ・・・
ええ、なんかそんなことであたくしのことを探しているんじゃあないんでしょうかねえ・・・
そ・・それだ!そりゃあそうさ!それはよくあるやつだ!
あのそれは古いもんじゃないかい?
ええ、かなり古物でしたよ・・・
そうだろ?
あんまり汚れてるんで綺麗にしようってんで一生懸命方々洗ったり磨いたりなんかしているうちにね?
首がぽろっととれたりね?腕がぽろっともげちゃったり・・・
これはいけねえよ?お侍は命のやり取りをするんだよ?
ね?だから縁起を担ぐよ?
こんな縁起でもない仏像を売りつけやがって!あの無礼な屑屋!
あの屑屋の首も落としてやろうってんでお前さんのこと探してんだよ!
そ、それは困りましたね・・・
困りましたね・・じゃないよ!
お前さん普段は屑より他は扱わないのになんだってそんなもん買ったんだよ!
いや買ったわけじゃないんですよ!あんまりお気の毒だったんでね?
で、あたくしね、 二百文でもって預かってきたんですよ
どなたかにさばいてもらおうかと思ってる矢先にあそこで売れちゃったんですから・・・
本当にしょうがないねえ・・・
もう細川様の屋敷の下んとこは通らないほうがいいよ?
そんなこと言ったって、あそこ通らないとお得意様の所へ行かれないんですよ・・・
あ、そう・・そしたらねえ・・・
屑ぅ~~って声かけると障子が開いて屑屋!ってこう来ちゃうんだから、いいかい?
細川様の屋敷の下通る時だけはす~~っと黙って行って、向こう行ってから屑ぅ~ってこう言やあいいんだよ!
はあそうですか!じゃあそう致しましょう!
屑ぅ~~~・・・
これこれ!屑屋!屑屋!
あ、甘い!甘~酒ぇ~~!!
なんだ!あの屑屋は!妙な屑屋だ!
良助!連れてまいれ!
被り物を取れ!
・・・ほ!
お前だ!お前だな!少し前にわしに古い仏像を売った屑屋は!
はぁ・・・左様でございます!
真ににすいません!
あの仏像があまりに汚れていたので!ぬるま湯の中に入れて洗っておくとな?
お前なんと!
く、首が取れましたか!?
そうではない!
台座の紙が取れて中から小判が五十両出てまいった!
へ!?
はあ~左様でございますか!?
いや~、そらぁまた、よろしゅうございましたな!
何!?よいことはない!
いえいえ、いやそうでなくてあたくしはね?
そのぉ・・腕がとれちゃったとか首がぽろっと落ちちゃったとか、なんかそういうことでないかと思ってね・・・
あたくし心配して おりましたんですが・・・
そうですか・・・ええ、五十両?
はあ・・・そ、それで何でございます?
うむ・・・
わしはな、二百文を出して仏像は買ったが中の金を買った覚えはないのだ・・・
左様でございますか、恐れ入ります・・・
ご潔白でございますな!
ええ承知いたしました!
いやぁ実はね、この先に住んでいらっしゃいます、千代田卜斎とおっしゃいますご浪人の方からあたくし預かったんです・・
ほうご浪々中の方か・・・
左様でございます
では中に金が入ってることを知らずに売ったのであろう!
ええ!そう、そうですよ!
知らないから、きっと買ってくれとこう言ったんでございますよ!
中に金が入ってることを知ってたら、お売りになるわきゃありませんよ!
まあ届ければどんなに喜ぶか知りませんよ!
うんそうであろうな!さっそく届けてもらいたい!
ここにな、その金が置いてある・・・
持ってってもらいたい・・・
ええ、分かりました!じゃあこれはひとつ確かにお預かりさせていただきます・・・
失礼でございますがあなた様のお名前は?
いや名前などはどうでもよい!
子供の使いじゃありませんから、向こうへ参りまして堅い方がいらっしゃいますから・・・
名前は?と聞かれたときに私聞いてませんでしたじゃ済みません・・・
どうかひとつ御聞かせいただきとうございます・・・
そうか・・・
わしは細川家の家臣で高木佐久左衛門と申す・・・
左様でございますか、分かりました・・・
それでは申し訳ないんですけど 商売道具をあそこに置かしてくださいまし・・・
ええでは行ってまいりますんで・・・
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え~ごめん下さい!ごめん下さいまし!
はい!
お~これは屑屋さんか、やあやあ用があるならこっちお入り!
へえ!
え~どうも、先だっては・・・
いやあこちらこそ!無理を申してすまなかったな!
うん?まだ屑は溜まっておらんが・・・
ああ、いや今日は商売に来たんじゃないんでございます!
ええ、実はあの・・・
こないだの仏様のことで伺ったんでございますが・・・
おお!
実はね、あれあの後すぐに売れたんですよ!
これは三百で売れました! 百儲かりました!ええ!
そこであたくし手間賃としてここに五十いただきますんで、あと五十こちらにお届けに参りました!
どうぞこれを・・・
いやいやいや!そんなことをせんでも屑屋さんがこれをもっておけばよいのだ!
いえ!これはどうぞお納め下さい!
それからですねえ!
あの仏様を買ってくださいましたのが細川様のご家来で高木佐久左衛門とおっしゃいます!
大変に若いお侍さんなんです!
ええ!あんまりすすけてたんで、ぬるま湯に浸して洗ってらしたらしいんですな・・・
そしたら台座の紙が剥がれて、中から五十両出てきたらしいんです!
何?小判が出てまいった?五十両?
腹籠りではなかったか・・・
うむ、それがどうかしたか?
どうかしたかって五十両ですよ?
高木様がおっしゃいますのには「わしは仏像は買ったが中の小判を買った覚えはない!」
だからこれは元の持ち主に返して来いっておっしゃいましてね?
あたくしその五十両を預かってまいりました、ええここにございます・・・
どうぞひとつお納めください!よろしゅうございましたな!
屑屋さん、わしはその金は受け取れん・・・
ど、どういう・・・
わしはあの仏像を売ってしまった・・・
いったん手放してしまえばそれは人の物だ、自分のものではない・・・
その中から出てきたものは買った人の物だ・・・
わしは受け取るわけにはまいらん・・・
先方へ戻しなさい
いやそれは違いますよ!それはあたくしは高木様の言うことの方が本当だと思いますよ?
高木様はね?今言った通り仏像は買ったんですよ?
ただ中の金は買った覚えはないってんですよ、ええそりゃあそうですよ!
そりゃあ考えたってごく当たり前の話ですよ?
元々こっちの話なんですから・・・
お納めになったらいかがでございます?
それは確かに先祖が我々のことを思って入れておいてくれたものに違いない・・・
それほど大事なものを売るような、そんな不心得な者に初めから金は授からなんだ・・・
天が買ってくれたものに授けた・・・
その人の所へ戻しなさい・・
いやそれは違うと思います、いやそれはあのねえ!
どう聞いても高木様の言うことの方が本当だと思います!
こちらでお納めになるのが本当だと思いますよ!?
いや!わしは曲がったことは大嫌いだ!
いや曲がっちゃいませんよ!
そりゃあねぇ、確かにその~、先生が堅いことはよく分かります・・・
正直は結構・・・ですが先生はちょいとすぎますよ・・・
なんでもすぎちゃいけない、なんでもすぎるってと頭に馬鹿がつく・・・
馬鹿正直という・・・
黙れ!武士に対して無礼を申すと手を浴びせるぞ!
ああ、どうもあいすいません・・・
でもこれ、どうしてもお受取りになりませんか?
わしは受け取らん!戻してまいれ!
そうですか・・・へい、分かりました
・・・とおっしゃるのですが、どうしましょう?
なぜ持ってくるのだ!わしが受け取るわけが参らんであろう!
よいか!何度も申すようにわしはな!
仏像は買った!だが中の金を買った覚えはないのだ!
へえそれは向こう行ってやりました!
やったんですけども、どうしてもだめだってんですよ!
だめだと申して、なぜまたわしの所へ持ってくる!?
よいか?五十両だぞ?
二百文というはした金でこんな大金を仏像付きで買うなんて、こんな勘定の合わない話はなかろう!
そらあそうでございますよ!
ですけどねぇ・・・
いやぁ分かりましたよ! 向こう行ってそう言いますよ!
・・・という私の言うことが先生お分かりになりますか?
だがわしは受け取ることはできん!
ん?なぜか?
それはな、わしには武士という誇りがある・・・
それを受け取るとその誇りというものがなくなってしまう・・・
だからわしは受け取れん・・・
そりゃあ先生はそういうこと言ってていいんですよ!?
武士の誇りで結構です!
お嬢さんのこと考えてみて差し上げなさいまし!お年頃じゃありませんか!?
こんな着物がきたい、こんな帯が締めたいなんという、その最中にですよ!?
あんなボロにくるんでおいてよくも先生そんな呑気で・・・
黙れ黙れ黙れ!
何という無礼を申す!わしは何といっても受け取らん!
刀に賭けても受け取らんのだ!
そうですか、分かりました!
・・・ということですがどうしましょう?高木様?
よし!わしも武士だ!刀に賭けても受け取らして見せる!
そ、そうですか・・・弱っちゃったなあどうも・・
どうにもならないんで千代田卜斎の住んでいる長屋の家主に相談をする・・・
はぁ~結構な話だなあそりゃあ・・・
さすがだ、人は武士!それでなくちゃいけませんよ?
よし私が間へ入って口を聞こうじゃないか
というんで家主が間に入りまして、まずこの五十両を何とかしないといけないという・・・
今回の件、屑屋が両家を何度も行き来しまして、汗を流しております・・・
この手間賃として、五十両の中から十両引いて屑屋へ・・・
後残りまして四十両の金を半分に割って、お二人に分けて頂きとうございます・・・
そうか・・・それで、まるくこの件丸く収まるのであれば
この金、受け取ろう・・・
ってんで高木佐久左衛門は黙ってそれを受け取った・・・
今度はこれを千代田卜斎の所へ持ってくるってと・・・
いやあ~大家殿、わしはその金は受け取れん・・・
なぜですか?
いやぁ、わしは情けは受けとうにない・・・
いや情けではないですよ!こちらのお金、屑屋にもうやっていただいたんです・・・
残りの金も先方はいただいたんです、いいじゃありませんか?
どうしてもいけませんか?
ああそうですか!それじゃあこうしましょう!
形を何か差し上げたらどうですか?
なんでもよろしゅうございますから、何か差し上げたら恵んでもらったなんてことにはなりませんよ?
この貧乏長屋、差し上げる物など何もない・・・
いえいえ!だから何にもないとおっしゃらずに!
先生が普段使ってらっしゃる手ぬぐいでも箸でもよろしいんでございますよ!
なんでもいいんですから!
そうか・・・
それではこの汚い茶碗でどうだ?
これでわしは薬などを飲みまた茶なども飲んでおる・・・
こんな汚いもんでよいか?
ええ!なんでも結構でございます!それではこれを高木様に!
というので高木佐久左衛門のもとにこの茶碗を渡してそして二十両という金を千代田卜斎が受け取った・・・
これで丸く収まった・・・
これがまあ結構な話だというので、この噂がどんどん広まって、しまいには細川家中でもって「はぁ~まことに二人とも偉いもんだ」というので、
これがお殿様の耳に入って「真に高木佐久左衛門偉いもんだ!目通りを許すぞ!」ってんでお殿様の前へ出た・・・
その時に千代田卜斎にもらった茶碗・・・
これでございます!ってんでお見せした・・ ・
するとそこに細川家お出入りの目利き、鑑定家ですな・・・
殿、それをちと拝見しとうございます・・・
そうか?構わん!
手に取って見ておりました、目利きの目がだんだんと変わってまいりました・・・
これは大変でございます・・殿!
井戸の茶碗にございます!
何?これがそうか!?
高木!余がもらい受けるぞ!
ははあ・・・
っと鶴の一声でございます・・・差し上げちゃった・・ ・
お殿様だからただじゃもらいません・・・
三百両という金が高木佐久左衛門の所へ下さった・・・
この金を目の前にして高木佐久左衛門考え混んじゃった・・
なあ屑屋、わしも困っておる・・・
元々茶碗は向こうから出たものであるからなあ・・・
拙者これを一人でもらうわけには参らんぞ・・・
いかがでござろう?とやかく申さん・・・
半分の百五十両をわしはもらい受けおくから、 残りの百五十両を千代田氏のところへ届けてもらいたい・・・
勘弁してください!
やだよぉ、だってそうじゃありませんかぁ・・・
こないだ五十両でもってあの騒ぎですよ?
百五十両なんてあたしは縛られて逆さに吊るされて、 大砲で撃たれるよ?
そんなことはない、とりあえず話だけでもしてきてもらいたい!
そうですか、行ってきますけどね・・・
・・・とこういうわけなんですけどね?
百五十両ですよ?いかがでございます?
こちらから出たんでございますから今度は!もう受け取るでしょ?
いやぁ、屑屋さん・・・その金は受け取れん・・・
また始まったよぉ・・・
お願いだから受け取っていただきたい!
じゃあまたこちらから差し上げてくださいよ!
瀬戸物とか金っ気の物もダメですよ?なんでもいいからお願いしますよ!!
百五十両取っといてくれないと、あたくしまた商売に行かれなくなっちゃいますから!
屑屋さん・・・
高木氏はまだ御独り身か?
ええ!良助という者と二人で暮らしておりますが・・・
そうか・・・
うちの娘はな、女一通りのことは仕込んである・・・
どこへだしても恥ずかしいことはない・・・
いずれどこかへ嫁がせなければならない・・・
高木氏の所へ嫁がせたいと思う・・・
どうだ?こういう話はいかんか?
はあ、ということはあたくしがご親族に?
そうだ・・・それを承知してくれるのであれば!
支度金として百五十両受け取ろう・・・
そうですか!そりゃあ結構な話じゃありませんか!
そらぁ大丈夫ですよ!
もらってくれるか?
もらいますもらいます!
あちらがもらわなきゃあたしがもらいます!
すぐに話をしてきてくれ!
へい!
千代田氏の所へ行ってまいりましたよ!
今度は素直に受け取ったであろう?
いえ、それがそうではないんで、また向こうから下さるものがあります!
また何か下さる?
ええ!今度は大変でございますよ?
ええ!あちらにお嬢様がいらっしゃいます!
女一通りのことは仕込んである、器量も中々いいと!ね?
で、いずれ嫁がせなくてはならないけれども、できるならば高木氏のような方の所へ嫁がせたいと・・・
もしご親族にしてくれるんだったら支度金として百五十両を受け取ろう!
とこうおっしゃってるんでございます!ええ!
いかがでございます? 御貰いになりませんか?
う~ん、そうか・・・
前々から母に言われておる・・・
う~ん、千代田氏の娘ならば、 間違いはなかろう!
そうか!妻をめとるか!
めとんなさい、めとんなさいましよ~!
いい女だ、本当ですよ?
ええ、これはね?
今裏長屋にいますから、ちょいとくすんでますがこちらへ 連れて来て磨いてごらんなさい!
いい女になりますよぉ~?
いやぁ~磨くのはよそう・・・
また小判が出るといけない・・・
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