落語【猫の皿】台本 吹き出し風

落語 台本

昔は道具屋さんが地方の大きな百姓家であるとか、あるいは物持ちのある家に行きまして『ちょっと蔵の中を見せてください』なんてんで・・・

めぼしい品があるとうまいことを言って二束三文に買い叩いて、江戸へ持ってくるってとこれを高く売って、たいそうな儲けを出したなんて、そんなことがあったんだそうでございますけれども・・・

猫の皿を聞くなら「立川談志」

立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。

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ある男
ある男

じいさん!?ちょいと休ませてもらうよ!茶をもらおうかな?

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

はいはい、あのお客様、そこはなんでございます、日当たりが悪うございますから、どうぞこちらの方が日が当たっておりますので・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

あのこちらの方が日当たりがようございます!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

あのこちらの方が日当たりが!

ある男
ある男

あのねじいさん・・・俺洗濯物じゃねえから・・・

ある男
ある男

日当たりなんかどうでもいいんだよ、早くお茶を・・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

左様でございますか、お待ちくださいまし!

ある男
ある男

あのね、この辺りはもう熊谷(埼玉県)かな?

ある男
ある男

いやいまね、信州から上州のあたりをず~っと回ってきたんだけどさ、これから江戸へ帰ろうと思ってさ・・・

ある男
ある男

お?なんだもうお茶入ったのかい?はいはいはい・・・

ある男
ある男

あららら・・・いい色だねぇ!ウグイス色だよ、美味そうだねぇ

ある男
ある男

またこの辺りはいい景色だよ・・・山に霞がかかってさ、麦畑が青々として・・・

ある男
ある男

あの黄色いのは菜の花かい?それに綺麗な川が流れてるよ?おっ、キラッと魚が光ったよ?

ある男
ある男

麦畑が青々しくて、菜の花は黄色くって、お茶はいい色で!

ある男
ある男

ふ~ふ~・・・ずずぅ・・・色のわりに味のないお茶で・・・

ある男
ある男

いやいやいいんだいいんだ、あんまり苦いお茶だと夜眠れなくなるといけねえからよ・・・

ある男
ある男

いやぁそれにしてものんびりしてて、いい茶店だよ?

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

へぇ、ありがとうございます・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

おいおいおい、いつまで食ってるんだい、もうやめにしないかい・・・

おじいさんが声を掛けたんで、ひょいと見るってと縁台の下でがむしゃむしゃおまんまを食べている・・・

この猫はなんの変哲もない、ぶち猫なんですが、そのおまんまの入ってる茶碗を見て道具屋さんが驚いた・・・

絵高麗・梅鉢の茶碗と申しまして、江戸へ持っていくと捨て値でも300両・・・ どうかしたら500両はしようかという大変な品物でございまして・・・

ある男
ある男

知らないってのは恐ろしいもんだねぇ・・・

ある男
ある男

あんな高い茶碗で猫におまんまを食べさせて・・・

ある男
ある男

そうだ・・・俺がうまいことを言ってな、こっちへ安くもらっちまって、江戸へ持って帰れば300両、500両の儲けだってんだよ・・・

ある男
ある男

じいさん!かわいい猫だね!この猫は!

ある男
ある男

おう!来い来い来い・・・膝へ乗れ膝へ、おお~可愛いなぁ・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

あぁ・・・おやめくださいまし、汚い猫でございます、毛も抜けますから・・・

ある男
ある男

いいんだいいんだ、俺は猫が好きだから・・・

ある男
ある男

お?懐に入るか?よしよしよし・・・

ある男
ある男

あらぁ懐に入っちゃったよ?ゴロゴロゴロゴロ言ってやがる・・・可愛いねぇこれ!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

左様でございますか?いやぁ迷い猫がいつの間にかうちに居付いちまったもんでございますよ・・・

ある男
ある男

そうかい・・・え?うちにも何匹かいるの?あぁそう・・・

ある男
ある男

どうだろう?あのね、いや俺も猫は好きなんだけど、かみさんが輪をかけて猫好きなんだ!

ある男
ある男

ところがこないだまで飼ってた猫がいなくなってしょんぼりしてたんだよ・・・

ある男
ある男

どうだろうね?この猫俺にくれないかね?そしたらさ!カミさんも喜ぶんだけど!

ある男
ある男

いいだろ!?これ!何匹もいるんだから!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

えぇ、まあ左様でございますがなぁ・・・そんな猫でも飼っていますと情が移るという・・・

ある男
ある男

そんなこと言わねえでいいじゃねえか~、あっ!そうだそうだ!

ある男
ある男

あのね、猫をもらうには鰹節代をもらわなきゃいけねえって言うからよ!

ある男
ある男

ほらここに小判で三両あるからよ!三両で売ってくれ!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

いやぁ!それは困りますんで!

おじいさんが驚くのも無理はありません・・・

三両・・・今の三円とは違います・・・

道に落ちている一円玉を誰も拾いませんからね・・・

なにしろ落ちている一円玉をしゃがんで拾って立ち上がると2円分のカロリーを消費するだそうでございます・・・

ところがその頃の三両といえば、二か月、三か月、ひょっとすれば半年は暮らせると言うような大金でございますから・・・

※一両…日本円でおおよそ12~13万円。

猫の皿を聞くなら「立川談志」

立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。

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茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

いやぁ!それは困りますんで!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

いやいやそういうわけには・・・

ある男
ある男

いいじゃねえか!な?これでもって・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

そ・・・そうですかぁ?・・・どうするお前は?

ある男
ある男

いやぁゴロゴロって言ってなついてんだよたいへんに!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

そうですか・・・分かりました、それじゃあ可愛がってやってくださいまし・・・

ある男
ある男

くれるかい!?悪いね!

ある男
ある男

あっ、それからねじいさん、今晩熊谷の宿に泊まるよ・・・

ある男
ある男

猫におまんま食わせるときにさ、宿の皿使うと女中が嫌な顔をするんだよ・・・

ある男
ある男

だからそのおまんま入ってた茶碗、それも一緒にもらってってもいいだろ?

ある男
ある男

これすまねえけれども・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

ちょ、ちょっとお待ちくださいましな・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

これはあの割れるといけませんから、どうぞこちらの木のお碗をお渡ししますから・・・

ある男
ある男

あぁいいんだいいんだ!木の茶碗じゃなくてこれでいいんだ!

ある男
ある男

猫は器が変わるとおまんま食わなくなるって言うから・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

いやでも木のお碗・・・

ある男
ある男

木のお碗じゃなくていいんだ!食わなくなるから、器が変わると!ね?

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

えぇ・・・いやでもそれだけはちょっと困るんでございますよ・・・

ある男
ある男

え?なんで?

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

いやなぜと聞かれてもあなたはご存知ないかもしれませんがなぁ・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

その茶碗は絵高麗・梅鉢の茶碗と申しまして、江戸へ持っていけば捨て値でも三百両、どうかすりゃ五百両という品物でございまして・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

それだけはちょっと困るんでございますよ・・・

ある男
ある男

・・・

ある男
ある男

・・・なんだ、知ってたのかよ・・・

ある男
ある男

そうかい!?とてもそうは見えねえけど!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

見えない所がなんとも言えない味わいでございまして、あたしも昔は江戸でそれ相応の暮らしをしておりましたが、商売が傾きましてな・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

まあ食うに困って、他の物はみんな売り払っちまったんですが、これだけはどうしても手放せなすことができない、こうして落ちぶれても、大事にしているという塩梅でございます・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

ですから、これだけは・・・今木のお碗を包みますから、あのですね・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

その猫、このお碗でもよくおまんま食べますですよ?

ある男
ある男

・・・

ある男
ある男

・・・いつまでにゃーにゃ―言ってんだこの野郎・・・

ある男
ある男

俺ぁ猫嫌いなんだよ・・・うちのカミさん輪かけて嫌いなんだからさ・・・

ある男
ある男

こんなもん連れて帰ったら、怒られちゃうよ、いいから早く出ろよ!いいから・・・

ある男
ある男

痛えっ!

ある男
ある男

あぁ~あ引っ掻きやがった!この野郎!

ある男
ある男

おう!じいさん!なんだってそんな高い皿で猫に飯食わしてるんだ!

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

えぇ・・・それでおまんまをやっておりますと・・・

茶屋のじいさん
茶屋のじいさん

ときどき猫が三両で売れますんで・・・

猫の皿を聞くなら「立川談志」

立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。

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猫の皿を聞いての感想

いやぁ素晴らしいビジネスモデルですね!

茶屋と皿をおとりに猫で稼ぐ。さすがは昔江戸でそれ相応の生活をしていたおじいさん。

商売の仕方が上手いですね。やはり商売の戦略は一筋縄ではいけませんね。

お皿を売って金にしたらそれで終わりなわけですから、お皿を利用して、三両ずつ稼いでいくというやり手ですね。

おそらく五百両もの金が一度に入ってしまったら、保管場所を見つけるのが大変だったり、気が緩んで使いすぎてしまう可能性もありますからね。

現実にも面白いビジネスモデルがあります。それがジレットモデルというものです。

例えば、昔は非常に値段の高かったプリンター。今では1万~2万円で買うことが出来ます。

しかしながら、そのプリンターのインクは非常に高いです。1本800円~3000円くらいしますよね。

企業側は、プリンター本体で稼ぐよりも、プリンターの付属商品を買い続けてもらうことによって継続的な売上を出しています。

ちょうど、おじいさんのように、絵高麗の梅鉢を五百両という高い値段で売ってしまうより、売らずに3両というお金を少しずつ少しずつ稼いでいくスタイルと似ています。

他のジレットモデルの事例としては、カミソリと替え刃、エスプレッソマシンとカプセルなどなどです。

もしかしたら、ジレットモデルはすでに200年前の猫の皿のお話が出来たころにはすでに存在していたのかもしれません。

そんなことを考えて妄想するのもまた面白いですね。

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