悋気嫉妬なんてことを申しまして、いわゆるヤキモチのお噂でございますが・・・
権助魚を聞くなら「三遊亭兼好」
高座に出た瞬間の底抜けの明るさと洞察力が輝るマクラ。それから、計算された軽妙な語り口と構成で今やチケット即売れの人気落語家。おかみさんと旦那の間で振り回されながらも、それを楽しんでしまうような権助を演じてくれる。
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ちょいと権助や！権助いないのかい？権助！
へ～い！あらおかみさん！なんかようでごぜえやすか？
ちょっとそこへ座っておくれ、話があるんだけれどもね？
というのはね？うちの旦那のことなんだよ・・・
なんだか知らないけど近頃そわそわしちゃってね、帰ってこない日なんかもあるのよ？
もしかしたら脇に違う女でもできたんじゃないかと思うんだけどさ、お前知ってんだろ？
どこなの？
あれまぁ！何がとおもっだら旦那のめかけ話でこれ！ん？おなごか！？
ははっ！そりゃあ面白えな！
面白くないんだよ・・・お前知ってるんだろ？どこなの？
いやおらはそんなこと知らねえだ・・・おらはそんなこと知らねえ！
そんなことないよ、いつもお前は旦那のお供してるじゃないか・・・
いや共はしてんだい、共はしてるんだけれどもいつもどこかで巻かれちまうだよ・・・
分かんなくなっちまうだ、見失っちまうだ・・・だから分かんねえ！
そんなこと言ったって・・・あぁ、分かった、あんた考えがあるんだね？
じゃあお前の好きな物なんでも買ってあげるから言ってごらん？何が好きなんだい？
何が好きなの！？
あれま今日はずいぶんすんせつだな、おらが好きなもんけ？
おらが好きなもんは別にてぇしたもんではねえがな・・・
あのえまがわ焼きっつうの！あれがおらぁ好きだ！
今川焼？変なもんが好きなんだねぇ・・・
じゃあ今からあたしが買ってあげるから権助？手をお出し？・
これお前にお小遣いあげるから、これとっておきな？いいから！
あれまぁ！おらにこづけぇくれるが？なんだこれ一円もあるではねえが！
はぁ、こったらに今川焼買ったら食いきれねえな！
いっぺんに買うことはないんだよ、好きなだけ買ってお食べ・・・
さあ権助！お前にあげるものあげたんだから、すっかり喋っちゃうんだよ！
一体どこなの！？
あれまこれ弱ったよこりゃ・・・これこづけえもらったから喋るわけではねえだよ？
こづけえもらったから喋るわけではねえけどもよ！
このうち出やしてな！三軒目のうちに八百屋がごぜえやす！その隣でごぜえやす！
まっ！そんな近くだったのかい！？灯台元暗しってのはこのことかい・・・
それで一体いくつなの？のはこのことかい・・・
あれな・・・あれは十銭出すと三つくれんな・・・
・・・お前なんの話をしてんだい？
えまがわ焼き！
今川焼の話をしてんじゃない！旦那の脇にいる女の話してんだよ！
なんだまんだその話してたのけ？おら本当に知らねえだ！
本当に知らないのかい？じゃあいいかい？
これから旦那はお出かけになると思うから！その時お前は後について行ってもらうから！
後を付けて行ってまたどこへ行ったかあたしへ教えてちょうだい！
そしたらまた後でお小遣いどっさりあげるから！
おいおい・・・誰かいませんか？あたしはこれから出かけますよ？
向島の丸安の旦那のとこだ、もううんと遅くなると思うからな、お前達先に寝てて構わないから！
どうぞいってらっしゃいまし！あのどうぞ権助を連れてってくださいまし・・・
いやいやいや今日は共はいらねえんだい、今日は仕事じゃねえんだから！共はいらねえ！
いやそんなこと言わずにどうぞ権助を連れて行ってくださいましな！
どこでどういう方に会うか分かりませんし？それからあなた様の貫禄というものが疑われますから！
あぁそう？・・・まあ後からどうにでも・・・あ～いやいや！
おい！権助！いるのか！権助！
へ～い！ほらおめえさん行くべ！それ！行くべ！ほれ！
もう支度をしてあるのかお前は！早いな・・・まあその方が話が早い・・・
どうぞ！いってらっしゃいまし！
いってこい！権助！しっかりお供してくるんですよ！
権助魚を聞くなら「三遊亭兼好」
高座に出た瞬間の底抜けの明るさと洞察力が輝るマクラ。それから、計算された軽妙な語り口と構成で今やチケット即売れの人気落語家。おかみさんと旦那の間で振り回されながらも、それを楽しんでしまうような権助を演じてくれる。
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はっはっは！おめえさん！どこ行くだ！？ほれ！
どこだっていい！
そういうわけにはいかねえだ！共するのにどこ行くか分かんなくてはな！
心細くてなんねえだ！どこ行くだ！？
うるさいな！向島の！丸安の旦那のとこだ！
あぁ丸安の旦那のとこか！お白いつけて頬紅つけて待ってんのか！？
お前嫌なこと言うやつだな、お前何だろ？ちょっと前に出ろ！
お前うちの奴に頼まれたな？そうに決まってら！
俺の後をつけてどこ行ったか教えてくれなんぞ言われて！
小遣いかなんかもらってお前・・・頼まれたろ！
あれぇ・・・へっへっへ・・・お前さん、見てた？
見てやしないよ！？見てやしないけれども、それくらいのこと知らないようじゃ人なんて使えないんだ！
いやぁこりゃお前さんえれえ眼力だ！確かにこれお前さんのかみさんからもらったもんだけども！
これお前さんにけえすから！これおかみさんの方にけえしておいてもらいてえ！
ほぉ～らやっぱりそんなこったろうと思った・・・
なんだお前一円ももらったのか！かぁ！とんでもねえやつだ！
あぁもういい！お前がもらったもんなんだからとっておけとっておけ！
うん・・・んん・・・ん～♪
これお前に小遣いをやる・・・
いいからとっとけ！いいから！
あれま！今度はおめえさんがやけにすんせつ！
あらっ！なんだこれ二円もあるではねえか！
はぁ～これはなんか企みあんな？
なんだ企みとは！いいからとっとけ！
あぁお前これからどうしようか・・・あぁ、お前なこれからうちへ帰っちまいな！
うちの奴にな、こう言ってくれねえか？
途中で丸安の旦那にばったりと会って向島の料亭へ繰り込んで、芸者太鼓をあげてどんちゃん騒ぎ・・・
日和がいいってんで墨田川で網を打とうということになって、網文という舟宿から舟を出して網を打ちましたと！
それで旦那様は今晩湯河原の方へ送り込みになってお帰りがございません！と・・・
そう言ってくれ！
へいへい分かりやした！
それからな、うちの奴はどうも疑り深くていけねえ！どうしようか・・・
あっお前ね、魚屋へ行ってな？墨田川で取れそうな魚！網打ち魚！
これを買ってな！うちの奴へざぁー！っとこうやって見せてやれ！
そうすりゃあうちの奴だって少しは隅田川で網打って遊んだっていうのも信用するから！
いやおめえさん頭がいいだで！へいへい分かりやした！
じゃあその魚を買う！・・・銭でごぜえますけれどもな？
今貰った二円の中から出すのか！それともまた別にくれんのか！
そういうことはしっかりしてんだなお前は・・・
しっかりやってくれりゃまたこっちで小遣いを出すから！しっかり頼んだぞ！？
へえへえ分かりやした！どうぞ行ってらっしゃいまし！
はぁ～行っちまったな・・・横っ飛びになって行っちまった・・・
男なんつうもんは贅沢なもんだねぇ・・・あんだけいいかみさんがありながら脇に尼っ子こしらえて・・・
そんなこと言ってる場合でねぇ、網打ち魚買わねえと・・・
ちょっくらごめんくだせえ！ちょっくらごめんくだせえやし！
へい！
ちょっくらごめんくだせえやす・・・網打ち魚もらいてえと思いやしてな！
え？網打ち魚？おう！そこら辺にあんのはな！全部網打ちで取れたもんだ！
そうでございますか・・・お！こ、これは？これはなんでがす？
これはな、ニシンってんだ！！
あ、ニシン！これは網打ち魚でごぜえやすか？
それは網で取れたもんだよ・・・
じゃあこれはいただきます・・・
こ、これはなんでがす？
これか、これはな、スケソウダラってんだ！
スケソウダラ？これは網打ち魚ですか？
それも網で取れたもんだ・・・
じゃあこれもいただきます・・・
あらっ！これまた珍しい！小さい魚でこれ！目ん玉わら通してますな！これはなんがす？
それは目刺しってんだよ！
あぁ！目刺し！これも網で・・・
網で取れたもんだ！
じゃあこれも・・・
あら！これまた珍しい！真っ白けで目も口もねえ板っ切れに乗ってこれなんでがす？
お前バカか！？それはかまぼこってんだよ！
はぁ・・・かまぼっこ？
そうじゃねえんだよ・・・かまぼこ！
あぁ！かまぼこ！これは網打ち・・・
うるせえな！元はみんな網で取れたもんだ！
じゃあみんなこれ駕籠に入れてもらってな！銭ここへ置きますで！
へえどうもありがとうごぜえやす！
権助ただいま戻りやした！
あらまぁ～権助早かったじゃないか！
それで今日はうまくいったんだろうねぇ？
はぁ・・・うまくいきやした！
うまくいっただが！そうだ！
途中で丸安の旦那にバッタリと会って、向島の料亭へ繰り込んで芸者太鼓をあげてどんちゃん騒ぎ！
まあ日和もいいてえことで隅田川で網を打とうってえことになってぇ！
網文っつう舟宿から舟出した！
で、旦那様は今晩湯河原の方に送り込みになってぇ、お帰りがごぜえやせんと・・・
ほっほっほ・・・そう言っとくれ・・・
なんだい！？
いやいやいや！お役目これにてごめんくだせえ！
ちょいと！権助！お待ち！どうしてお前はそう嘘ばっかり言うの！
嘘！？嘘でねえ、おら正直権ちゃんだでおらぁ！嘘は言わねえ！
何言ってんだい嘘に決まってるじゃないか！時計をご覧、時計を！
お前が出て行ったのは二時ですよ？今二時十五分じゃないか！
十五分の間に芸者太鼓あげて、隅田川で網が打てますか！？
打てますかってやっちまったもんはしょうがねえだ！
あぁこれか！疑り深いっつうのは！
でえじょうぶ！ちゃんと証拠の品を持った来たでごぜえますよ！
なんだい証拠の品ってのは？あたしに見せてごらん！
へえへえこれでごぜえやす！
まず最初に獲れたのが、このニシンにスケソウダラでごぜえますな！
なに馬鹿なこと言ってんだい！これ北海道の魚でしょ？
え！？いやいやこれ確かにほっけえ育ちほっけえ生まれの魚でございますが、まあこのニシンが一度はお江戸見学をしてみてえってんだぁ！
わぁ一人で行ぐのは寂しいから、おめえも一緒に行ぐがぁ！
おらも一緒にいがんべえ！って二匹であがってきたのを捕まえたんでごぜえやす！
その後で捕まえたのが、この目刺しっちゅう魚でごぜえやしてな！
こんりゃろまあ小っちゃきな魚ではぐれちゃなんねぇって、皆目ん玉わら通せぇ！ってわら通して団体であがってきたのを捕まえたんでごぜえやす！
その後で捕まえたのがこのかまぼっこという魚でごぜえやして！
これ魚のくせに泳ぎを知らねえだ！
小っちゃきな板っ切れに乗っかってぺたこ～ん！ぺたこ～ん！ってあがってきたのをおらが手で捕まえて！
何を馬鹿なこと言ってんだい！
そんな魚が関東一円で獲れますか！？
一円！？あぁ！それだったら違うだ！
二円で頼まれた…
権助魚を聞くなら「三遊亭兼好」
高座に出た瞬間の底抜けの明るさと洞察力が輝るマクラ。それから、計算された軽妙な語り口と構成で今やチケット即売れの人気落語家。おかみさんと旦那の間で振り回されながらも、それを楽しんでしまうような権助を演じてくれる。
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権助魚を聞いての感想
まず最後のオチの所の関東一円という言葉ですが、一円はある地域全体という意味です。
所説色々あるそうなのですが、昔、一円タクシーというものがあって、そこからある地域を回る一円タクシー・・・ある地域全体・・・一円になったのではないかと思われます。
また権助魚についてですが、昔は今と比べてお小遣い制度があるのが羨ましいですね。
落語家さんも前座の時には師匠からお小遣いをもらったりすることもあるそうですが、一般の人は親以外からお小遣いをもらうようなことは中々ありませんよね。
外国ならチップ制とかで、お給料の他にお客さんからお金をもらうということがありますが・・・
権助が結局、おかみさんと旦那からもらった合計は3円ですから、今の感覚で言うと大体6万円くらいだと思われます。
すぐお金で考えるの私のよくない部分ですね、反省してます。
ただ、権助のように、いわゆる頭のゆるい人でもお金をもらえるんですから、本当に羨ましい限りですね。
人の噂だったり、夫が浮気しているんじゃないか？という情報には、高い金額を張って、権助のような馬鹿に頼んででも知りたかったのでしょうね。
昔は高価なものといえば、名のある茶碗とかお皿とかそういうものしかなかったのでお金持ちはお金の使いどころがあまりなかったのかもしれません。
権助魚のように自分のお金を情報を得るために使うこともあったんですね。
今の情報社会とは真逆で、情報は自分で動いたり、人を使って得るしか方法がなかったんですね。
それを考えると、今はどれが本当か分からないくらいの情報が溢れかえってどれが正解か分からないですね。
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