昔は道具屋さんが地方の大きな百姓家であるとか、あるいは物持ちのある家に行きまして『ちょっと蔵の中を見せてください』なんてんで・・・
めぼしい品があるとうまいことを言って二束三文に買い叩いて、江戸へ持ってくるってとこれを高く売って、たいそうな儲けを出したなんて、そんなことがあったんだそうでございますけれども・・・
猫の皿を聞くなら「立川談志」
立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。
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※フルは↑の赤いボタンから1か月間無料でご視聴頂けます。

じいさん!?ちょいと休ませてもらうよ!茶をもらおうかな?

はいはい、あのお客様、そこはなんでございます、日当たりが悪うございますから、どうぞこちらの方が日が当たっておりますので・・・

あのこちらの方が日当たりがようございます!

あのこちらの方が日当たりが!

あのねじいさん・・・俺洗濯物じゃねえから・・・

日当たりなんかどうでもいいんだよ、早くお茶を・・・・

左様でございますか、お待ちくださいまし!

あのね、この辺りはもう熊谷(埼玉県)かな?

いやいまね、信州から上州のあたりをず~っと回ってきたんだけどさ、これから江戸へ帰ろうと思ってさ・・・

お?なんだもうお茶入ったのかい?はいはいはい・・・

あららら・・・いい色だねぇ!ウグイス色だよ、美味そうだねぇ

またこの辺りはいい景色だよ・・・山に霞がかかってさ、麦畑が青々として・・・

あの黄色いのは菜の花かい?それに綺麗な川が流れてるよ?おっ、キラッと魚が光ったよ?

麦畑が青々しくて、菜の花は黄色くって、お茶はいい色で!

ふ~ふ~・・・ずずぅ・・・色のわりに味のないお茶で・・・

いやいやいいんだいいんだ、あんまり苦いお茶だと夜眠れなくなるといけねえからよ・・・

いやぁそれにしてものんびりしてて、いい茶店だよ?

へぇ、ありがとうございます・・・

おいおいおい、いつまで食ってるんだい、もうやめにしないかい・・・
おじいさんが声を掛けたんで、ひょいと見るってと縁台の下で猫がむしゃむしゃおまんまを食べている・・・
この猫はなんの変哲もない、ぶち猫なんですが、そのおまんまの入ってる茶碗を見て道具屋さんが驚いた・・・
絵高麗・梅鉢の茶碗と申しまして、江戸へ持っていくと捨て値でも300両・・・ どうかしたら500両はしようかという大変な品物でございまして・・・

知らないってのは恐ろしいもんだねぇ・・・

あんな高い茶碗で猫におまんまを食べさせて・・・

そうだ・・・俺がうまいことを言ってな、こっちへ安くもらっちまって、江戸へ持って帰れば300両、500両の儲けだってんだよ・・・

じいさん!かわいい猫だね!この猫は!

おう!来い来い来い・・・膝へ乗れ膝へ、おお~可愛いなぁ・・・

あぁ・・・おやめくださいまし、汚い猫でございます、毛も抜けますから・・・

いいんだいいんだ、俺は猫が好きだから・・・

お?懐に入るか?よしよしよし・・・

あらぁ懐に入っちゃったよ?ゴロゴロゴロゴロ言ってやがる・・・可愛いねぇこれ!

左様でございますか?いやぁ迷い猫がいつの間にかうちに居付いちまったもんでございますよ・・・

そうかい・・・え?うちにも何匹かいるの?あぁそう・・・

どうだろう?あのね、いや俺も猫は好きなんだけど、かみさんが輪をかけて猫好きなんだ!

ところがこないだまで飼ってた猫がいなくなってしょんぼりしてたんだよ・・・

どうだろうね?この猫俺にくれないかね?そしたらさ!カミさんも喜ぶんだけど!

いいだろ!?これ!何匹もいるんだから!

えぇ、まあ左様でございますがなぁ・・・そんな猫でも飼っていますと情が移るという・・・

そんなこと言わねえでいいじゃねえか~、あっ!そうだそうだ!

あのね、猫をもらうには鰹節代をもらわなきゃいけねえって言うからよ!

ほらここに小判で三両あるからよ!三両で売ってくれ!

いやぁ!それは困りますんで!
おじいさんが驚くのも無理はありません・・・
三両・・・今の三円とは違います・・・
道に落ちている一円玉を誰も拾いませんからね・・・
なにしろ落ちている一円玉をしゃがんで拾って立ち上がると2円分のカロリーを消費するだそうでございます・・・
ところがその頃の三両といえば、二か月、三か月、ひょっとすれば半年は暮らせると言うような大金でございますから・・・
※一両…日本円でおおよそ12~13万円。
猫の皿を聞くなら「立川談志」
立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。
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いやぁ!それは困りますんで!

いやいやそういうわけには・・・

いいじゃねえか!な?これでもって・・・

そ・・・そうですかぁ?・・・どうするお前は?

いやぁゴロゴロって言ってなついてんだよたいへんに!

そうですか・・・分かりました、それじゃあ可愛がってやってくださいまし・・・

くれるかい!?悪いね!

あっ、それからねじいさん、今晩熊谷の宿に泊まるよ・・・

猫におまんま食わせるときにさ、宿の皿使うと女中が嫌な顔をするんだよ・・・

だからそのおまんま入ってた茶碗、それも一緒にもらってってもいいだろ?

これすまねえけれども・・・

ちょ、ちょっとお待ちくださいましな・・・

これはあの割れるといけませんから、どうぞこちらの木のお碗をお渡ししますから・・・

あぁいいんだいいんだ!木の茶碗じゃなくてこれでいいんだ!

猫は器が変わるとおまんま食わなくなるって言うから・・・

いやでも木のお碗・・・

木のお碗じゃなくていいんだ!食わなくなるから、器が変わると!ね?

えぇ・・・いやでもそれだけはちょっと困るんでございますよ・・・

え?なんで?

いやなぜと聞かれてもあなたはご存知ないかもしれませんがなぁ・・・

その茶碗は絵高麗・梅鉢の茶碗と申しまして、江戸へ持っていけば捨て値でも三百両、どうかすりゃ五百両という品物でございまして・・・

それだけはちょっと困るんでございますよ・・・

・・・

・・・なんだ、知ってたのかよ・・・

そうかい!?とてもそうは見えねえけど!

見えない所がなんとも言えない味わいでございまして、あたしも昔は江戸でそれ相応の暮らしをしておりましたが、商売が傾きましてな・・・

まあ食うに困って、他の物はみんな売り払っちまったんですが、これだけはどうしても手放せなすことができない、こうして落ちぶれても、大事にしているという塩梅でございます・・・

ですから、これだけは・・・今木のお碗を包みますから、あのですね・・・

その猫、このお碗でもよくおまんま食べますですよ?

・・・

・・・いつまでにゃーにゃ―言ってんだこの野郎・・・

俺ぁ猫嫌いなんだよ・・・うちのカミさん輪かけて嫌いなんだからさ・・・

こんなもん連れて帰ったら、怒られちゃうよ、いいから早く出ろよ!いいから・・・

痛えっ!

あぁ~あ引っ掻きやがった!この野郎!

おう!じいさん!なんだってそんな高い皿で猫に飯食わしてるんだ!

えぇ・・・それでおまんまをやっておりますと・・・

ときどき猫が三両で売れますんで・・・
猫の皿を聞くなら「立川談志」
立川談志の「猫の皿」は、商人同士の駆け引きを描いた巧妙でユーモラスな一席です。高価な古い皿を巡る、したたかなやり取りが笑いを誘います。談志の鋭い語り口が、この滑稽話を一層際立たせる名作です。
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猫の皿を聞いての感想
いやぁ素晴らしいビジネスモデルですね!
茶屋と皿をおとりに猫で稼ぐ。さすがは昔江戸でそれ相応の生活をしていたおじいさん。
商売の仕方が上手いですね。やはり商売の戦略は一筋縄ではいけませんね。
お皿を売って金にしたらそれで終わりなわけですから、お皿を利用して、三両ずつ稼いでいくというやり手ですね。
おそらく五百両もの金が一度に入ってしまったら、保管場所を見つけるのが大変だったり、気が緩んで使いすぎてしまう可能性もありますからね。
現実にも面白いビジネスモデルがあります。それがジレットモデルというものです。
例えば、昔は非常に値段の高かったプリンター。今では1万~2万円で買うことが出来ます。
しかしながら、そのプリンターのインクは非常に高いです。1本800円~3000円くらいしますよね。
企業側は、プリンター本体で稼ぐよりも、プリンターの付属商品を買い続けてもらうことによって継続的な売上を出しています。
ちょうど、おじいさんのように、絵高麗の梅鉢を五百両という高い値段で売ってしまうより、売らずに3両というお金を少しずつ少しずつ稼いでいくスタイルと似ています。
他のジレットモデルの事例としては、カミソリと替え刃、エスプレッソマシンとカプセルなどなどです。
もしかしたら、ジレットモデルはすでに200年前の猫の皿のお話が出来たころにはすでに存在していたのかもしれません。
そんなことを考えて妄想するのもまた面白いですね。
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