落語【真田小僧】台本 吹き出し風

落語 台本

落語のほうに出てくるお子さんは大体優等生ではありませんで・・・

近頃は『勉強が好き』というお子さんも大変に多くいらっしゃって時代が変わってたなあ・・・としみじみ思うんでございますけれども・・・

勉強だけじゃない・・・お習い事をするお子さんもずいぶん増えましたね・・・

そろばんにピアノに英語に水泳に・・・

本当に素晴らしい環境で英才教育を受けておりまして、それに対してやらされてるお子さんの方もあまりつらいと思っていないというのが末恐ろしいですな・・・

そうなるってともう子供っぽいという感じでもないような気もいたしますけれども・・・

『子供らしくて可愛いなぁ~』ということもないですな・・・

なんかちょっと大人びたような子が多いようですけれども・・・

大体落語の話に出てくるのはってと、ちょいと癖のあるようなのが出てきますけれども・・・

真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」

子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。

子ども
子ども

おとっつあん・・・

子ども
子ども

おとっつあん!

父親
父親

なんだよ!

子ども
子ども

あの、肩叩いてやろうか?

父親
父親

いらねぇよ!

子ども
子ども

だって日頃お疲れでしょ?

父親
父親

いいんだ、疲れてねえよ?肩凝ってねえからいいんだ!

子ども
子ども

そんなこと言わねえでぇ~・・・

子ども
子ども

じゃあ腰さすってやろうか?

父親
父親

いらねぇよ!

子ども
子ども

・・・お茶入れようか?

父親
父親

うるせえなてめえは・・・

父親
父親

おとっつあんたまの休みだ!

父親
父親

のんびりしてえんだよ!その辺でうろちょろうろちょろするんじゃねえ!

父親
父親

表行って遊んできな!

子ども
子ども

ねぇ~!せっかくさぁ!あたいが親孝行しようと思ってるってとさ?

子ども
子ども

そうやって避けるんだからねぇ・・・

子ども
子ども

こっちが歩み寄っててんのに・・・

子ども
子ども

ねえおとっつあん親孝行させて!

父親
父親

いいよ!普段からやるんならやれ!

父親
父親

普段はこっちの言うことを何にも聞かねえでもって、なんか急にそういうことを始めるんだ・・・

父親
父親

必ず下心があるに違いねえ!早く表へ遊びに行きな!

子ども
子ども

いいよ!じゃあ遊びに行くよ!遊びに行くからさぁおとっつあん!

子ども
子ども

おくれよ・・・

父親
父親

え?

子ども
子ども

おくれよ!

父親
父親

何を!?

子ども
子ども

何をってそんなぁ~!わかってるくせにぃ~!

子ども
子ども

子供が親にくれって言ってんだから、まさか首じゃねえや・・・

父親
父親

当たり前だよ!恐ろしいことを言うやつだこの野郎は!首とられてたまるか!

父親
父親

なんだい!言ってみなよ!

子ども
子ども

えへ・・・

子ども
子ども

ぁしをおくれよ・・・

父親
父親

なにを!?

子ども
子ども

ぉぁしをおくれよ・・・

父親
父親

男らしくはっきり言え!なんだ?

子ども
子ども

何を言ってんだよ、わかってるくせにああやって言ってんだよぉ・・・

子ども
子ども

御足(お金)をお~くれよ~♪

父親
父親

歌ってやがるこの野郎は・・・

父親
父親

御足はさっきおめえにやったろ?

子ども
子ども

もう使っちゃったんだよ!

父親
父親

使っちゃったんじゃだめだよ!な?

父親
父親

もうやらねえ・・・

子ども
子ども

そんなこと言わねえでいいじゃねえか!

子ども
子ども

ねぇ~!表行くからさぁ~!一文無しなんだからあたい・・・

子ども
子ども

表へ出たって心細いよ?

父親
父親

生意気なこと言うんじゃねえよ!

父親
父親

大人じゃあるめえし、おめえ子供なんてのはな?元々一文無しみたいなもんなんだよ!

父親
父親

おめえ銭がなくったって遊べるだろ?いくらでも・・・

子ども
子ども

何を言ってんだよ・・・

子ども
子ども

そりゃ遊べないことはないけどさぁ・・・

子ども
子ども

このまんま表へ行くだろ?みんな菓子屋の前に集ってんだよ?

子ども
子ども

あたいもそこへ行くじゃねえか・・・

子ども
子ども

人が食べてんのを美味そうだな~って見てるのは、とってもつらいもんだよ!おとっつあん!

子ども
子ども

我が子にそんなひもじい思いをさせてよく平気でいられるねぇ!

父親
父親

何をいいやがんでいこん畜生!おめえにはちゃんと銭やってるじゃねえか!

父親
父親

毎日きちんきちんと小遣いやってるんだ!生意気なこと言うんじゃねえやい!

子ども
子ども

だって使っちゃったんだから・・・

父親
父親

だから使ったのはお前が悪いんだから!なぁ!だから今日はもうやらねえよ!

子ども
子ども

あぁ、そう?じゃあ明日の分をおくれよ!

父親
父親

小遣いの前借してやがんだ・・・

父親
父親

明日になったらどうすんだ!困るだろてめえは!?

子ども
子ども

明日になったら明後日の分もらっちゃうんだから!

子ども
子ども

で、明後日になったら明々後日の分もらう!

子ども
子ども

明々後日になったら、その次の日の分をもらう!順に順に先にもらっちゃうんだ!

子ども
子ども

そのうちにおとっつあんぼんやりしてるから分からなくなっちゃうんだ!

父親
父親

そういう野郎だ・・・親を馬鹿にしてやがる・・・

父親
父親

だめだよ!やらねえよ!

子ども
子ども

どうしてもくれないの?

子ども
子ども

あぁそう・・・じゃあいいよ!もらわないよ!

子ども
子ども

おとっつあんにもらわなきゃいいんだ!おっかさんにもらうからいいよ!

父親
父親

馬鹿野郎!何を言ってやがんでい!おっかさんはくれないよ!

父親
父親

おとっつあんがあいつにあげちゃいけねえぞ!って言えばな?おっかさんくれやしねえんだい!

子ども
子ども

えっへっへっへ・・・だから甘いんだよ・・・

子ども
子ども

・・・うふふ・・・くれるんだよおっかあは・・・

子ども
子ども

おっかあが帰ってくるだろ?それからあたいが

子ども
子ども

おっかあ~!御足をおくれよ~!

子ども
子ども

ってこう言うとね?

子ども
子ども

だめですよ!おとっつあんからやっちゃいけないって言われてますからやりませんよ!

子ども
子ども

ってこう言うだろ?そしたらあたいが

子ども
子ども

「じゃあいいよ!こないだおとっつあんの留守に、よそのおじさんが訪ねてきたってそう言っちゃうから!」って言ったら

子ども
子ども

ちょいとお待ちちょいとお待ちよ!いまやるよ!

子ども
子ども

って必ずくれるんだよ~!もう2、3度使っちゃったんだ、その手で・・・

子ども
子ども

親脅すのは嫌だけどなぁ・・・背に腹は代えられねぇや・・・

父親
父親

ちょっと待て!ちょっと待ちな!

父親
父親

行くな!表へ遊びに!

父親
父親

いいからこっちこいこっちへ!

父親
父親

ちょっとそこへ座れ!

父親
父親

おとっつあんの留守に、誰かおっかさんの所へ訪ねてきたのか?

子ども
子ども

え!?いやぁ・・・

子ども
子ども

なんでもないなんでもない・・・

子ども
子ども

気にしちゃいけないんだおとっつあんそういうことは・・・気のせいなんだよ!

子ども
子ども

あぁ~あ・・・まずいこと言っちゃったなぁ・・・

父親
父親

なんだおい!今おとっつあんが聞いてるじゃねえか!

父親
父親

なんか誰か訪ねてきたのか?

父親
父親

おとっつあんの御用がある人だといけねえから聞いてるんだ!

子ども
子ども

いやおとっつあんには用はないんだ・・・ふふっ・・・

子ども
子ども

弱っちゃったなぁ、まずいこと言っちゃったなぁ・・・

子ども
子ども

やっぱり表に行って・・・

父親
父親

おいちょいと待ちなよ!誰か訪ねてきたのか!?言ってみな!

子ども
子ども

うん・・・じゃあ言うけどさ、訪ねてきたことには訪ねてきたんだ・・・

父親
父親

ほぉ・・・誰が!?

子ども
子ども

いや、だ、誰がって・・・

子ども
子ども

おとっつあんこの話聞きたいかい?

父親
父親

そらまあ聞きたいよ!

子ども
子ども

じゃあ・・・御足をおくれよ・・・

父親
父親

御足はだめだよ!

子ども
子ども

じゃあ、あたいだって話はしないよ!

子ども
子ども

これを話すのは、子供としてはとってもつらいんだから・・・

子ども
子ども

つらいことを話すんだから御足をくれなきゃだめだよ・・・

父親
父親

何を言ってやがんでい!じゃあいいよ!

子ども
子ども

あぁそりゃよかった・・・その方がいいんだよ?

子ども
子ども

平和な家庭に波風立てるのは嫌だもの・・・

父親
父親

妙なこと言ってやがらぁ本当に・・・

父親
父親

わかったよ!じゃあ今からやるからちょいと待て!

父親
父親

ほら!っとに・・・さあ!話をしてみなよ!

子ども
子ども

っへへ・・・ん?な~にこれおとっつあん・・・

父親
父親

一銭じゃねえか!

子ども
子ども

一銭じゃダメなんだよこの話!

子ども
子ども

一銭じゃこの話はお引き取り願って・・・

子ども
子ども

一銭じゃだめだ!

父親
父親

子供なんざ一銭持ってりゃたくさんだ!

子ども
子ども

いやそれは、これはもう一銭じゃとてもじゃないけれども、聞かせられないんだよ・・・

子ども
子ども

値打ちのある話なんだから!五銭おくれよ!

父親
父親

五銭!?冗談言っちゃいけねえや本当に・・・

父親
父親

誰がやるかい五銭なんざ!

子ども
子ども

じゃあいいよ?話さないよ?

父親
父親

・・・う~ん・・・

父親
父親

じゃあわかった、五銭やるよ!話してごらん!

父親
父親

五銭すっとおめえにやる!話をしろ!

子ども
子ども

そりゃだめだよ、おとっつあんその手は食わないんだよ・・・

子ども
子ども

話をするだろ?

子ども
子ども

さあ御足をくれって言ったら『だめだ!』なんてこう言われちゃったら

子ども
子ども

今のお話返してくれってわけにはいかないんだから!

子ども
子ども

寄席だってそうでしょ?先に払うでしょ?

子ども
子ども

だからこの話も先に払ってもらわないってとできなんだから、先に払っておくれよ!

父親
父親

嫌なこと言ってんだからもう・・・

父親
父親

五銭?・・・っとに・・・

父親
父親

ほら!その一銭もやるから!さあ早く話してみな!

子ども
子ども

っへへ・・・まいど・・・

子ども
子ども

あのね、おとっつあんこないだ、横浜へお仕事に行ったときあったでしょ?

父親
父親

横浜?あぁ!あったあった!

子ども
子ども

あの時ね!おとっつあんが出かけたすぐにねぇ!おっかあの所にねぇ!

子ども
子ども

こんにちわぁ~!

子ども
子ども

なんてんで男の声がするんだよ・・・だからあたいが出てったら、

子ども
子ども

おっかさんはいらっしゃいますか?

子ども
子ども

ってこんなこと言ってるんだよ・・・

子ども
子ども

いますよって言ったら、ちょっとってこう言うから、おっかさんにどっかのおじさん来たよって言ったら

子ども
子ども

あぁそうかい・・・

子ども
子ども

って言って出ていってその人の顔見てね・・・嬉しそうなんだ!

父親
父親

ふ~ん・・・どんな野郎だ!?

子ども
子ども

おとっつあん!どんな野郎ってね、あんな奴がいるんだね世の中には!

子ども
子ども

白い服なんざ着ててね?なんか後ろめたいことがあるのかねぇ?

子ども
子ども

色のついた眼鏡なんかかけててさ!それでまぁ気取りやがってステッキなんか持ってるんだよ!

子ども
子ども

こんちわぁ!なんて言ってやがるんだから!それ見てもう大変なんだから!

子ども
子ども

まあ~!よく来てくれたじゃないかねぇ!

子ども
子ども

ちょうどよかった今うちのヘチマ野郎がいなくって!

子ども
子ども

っておとっつあんのことヘチマ野郎って言ってんだよ?

子ども
子ども

おとっつあんヘチマには似てねえやなぁ!

父親
父親

あたりめえだよ!

子ども
子ども

どっちかってとかぼちゃだもんなぁ!

父親
父親

うるせえやい!余計なお世話だ!

父親
父親

それで、どうしたい!?

子ども
子ども

それでその野郎がね!おっかさんの手をぎゅ~っと握ったりなんかしてね?

子ども
子ども

さあこっちへ上がっておいでよ!

子ども
子ども

なんて言ってんだよぉ!

父親
父親

おっかあが?ふむ!それでどうなったい?

子ども
子ども

で・・・こっから先聞きたい?

父親
父親

そりゃ聞きたいや!話してみなよ!

子ども
子ども

・・・じゃあもうあと五銭おくれよ・・・

父親
父親

さっき払ったじゃねえか!

子ども
子ども

さっきまではここまでなんだよ!こっから先はまた御足がいるんだよぉ!

父親
父親

そんなこと言わねえですぅ~っと喋っちゃったらいいじゃねえか!

子ども
子ども

いやそうはいかないんだよ!出しておくれよ!

父親
父親

そうはいかないよこっちだって!!

子ども
子ども

あ、そう?じゃあここでやめとこ?

子ども
子ども

ここんとこでやめておけば、おとっつあんもまあまあ我慢できるんだ・・・

子ども
子ども

こっから先はなぁ・・・

父親
父親

分かったよ!分かった!ほら!やるから・・・

子ども
子ども

おっ・・・ありがとありがと・・・

子ども
子ども

それでね?あたいがおっかさんの隣にいたら・・・

子ども
子ども

何してんだお前は!こんなとこにいるんじゃないよ!早く表へ遊びに行っておいで!

子ども
子ども

ってこう言うからね?嫌だ!ってこう言ったら

子ども
子ども

そんなこと言わないで、後生だから行っておくれ!

子ども
子ども

っていつもなら一銭くれるところを、何を慌ててたんだか五銭くれたんだよ?

子ども
子ども

それから、あたいあんまり嬉しくなっちゃったんで、ぱぁ~っと表へ遊びに行っちゃった!

父親
父親

ばかやろ、ばかやろう!

父親
父親

お前なんでそういう時にはおっかさんの側へピタっとくっついておかないんだ!

子ども
子ども

えへへ・・・大丈夫だよ、心配してんなよ、おとっつあん・・・

子ども
子ども

あたいはおとっつあんの味方だよ!

子ども
子ども

つぅ~!っと表へ出たんだけど、気になって気になってしょうがないからね?

子ども
子ども

それからうちへ戻ってきたんだおとっつあん!

父親
父親

ほぅ・・・偉いな・・・

子ども
子ども

そしたらね!出かけたときには開いてた障子がねぇ!

子ども
子ども

帰ってきたらピタッとしまってるんだよ・・・

父親
父親

うむ・・・それから?

子ども
子ども

それからそ~っと側へ寄ってってねぇ!障子をそ~っと・・・

子ども
子ども

おとっつあんこれ開けたい?

父親
父親

開けたいよ!ちょっと開けてみな!

子ども
子ども

これ開けんのにまた五銭かかんだよ・・・

父親
父親

おい・・・そんなちぎらねえでよぉ!すっと話したらいいじゃ・・・

父親
父親

本当にまあしょうがねえなぁ!ほら!もう!早くほらっ、話してみな!

子ども
子ども

障子を開けてひょいと見たらね?おとっつあんね?

子ども
子ども

お布団が敷いてあんだよ・・・

父親
父親

布団が!?座布団か?

子ども
子ども

寝具・・・寝るお布団が敷いてあるんだよ・・・

子ども
子ども

したらおっかさんが「それじゃあ・・・」なんて言って、そのおじさんの手を取ってね?

子ども
子ども

自分からこう・・・誘い込むようにしてお布団の所へ倒れたんだよ!

父親
父親

ふんふん!それでぇ!?

子ども
子ども

ね?したらそのおじさんが上から覆いかぶさるような形でいったんだ!

父親
父親

ふんふん!

子ども
子ども

ここで・・・五銭くれる?

父親
父親

この野郎!・・・ほらっ!

子ども
子ども

おっ!ありがとう!

子ども
子ども

でね?そのおじさんがそこら中ねぇ・・・

子ども
子ども

やだなぁ・・・あぁいやだ・・・だけど話すよ?

子ども
子ども

おっかさんの体を・・・触るんだよ!?えぇ?

子ども
子ども

するとおっかさんが

子ども
子ども

そこ・・・そこ・・・

子ども
子ども

なんて声を出したりなんかするからね?もう~嫌だったなぁ!

子ども
子ども

それですっとそのおじさんの顔見たらねぇ!

子ども
子ども

そのおじさんのこと・・・あたい知ってんだよ!

父親
父親

おめえが知ってる!?誰だ!

子ども
子ども

誰だったって・・・おとっつあんも知ってるよ?

父親
父親

俺も知ってる?・・・誰だ!言ってみろ!

子ども
子ども

こ、これ十銭おくれよ・・・

父親
父親

じゅっ・・・そ、それは高いよお前・・・

父親
父親

十銭は高いぞ!

子ども
子ども

高くないよ!おとっつあん、たかが十銭じゃないか!

子ども
子ども

お出しよぉ!教えてあげるからさぁ!

子ども
子ども

でも嫌だったら嫌でいいんだよ?誰だか分からない方がね?

子ども
子ども

ごたごたしなくても済むからね・・・

父親
父親

待ってろ待ってろ!分かった分かった!ほらほら・・・

子ども
子ども

ありがとありがと・・・

父親
父親

ほら!誰だ!言ってみろ!

子ども
子ども

あのね・・・

子ども
子ども

横丁の按摩(あんま)さんがおっかさんの体揉みに来てたの!

子ども
子ども

どうもありがと!

父親
父親

待てぇーーーい!こん畜生ーーー!

父親
父親

本当に悪い野郎だなあん畜生は・・・

父親
父親

ああいうことを平気でやるんだから本当に・・・

真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」

子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。

母親
母親

どうしたんだい?早く上がんなよ!

父親
父親

おめえが早く帰って来ねえからよぉ!御足取られちゃったよ!

母親
母親

あらやだ・・・泥棒にかい?

父親
父親

そうじゃねえよ!金坊にだい!

母親
母親

もう~!だから言ってるじゃないかぁ~!

母親
母親

そこらに御足を置いておいちゃいけないってさぁ!

母親
母親

どこの持っていったの?

父親
父親

俺んところから持って行ったんだよ!

母親
母親

じゃあ、それお前さんがやったんじゃないか!

父親
父親

やったんじゃねえんだよ・・・騙し盗られたんだよ!

母親
母親

なんで騙されたの?

父親
父親

いっぱい引っ掛けられたんだよ!

父親
父親

おめえの所に按摩がほら、用事に来たんだってな、俺がこないだ横浜に行った時に・・・

母親
母親

あぁかかったよ?

父親
父親

その話をよぉ・・・いやにこっちに気を持たせやがってさぁ・・・

父親
父親

気になるように気になるように話を持って行ってさぁ!

父親
父親

それをその都度、区切りやがってさぁ!

父親
父親

そのたんびに御足を取られちゃったんだよ!

母親
母親

どうしてそんなのに騙されちゃうんだよぉ!

母親
母親

分かりそうなもんじゃないか按摩さんってのは!

父親
父親

いやそれがそうじゃねえんだよ!あいつの喋りようによるってとね?

父親
父親

もうそうでないの!うまいんだこれが!

父親
父親

キザに白い服を着てなんて言いやがんだよ・・・白衣なんだ!考えてみれば!

父親
父親

後ろめたいことでもあるのか、世間体をはばかって色眼鏡をかけてって言ってたけども・・・

父親
父親

別に後ろめたいことがあったわけじゃねえやなぁ・・・

父親
父親

気取りやがってステッキだって言ってやがんだ!なぜ杖と言わねえ!

父親
父親

本当にそういうところはうまいんだからあん畜生は!

母親
母親

そりゃあ知恵じゃ敵わないんだよお前さんはぁ・・・

母親
母親

本当にあの子は知恵があるんだからさ!

母親
母親

でもまあいいじゃないか!あれだけ知恵があるんだから!

母親
母親

今に大きくなったら立派な人になるよ!

父親
父親

冗談言っちゃいけねえや!立派な人にはなれねえよ!

父親
父親

あいつの知恵ってのはな?あったところで悪知恵だ!

父親
父親

悪い方には働くんだい、いい方には何一つ働かねえんだよ!?

母親
母親

そんなことはないだろ?良くたって悪くたって知恵なんてのはあった方がいいんだよ?

父親
父親

それがそうじゃねえんだ・・・

父親
父親

いや俺はな?学問がねえからよ、講釈場行って講釈聞くだろ?

父親
父親

ああいう話を聞いてるってと偉い人の話がいっぱい出てくるんだ!な?

父親
父親

そういう話の中には小さい時分の話もあるんだよ・・・

父親
父親

そうすると偉くなる人というのは子供の時分から知恵を使う所が違うんだよ・・・

父親
父親

あいつみてえに親を騙すようなことはしねえんだ!

父親
父親

こないだ聞いたやつだって偉い人がいるんだよ?

父親
父親

『真田三代記』って言うんだ・・・

父親
父親

天正何年だかは忘れちゃったけどもさ?

父親
父親

武田勝頼がさ、天目山ってとこに立てこもった!

父親
父親

ね?それで信州の上田の真田阿波守がよ、助っ人を頼まれたんで軍勢率いて駆けつける途中でもって

父親
父親

敵の大道寺駿河守と松田尾張守に挟み撃ちにあっちゃった・・・

父親
父親

さあ行くことも引くことも敵わない、明日はそろそろ討ち死にかと覚悟しているってと

父親
父親

その阿波守の倅でね?与三郎ってのがいるんだとさ・・・

父親
父親

これがまたうちのガキと同じ歳だよ、それがおとっつあんの前へ手をついて

父親
父親

父上これしきのことご心配ご無用!

父親
父親

あたくしに永楽通宝の旗印を立てることをお許しくだされ!

父親
父親

ね?永楽通宝の旗印ってのはな、敵の松田の方の旗印だ!

父親
父親

そんなもの何にするんだろうなと思ったんだけれども、まあ何か考えがあるんだろうってんで許してやるってとその旗印を持って、その晩だよ?

父親
父親

片っ方の大道寺駿河守の方へ夜討ちをかけたってやつだよ?

父親
父親

むっ!夜討ちだってんで、すっと見るってと松田方の旗印がひらめいてるだろ?

父親
父親

さては松田の方が裏切ったな?ってんで松田と大道寺の方が同士討ちになった・・・

父親
父親

そのすきにみんなが逃げ延びたってこういうことなんだよ・・・

父親
父親

ねぇ~!偉いじゃねえか!頭が働くよ?

父親
父親

後に大阪の軍師でな?真田左衛門佐幸村!真田幸村って人になったんだ!

父親
父親

やっぱり偉くなる人は子供の時分から違うよ?

父親
父親

真田の家の定紋ってのは二ツ雁(ふたつかりがね)ってんだけどもな?

父親
父親

まあその助かったことをいつまでも忘れないようにってんで、幸村の頃から六文銭ってのに変わったってやつだ・・・

父親
父親

まあそう偉い人でもね?やっぱり落城の時には敵の謀りごとにはまって薩摩へ落ちたって話だ!

父親
父親

いいかい?いいね?味方一同を助ける知恵と!

父親
父親

親を騙して小遣いをふんだくる知恵と!

父親
父親

どうだよ!大変な知恵じゃねえか!

父親
父親

真田虫にもならないよあいつは!本当にもう悪い奴には・・・

父親
父親

おいおい・・・おめえちょっとそ~っと後ろ見て見な・・・

父親
父親

後ろ・・・あの戸のとこだ・・・

父親
父親

妙なもんがぴょこっと飛び出してるだろ?

父親
父親

あれはあいつの耳だよ?ああいうことをするんだよ?

父親
父親

どっかに張り付きやがってねぇ、耳だけ出すんだよ・・・

父親
父親

ぴくぴく動くんだあいつの耳は・・・

父親
父親

様子を探ってやがる、虫だねまるで・・・

父親
父親

おい!そんなところに隠れてるんのは分かってるんだぞ!こっちへ出てこい!

子ども
子ども

へへっ・・・どうも~!先ほどは失礼~!

父親
父親

何を言ってんだよ、失礼すぎんだよ!こっちへ上がれこん畜生!

父親
父親

さっきのはおめえよくねえぞ?おとっつあんからだまし取ったんだ!

父親
父親

だから返せ!返しな!

子ども
子ども

ダメだよ~!使っちゃったんだ・・・

父親
父親

使っちゃった?何を言ってやがんでい!そう言えば助かると思ってやがんだ・・・

父親
父親

何に使ったんだ!?言ってみなよ!

子ども
子ども

う~ん・・・講釈聞いちゃったんだ・・・

父親
父親

気を付けろよ、こいつはこういう奴なんだ・・・

父親
父親

親の好きなものに寄っかかってくるんだから・・・

父親
父親

よ~し!おとっつあんはな?講釈は詳しいんだ!

父親
父親

ちゃんと聞いてきたかどうかおとっつあんが確かめてやる!

父親
父親

何を聞いてきたんだ!?言ってみな?

子ども
子ども

真田三代記・・・

父親
父親

こういう野郎だよ・・・本当に聞いたのか?

父親
父親

よ~し!それじゃあ話をしてみろ!

父親
父親

話してみなよ!

子ども
子ども

うん、話すけどね?

子ども
子ども

あれ、あの天正の何年だったかなぁ~・・・忘れちゃったんだけどもね?

子ども
子ども

武田勝頼って人がね、天目山ってお山にねぇ、立てこもっちゃったって・・・

子ども
子ども

でね?信州の上田の真田阿波守に助っ人を頼んだんだよ・・・

子ども
子ども

それでその真田阿波守が軍勢率いて加勢に行く途中で、敵の大道寺駿河守と松田尾張守に挟み撃ちにあっちゃった・・・

子ども
子ども

それで行くことも引くこともできなくて、いよいよ明日は討ち死にだということになったんだって!

父親
父親

ふむ!ふむふむ!

子ども
子ども

そして、その時に真田阿波守の倅で与三郎ってのがいるんだってさ・・・

子ども
子ども

これがおとっつあんあたいと同い年なんだよ?

子ども
子ども

この子がとっても利口なんだ!

子ども
子ども

よくあるんだ世の中には、子供がうんと利口で親がぼんやりしてんのがさ!

父親
父親

余計なこと言わなくていいんだよ!それでどうした?

子ども
子ども

父上これしきのこと心配ご無用!

子ども
子ども

我に永楽通宝の旗印を立てることをお許しください・・・

子ども
子ども

てそう言ったんだってね?

子ども
子ども

それで永楽通宝の旗印ってのは松田尾張守の方の旗印で、そんなもの何にするんだろうなと思ったけど何か考えがあるんだろってんで許すってとね?

子ども
子ども

それを持ってね、その晩片っ方の大道寺駿河守の方へ夜討ちをかけたんだって!

子ども
子ども

それで夜討ちをかけられた大道寺駿河守が、すっと見ると松田尾張守の旗印がひらめいてんだろ?

子ども
子ども

さては松田が裏切ったなってんで松田と大道寺で同士討ちになったんだって・・・

子ども
子ども

そのすきにみんなで逃げちゃったんだって!

子ども
子ども

それでその子がだんだん大きくなって、そのうちに大阪の軍師でもって、真田左衛門佐幸村!

子ども
子ども

真田幸村になったんだってねぇ!えらいもんだねぇ!

子ども
子ども

それで元々ね、真田の家の定紋ってのは二ツ雁ってんだってね!?

子ども
子ども

それがね助かったことを忘れないようにってんで、幸村の頃から六文銭ってのになったんだって!

子ども
子ども

まあそれだけ偉い人でも、大阪落城の時に敵の謀りごとにはまって薩摩へ落ちたんだってさぁ!

子ども
子ども

これで違ってるぅ?

父親
父親

合ってるよ!あそこで聞いてそっくり覚えちゃったんだ・・・

父親
父親

俺は講釈場へ三か月通って覚えたってのに・・・

子ども
子ども

それで、おとっつあんちょっと伺いたいんですけど・・・

父親
父親

嫌だなお前は・・・お前に伺われるってとぞっとするんだよ・・・

父親
父親

何を伺おうってんだい?

子ども
子ども

あの二ツ雁ってのはどういうこと?

父親
父親

二ツ雁ってのはつまり雁が二羽飛んでるんだよ・・・

子ども
子ども

へぇ~!それでその六文銭っての?それはどういうの?

父親
父親

六文銭ってのはさっき言ったじゃねえか!いわゆる永楽通宝って言ってな?銭だよ!

父親
父親

丸くって真ん中に四角い穴が開いている銭だ!それが六つ並んでるんだ!それを六文銭ってんだ!

子ども
子ども

へぇ~・・・六つ?それはどういう風につながってんの?

父親
父親

いやだからこう六つあるんだよ!

子ども
子ども

・・・え?六つ?こうあるの?

父親
父親

違うんだよ!・・・だからつまりな?

父親
父親

その、ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とこうあるんだよ!

子ども
子ども

あ~!そうか!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだね!

父親
父親

いやそうじゃねえ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだ!

子ども
子ども

あ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるの?

父親
父親

違うよぉ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだ!

子ども
子ども

あぁ~!そうか!ひぃ~ふ~み!ひぃ~ふ~み!とあるのか!

父親
父親

はり倒すぞこん畜生!どうしてそうおめえは・・・

子ども
子ども

だってそうしてたっておとっつあん数えんのが早いんだもの~!

子ども
子ども

これ実物がなきゃ分かりにくいよ?もっと分かりやすく教えておくれよ!

父親
父親

全くもうじれってえやつだなぁ!ちょっと待ってろちょっと!・・・

父親
父親

いいか?これ見ろよ?これは今の御足だよ?

父親
父親

今の一銭玉、いいか?な?

父親
父親

これが永楽通宝だとするぞ?これに旗がこうあるとするだろ?そうすると・・・

父親
父親

ひ~ふ~み、ひ~ふ~みと・・・こうあるんだよ!

子ども
子ども

なぁ~んだ!そうあんのか~!なんだまるで違ってたなぁ~!

子ども
子ども

いい?やっても?

子ども
子ども

いくよ?ここに旗があって・・・

子ども
子ども

ひ~・・・ふ~・・・み~・・・ひ~・・・ふ~・・・み~・・・っと・・・

子ども
子ども

これでいいの?

父親
父親

そうだよ!分かるだろ?

子ども
子ども

うん!分かった分かった!そうか!な~んだ!そうかぁ!

子ども
子ども

もういっぺんやってみよ・・・

子ども
子ども

ひ~・・ふぅ~・・みぃ・・ひ~・・ふぅ~・・みぃ~・・と・・・

子ども
子ども

あ、こうだな?

父親
父親

そうだよ!

子ども
子ども

なぁ~んだわけないやねぇ!

子ども
子ども

ふ~ん・・・

子ども
子ども

おとっつあん!この銭もらってくよ!どうもありがと!

父親
父親

おいおめえ!ちょっと待て!

父親
父親

おめえそれでもってまた講釈聞くのか!?

子ども
子ども

ううん、焼き芋買って食べるの!

父親
父親

あ~畜生!

父親
父親

うちの真田も薩摩(さつま)へ落ちた・・・

真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」

子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。

真田小僧を聞くとビジネストークに役立つ? 

真田小僧に出てくる金坊は本当に頭がいいというのは、ご理解いただけたと思います。

おとっつあんを話に惹き込む力もさることながら、相手がしりごみしていると一歩引くテクニックがビジネストークに役立つのです。

どういうことかと言いますと、新米の営業マンとベテランの営業マンの違いにあります。

例えば、車を売るのが仕事だった場合、新米の営業マンはお客さんに対して、自分の持っているあらゆる知識を披露しようとします。

『この車はこの性能がよくて、燃費もよくて、どの会社が作っていて・・・』という風にです。

逆にベテランの営業マンはどうするかと言うと、車のことに関してはあまり触れず、お客さんと世間話を楽しむくらいの気持ちでいます。

その中で聞かれたことだけに正確に答えるのです。

よく『人で選びました!』という言葉を聞きますが、その違いだと言えます。

結局のところ、一度に大量の情報を与えると、人は嫌気がさしてしまい興味を失ってしまいます。

少しずつ金坊のようにお客さんが興味を示したところで小出しに知識を提供した方が人は興味をそそられるのです。

そういう意味で、この真田小僧はビジネストークを思い出すには最適の教材と言えるでしょう。

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