落語のほうに出てくるお子さんは大体優等生ではありませんで・・・
近頃は『勉強が好き』というお子さんも大変に多くいらっしゃって時代が変わってたなあ・・・としみじみ思うんでございますけれども・・・
勉強だけじゃない・・・お習い事をするお子さんもずいぶん増えましたね・・・
そろばんにピアノに英語に水泳に・・・
本当に素晴らしい環境で英才教育を受けておりまして、それに対してやらされてるお子さんの方もあまりつらいと思っていないというのが末恐ろしいですな・・・
そうなるってともう子供っぽいという感じでもないような気もいたしますけれども・・・
『子供らしくて可愛いなぁ~』ということもないですな・・・
なんかちょっと大人びたような子が多いようですけれども・・・
大体落語の話に出てくるのはってと、ちょいと癖のあるようなのが出てきますけれども・・・
真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」
子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。
おとっつあん・・・
おとっつあん!
なんだよ!
あの、肩叩いてやろうか?
いらねぇよ!
だって日頃お疲れでしょ?
いいんだ、疲れてねえよ?肩凝ってねえからいいんだ!
そんなこと言わねえでぇ~・・・
じゃあ腰さすってやろうか?
いらねぇよ!
・・・お茶入れようか?
うるせえなてめえは・・・
おとっつあんたまの休みだ!
のんびりしてえんだよ!その辺でうろちょろうろちょろするんじゃねえ!
表行って遊んできな!
ねぇ~!せっかくさぁ!あたいが親孝行しようと思ってるってとさ?
そうやって避けるんだからねぇ・・・
こっちが歩み寄っててんのに・・・
ねえおとっつあん親孝行させて!
いいよ!普段からやるんならやれ!
普段はこっちの言うことを何にも聞かねえでもって、なんか急にそういうことを始めるんだ・・・
必ず下心があるに違いねえ!早く表へ遊びに行きな!
いいよ!じゃあ遊びに行くよ!遊びに行くからさぁおとっつあん!
おくれよ・・・
え?
おくれよ!
何を!?
何をってそんなぁ~!わかってるくせにぃ~!
子供が親にくれって言ってんだから、まさか首じゃねえや・・・
当たり前だよ!恐ろしいことを言うやつだこの野郎は!首とられてたまるか!
なんだい!言ってみなよ!
えへ・・・
ぁしをおくれよ・・・
なにを!?
ぉぁしをおくれよ・・・
男らしくはっきり言え!なんだ?
何を言ってんだよ、わかってるくせにああやって言ってんだよぉ・・・
御足(お金)をお~くれよ~♪
歌ってやがるこの野郎は・・・
御足はさっきおめえにやったろ?
もう使っちゃったんだよ!
使っちゃったんじゃだめだよ!な?
もうやらねえ・・・
そんなこと言わねえでいいじゃねえか!
ねぇ~!表行くからさぁ~!一文無しなんだからあたい・・・
表へ出たって心細いよ?
生意気なこと言うんじゃねえよ!
大人じゃあるめえし、おめえ子供なんてのはな?元々一文無しみたいなもんなんだよ!
おめえ銭がなくったって遊べるだろ?いくらでも・・・
何を言ってんだよ・・・
そりゃ遊べないことはないけどさぁ・・・
このまんま表へ行くだろ?みんな菓子屋の前に集ってんだよ?
あたいもそこへ行くじゃねえか・・・
人が食べてんのを美味そうだな~って見てるのは、とってもつらいもんだよ!おとっつあん!
我が子にそんなひもじい思いをさせてよく平気でいられるねぇ!
何をいいやがんでいこん畜生!おめえにはちゃんと銭やってるじゃねえか!
毎日きちんきちんと小遣いやってるんだ!生意気なこと言うんじゃねえやい!
だって使っちゃったんだから・・・
だから使ったのはお前が悪いんだから!なぁ!だから今日はもうやらねえよ!
あぁ、そう?じゃあ明日の分をおくれよ!
小遣いの前借してやがんだ・・・
明日になったらどうすんだ!困るだろてめえは!?
明日になったら明後日の分もらっちゃうんだから!
で、明後日になったら明々後日の分もらう!
明々後日になったら、その次の日の分をもらう!順に順に先にもらっちゃうんだ!
そのうちにおとっつあんぼんやりしてるから分からなくなっちゃうんだ!
そういう野郎だ・・・親を馬鹿にしてやがる・・・
だめだよ!やらねえよ!
どうしてもくれないの?
あぁそう・・・じゃあいいよ!もらわないよ!
おとっつあんにもらわなきゃいいんだ!おっかさんにもらうからいいよ!
馬鹿野郎!何を言ってやがんでい!おっかさんはくれないよ!
おとっつあんがあいつにあげちゃいけねえぞ!って言えばな?おっかさんくれやしねえんだい!
えっへっへっへ・・・だから甘いんだよ・・・
・・・うふふ・・・くれるんだよおっかあは・・・
おっかあが帰ってくるだろ?それからあたいが
おっかあ~!御足をおくれよ~!
ってこう言うとね?
だめですよ!おとっつあんからやっちゃいけないって言われてますからやりませんよ!
ってこう言うだろ?そしたらあたいが
「じゃあいいよ!こないだおとっつあんの留守に、よそのおじさんが訪ねてきたってそう言っちゃうから!」って言ったら
ちょいとお待ちちょいとお待ちよ!いまやるよ!
って必ずくれるんだよ~!もう2、3度使っちゃったんだ、その手で・・・
親脅すのは嫌だけどなぁ・・・背に腹は代えられねぇや・・・
ちょっと待て!ちょっと待ちな!
行くな!表へ遊びに!
いいからこっちこいこっちへ!
ちょっとそこへ座れ!
おとっつあんの留守に、誰かおっかさんの所へ訪ねてきたのか?
え!?いやぁ・・・
なんでもないなんでもない・・・
気にしちゃいけないんだおとっつあんそういうことは・・・気のせいなんだよ!
あぁ~あ・・・まずいこと言っちゃったなぁ・・・
なんだおい!今おとっつあんが聞いてるじゃねえか!
なんか誰か訪ねてきたのか?
おとっつあんの御用がある人だといけねえから聞いてるんだ!
いやおとっつあんには用はないんだ・・・ふふっ・・・
弱っちゃったなぁ、まずいこと言っちゃったなぁ・・・
やっぱり表に行って・・・
おいちょいと待ちなよ!誰か訪ねてきたのか!?言ってみな!
うん・・・じゃあ言うけどさ、訪ねてきたことには訪ねてきたんだ・・・
ほぉ・・・誰が!?
いや、だ、誰がって・・・
おとっつあんこの話聞きたいかい?
そらまあ聞きたいよ!
じゃあ・・・御足をおくれよ・・・
御足はだめだよ!
じゃあ、あたいだって話はしないよ!
これを話すのは、子供としてはとってもつらいんだから・・・
つらいことを話すんだから御足をくれなきゃだめだよ・・・
何を言ってやがんでい!じゃあいいよ!
あぁそりゃよかった・・・その方がいいんだよ?
平和な家庭に波風立てるのは嫌だもの・・・
妙なこと言ってやがらぁ本当に・・・
わかったよ!じゃあ今からやるからちょいと待て!
ほら!っとに・・・さあ!話をしてみなよ!
っへへ・・・ん?な~にこれおとっつあん・・・
一銭じゃねえか!
一銭じゃダメなんだよこの話!
一銭じゃこの話はお引き取り願って・・・
一銭じゃだめだ!
子供なんざ一銭持ってりゃたくさんだ!
いやそれは、これはもう一銭じゃとてもじゃないけれども、聞かせられないんだよ・・・
値打ちのある話なんだから!五銭おくれよ!
五銭!?冗談言っちゃいけねえや本当に・・・
誰がやるかい五銭なんざ!
じゃあいいよ?話さないよ?
・・・う~ん・・・
じゃあわかった、五銭やるよ!話してごらん!
五銭すっとおめえにやる!話をしろ!
そりゃだめだよ、おとっつあんその手は食わないんだよ・・・
話をするだろ?
さあ御足をくれって言ったら『だめだ!』なんてこう言われちゃったら
今のお話返してくれってわけにはいかないんだから!
寄席だってそうでしょ?先に払うでしょ?
だからこの話も先に払ってもらわないってとできなんだから、先に払っておくれよ!
嫌なこと言ってんだからもう・・・
五銭?・・・っとに・・・
ほら!その一銭もやるから!さあ早く話してみな!
っへへ・・・まいど・・・
あのね、おとっつあんこないだ、横浜へお仕事に行ったときあったでしょ?
横浜?あぁ!あったあった!
あの時ね!おとっつあんが出かけたすぐにねぇ!おっかあの所にねぇ!
こんにちわぁ~!
なんてんで男の声がするんだよ・・・だからあたいが出てったら、
おっかさんはいらっしゃいますか?
ってこんなこと言ってるんだよ・・・
いますよって言ったら、ちょっとってこう言うから、おっかさんにどっかのおじさん来たよって言ったら
あぁそうかい・・・
って言って出ていってその人の顔見てね・・・嬉しそうなんだ!
ふ~ん・・・どんな野郎だ!?
おとっつあん!どんな野郎ってね、あんな奴がいるんだね世の中には!
白い服なんざ着ててね?なんか後ろめたいことがあるのかねぇ?
色のついた眼鏡なんかかけててさ!それでまぁ気取りやがってステッキなんか持ってるんだよ!
こんちわぁ!なんて言ってやがるんだから!それ見てもう大変なんだから!
まあ~!よく来てくれたじゃないかねぇ!
ちょうどよかった今うちのヘチマ野郎がいなくって!
っておとっつあんのことヘチマ野郎って言ってんだよ?
おとっつあんヘチマには似てねえやなぁ!
あたりめえだよ!
どっちかってとかぼちゃだもんなぁ!
うるせえやい!余計なお世話だ!
それで、どうしたい!?
それでその野郎がね!おっかさんの手をぎゅ~っと握ったりなんかしてね?
さあこっちへ上がっておいでよ!
なんて言ってんだよぉ!
おっかあが?ふむ!それでどうなったい?
で・・・こっから先聞きたい?
そりゃ聞きたいや!話してみなよ!
・・・じゃあもうあと五銭おくれよ・・・
さっき払ったじゃねえか!
さっきまではここまでなんだよ!こっから先はまた御足がいるんだよぉ!
そんなこと言わねえですぅ~っと喋っちゃったらいいじゃねえか!
いやそうはいかないんだよ!出しておくれよ!
そうはいかないよこっちだって!!
あ、そう?じゃあここでやめとこ?
ここんとこでやめておけば、おとっつあんもまあまあ我慢できるんだ・・・
こっから先はなぁ・・・
分かったよ!分かった!ほら!やるから・・・
おっ・・・ありがとありがと・・・
それでね?あたいがおっかさんの隣にいたら・・・
何してんだお前は!こんなとこにいるんじゃないよ!早く表へ遊びに行っておいで!
ってこう言うからね?嫌だ!ってこう言ったら
そんなこと言わないで、後生だから行っておくれ!
っていつもなら一銭くれるところを、何を慌ててたんだか五銭くれたんだよ?
それから、あたいあんまり嬉しくなっちゃったんで、ぱぁ~っと表へ遊びに行っちゃった!
ばかやろ、ばかやろう!
お前なんでそういう時にはおっかさんの側へピタっとくっついておかないんだ!
えへへ・・・大丈夫だよ、心配してんなよ、おとっつあん・・・
あたいはおとっつあんの味方だよ!
つぅ~!っと表へ出たんだけど、気になって気になってしょうがないからね?
それからうちへ戻ってきたんだおとっつあん!
ほぅ・・・偉いな・・・
そしたらね!出かけたときには開いてた障子がねぇ!
帰ってきたらピタッとしまってるんだよ・・・
うむ・・・それから?
それからそ~っと側へ寄ってってねぇ!障子をそ~っと・・・
おとっつあんこれ開けたい?
開けたいよ!ちょっと開けてみな!
これ開けんのにまた五銭かかんだよ・・・
おい・・・そんなちぎらねえでよぉ!すっと話したらいいじゃ・・・
本当にまあしょうがねえなぁ!ほら!もう!早くほらっ、話してみな!
障子を開けてひょいと見たらね?おとっつあんね?
お布団が敷いてあんだよ・・・
布団が!?座布団か?
寝具・・・寝るお布団が敷いてあるんだよ・・・
したらおっかさんが「それじゃあ・・・」なんて言って、そのおじさんの手を取ってね?
自分からこう・・・誘い込むようにしてお布団の所へ倒れたんだよ!
ふんふん!それでぇ!?
ね?したらそのおじさんが上から覆いかぶさるような形でいったんだ!
ふんふん!
ここで・・・五銭くれる?
この野郎!・・・ほらっ!
おっ!ありがとう!
でね?そのおじさんがそこら中ねぇ・・・
やだなぁ・・・あぁいやだ・・・だけど話すよ?
おっかさんの体を・・・触るんだよ!?えぇ?
するとおっかさんが
そこ・・・そこ・・・
なんて声を出したりなんかするからね?もう~嫌だったなぁ!
それですっとそのおじさんの顔見たらねぇ!
そのおじさんのこと・・・あたい知ってんだよ!
おめえが知ってる!?誰だ!
誰だったって・・・おとっつあんも知ってるよ?
俺も知ってる?・・・誰だ!言ってみろ!
こ、これ十銭おくれよ・・・
じゅっ・・・そ、それは高いよお前・・・
十銭は高いぞ!
高くないよ!おとっつあん、たかが十銭じゃないか!
お出しよぉ!教えてあげるからさぁ!
でも嫌だったら嫌でいいんだよ?誰だか分からない方がね?
ごたごたしなくても済むからね・・・
待ってろ待ってろ!分かった分かった!ほらほら・・・
ありがとありがと・・・
ほら!誰だ!言ってみろ!
あのね・・・
横丁の按摩(あんま)さんがおっかさんの体揉みに来てたの!
どうもありがと!
待てぇーーーい!こん畜生ーーー!
本当に悪い野郎だなあん畜生は・・・
ああいうことを平気でやるんだから本当に・・・
真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」
子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。
どうしたんだい?早く上がんなよ!
おめえが早く帰って来ねえからよぉ!御足取られちゃったよ!
あらやだ・・・泥棒にかい?
そうじゃねえよ!金坊にだい!
もう~!だから言ってるじゃないかぁ~!
そこらに御足を置いておいちゃいけないってさぁ!
どこの持っていったの?
俺んところから持って行ったんだよ!
じゃあ、それお前さんがやったんじゃないか!
やったんじゃねえんだよ・・・騙し盗られたんだよ!
なんで騙されたの?
いっぱい引っ掛けられたんだよ!
おめえの所に按摩がほら、用事に来たんだってな、俺がこないだ横浜に行った時に・・・
あぁかかったよ?
その話をよぉ・・・いやにこっちに気を持たせやがってさぁ・・・
気になるように気になるように話を持って行ってさぁ!
それをその都度、区切りやがってさぁ!
そのたんびに御足を取られちゃったんだよ!
どうしてそんなのに騙されちゃうんだよぉ!
分かりそうなもんじゃないか按摩さんってのは!
いやそれがそうじゃねえんだよ!あいつの喋りようによるってとね?
もうそうでないの!うまいんだこれが!
キザに白い服を着てなんて言いやがんだよ・・・白衣なんだ!考えてみれば!
後ろめたいことでもあるのか、世間体をはばかって色眼鏡をかけてって言ってたけども・・・
別に後ろめたいことがあったわけじゃねえやなぁ・・・
気取りやがってステッキだって言ってやがんだ!なぜ杖と言わねえ!
本当にそういうところはうまいんだからあん畜生は!
そりゃあ知恵じゃ敵わないんだよお前さんはぁ・・・
本当にあの子は知恵があるんだからさ!
でもまあいいじゃないか!あれだけ知恵があるんだから!
今に大きくなったら立派な人になるよ!
冗談言っちゃいけねえや!立派な人にはなれねえよ!
あいつの知恵ってのはな?あったところで悪知恵だ!
悪い方には働くんだい、いい方には何一つ働かねえんだよ!?
そんなことはないだろ?良くたって悪くたって知恵なんてのはあった方がいいんだよ?
それがそうじゃねえんだ・・・
いや俺はな?学問がねえからよ、講釈場行って講釈聞くだろ?
ああいう話を聞いてるってと偉い人の話がいっぱい出てくるんだ!な?
そういう話の中には小さい時分の話もあるんだよ・・・
そうすると偉くなる人というのは子供の時分から知恵を使う所が違うんだよ・・・
あいつみてえに親を騙すようなことはしねえんだ!
こないだ聞いたやつだって偉い人がいるんだよ?
『真田三代記』って言うんだ・・・
天正何年だかは忘れちゃったけどもさ?
武田勝頼がさ、天目山ってとこに立てこもった!
ね?それで信州の上田の真田阿波守がよ、助っ人を頼まれたんで軍勢率いて駆けつける途中でもって
敵の大道寺駿河守と松田尾張守に挟み撃ちにあっちゃった・・・
さあ行くことも引くことも敵わない、明日はそろそろ討ち死にかと覚悟しているってと
その阿波守の倅でね?与三郎ってのがいるんだとさ・・・
これがまたうちのガキと同じ歳だよ、それがおとっつあんの前へ手をついて
父上これしきのことご心配ご無用!
あたくしに永楽通宝の旗印を立てることをお許しくだされ!
ね?永楽通宝の旗印ってのはな、敵の松田の方の旗印だ!
そんなもの何にするんだろうなと思ったんだけれども、まあ何か考えがあるんだろうってんで許してやるってとその旗印を持って、その晩だよ?
片っ方の大道寺駿河守の方へ夜討ちをかけたってやつだよ?
むっ!夜討ちだってんで、すっと見るってと松田方の旗印がひらめいてるだろ?
さては松田の方が裏切ったな?ってんで松田と大道寺の方が同士討ちになった・・・
そのすきにみんなが逃げ延びたってこういうことなんだよ・・・
ねぇ~!偉いじゃねえか!頭が働くよ?
後に大阪の軍師でな?真田左衛門佐幸村!真田幸村って人になったんだ!
やっぱり偉くなる人は子供の時分から違うよ?
真田の家の定紋ってのは二ツ雁(ふたつかりがね)ってんだけどもな?
まあその助かったことをいつまでも忘れないようにってんで、幸村の頃から六文銭ってのに変わったってやつだ・・・
まあそう偉い人でもね?やっぱり落城の時には敵の謀りごとにはまって薩摩へ落ちたって話だ!
いいかい?いいね?味方一同を助ける知恵と!
親を騙して小遣いをふんだくる知恵と!
どうだよ!大変な知恵じゃねえか!
真田虫にもならないよあいつは!本当にもう悪い奴には・・・
おいおい・・・おめえちょっとそ~っと後ろ見て見な・・・
後ろ・・・あの戸のとこだ・・・
妙なもんがぴょこっと飛び出してるだろ?
あれはあいつの耳だよ?ああいうことをするんだよ?
どっかに張り付きやがってねぇ、耳だけ出すんだよ・・・
ぴくぴく動くんだあいつの耳は・・・
様子を探ってやがる、虫だねまるで・・・
おい!そんなところに隠れてるんのは分かってるんだぞ!こっちへ出てこい!
へへっ・・・どうも~!先ほどは失礼~!
何を言ってんだよ、失礼すぎんだよ!こっちへ上がれこん畜生!
さっきのはおめえよくねえぞ?おとっつあんからだまし取ったんだ!
だから返せ!返しな!
ダメだよ~!使っちゃったんだ・・・
使っちゃった?何を言ってやがんでい!そう言えば助かると思ってやがんだ・・・
何に使ったんだ!?言ってみなよ!
う~ん・・・講釈聞いちゃったんだ・・・
気を付けろよ、こいつはこういう奴なんだ・・・
親の好きなものに寄っかかってくるんだから・・・
よ~し!おとっつあんはな?講釈は詳しいんだ!
ちゃんと聞いてきたかどうかおとっつあんが確かめてやる!
何を聞いてきたんだ!?言ってみな?
真田三代記・・・
こういう野郎だよ・・・本当に聞いたのか?
よ~し!それじゃあ話をしてみろ!
話してみなよ!
うん、話すけどね?
あれ、あの天正の何年だったかなぁ~・・・忘れちゃったんだけどもね?
武田勝頼って人がね、天目山ってお山にねぇ、立てこもっちゃったって・・・
でね?信州の上田の真田阿波守に助っ人を頼んだんだよ・・・
それでその真田阿波守が軍勢率いて加勢に行く途中で、敵の大道寺駿河守と松田尾張守に挟み撃ちにあっちゃった・・・
それで行くことも引くこともできなくて、いよいよ明日は討ち死にだということになったんだって!
ふむ!ふむふむ!
そして、その時に真田阿波守の倅で与三郎ってのがいるんだってさ・・・
これがおとっつあんあたいと同い年なんだよ?
この子がとっても利口なんだ!
よくあるんだ世の中には、子供がうんと利口で親がぼんやりしてんのがさ!
余計なこと言わなくていいんだよ!それでどうした?
父上これしきのこと心配ご無用!
我に永楽通宝の旗印を立てることをお許しください・・・
てそう言ったんだってね?
それで永楽通宝の旗印ってのは松田尾張守の方の旗印で、そんなもの何にするんだろうなと思ったけど何か考えがあるんだろってんで許すってとね?
それを持ってね、その晩片っ方の大道寺駿河守の方へ夜討ちをかけたんだって!
それで夜討ちをかけられた大道寺駿河守が、すっと見ると松田尾張守の旗印がひらめいてんだろ?
さては松田が裏切ったなってんで松田と大道寺で同士討ちになったんだって・・・
そのすきにみんなで逃げちゃったんだって!
それでその子がだんだん大きくなって、そのうちに大阪の軍師でもって、真田左衛門佐幸村!
真田幸村になったんだってねぇ!えらいもんだねぇ!
それで元々ね、真田の家の定紋ってのは二ツ雁ってんだってね!?
それがね助かったことを忘れないようにってんで、幸村の頃から六文銭ってのになったんだって!
まあそれだけ偉い人でも、大阪落城の時に敵の謀りごとにはまって薩摩へ落ちたんだってさぁ!
これで違ってるぅ?
合ってるよ!あそこで聞いてそっくり覚えちゃったんだ・・・
俺は講釈場へ三か月通って覚えたってのに・・・
それで、おとっつあんちょっと伺いたいんですけど・・・
嫌だなお前は・・・お前に伺われるってとぞっとするんだよ・・・
何を伺おうってんだい?
あの二ツ雁ってのはどういうこと?
二ツ雁ってのはつまり雁が二羽飛んでるんだよ・・・
へぇ~!それでその六文銭っての?それはどういうの?
六文銭ってのはさっき言ったじゃねえか!いわゆる永楽通宝って言ってな?銭だよ!
丸くって真ん中に四角い穴が開いている銭だ!それが六つ並んでるんだ!それを六文銭ってんだ!
へぇ~・・・六つ?それはどういう風につながってんの?
いやだからこう六つあるんだよ!
・・・え?六つ?こうあるの?
違うんだよ!・・・だからつまりな?
その、ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とこうあるんだよ!
あ~!そうか!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだね!
いやそうじゃねえ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだ!
あ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるの?
違うよぉ!ひ~ふ~み!ひ~ふ~み!とあるんだ!
あぁ~!そうか!ひぃ~ふ~み!ひぃ~ふ~み!とあるのか!
はり倒すぞこん畜生!どうしてそうおめえは・・・
だってそうしてたっておとっつあん数えんのが早いんだもの~!
これ実物がなきゃ分かりにくいよ?もっと分かりやすく教えておくれよ!
全くもうじれってえやつだなぁ!ちょっと待ってろちょっと!・・・
いいか?これ見ろよ?これは今の御足だよ?
今の一銭玉、いいか?な?
これが永楽通宝だとするぞ?これに旗がこうあるとするだろ?そうすると・・・
ひ~ふ~み、ひ~ふ~みと・・・こうあるんだよ!
なぁ~んだ!そうあんのか~!なんだまるで違ってたなぁ~!
いい?やっても?
いくよ?ここに旗があって・・・
ひ~・・・ふ~・・・み~・・・ひ~・・・ふ~・・・み~・・・っと・・・
これでいいの?
そうだよ!分かるだろ?
うん!分かった分かった!そうか!な~んだ!そうかぁ!
もういっぺんやってみよ・・・
ひ~・・ふぅ~・・みぃ・・ひ~・・ふぅ~・・みぃ~・・と・・・
あ、こうだな?
そうだよ!
なぁ~んだわけないやねぇ!
ふ~ん・・・
おとっつあん!この銭もらってくよ!どうもありがと!
おいおめえ!ちょっと待て!
おめえそれでもってまた講釈聞くのか!?
ううん、焼き芋買って食べるの!
あ~畜生!
うちの真田も薩摩(さつま)へ落ちた・・・
真田小僧を聞くなら「古今亭志ん朝」
子どもと大人が対等になる瞬間があり、そこが笑いどころになるため、演じ分けが肝となる落語「真田小僧」。古今亭志ん朝は、登場人物の鮮やかな演じ分け、わかりやすい話し方、子気味の良い話し方で非の打ち所のない噺に仕上げられている。
真田小僧を聞くとビジネストークに役立つ?
真田小僧に出てくる金坊は本当に頭がいいというのは、ご理解いただけたと思います。
おとっつあんを話に惹き込む力もさることながら、相手がしりごみしていると一歩引くテクニックがビジネストークに役立つのです。
どういうことかと言いますと、新米の営業マンとベテランの営業マンの違いにあります。
例えば、車を売るのが仕事だった場合、新米の営業マンはお客さんに対して、自分の持っているあらゆる知識を披露しようとします。
『この車はこの性能がよくて、燃費もよくて、どの会社が作っていて・・・』という風にです。
逆にベテランの営業マンはどうするかと言うと、車のことに関してはあまり触れず、お客さんと世間話を楽しむくらいの気持ちでいます。
その中で聞かれたことだけに正確に答えるのです。
よく『人で選びました!』という言葉を聞きますが、その違いだと言えます。
結局のところ、一度に大量の情報を与えると、人は嫌気がさしてしまい興味を失ってしまいます。
少しずつ金坊のようにお客さんが興味を示したところで小出しに知識を提供した方が人は興味をそそられるのです。
そういう意味で、この真田小僧はビジネストークを思い出すには最適の教材と言えるでしょう。
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