落語【風呂敷】台本 吹き出し風

落語 台本

ピンチの時、緊急事態の時、知恵がある人があると本当に助かりますな・・・

頼りになるとも言うんでしょうか・・・

ここはこうしてああして・・・と手をまわしてくれるのを見ると『まあ本当に頼りになるわ~』なんて女性が男性に惹かれちゃったりしそうなもんですが・・・

昔の方でも、やはり何かあった時には頼れる・知恵のある方というのが重宝されたそうでございますけれども・・・    

風呂敷を聞くなら「古今亭志ん生」

古今亭志ん生の名演「風呂敷」は、日常の中に潜む笑いと人情が織り交ざった一席です。志ん生独特の語り口が、シンプルな日常の風景に深みを与え、聴く人を引き込む一作。

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もう~兄さんお願いしますよ、助けてくださいな、お願いします!

大変なんですよぉ~!お願いします!大変なんですから~!

兄さん
兄さん

なんだよお前入ってくるなりうるさいなぁ・・・

兄さん
兄さん

どうしてそうけたたましく入ってくるの?

兄さん
兄さん

仮にもお前は女だよ?もうちょっとおしとやかに入ってきたらどうなんだ?

兄さん
兄さん

後ろを見てみな後ろを・・・お前の脱いだ下駄だよ・・・

兄さん
兄さん

片方はちゃんと玄関の中へ入ってるけど、もう片方は道の真ん中にあるじゃねえか・・・

兄さん
兄さん

どういう歩幅だ!お前の歩幅は!

兄さん
兄さん

お前のようなやつを出したいねえ、次のオリンピックの三段跳びに・・・

だって大変なんですもん兄さん~!

兄さん
兄さん

分かってるよぉ~お前大変大変たって、いつもと同じように犬も食わない夫婦喧嘩なんだろ?

いやそうじゃありませんよ?そりゃ確かにいつもは犬も食わない夫婦喧嘩ですよ?

でも今日のはちょっと違うと思うんです・・・

今日のはちょっと犬も考えると思いますよ?

ちょっとだけでも食べてみようかな?と思うようなそんな揉め事なんですよ!

兄さん
兄さん

変なこと言うねぇ・・・なんだい?

実はね?うちの人がちょっと仲間の寄り合いがあるからと言うので早くに横浜へ出掛けたんです・・・

横浜でもって遅くなるだろうからお前は先に寝てていいよって言われたんで

あたし夕方から湯へ行ってね、ゆ~っくりうちで茶飲んでたんです・・・

そしたらそこへね?

あの新(しん)さんが訪ねてきたんですよ、うちの人を・・・

兄さん
兄さん

ほぉ、あの色男の新公が?それでどうした?

でね?いないと分かったら帰るって言うから

「そんなせっかく来たんだからお茶ぐらい飲んでったらどう?」

って言って二人っきりでお茶飲んでたんですよ・・・

そしたらさっきの夕立でしょ?

もうね~、せっかく綺麗にした玄関に吹き込まれるのが嫌だったから、降りて行って戸を締めましてね?

上がりなおそうとした時に!うちの人がドンドンドンドーン!

『俺だ~!今帰った~!』って酔っ払って帰って来るじゃありませんか~!

あたしもう驚いちゃって~!

兄さん
兄さん

おいよせよ・・・亭主が帰ってきたんだろ?

兄さん
兄さん

亭主が帰ってきたときに驚いてたんじゃ生涯驚いてないといけねえぞ?

だってぇ~遅くなる遅くなるって言ってた亭主が早く帰って来たんですから驚くじゃありませんか~!

兄さん
兄さん

またお前はわけの分かんねえことを言うんだな・・・

兄さん
兄さん

遅くなる遅くなると言っていた亭主が早く帰ってきたら普通は喜べよお前・・・

兄さん
兄さん

驚くというのは、ちょっと行ってくると言って3年帰らないのを驚くって言うんだぞ?

だって兄さん分かってるじゃありませんか~!

もう~!うちの人のやきもち妬き~!

もう~そんじゃそこらのやきもち妬きじゃありませんよ~!

あたしがちょっと立ち話してるだけでも、かぁ~!っと怒っちゃいますしね?

隣のポチがオスというだけで、頭撫でたぐらいで三日も口をきいてもらえないのよ?

そういう人なのよ~!

そういう人がね?

あの色男の新さんを置いて二人っきりでお茶を飲んでたなんてことが分かったら、なんにもありゃしませんよ~!?

なんにもありゃしませんけれども、もうどんな目に遭うか分からないから

すぐにね、新さんを押し入れに隠してうちの人を入れて、うちの人が寝てから新さんを押し入れからそ~っと逃がそうと思ってたら・・・

またうちの人がその押し入れの前にあぐらをかいて寝ないのよ~!

もう新さんだって生き物ですからね、中で酸欠になっちゃったり、あくびもすれば、おならもします・・・

それにお腹が空いてくるでしょ?

お腹が空いて何か作りたいと思ったって、うちの押し入れ台所がないのよ~!

兄さん
兄さん

くだらねえこと言ってるなお前は・・・

兄さん
兄さん

それでどうした?

それでお酒すぐに買ってくるからというので、とりあえずうちを飛び出して来て

兄さんの所へ来たんですけれどもお願いしますよ、ねぇ~!

新さん助けてあげてくださいな~!なんとかしてくださいな・・・

兄さん
兄さん

うるせえなぁ本当にまぁ・・・

兄さん
兄さん

だからおめえは浅はかだってんだい!

えぇ?ここ麹町ですよ?

兄さん
兄さん

誰が赤坂だって言ったんだよ!

兄さん
兄さん

浅はかだって!いいか?お前がそのつもりでいても、な?

兄さん
兄さん

何にも疑いのないことをしているつもりでも、周りから見るってと、人はどう思ってるか分からないということが分からないのかい?

兄さん
兄さん

李下(りか)に冠を正さず、瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れずってなぁ・・・

へぇ~なんの呪文です?

兄さん
兄さん

呪文じゃねえよ・・・

兄さん
兄さん

まあまあ、とにかく梨畑でもって被り物を直してるつもりでも、遠くから見ると梨を盗んでるように見えるってことだよ

兄さん
兄さん

李下(りか)に冠を正さず、瓜田(かでん)に履(くつ)を納(い)れず、分からんねぇかな本当にまあ・・・

兄さん
兄さん

だからつまりこういうことだ、え~湯舟で体を揺すらず、酔って電柱の前にとどまらずってんだ・・・

なんですそれ?

兄さん
兄さん

だからな?

兄さん
兄さん

熱い湯の中に入ってちょっと自分が体を動かしたつもりでも

兄さん
兄さん

外から見てると『あ、あいつはお湯の中でおしっこをしたな』と思われるということだ・・・

兄さん
兄さん

酔って電柱の前で立っているだけでも

兄さん
兄さん

お巡りさんから見ると『あれは立ち小便をした後じゃないか』と思うというような・・・

兄さん
兄さん

そういう自分がしたことを周りが違うって・・・

兄さん
兄さん

まあまあそんなことはどうでもいいよ、分かったよ・・・

兄さん
兄さん

酒を買ってくるって出てきたのか?分かった分かった・・・

兄さん
兄さん

まあそれだったらな、先に帰ってな・・・

先に帰ってなって兄さん!一緒に行ってくださいな~!

兄さん
兄さん

一緒に行ってくださいなって一緒に行けるわけないだろう馬鹿野郎!

兄さん
兄さん

一緒に行きゃ必ずなんか言われるよ?

兄さん
兄さん

『なんだって二人でもって来るんだ?おめえたちまさかデキてんじゃねえのか?』

兄さん
兄さん

とかなんだかんだ言われるからお前は先に行ってな!

兄さん
兄さん

後から俺がなんとかするから!

本当ですね?お願いします、お願いします・・・

本当にお願いします・・・

兄さん
兄さん

やめろそうやって、手をついて頭を下げるのは・・・

兄さん
兄さん

毎回来るたんびに同じところに手をつくから見ろお前!

兄さん
兄さん

畳が手形の分だけへこんじゃったよ・・・

兄さん
兄さん

この前そこでつまづいたぞ俺は・・・

兄さん
兄さん

まあまあいいから!行ってろ行ってろ!行ってろってんだ!

兄さん
兄さん

本当にまあしょうがねえな・・・人をなんだと思ってやがんのかねぇ・・・

兄さん
兄さん

困ることがあるってとすぐに俺んとこに来やがる・・・

兄さん
兄さん

まあいいや・・・今日の所はこの風呂敷でもってなんとかするか・・・

兄さん
兄さん

おぉ?4、5軒前からまあ大きな声が聞こえるよ・・・

兄さん
兄さん

だいぶ酔ってやがんねぇあの野郎は・・・

兄さん
兄さん

あ!あの野郎、手を上げてやがる・・・

兄さん
兄さん

おい!よせ!止めろ!止めろ!殴ったりするんじゃないってんだ!

兄さん
兄さん

やめ・・・

mヴぉおえjrgvにrんfjvにうrじf・・・

兄さん
兄さん

おいおい何言ってんだおめえはよ・・・

兄さん
兄さん

なんなんだお前はよ!?

うぅぅぅ・・・あぁ!

おう・・・源さんか・・・源さん聞いてくれえい!

聞いてくれれば俺の怒らないのも分からないでもないよ!?

今日は俺はね?

これほど、うちの女房がわけの分からない女だと思ったことはないよ!?

兄さん
兄さん

ほぉ・・・どうしたい?

うん!今日俺はね?横浜の方へ仲間との寄り合いがあったから行ったんだよ・・・

思ったより早く終わって一杯ひっかけて帰って来た・・・

まだ夕暮れ時分だってのに、もう戸が閉まってやがんだよ!?

ドンドンドン!今帰ったぞ!と・・・

そしたらうちのかかあが戸を開けてまるで俺を親の仇でも見るような顔で!

『あんたぁ!ずいぶん早かったわねぇ!早かったからもう寝ましょ~!』

ってこんなこと言うんだよ・・・

これはどこの国の言葉かってんだよ・・・

遅かったからもう寝ましょってんなら分かぁる・・

『早かったからもう寝ましょ』って、こんなわけの分からない女はねえってんで

俺ぁもう急に機嫌が悪くなっちゃってさっきからずっと飲み続けてんだ・・・

兄さん
兄さん

あぁそうか、まあそらぁ機嫌がななめになるのも分からなくもねえなぁ・・・

でぇ~、源さんはどこ行ってたの~?

兄さん
兄さん

俺かい?俺はまあ友達のちょいと揉め事があったんで、それをまあおさめて

兄さん
兄さん

それでお前んちの前を通りかかったらおめえがでかい声出してやがるから・・・

兄さん
兄さん

これはいけねえなと思っておめえの家へ入って来たところでい・・・

はぁ~ん・・・揉め事?

ど、どういうもんなんだい面白いねえ・・・

兄さん
兄さん

いいよぉそんなこと・・・大したことはねえからよ・・・・・

んなこと言わねえでよぉ~人の揉め事ほど面白いことはないんだぁ・・・

教えてくれよ、ど、どういう揉め事?んだい面白いねえ・・・

兄さん
兄さん

酔ってるとしつこいねぇ・・・

兄さん
兄さん

いや今日俺の友達がよぉ、仲間の寄り合いがあるからってんで朝早くにな?

兄さん
兄さん

横浜の方に出掛けたんだよ・・・

えぇ?・・・似たような話だなぁ!

兄さん
兄さん

ん?あぁそういやそうだな・・・

兄さん
兄さん

それで遅くなるから先に寝てて構わねえぞって言われたから、かみさんはゆっくり湯に入って家で茶飲んでた・・・

兄さん
兄さん

そこへな?まあ友達というか、色男というかちょいと若いのが訪ねてきたんだ、その亭主を・・・

兄さん
兄さん

ところが亭主がいないから帰ろうとすると、まあいいじゃありませんか、お茶の一杯でもという時に、夕方の夕立だ

兄さん
兄さん

しょうがないから戸を閉めて、また上がりなおそうとした時に、そこの亭主が酔っ払って帰って来たってんだよ・・・

ほぉ~!そりゃまずいなそれはなぁ!それでどうしたんだい?

兄さん
兄さん

大変なやきもち妬きのその亭主にな?

兄さん
兄さん

これは見つかっちゃいけないというので、その色男を押し入れの中へ隠して!

兄さん
兄さん

それでもって亭主を中へ入れて寝かせようと思ったら・・・

兄さん
兄さん

その亭主が押し入れの前にあぐらをかいて、うだうだ言って寝ねぇってんだよ!・

たちのよくねえ野郎だなそいつは~・・・

はぁ~ん・・・で、どうしたの?

兄さん
兄さん

だからそいつをす~っと逃がして帰ってきたその帰り道だってんだよ・・・

ありぃ?そいつ逃がしたの?

押し入れにいた奴がいて、その前に男がいて、すごいねそりゃ・・・

ど、どうやって逃がしたの?

ねえねえ!だって聞きてえじゃねえかなぁ!

兄さん
兄さん

いやいやそんなのどうでもいいからよぉ!

兄さん
兄さん

俺に一杯飲ませてくれよ!

いひひ・・・じゃあさじゃあさ、それ聞かせてくれたら!

飲ませてやるからそれちょっと聞かせてもらいてえなぁ・・・

兄さん
兄さん

ったくもう酔ってると何だか訳がわかんねえなぁ・・・

兄さん
兄さん

聞きてえの?話せばいいの?飲ませてくれんの?

兄さん
兄さん

分かった分かった・・・じゃあな、早い話がこの風呂敷一枚だよ・・・

兄さん
兄さん

この風呂敷をだぁ~っとこう広げたと・・・

兄さん
兄さん

この一枚でもってなんとかしてきたんだ!

へぇ~!その風呂敷一枚でなんとかなったの?

ど、ど、どういう具合に?

兄さん
兄さん

ったくもうしょうがねえなぁ・・・

兄さん
兄さん

じゃあお前をな、仮にその亭主だとしようや、な?

兄さん
兄さん

この風呂敷をその亭主の頭の所にぱぁ~っと被せて四隅をもってだな、首んところを持って結わえたんだ・・・

兄さん
兄さん

そうすると前が見えないだろ?な?

兄さん
兄さん

そいつも見えないってそう言ってた・・・

兄さん
兄さん

でな?見えないというのを確認して!

兄さん
兄さん

俺が後ろの押し入れんとこをす~っと開けるってと・・・

兄さん
兄さん

その色男が中でぶるぶる震えてやがんだ・・・

兄さん
兄さん

出ろよ!出ろよ!早く出ろってんだ!

兄さん
兄さん

とまあこう言ってやったんだ俺がな?

兄さん
兄さん

そうすると這うようにして出て行くんだ・・・

兄さん
兄さん

忘れ物はねえのか?忘れ物はねえのかってんだ!

兄さん
兄さん

忘れ物があったら大変だからこう言ってんだ!ねえんだな!?まあねえならいいや・・・

兄さん
兄さん

とまあこういう風にも言ってやったんだ俺がな?

兄さん
兄さん

そうしたら忘れ物はねえようなんだなぁ・・・

兄さん
兄さん

いいよ!下駄なんて丁寧に履いてる場合じゃねえや!

兄さん
兄さん

手で持て!手で!いい、いい!挨拶なんていらねえからす~っと戸を開けて!

兄さん
兄さん

そうそうそう!いいから挨拶は!ピタッと閉めてけよ!?よしっ・・

兄さん
兄さん

とまあ、向こうが出て行ったのを確認してから、この風呂敷をぱぁ~っと取ったと!

兄さん
兄さん

まあこういうわけなんだ!

うめえことやりやがったなぁおい~!!驚いたなぁ!

それもさることながら、源さんおめえの話はうめえなぁ・・・

俺はね!あたかもその男がここを通ってったような気がしてならねえんだ!

それに空耳かなんか知らねえけど、戸が開いて閉まる音がまで聞こえたよぉ!

でも大した知恵だったとしても、それぐらいのことで隠れてた男を逃がされるような

亭主のつらが見てみたい!

風呂敷を聞くなら「古今亭志ん生」

古今亭志ん生の名演「風呂敷」は、日常の中に潜む笑いと人情が織り交ざった一席です。志ん生独特の語り口が、シンプルな日常の風景に深みを与え、聴く人を引き込む一作。

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