落語【火焔太鼓】台本 吹き出し風

落語 台本

 昔は何か一つの商売が、ひとっ所でまとめて商いをしていたそうでございますな・・・

今のようにデパートという、何か一手に引き受けて商っているというわけではなく、職種職種で細かく分かれて、何屋さんというように商売をしていたそうで・・

道具屋さんという商売がありまして、これも浅草なんかへ行くと軒を並べてず~っと商いをしていたそうですな・・・

火焔太鼓を聞くなら「古今亭志ん生」

元は小噺だった火焔太鼓を江戸に持ち込み、志ん生の新作落語として昇華させた。今や古典落語の名作として数えられる火焔太鼓。昭和の落語大スター古今亭志ん生の火焔太鼓は、いっぺん聞いて欲しい。

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ある男
ある男

なんかないかい?

道具屋
道具屋

ええ、あなたねえ、来るとみんな持ってちゃうでしょ?

道具屋
道具屋

今ないんですよ

道具屋
道具屋

あっちからもこっちからも言われるんですよ、なんか変わったものを変わったものをって・・・

道具屋
道具屋

あぁ・・手紙なんてどうです?

ある男
ある男

おお!いいな!手紙なんてもんは!古いもんか?

道具屋
道具屋

これは古いです

ある男
ある男

いいんだよ?

ある男
ある男

古い質屋の証文だとか手紙なんかはね、家のどこかにかけておくとね、真に面白いもんなんだ

ある男
ある男

どういう手紙だ!?

道具屋
道具屋

小野小町が西郷隆盛に出した手紙で

ある男
ある男

そら面白いねえ!小野小町が西郷隆盛の・・・

ある男
ある男

ちょっと待てよおい!まるで時代が違うじゃねえか!そんなもんあるわけねぇじゃねえか!

道具屋
道具屋

あるわけないのがあるから面白いんじゃありませんか!

なんてんで、馬鹿にされてるようなもんでございますな・・・

ある男
ある男

あのこないだ持ってった振り子の壊れた柱時計ね、静かでいいと思ってかけてたんだよ・・

ある男
ある男

そしたらねえ、あれ振り子がねえと針が動かねえんだな?

ある男
ある男

何時だろうなって見るたびいちいち隣の家に聞きに行かなくちゃならねえ・・

ある男
ある男

今日持ってきたからなんか他の物と変えてくれ?

道具屋
道具屋

あ、そうですか、ちょうどよかったんですよ!

道具屋
道具屋

今振り子だけはいりました!

なんてんで、品物ばらばらにしちゃって売っちゃったりしてね、色んな家があったんだそうです昔はね・・

こういうところにはことによると何か掘り出し物がありゃしないかなんてんで、店の中を一生懸命探して歩いていて、奥の薄っ暗いところへ何か額がかかっている・・・

見ると書だったりするもんで、「ん!?こいつはひとつ安く値切って買っていこう!誰か有名な人が書いた書面だったりすると儲かるぞ!」

なんてんで、うんと値切って買って来て、うちの明るい所でもってホコリ掃って見てみたら今川焼なんて書いてあったりして・・・

そういうことがよくあったそうですな・・・

そういう店がず~っと江戸のころでも呑気なもんで、それこそその時分ですと破れた行燈を置いてあるとか、机の足が一本取れちゃったやつだとかそういったものが、がたがたと置いてある・・・

品物の手入れをするような料簡はもうないんです、そういうところの主は・・

世の中ついでに生きているというようなぼ~っとした人で、なんかうまいことがあったら一儲けしようなんてことしか考えていない・・・

おかみさんの方が大変しっかりしていましてね・・・

おかみ
おかみ

ちょいと!どうしてお前さんはそう商売が下手くそなんだよ!?

道具屋
道具屋

な、なにがだい!?

おかみ
おかみ

なにがじゃないよ!なんだってさっきのお客逃がしちゃうのよ!

道具屋
道具屋

そんなこと言ったっておめえ、逃げちゃうもんはしょうがねえだろ?

道具屋
道具屋

ただふん捕まえて無理に売るって程、強い商売じゃねえんだ!

おかみ
おかみ

何を言ってんだよ!お前さんが逃がしたんだよ!?本当にまぁ・・・

おかみ
おかみ

あのお客はねえ!店のタンスを見て惚れこんで入ってきたんだよ?

おかみ
おかみ

ニコニコ笑いながらいきなりタンスの所に行ったじゃないか!

おかみ
おかみ

『お前さんこのタンスいいタンスだね』って言ったとき何て言ったのお前さん!?

おかみ
おかみ

『ええいいタンスですよ?うちの店に16年あるんですから』って・・・

おかみ
おかみ

そんなこと自慢になるかい!本当に・・・

おかみ
おかみ

16年売れないことを教えてるようなもんじゃないか!

おかみ
おかみ

『ちょいと開けてみてくれないか』ってったら『これがすぐ開くようだったらもうすでに売れちまってます』って・・・

おかみ
おかみ

『じゃあ開かないのかい?』って言ったら『いえそんなことはありませんけれども、こないだ無理に開けようとしたら腕をくじいた人がいます』ってんだ・・・

おかみ
おかみ

そんなこと言って買うわけないじゃないか!

おかみ
おかみ

どうしてそういうことを言うのお前さんは!?

おかみ
おかみ

あんまり馬鹿馬鹿しいことを言うもんだからお客の方でも、あっ・・ってんでお前さんの方じっと見て動けなくなっちゃってたんだよ?

おかみ
おかみ

お前さんはお前さんでお客さんの方ぼ~っと見てたの!?

おかみ
おかみ

二人でしばらくの間にらみ合ってた・・・

おかみ
おかみ

そのうちに客の方ではっと我に返って、すっと店出てっちゃったんだないか!

おかみ
おかみ

本当にしょうがないねぇ・・・

おかみ
おかみ

売れるものは売らないんだからねえ、そのくせ売らなくていいものは売っちゃうんだから!

おかみ
おかみ

何がったってそうじゃないか!去年のことだよ?

おかみ
おかみ

向かいの米屋の旦那がうちに遊びに来ててさ、奥で使ってる火鉢見て、『甚兵衛さんあの火鉢はいい火鉢だね』って言ったら

おかみ
おかみ

『良かったら売りましょ』ってんで売っちゃったろ?

おかみ
おかみ

うちに火鉢がなくなっちゃったじゃないか!

おかみ
おかみ

寒くなったらしょうがないもんだから、向かいのうちに火ぃあたりに行ったりなんかして・・・

おかみ
おかみ

米屋の旦那こう言ってたよ?

おかみ
おかみ

『甚兵衛さん付きで火鉢買っちゃったような気がする』って・・・

おかみ
おかみ

本当にしょうがないんだからねえ・・・損ばかりしてんだからお前さんは!

おかみ
おかみ

もう~だからまた損するんだろうなって考えるからさぁ・・もうろくなもんだって食べてないんだよ?

おかみ
おかみ

すっかり胃が丈夫になっちゃった!たまには胃が悪くなるほどなんか食わしてみたらどうだい!?

道具屋
道具屋

何を言ってんだい!ぐずぐず言ってんじゃねえよ!?

道具屋
道具屋

亭主のすることにいちいち口を出すんじゃねえ!

おかみ
おかみ

何を言ってんだよ!?お前さんが一人前の人だったらあたしだって黙ってるよ!

おかみ
おかみ

そうじゃないから黙っていられないんじゃないか!

おかみ
おかみ

今朝、市に行ってきたんだろう?

道具屋
道具屋

うん

おかみ
おかみ

何買ってきたんだい?

道具屋
道具屋

いいじゃねえか何だって・・・

おかみ
おかみ

よかないよ!言ってごらん!?

おかみ
おかみ

言ってごらんてんだよ!言わないかい!やい!

道具屋
道具屋

な、なんだいその、やいってのは!

道具屋
道具屋

おめえはうるせえなぁ本当にもう・・言うよ!

道具屋
道具屋

太鼓だよ!

おかみ
おかみ

え?

道具屋
道具屋

太鼓!

おかみ
おかみ

それがお前さんはおかしいてぇの・・・ね?

おかみ
おかみ

太鼓なんてものは祭物と言ってねえ、お祭り前だとか初午の時じゃないと売れやしないんだよ!

おかみ
おかみ

もう~弱ったもんだね・・どんな太鼓買ってきたの!?

おかみ
おかみ

こっち出して見せてごらんよ!お見せ!お見せってえの!見せなさいよ?

おかみ
おかみ

あたしが静かに言ってるうちに見せたほうがいいよ?

道具屋
道具屋

本当にもう・・嫌な女だねぇ・・見せるよ今!

道具屋
道具屋

ほら見ろ!これだ!どうだ!?

おかみ
おかみ

あらやだっ・・まぁ大層汚い太鼓じゃないか!

道具屋
道具屋

それがお前素人だってんだ・・・

道具屋
道具屋

これはな時代がついてんだ、こういう古いもんだってえと儲かることが あるかもしれねえ・・

おかみ
おかみ

儲かることはないよ!?お前さんが古いので儲けたことがあるかい

おかみ
おかみ

この前だってそうじゃないか!!

おかみ
おかみ

平清盛の詩吟っての買ってきて損しちゃったろ?

道具屋
道具屋

そう・・あれは損した・・だけど俺が古いので損したのは大したことはねえよ?

道具屋
道具屋

清盛の詩吟だろ?岩見重太郎の草鞋だろ?巴御前の鉢巻だろ?

おかみ
おかみ

馬鹿馬鹿しいからおよしよ!

おかみ
おかみ

いくらで買ってきたの?

道具屋
道具屋

一分だよ・・・

おかみ
おかみ

一分?本当にもう・・・

おかみ
おかみ

御あし(お金)をどぶに捨ててるようなもんじゃないか!

おかみ
おかみ

店に出したって売れやしないよ!

道具屋
道具屋

う、売れるよ!何を言ってやがんだ!ぐずぐず言うなよ!?

道具屋
道具屋

定吉~~!!何をぼんやりしてやがんだ馬鹿!

道具屋
道具屋

おじさんがこうやって品物買ってきたんだ!ぼんやりしてねえでホコリでもはたくんだ!

道具屋
道具屋

これ向こう持っててホコリはたきな!

おかみ
おかみ

およしそんなもの!ホコリはたくってと太鼓がなくなっちゃうよ!

道具屋
道具屋

うるせえなおめえは!何してんだ早く向こう持っててホコリはたけ!

定吉
定吉

へ~~~い!

定吉
定吉

ははは!またおじさんとおばさんで喧嘩してやがんだ、嫌になっちゃう本当に!

定吉
定吉

・・・ゴホゴホッ!こりゃ本当だ!汚ねえな!ホコリで向こうが見えねえや!

定吉
定吉

おじさんこれずいぶん汚いね!

道具屋
道具屋

おめえまで言うこたぁねえ!早くホコリはたけばいいんだい!早くしろ!

定吉
定吉

へい!

定吉
定吉

驚いたなぁこりゃあ・・・

定吉
定吉

どんどんどんどんどん・・・

定吉
定吉

あっ、面白え音がなるなぁ・・・

定吉
定吉

どんどんどんどんどんどんどんどん・・・

定吉
定吉

あはっ!こりゃあ面白え!

定吉
定吉

どんどんどんどん!どーんどーんどんどんどん!

道具屋
道具屋

てめえのおもちゃに買ってきたんじゃねえぞこん畜生!

道具屋
道具屋

ホコリをはたけ!

定吉
定吉

はたいてんだよおじさん!ホコリははたいてんだけどね?

定吉
定吉

あのふちんところを掃ってるだけで音がしてくるんだから変な太鼓だよ、この太鼓は!

定吉
定吉

おじさん見ててご覧!?

定吉
定吉

どんどんどんどんどんどん・・ねっ?

定吉
定吉

どどんどんどんどんどん!どーんどーんどんどんどん・・・

道具屋
道具屋

まだやってんのか畜生!いいかげんしろ馬鹿!

火焔太鼓を聞くなら「古今亭志ん生」

元は小噺だった火焔太鼓を江戸に持ち込み、志ん生の新作落語として昇華させた。今や古典落語の名作として数えられる火焔太鼓。昭和の落語大スター古今亭志ん生の火焔太鼓は、いっぺん聞いて欲しい。

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武家
武家

許せよ・・・

道具屋
道具屋

あっ・・どうも・・お武家様・・・

道具屋
道具屋

どうもいらっしゃいまし!何か?

武家
武家

うむ・・・今太鼓をならしておったのはその方のうちか?

道具屋
道具屋

え?えぇぇ・・左様でございますが何か?

武家
武家

御上がお駕籠でご通行の折に太鼓を鳴らしておったのは、その方のうちに間違いはないな?

道具屋
道具屋

え・・えぇ・・

道具屋
道具屋

引っ込んでろこっち・・馬鹿、間抜け・・・

道具屋
道具屋

太鼓たたきやがって・・畜生・・

道具屋
道具屋

えぇ~あの~あたくし共なんです・・・

道具屋
道具屋

で、でもあのぉあたくしじゃあない、こ、これがやったんです!こいつがやりやがったんです!

道具屋
道具屋

ホコリをはたけって言うのにたたきやがるんですよ!

道具屋
道具屋

親戚から預かってるんですがね、もうどうにもしょうがないんですよ、怠けてばかりいましてね?

道具屋
道具屋

もう人間が馬鹿ですから!顔をご覧なさい!馬鹿な顔をしてるでしょ?

道具屋
道具屋

あれはバカガオと申しましてね?夏になんかすると咲いたりなんかする・・

道具屋
道具屋

えぇ!どうにもしょうがないんです!もう~とにかくね!

道具屋
道具屋

はたけってのにたたきやがったんですよ!はたけとたたけが分からねえんですから!

道具屋
道具屋

あんな大きな図体してますがあれはまだ11でございます、子供のしたことですのでどうぞご勘弁をお願い申し上げます

武家
武家

いやぁ太鼓を鳴らしたのをどうのこうの申すのではないがな・・・

武家
武家

御上がお駕籠の中でお聞きになってな『どのような太鼓かみたい』とこうおっしゃっておる・・・

武家
武家

ことによるとお買い上げになるやもしれんぞ?

道具屋
道具屋

ああそうっすか・・へぇ~・・

道具屋
道具屋

どうも、あいつがたたいたんです!

武家
武家

うむ、親類の者・・・

道具屋
道具屋

そう!親類なんですよ!よく働くんですよ?これがまた!

道具屋
道具屋

人間が利口ですから!ほら見てごらんなさい!いい顔してますよ!もう今年15になるんです!

武家
武家

最前11と申したではないか!

道具屋
道具屋

11の時もあったんです!

武家
武家

何を申しておる・・早速屋敷に持参をしてもらいたい!

道具屋
道具屋

へいかしこまりました!で、お屋敷はどちらでございますか?

道具屋
道具屋

へえ、へえへえ・・あぁよく存知ております!かしこまりました!

道具屋
道具屋

どうもありがとうございます!どうも・・・

道具屋
道具屋

ほら!見てたか!?

道具屋
道具屋

店に出すか出さないかのうちにぱぁ~っと売れちゃったじゃねえか!

おかみ
おかみ

売れやしないよぉ!本当に・・

おかみ
おかみ

なんにも知らないんだからお前さんは・・

おかみ
おかみ

だからお前さんはいつも損ばかりすんの!なんか人に言われるとすぐその気になるんだから・・

おかみ
おかみ

いいかい?あのねえ、話はよ~く聞くんですよ?

おかみ
おかみ

向こうで何とおっしゃったい?

おかみ
おかみ

お駕籠の中で音だけ聞いてんだよ?お殿様は、ね?

おかみ
おかみ

きっと金巻でもしてあるどんなに綺麗な太鼓だろうなぁと思ってるところへ

おかみ
おかみ

あんな汚いすすの塊みたいなもん持ってってご覧?

おかみ
おかみ

『こんな汚いものを持ってくる無礼な道具屋、その道具屋帰すでないぞ!』

おかみ
おかみ

若侍がきて『貴様こっちへ来い!無礼者!』

おかみ
おかみ

お前さんの襟ッ首つかんで、『こっちだ!』ってんで途中でポカポカぶたれたりしてね?

おかみ
おかみ

庭行くと大きな松の木が植えてあるんだから!

おかみ
おかみ

そこへ連れていかれて『貴様はここにいろ!』ってんで縄でぐるぐる~っと縛られて当分の間帰って来られないんだよ!?

おかみ
おかみ

ねぇ!ざまぁみやがれぇ!

道具屋
道具屋

・・・う~ん・・・行くのよそうかなぁ・・

おかみ
おかみ

行くのよそうかなって行っちゃったんだからしょうがないじゃないか!

おかみ
おかみ

そんなこたぁないよ!ないけどもね?

おかみ
おかみ

すぐにお前さんが売れた売れたって喜んでいるからあたしがね、そう言ってやるんだよぉ!

おかみ
おかみ

なんでも人間ってのは内輪内輪に思ってなくちゃいけないんだよ?

おかみ
おかみ

お前さんはなんか言われるとすぐその気になるんだから・・・

おかみ
おかみ

だから太鼓を売りに行くんだなんてそんなこと思っちゃいけないよ?

おかみ
おかみ

太鼓を見せに行くんだと・・・

おかみ
おかみ

それで万が一、お向こう様で『道具屋この太鼓はいくらだ』と言われた時に、そこでお前さんはノーテンキだから色んなこと言って儲けようと思うだろう?

おかみ
おかみ

それがしくじりの元なんだから・・いいかい?ね?

おかみ
おかみ

これは一分で買ってまいりました、口銭はいりませんってんで帰ってきちゃうんだよ?

おかみ
おかみ

儲けなくったっていい、元が取れりゃあいいんだから!

おかみ
おかみ

あんなものはそれより上で買いっこないからさ!

おかみ
おかみ

一分だったらそのうちなんとか帰って来られるから!

おかみ
おかみ

いいかい?そうやって売っちゃうんだよ?分かったかい?

道具屋
道具屋

うぅん・・そうかい、分かったよ・・・

おかみ
おかみ

分かったね?

道具屋
道具屋

分かった!じゃあ行ってくらぁ!

道具屋
道具屋

じゃあちょっと太鼓を背負わしてくれ太鼓を!

おかみ
おかみ

もう~世話が焼けるんだから本当にもう・・・大丈夫かい?

道具屋
道具屋

あぁ大丈夫だ・・今日は俺ぁひとつぐっとな

おかみ
おかみ

ぐっとじゃないよお前さん、行く前に言うことばかり大きいんだから・・・

おかみ
おかみ

いいかい?損さえしなきゃいいよ!?

おかみ
おかみ

その代わり損するってと大変だよ?お前さん当分の間ご飯食べさせないよ?

道具屋
道具屋

どうして?

おかみ
おかみ

その代わり損するってと大変だよ?お前さん当分の間ご飯食べさせないよ?

おかみ
おかみ

どうしたってそうなんだよ、お前さん口で言っても分かんないだから!食べ物で教えなきゃだめなの!

道具屋
道具屋

何言ってやがんでい!大丈夫だよぉ!

おかみ
おかみ

大丈夫じゃないよぉ・・だから今あたしが言ったろ?

おかみ
おかみ

とにかくものは内輪に思いなさいよ?

おかみ
おかみ

一番いけないのは自分で『ああ俺は一人前だな』と思うのがこれがいけないんだからね?

おかみ
おかみ

『ああ俺は人より血の巡りが悪いんだな・・ああ俺は間抜けなんだ、馬鹿が太鼓をしょって歩いてんだ』ってことを忘れちゃいけないよ?

道具屋
道具屋

やかましいこん畜生!

道具屋
道具屋

何を言ってやがんでい本当に!言いてえことを言いやがって・・・

道具屋
道具屋

脅かしちゃいけねえよ、悔しいねえ本当に、今度いっぺん脅かしてやろう!

道具屋
道具屋

冗談言っちゃいけねえや!あんなもんになめられちゃたまるか本当にな!

道具屋
道具屋

こっちが下手に出てるからいい気になりやがっていいてえこと言っちゃうんだ、今度はひとつ脅かしてやろう!

道具屋
道具屋

何を言ってやがんでい!こん畜生!てめえなんざ出ていけ!

道具屋
道具屋

女なんて世間にいくらもいるんだぞ!ぐずぐずしてるってとかっぱらうぞこん畜生!

道具屋
道具屋

変な者がおるな、なんだその方は!

門番
門番

変な者がおるな・・・

門番
門番

なんだその方は!

道具屋
道具屋

えぇ~道具屋でございますがな!道具屋!

門番
門番

おぉ・・道具屋!最前承っておったな、通っても構わんぞ?

道具屋
道具屋

あ、そうすっか、へえどうもありがとうございます!

道具屋
道具屋

へぇ、どうも驚いたな・・ちゃんと俺が来るのが分かってんだな・・

道具屋
道具屋

始めて入ったこんな所へ・・はぁ~綺麗なもんだなぁどうも・・・

道具屋
道具屋

植木なんざずいぶんなんだな・・・

道具屋
道具屋

手入れが行き届いて、職人がずいぶん入るんだねこういうとこにはねぇ・・・

道具屋
道具屋

砂利だってすげえじゃねえか、大きさが同じようだな・・・屋敷は綺麗だなぁ・・

道具屋
道具屋

屋敷は綺麗だけど、太鼓はずいぶん汚えよなぁ・・・

道具屋
道具屋

なるほど、かかあの言う通りだ・・・

道具屋
道具屋

『こんな汚い太鼓を持ってきた無礼な道具屋ぁ!』って言われたらしょうがねえから

道具屋
道具屋

『さようならぁ!』ってんで帰って来ちゃおうかなぁ!こっちは逃げんのはは早いんだよ?

道具屋
道具屋

大きな松の木が植えてあるねえ・・嫌なこといいやがんだ本当にかかあは・・

道具屋
道具屋

しょうがねえなぁ、だんだん嫌な心持になっちゃったな・・・

道具屋
道具屋

帰っちゃおうかしら・・帰ったってまた迎えにくるだろうしなぁ・・・

道具屋
道具屋

しょうがねえここまで来ちゃったんだ、どうとでもなれ本当に・・・

道具屋
道具屋

ここだな・・・

道具屋
道具屋

こんちわ・・えぇ・・お頼み申します・・

道具屋
道具屋

お頼み申します!・・・お頼み申します!!

武家
武家

通~れ・・・

武家
武家

おお最前の道具屋か!待って居ったぞ!?

道具屋
道具屋

ああ!あなたですかどうも!太鼓を持ってきました!

武家
武家

おお、そうか、こちらへ上がれ!

道具屋
道具屋

い、いえ、ここの方がいざって時には・・・

武家
武家

何を申しておる・・こちらへ上がれ!

道具屋
道具屋

そうっすか・・じゃあ上がります・・えぇ・・

道具屋
道具屋

よいしょっと・・・

道具屋
道具屋

へえ上がりました!上がりましたよぉ!

武家
武家

分かっておる、太鼓は持参したんだな?

道具屋
道具屋

ええ持ってまいりました!持ってきちゃいけないんですか!?

武家
武家

何を申しておる・・なにか面白くないことでもあるのか??

武家
武家

ん~殿に見せる前にな、拙者がひとつ見ておこう、見せなさい・・・

武家
武家

ほうほうほう・・・最前店でちらりと見たときから思うと大層、時代がついておるな?

道具屋
道具屋

へえ!時代のことについてぐずぐず言われちゃあ困っちゃうんだ、ええ!

道具屋
道具屋

これ時代で固まってるようなもんですよ?もう~そこらじゅう時代だらけですよ?

道具屋
道具屋

もうとにかく時代できゅっとなってますからねえ!

道具屋
道具屋

これから時代とると太鼓なくなっちゃうぐらいですからね!

武家
武家

変わったことを申すやつだな、それでは殿にお見せする間な、そこでしばし控えておれ

道具屋
道具屋

こ、これお殿様にお見せするんですか?

道具屋
道具屋

そ、それはよしましょうよ・・・

道具屋
道具屋

いやいやお殿様は買いっこありません、こんなもの・・・よしましょうよ!

道具屋
道具屋

あなたもあたしもしくじりますから、ね?

道具屋
道具屋

よしましょうよ!よしましょうよしましょう・・・

道具屋
道具屋

それであなた買ってくれませんか?

武家
武家

いや拙者は買うわけには参らん、とにかくな、そこに控えておれ・・・

道具屋
道具屋

あ、そうですか・・じゃあどうぞ・・・

道具屋
道具屋

あっ重いでしょ?重いのと汚いのだけは請け負うんです・・・

道具屋
道具屋

重汚いってやつですから・・・大丈夫ですか?

道具屋
道具屋

あ、あのねえ!それからあたくしは別にですね?どうしても買ってくれというわけではないですからね?

道具屋
道具屋

ただ見せに来たんですから、そこんところはあなたの方からよくおっしゃってくださいね?

道具屋
道具屋

どうぞいってらっしゃい!どうも・・・

道具屋
道具屋

ああ行っちゃった・・なるほどねえ・・・

道具屋
道具屋

あれ改めて見るたんびに汚く見えてくるなあ・・・

道具屋
道具屋

あれじゃ買わねえなあ・・・

道具屋
道具屋

『よくこんな無礼なものを!』って聞こえたら

道具屋
道具屋

『さようなら!』って逃げちゃおう、冗談じゃねえや本当に・・・

道具屋
道具屋

はぁ・・戻ってきた・・・

道具屋
道具屋

どうでしたぁ!?いけなかったでしょう?

武家
武家

いや大層御意に召してなぁ!あの太鼓をお買い上げになるそうだ!

道具屋
道具屋

へ?あの太鼓を?嘘だぁ!嘘だよあんなことを言ってぇ!

道具屋
道具屋

安心させて側まで来て捕まえようと思って!

武家
武家

何を申しておる、真にお買い上げになる!

道具屋
道具屋

本当に買うんですか?本当に?

道具屋
道具屋

あっそうすか!へぇ・・へぇ、はぁ・・

武家
武家

なんだがっかりしておるな、売らんのか?

道具屋
道具屋

いえ!売りますよ!やだよそんな邪魔しちゃ!

武家
武家

誰が邪魔なんぞするか!早速のことであるが道具屋、あの太鼓いくらなら手放す?

道具屋
道具屋

ええ!いくらならばぁ~、え~いくらならばぁ~いくらならばぁ!

道具屋
道具屋

え~手放すなん・・手放すなんということをですな!ええお聞きになるんですな?

武家
武家

聞いておるではないか!んん?いくらだ?

道具屋
道具屋

ええ!あれがですな、いくら~いくら~ぐらいのもんですかなぁ?

武家
武家

分からんやつだなその方は・・・

武家
武家

その方が商うのではないか!わしが決めるわけにはいかん!

武家
武家

いくらだ?申してみよ?

武家
武家

ははぁ~ん・・・言いそびれておるな?ははっ、いや分かる分かる・・・

武家
武家

がしかしな、まあこのようなことを申して殿に対して真にあいすまんが、商人というものは儲けるときに儲けておかんと後で損がいかんでな・・・

武家
武家

構わんぞ?手一杯に申してみよ!

道具屋
道具屋

手一杯に!?ああそうですか・・・

道具屋
道具屋

じゃあね、こうしましょう!

道具屋
道具屋

私がねえ、これ以上は手一杯がないという所まで言いますんでね?

道具屋
道具屋

あなた高いなと思いましたらですね、言ってください?

道具屋
道具屋

あたくしすぐ『へい!』ってんでまけますから!

武家
武家

そうか・・では遠慮なしに手一杯申せ

道具屋
道具屋

あのね・・えぇ~っとこんなところでいかがでしょうか?

武家
武家

なんだ手一杯と申して、手を広げて・・それはいくらのことだ?

道具屋
道具屋

十万両!

武家
武家

十万両?いやぁそれは高い!

道具屋
道具屋

高いでしょ?そらぁ高いよ手一杯ですからこれは!

道具屋
道具屋

それであなたまけろって言えばあたくしはいくらでもまけますよ?

道具屋
道具屋

どんどんどんどんまけて今日ず~っと一日中まけましょう!

武家
武家

そんな商いの仕方があるか!変わったやつだな、う~ん・・・

武家
武家

しからばこちらから値を切り出そう・・・

武家
武家

いかがだな?あの太鼓、拙者三百金ならば取り計らって遣わすが三百では手放せぬか?

道具屋
道具屋

いえ・・ですからね?

道具屋
道具屋

・・・

道具屋
道具屋

あのぉ・・・今なにかおっしゃいましたか?

武家
武家

三百金ではどうだ?

道具屋
道具屋

あぁそうっすか・・三百金・・へえへえへえ・・・

道具屋
道具屋

三百金というのはどういう三百金でしょうな?

武家
武家

三百両ではどうかと言っておるのじゃ

武家
武家

わからんやつだな・・・小判で三百両ではどうだ?

道具屋
道具屋

小判ってとこんな形をしていまして、何か買える小判ですか?

武家
武家

物の買えぬ小判というものがあるか!どうだ三百両で?

道具屋
道具屋

どうだなんてあんたそんな三百両だなんて・・・

道具屋
道具屋

あはははは!あっはははは・・・

道具屋
道具屋

うわぁ~~~~ん・・・・

道具屋
道具屋

ぐすっ・・ぐす・・分かりました!

道具屋
道具屋

三百両!三百両ぉぉぉ!!

武家
武家

うるさいやつだな、何も泣くことはない・・・

武家
武家

よし分かった分かった、しからば受け取りを書きなさい

道具屋
道具屋

受け取りなんかいりません!

武家
武家

よし分かった分かこちらが必要なのだ!

道具屋
道具屋

ああそうっすか・・・え~こんなところでいかがでございましょう?

武家
武家

ん?どれどれ・・ほうほう・・・

武家
武家

印形を持ってまいらぬのか?認印を押して・・・

道具屋
道具屋

ええ、あたくし持ってこなかったんでございますが、へえ?あっ!爪印で?

道具屋
道具屋

爪印で?分かりました、それじゃあそれをお貸しいただいて・・・

道具屋
道具屋

どこに押しますな?どこでもいいんですか?そうですか、えぇいくつぐらい押しましょうな?

道具屋
道具屋

八十ぐらい・・・

道具屋
道具屋

まあまあよろしゅうございます・・・

道具屋
道具屋

こんな具合に・・・よいしょよいしょ・・

武家
武家

何をいたしておる!

武家
武家

・・あぁ・・字が読めんではないか・・まあこれでも良かろう・・

武家
武家

これこれこれ・・・金子を持ってまいれ

武家
武家

よいか?これからその方に三百金渡すによってな、間違いのないようによ~く見ておれよ?

道具屋
道具屋

あぁそうですか、三百両・・・

道具屋
道具屋

ええ!分かりました!へえどうぞ!

武家
武家

よいか?それ・・五十両

道具屋
道具屋

五十両!五十両五十両・・・

道具屋
道具屋

五十両五十両五十両・・・

道具屋
道具屋

五十両!!

武家
武家

あるな?

道具屋
道具屋

五十両五十両・・・

武家
武家

よし・・それ・・百両・・・

道具屋
道具屋

百両百両・・

道具屋
道具屋

百両~百両~百両~~!

武家
武家

うるさいやつだなその方は・・・

武家
武家

百五十両・・・

道具屋
道具屋

百五十両!確かにございます!

武家
武家

それ二百両・・

道具屋
道具屋

二百両二百両ぅぅ二百両ぉぉ・・

武家
武家

良く泣くやつだなその方は・・

武家
武家

それ二百五十両・・・

道具屋
道具屋

二百五十両ぅ・・・

道具屋
道具屋

すいません水を一杯下さい!

武家
武家

世話の焼ける奴だな、これこれ水を飲ませてやれ・・・

武家
武家

もうよいか?大丈夫だな?

道具屋
道具屋

ええ大丈夫でございます!これでおしまいですか?

武家
武家

まだある、残り五十両、三百だ!さあ持ってまいれ!?

道具屋
道具屋

こ、これは本当にあたくしいただいてよろしいのですか?

武家
武家

その方の商いによって得た金だ、持ってまいれ!

道具屋
道具屋

ああそうでございますか・・ええ持ってまいります・・・

道具屋
道具屋

断りをしておきますがな、手前どもはですな、一旦売ったものは決してお引き取りをしないようにしてますんでね!

道具屋
道具屋

これはおじいさんの代からの遺言でございましてな?

道具屋
道具屋

どんなことがあってもお引き取りをしてはいけないんです!

道具屋
道具屋

へえどうもありがとうございます・・・

道具屋
道具屋

あの一つお伺いしますが、あの太鼓は一体どういうわけで三百両なんぞで売れたんでございましょうな?

武家
武家

その方も知らんのか、いやわしもよくは知らぬが御上はああいう物に真にお目が高い・・・

武家
武家

なんでもあれは火焔太鼓だと申して世に2つというような名器だそうだな・・・

道具屋
道具屋

ああそうっすか!それじゃああたくしは儲かったというわけですな?

道具屋
道具屋

えぇ、それではどうもありがとうございました!これからもちょくちょく宜しくお願いします!

武家
武家

帰るのか?風呂敷を忘れていくな?

道具屋
道具屋

へえあなたにあげます・・・

武家
武家

いらん

道具屋
道具屋

ああそうっすか、それではありがとうございます!

武家
武家

気を付けてまいれよ?金子は落とすでないぞ?

道具屋
道具屋

金子?冗談言っちゃいけない!てめえを落としたって金子は落とさねえ!

道具屋
道具屋

どうもありがとうございました!

道具屋
道具屋

あぁ驚いた・・売れたよ三百両で!

道具屋
道具屋

あぁ良かったなこりゃあ!驚いたぁ本当に・・う~~ん!!

門番
門番

最前の道具屋がふわふわ飛んでまいっな・・・

門番
門番

これこれ!道具屋!道具屋、どうした?商いはあったか?

道具屋
道具屋

おかげ様で!

門番
門番

どのくらいやった?

道具屋
道具屋

大きなお世話だ!

道具屋
道具屋

本当のことは言えないよ・・・三百両だ、三百両・・・

道具屋
道具屋

ええ?かかあのやつはね、一分で売っちまえってんだ、よかった一分って言わないで!

道具屋
道具屋

ここんところを言うんだよ?

道具屋
道具屋

女の利口と男の馬鹿がつっかうてえのはね!

道具屋
道具屋

『腹がへって腹がへってしょうがない』?

道具屋
道具屋

何を言ってやがんでい!

道具屋
道具屋

これからうちへ帰ってあん畜生に色んなもの食わしてね、もう食えない、もう後食えませんって言っても無理に口の中に押し込んで動けなくしちゃおうってんだ!本当に!

道具屋
道具屋

やいこん畜生!今帰ってきた!

火焔太鼓を聞くなら「古今亭志ん生」

元は小噺だった火焔太鼓を江戸に持ち込み、志ん生の新作落語として昇華させた。今や古典落語の名作として数えられる火焔太鼓。昭和の落語大スター古今亭志ん生の火焔太鼓は、いっぺん聞いて欲しい。

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おかみ
おかみ

まあ顔色変えてきて飛んできた、しょうがないねえお前さんは・・・

おかみ
おかみ

しくじったんだろ?早く裏へ逃げちゃいなよ!あたしがうまい具合にごまかすから!

道具屋
道具屋

そうじゃねえやい!違うんだよぉ!

道具屋
道具屋

あ、あのなあ!ま、まあ落ち着け!

おかみ
おかみ

お前さんが落ち着くんだよ!

道具屋
道具屋

ああそうか・・俺ぁ向こう行ったんだ!

おかみ
おかみ

行ったから帰ってきたんだろ?

道具屋
道具屋

そうだけど、黙って聞いてろ!こん畜生!

道具屋
道具屋

あ、あのな?向こうに太鼓持っていったら、向こうがな『大変な太鼓なんだ!』って

おかみ
おかみ

泥棒の太鼓かい?

道具屋
道具屋

そうじゃねえんだよ!なんとかっていうよくわからねえけど大変なんだ!

道具屋
道具屋

で、向こうでいくらだ?とおっしゃったんだよ!?

おかみ
おかみ

うん、それでお前さん一分って言ったんだろ?

道具屋
道具屋

言おうと思ったら舌がつっちゃって言えないんだよぉ!

おかみ
おかみ

そんな肝心な時になると舌がつるんだねえ!

おかみ
おかみ

今度っから舌抜くよぉ?

道具屋
道具屋

なにを言ってやがん・・・

道具屋
道具屋

それで俺がいくらって言おうかなと思って考えてるってと向こうで手一杯に申せって言うから

道具屋
道具屋

だから俺はこう手をだぁ~っと広げたんだ!

おかみ
おかみ

高いこと言わないだろうねぇ・・いくらだって言った?

道具屋
道具屋

十万両!

おかみ
おかみ

・・馬鹿が固まっちゃったんだお前さんは!

おかみ
おかみ

・・馬鹿が固まっちゃったんだお前さんは!

道具屋
道具屋

そしたら向こうで高いって・・・

おかみ
おかみ

当たり前じゃないか!

道具屋
道具屋

でねえ!どんどんどんどんまけて、三百両で売ったんだ三百両で!

おかみ
おかみ

何を言ってんだよぉ!あんなもんが三百両で売れるわきゃないだろう?

おかみ
おかみ

どうしてそういう嘘つくの?

おかみ
おかみ

あぁ~しくじったからご飯が食べられないと思って・・・

おかみ
おかみ

そんな思いまでしてご飯が食べたいかねえ、まあ可愛いところがあるよぉ

道具屋
道具屋

畜生!この野郎、おめえ俺の言うことがまだ信じられねえのか!

道具屋
道具屋

ここに三百両あるんだ見てみろ!こんなに膨れ上がって!

おかみ
おかみ

本当かい?嘘でしょ?そんなことあるわけない・・・

おかみ
おかみ

本当に?本当だったらちょいと見せてごらん?嘘なんだよ・・

おかみ
おかみ

早く見せなよ?早く見せろこの馬鹿・・・

道具屋
道具屋

なんだ馬鹿とは!よ~し俺はここに三百両並べてやっからな?

道具屋
道具屋

てめえ、それ見てびっくりして座りしょんべんして馬鹿になんな?

おかみ
おかみ

何を言ってんだよ本当に・・・

道具屋
道具屋

そら見ろ!五十両だ!

おかみ
おかみ

あらやだよお前さん!本当なのかい!?

道具屋
道具屋

本当だ!今更驚いたって始まらねえぞ!?

道具屋
道具屋

・・・ほら見ろ百両だ!

おかみ
おかみ

あらやだ、あたし・・・やだねえ・・・

道具屋
道具屋

やだったって始まらねえんだ!ざまぁみやがれ!ほら百五十両だ!

おかみ
おかみ

あらやだ・・百五十両だなんて・・あぁぁ・・

道具屋
道具屋

おいおいしっかりしろ!後ろの柱に捕まれ後ろの柱に!

おかみ
おかみ

後ろの柱にかい?こんなもんでいいかい?

道具屋
道具屋

よ~し、それ見やがれ!ほら見やがれ!二百両だ!

おかみ
おかみ

あらま二百両なんてやだよ・・やだよお前さん・・

おかみ
おかみ

商売が上手だ・・・

道具屋
道具屋

何をいいやがんでい!いいか?

道具屋
道具屋

ほら見ろ!二百五十両だ!

おかみ
おかみ

あらまぁちょいとお前さん・・やっぱり古いものはいい・・

道具屋
道具屋

何を言いやがんでい!いいか?

道具屋
道具屋

ほら今度は三百両だ!

おかみ
おかみ

あらまお前さんお水一杯おくれ?

道具屋
道具屋

ほら見ろ、俺だって水飲んだんだぞ?

道具屋
道具屋

おう定!水持ってきて飲ましてやれ!

道具屋
道具屋

大丈夫か?

おかみ
おかみ

はぁ・・驚いたお前さん・・・

おかみ
おかみ

よくあんなものが三百両なんぞで売れたねぇ・・・

おかみ
おかみ

音がしたからだよ?今度からは音がするものに限るね!

道具屋
道具屋

そうだよ音だよ?俺ぁ今度は半鐘買って来てならすよ?

おかみ
おかみ

半鐘はいけないよ?おジャンになるから・・・

火焔太鼓のサゲ(オチ)の意味

半鐘は昔からジャンジャンと鳴ると言われています。ジャンという擬声語と「だめになってしまう」という意味のおジャンが掛け合わされたシャレになっています。

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