短命を聞くなら「立川談志」
立川談志の「短命」は、風刺と皮肉が絶妙に織り込まれた一席です。人間の業や欲望を鋭く描きつつも、笑いを通じて深い洞察を与えます。談志の個性が光る、考えさせられる名作です。
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なんか用があるのかいお前さん?
えぇ!どうしても教わりてぇことがあってやって来たんですがね?
これから悔やみに行ってくるんですよ!ですから、悔やみの文句を教えてもらいたくって!
悔やみの文句なんて、そんなもん誰でも知ってるじゃないか・・・
だから!決まりきってることをさっと人前で言えれば一人前だっていうけれども全くだね・・・
あっしはこないだ生まれて初めて悔やみに行ったよ?あんなに 難しいとは思わなかったよ?
泣いてる後家さんを前にして、『さてこの度は』と頭を下げた・・・
※後家・・夫に死別し、再婚しないで暮らしている女性。
うまいじゃないか・・・たいてい悔やみの枕詞は『さてこの度は』だ・・・
ここまではうまくいった!『しめた!』と思って顔をあげたのがいけなかったね・・・
お仏壇に美味しそうなものがず〜っと並んでる・・・
それ見たら思わず『ごちそうさま』って言っちゃった・・・
泣いてる後家さんが笑い出しちゃってね!?しまらねぇったらありゃしねぇんだよ?
だから聞いてる相手がポロっと涙が出るような、そんな名文句を教えてもらいてぇと思ってね?
そんな名文句なんてものは、私は知らないが・・・
ただ悔やみの文句ってのは大体決まっている・・・
この度は、悲しい出来事でございます・・・
老少不定定めがたきは人の命、若いから死なない、年を取っているから亡くなるというものではございません・・・
人には定められた命、定命というものがございます・・・
あなたがあんまりお嘆きになりますと、亡くなった方が浮かばれません・・・
今後のことをしっかりやっていくことが亡き人への何よりのご供養でございましょう・・・
くらいのことを言ってな?あちら様忙しかったら手伝って帰って来ればいいんだ!
一体誰がお亡くなりになったんだい?
あのね!伊勢谷の旦那がまた死んじゃったの!
お前は不思議なことを言うね・・・『また』っていうのはどういうことだい?
いやだからだから!俺ぁ気が短ぇから横っ腹から物を言ったから分からねぇんだ!
8年くらい前にあそこの大旦那亡くなりましたろ?
いい人だった・・・仏と言われた方だ・・・
あの大旦那が亡くなった後でおばあちゃんとお嬢さんが残った!
一人娘!婿取りだ!これが実にいい女だよ?
あそこの店が繁盛すんのわね、あのお嬢さんの顔見たさ!
なんとも言えねぇ非の打ち所がない美人!どんなお婿さんを取るのかな、噂をしているってぇと!
二人まとまった婚礼の当日!手伝いに行ってびっくりしたね!
な〜んていい男なんだろう!
いい男ってのは嫌味があるもんだが、嫌味も何にもねぇし、すっきりして二人並んだらまるで一対のお雛様・・・
結構だねというので、高砂屋!するってとおばあちゃん安心したものか、十日後にしてこの世を去ってしまった・・・
夫婦二人だけ、仲はめっぽうよろしい・・・
と、1年半ほどすると、元々色白の婿さんが白いのを通り越して、抜けるように青くなった・・・
見舞いに行こうかな?と思ったら死んじゃいましたよ・・・
間に合わなかったんだねぇ・・・
で、あんなお嬢さんがさぁ!1年半で後家さんになっちゃった!
あれだけの御大家だから二度目のお婿さんをと!お婿さんが来た!
こりゃあまた驚いた・・・先の亭主に懲りたって言っても二度目の亭主、ありゃなんだい!?
骨太くて、血なまぐさくて、脂ぎってる・・・
だからみんなでブリのあらってあだ名をつけたよ?
あんなブリのあらのブ男と、あんな美人がうまくいくのかなったって、女ってのは不思議だねぇ・・・
結構だなと思っていると、ブリが今度は鮎になっちゃったよ?
あらいいかな?と思ったら、寝込んだってんだ・・・
見舞いに行こうかな?と思ったら、死んだ・・・
なんだい、いつも間に合わないんだねお前は・・・
だって先方が待っててくれないんだもん!
それで三人前の亭主は、1年半どころじゃないよ、8ヶ月ももたないでおさらばしちまったよ?
これからあっしは行こうってんだがね?なんだってあそこの亭主は来る亭主来る亭主あんなにコロコロコロコロ死んじゃうのかねぇ?
それはお前考えてみればわかりそうなものだよ?
女房の器量が良すぎる、夫婦仲が良すぎる、亭主に暇がありすぎる、これを俗に三過ぎると言ってね?
大抵亭主は短い命、短命なんだよ・・・
なんです?その短命ってのは?
短い命と書いて、短命・・・長い命と書いて、長命・・・
そんなに仲良いと、亭主は死んじゃうの?
良いったって良すぎるほど、いいんだろ?
それだ!二度目のあのブリのあら!なんだいあの仲の良さ!
ブリのあらが亭主の時ね、庭の木の枝垂れちゃってるから切ってとくれって頼まれたから、承知しましたってんで、あっしは登って、足かけてノコギリ引いてたよ?
高いところからひょいっと見たら、障子が少しばかり開いてたから、中が丸見え・・・
女中さんがすっかり支度してて、女中さんがお支度が出来ましたってとね?
清ちゃん下がっててください・・・
もったいねぇ話だ、あのお嬢さんがお給仕をすんだよ?こともあろうに相手はブリのあらだよ?
お嬢さんが茶碗の蓋をパッと取ると湯気がぽ〜っと出て美味しそうなご飯・・・
するとお嬢さんが茶碗を持つ・・・箸より重いもん持ったことねぇお嬢さんが茶碗を持つと手首が折れそう・・・
ご飯をふわっ・・・ふわっ・・・
変わってんだよあのうちは!あっはっは!ご飯をふわっとよそうんだよ!
当たり前じゃねぇか・・・どこのうちだって飯はふわっとよそうんだよ!
嘘だよぉ!俺んちなんかは兄弟大勢で育ったろ?少なく見せようと思って、叩いたもんだよ?
それはお前のうちが変わってんだよ・・・
あぁそうか・・・なんだい変なとこで恥掻いちゃったなぁ・・・
よそったものをお嬢さん素直に出さねぇんだよ?脇へ手をついちゃっって、体をガクッと
あなたぁ〜・・・
ってね!?色っぽいんだよ〜!?
するとブリのあらがまるで、終電車が出るような声出しやがってね?
へぇぇぇぇ〜〜〜!ってなこと言いやがってね?で、手を出すだろ?
お嬢さんの差し出す手をブリのあらがね、茶碗を持ってるお嬢さんの手を、ぐっと握ってね?
それでお嬢さんの顔をこう見てね?
お前・・・昨夜は楽しかったね・・・この世の中なんで野暮な昼間があるんだろうか?
お前・・・昨夜は楽しかったね・・・この世の中なんで野暮な昼間があるんだろうか?
おバカじゃねぇかあいつはぁ!この世の中夜ばかりだったらねぇ!お天道様まごまごしちゃうよ!?
冗談じゃねぇや!昼あっての夜だろうよ!するとお嬢さんが、
そうねぇ〜なんてなことを言って合わせてやがんだから、いつまで経っても茶碗は二人の真ん中!あっしは気が短ぇからさ!余計なお世話だろうけども!
早く食え!
って言っちゃったね!その声が聞こえたどうかは知らねぇがお嬢さんがね?箸の上へご飯粒を三つばかり乗っけてね?
あなた・・・私が食べさせてあげますから、お口あ〜んしてください・・・
お口あ〜んって顔か?ブリのあらは!?あいつぁ顔中口だよ?
あんなものは茶碗ごとぴゅう〜っと投げておけばいいんだよ!飯だけ食べて、茶碗吐き出したらそれでいいんだから!
それをなんだい、あのでけぇ口をわざわざおちょぼ口にしやがって、おぉぉぉ〜!って!
するとお嬢さんがぽんっと入れて、素直に入ったわ・・・昨夜みたい♡
あなた・・・胃にさわるから、噛んで食べてちょうだい・・・
胃にさわるわけねぇじゃねぇか!ブリのあらはなんだって飲み込めんだから!したらブリのあらが、
よく噛み噛みしたらおいちぃ〜♡なんてバカなこと言いやがってね?
あたしはそれ見ながら、ノコギリ切ってたろ?乗ってる間に切っちゃって、落っこちたよ!?腰を打って痛ぇの痛くねぇの・・・
世の中に仲のいい夫婦がいるなんてのは噂では聞いてる、この目でも見たけども、あんな仲のいいのはねぇよ!?
そうだろ?そういう風に仲が良すぎるから早死にするんだよ・・・
なぜってわかるだろ?蓋を取るとぽ〜っと湯気が上がってるご飯・・・
これをふわっとよそって、形を作って色っぽくあなたと言って差し出す・・・
受け取ろうとするブリのあら・・・
手と手が触れる・・・ぐっと握れば吸い付くような、白い肌のご本の指・・・あたりを見ると誰もいない・・・
顔を見るとぞくっとするほどのいい女・・・
早死にだろ?
分かんねぇな・・・なんでだよぉ!変じゃねぇかよぉ!
だってよ、そうだろ?差し出すだろ?手と手が触れる?じわじわ死ぬ?
あ!指から毒が移るんだ!
人というのはそんな毒なんてなくともあっという間に逝くんだよぉ!分かんないかねぇお前は・・・
川柳にあるだろ?「何よりも、そばが毒だと医者が言い」と・・・
へぇ〜!そばが毒なのかい?今度うどんにしようかな・・・
いやそうではなくてな・・・「新婚は夜することを昼間する」と言うだろう?
夜すること?・・・あ!あれか!子供作るやつ!?
そう!
なんだよ!そうならそうと最初から言え!そうポン!と言えば俺ぁ勘がいいからど〜んと分かっちゃうんだ!
あんたがじわじわじわじわ言うからなんだか分かんなくなっちゃうんだよぉ!俺ぁ勘がいいんだから!
鈍いよお前は!あたしゃ口を酸っぱくして言ってんじゃないか・・・
そうか!なるほど!それで短命、早死に!
よっ!なるほどよく分かりました!ありがとうございました!それじゃあっしはこれで!ごめんなさい!
なるほどねぇ、無駄に年とっちゃいないね、あの人は!
ああいうことはぽ〜んと言えばいいんだから!そうすりゃ俺はど〜んと分かっちゃっうんだから!物事分かりやすいんだから!
それを、茶碗をパッと開けるぽ〜っと湯気が出て、それをふわっとよそう・・・
なんて言うと、俺は食いてぇな!っと思って分かんなくなっちゃうんだから!
あ!あんだけ話してたら腹減っちまったな!家帰って飯食ってから、それから行こう!
短命を聞くなら「立川談志」
立川談志の「短命」は、風刺と皮肉が絶妙に織り込まれた一席です。人間の業や欲望を鋭く描きつつも、笑いを通じて深い洞察を与えます。談志の個性が光る、考えさせられる名作です。
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おう!今帰ってきたよ!
どこのたくってんだよ!
お前そういう言い方ねぇだろ?
亭主が帰ってきたんだ、おかえりなさいくらい言ったらどうなんだい、のたくってるってやつがあるかい!?
俺飯くいてぇんだよ、飯支度しろよ!
出てるよぉ!
お前そんなつっけんどんに言うなよ!出てるよったって、二缶ばかり猫の茶碗が乗ってるだけじゃねぇか!
いいじゃないか猫の茶碗だって・・・あんたが食べた後に綺麗に洗っておけば、猫はなんとも言いやしないよ・・・
俺んちはどっか違ってるよおい!
それじゃあまりにも味気ねぇじゃねぇか!俺の茶碗よそってくれやい!
うるさいねぇ、女房使えばいいと思ってんだから・・・もう十年早いんだから・・・
ほら貸しな?待ちなっての!本当にあんたは気が短いんだから!今あたしがよそってあげるから!
よっこいしょ!はいっ!
・・・そりゃお前よそうじゃなくて、すくうってんだよ・・・
何のためにしゃもじがあんだよぉ!
何でお前しゃもじでこうやってよそわねぇんだよ!それじゃドブ掃除してるみてえじゃねぇか!
何いってんだよぉ・・・
しゃもじを使うとしゃもじにご飯粒がついて、これ長い間水につけておかないと綺麗に落ちないの!
女の苦労が分かんないんだから・・・何だって口に入れりゃ同じじゃねぇか!
じゃあもうやってあげるよ本当に・・・うるさいねぇ!
よいしょ!よいしょ!パンパンっと!ほら!取れぇ!
わぁっ!放ったね、お前は・・・
俺は慣れてるから受け取れるんだぞ!?慣れてねぇ亭主なら向こうへ飛んでっちまう!
これじゃあ味もそっけもねぇじゃねぇか!頼むからよぉ!脇へ手をついて・・・
えへへ・・・形作って、色っぽく、あなた・・・ってやってくれよぉ!
バカだねぇ〜!男ってのは外で覚えてきちゃあ女房にやらせんだからくだらないことを!やだやだ本当に・・・
生き恥晒すようなもんじゃないかぁ!生きて町内歩けないよ!?
やらなきゃいけないの?じゃあやるよ!
死んだ気になりゃなんでもできるんだから!貸しな!本当に・・・
どうやんの?こうやって?脇へ手をつくの?・・・こう?
あっはっは!車にひかれた犬ころみたいじゃないか・・・もう早く取って?誰かに見られたら大変だから!
早く!ほら!ワン!
おいよせよ!そんなことやらないで、あなたぁ〜!って色っぽくやってくれな!
分かったよぉ!あなた〜・・
なんだいやりゃできんじゃねぇか!あっ!ダメ!引っ込めちゃダメ!
手と手が触れて、あたりを見ると誰もいない・・・うっふっふっふ・・・
顔を見ると・・・
・・・
・・・俺は長生きだ・・・
短命を聞くなら「立川談志」
立川談志の「短命」は、風刺と皮肉が絶妙に織り込まれた一席です。人間の業や欲望を鋭く描きつつも、笑いを通じて深い洞察を与えます。談志の個性が光る、考えさせられる名作です。
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短命を聞いて
実に色っぽい?お話でした。この主人公の気持ち、男の私としては、結構共感できます笑
自分が覚えたことを女房にやらせてみたくなる、そういう妄想が頭の中にふわ〜っと広がる・・・しかしながら、この落語【短命】の中では最後のオチのところで、残念ながら、妄想通り、期待通りの展開にはならなかったようですね。
落語には、こう言った色っぽい系のお話もずいぶんあって、同じ落語でも笑わせが違います。今回のようなちょっと下ネタ?のような感じの落語もあれば、完全なバカが出てくる話もあるし、逆に真面目すぎる人が違う方向にいくことで生まれる笑いのお話なんかもあります。
今回のような多少色っぽい系のお話もいくつか紹介しておきますので、そちらもぜひご覧になってみてください。
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