食べ物には旬というものがございまして、無償にあれが食べたいこれが食べたいなんて思う季節になるとそれが食べ物の旬ということになりますけれども・・・
ご大家の若旦那・・・
なんだか分からないけれどもふらふらっと患ってしまっていっこうによくなりません・・・
お医者様にもかかるんですが、お医者様も首をひねるばかり・・・
両親はたいへんに心配でございまして・・・
千両みかんを聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の落語は、洒脱で温かみのある語り口が特徴です。彼が演じる「千両みかん」は、若旦那の病気を巡る騒動と、夏にミカンを求める困難さがユーモラスに描かれた物語です。
志ん生の巧みな間と軽妙な語りが、この滑稽で心温まるエピソードをより一層魅力的にし、登場人物の人間味あふれるやり取りを生き生きと描き出します。
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旦那!お呼びでございますか?

おぉ!番頭さんかい!こっちへ上がっておくれ!忙しいところすいませんね!

いえいえ、どういたしまして!あの、なにか?

あぁ・・・実はな?倅のことなんだよ・・・

若旦那のこと!?へぇへぇ!

もうちっともよくならないだろ?

へい・・・よくなりませんですなぁ・・・

お医者様にね?今伺ったんだよ・・・

今伺った?へい!

そしたらね?なんだかよく分からないってんだ・・・

なんだかよくわからない?

それでまあこれだけよく診ても悪いところはないんだから、これは『気の病』じゃないか?ってこうおっしゃるんだ!

はぁ~・・・気の病?

そうなんだよ・・・

だから今なにか思っていることを聞き出して、それを叶えてやれば、その病気は治るとこうおっしゃるんだ!

思ってることを聞き出して、それ叶えてやれば病気が治る?

そうなんだよ・・・どうしたらいいだろうなぁ~!番頭さん!

どうしたらいいだろうなぁ~!

お前あたしの真似ばかりしてるねぇ・・・

真似ばかり・・・

いつまでやってるんだよ!どうも困ったよ・・・

それでお前に来てもらったんだけれども・・・

まあお前は13の頃からうちへ奉公しに来てくれたな・・・小さい頃から倅の面倒をよく見てくれた・・・

小さい時分には、あれは一番お前になついていた・・・今でもそうだ、しっかり面倒見てもらっちゃってるんだ・・・

あたしには話しにくいことでも、お前さんには相談している・・・

ちゃんと知っていますよ?

だから他の者じゃいけないんだ、お前さんが行ってあれの胸のうちを聞いてもらいたい・・・

なんでも叶えてやるからと言って聞いてきてもらいたい!

えぇ!そういうことでしたら、分かりました!行ってまいります!

若旦那!ごめんください!

もう~若旦那、こんなに暑いのに閉め切っちゃってダメですよ~!
風通しが悪いんですから・・・

ちょいと!もし!若旦那!ねぇ!もし!ちょいと若旦那!

はぁ・・・はぁ・・・すまないねぇ・・・心配をさせて・・・

何を言ってんですよ!そんな気を遣うからいけないんですよ!

みんな心配してるんですから早く良くなってくれなくちゃ困りますよ!?

いつまで経ってもよくならないんですから・・・困っちゃったなぁ・・・

何か若旦那、自分ひとりでこう・・・

思い悩んでいることというのが、あるんじゃありませんか?

ん・・・別に・・・ないよ・・・

ダメですよ隠したって!お医者様がそうおっしゃってるんです!
気の病じゃないかっておっしゃってるんです!

あるんでしょ?あたしに話してご覧なさい!
なんでも叶えて差し上げますから!

ちゃんと旦那もそうおっしゃってくれてるんですから心配ありませんよ!

なんかあるんでしょ?おっしゃってみなさい!

うん・・・そりゃあるんだけど・・・

これを話したところでこの思いは叶えられないから・・・

やっぱり・・・話すのはよそうよ・・・

そんなこと言わないであなた・・・

ねぇ!急にひとりでそうやって叶わないと思い込んでるだけかもしれませんよ?

いいじゃありませんか!とにかくああやって大旦那が心配してらして、何で叶えてやるとこうおっしゃってるんですから!叶わないなんてことはありませんよ!

いやぁ・・・これを聞けば・・・

これは叶えてやることができないなと思うと、おとっつあんだって余計気が重くなって心配になって、おとっつあんの具合まで悪くなっちゃうから・・・

やっぱり・・・言うも不幸・・・言わぬも不幸・・・

同じ不幸ならこのまま言わずに死んでしまおうよ・・・

あなた心細いこと言っちゃいけませんよ!あなた一人が思ってるのかもしれませんよ?

話してご覧なさい?そこまで覚悟が出来てるんだったら話をして!

なるほどこれは叶わない!と納得させてから死んだって遅くはないんですから!

ね?まあそれは薄情なことを言うようですけど、ものの例えでしょ?

話の順ってやつですよ、理屈じゃありませんか・・・

う~ん・・・そうかい?それじゃあ話をしよう・・・

実はね・・・

焦がれてるの・・・

あぁそうですか・・・焦がれてらっしゃる・・・

うん・・・あのふっくらとした・・・あの色気・・・

はぁ~そうですか!結構!もう何にもおっしゃらなくても分かりました!

へへっ!どうもそうじゃないかと思ったんですよ!どのお嬢さんなんです?

いやぁそうじゃないんだよ・・・

違うんですか?あぁ!じゃあどっかの芸者かなんかですね?

結構ですよ!あたしが間に入ってちゃんと話をまとめますよ!

大旦那に話をして、ちゃ~んとお金を出してもらいますから!

いやそんなんじゃないんだよぉ~・・・あたしが思い込んでるのはね?

・・・かんが食べたいんだよ・・・

・・・

・・・え?

みかんが食べたいんだよぉ・・・

みかん!?

み、みかんってとあの丸くって?

皮をむくってと中に実が入ってて、食べるってとあのみずみずしいみかんのことですか?

あれが食べたいんですか!?

・・・そうなんだよ・・・

冗談じゃありませんよ!いいかげんにしてください!

だったら患うことないじゃないですか!

誰にでもみかんを買って来てくれって言いつけたらいいでしょう!?

定吉だってお清だっているじゃありませんか!

本当にまあそんなことで患ったりなんかして、大勢の者が心配してるんですから!

本当にいい加減にしてくださいよ!いいですよ!
みかんだったらあたしが買ってきますよ!

え・・・お前・・・ぐすっ・・・

みかんを買っておくれぇ~・・・

泣くことはないじゃありませんか!大丈夫です!ちゃんとみかん買って来ますから!

本当かい・・・

もしみかんを持って来てくれないときには・・・あたしは長いことはないよ・・・

分かりました!分かりましたよ!

困ったねぇ~本当に大業だったらありゃしないんだから・・・

じゃあちょっと待っててくださいよ!?

本当に・・・これだからご大家の若旦那というのは困るんだよ・・・

旦那!行ってきました!

おぉそうかい!な、何と言ってた?何を思い悩んでいるんだ?

それがねぇ、旦那の前ですけれども馬鹿馬鹿しいったらありゃしないんですよ!

えぇ・・・みかんが食べたい?

あの、あの倅がそんなことを言い出したのかい?

そりゃあ困ったねぇ・・・どうしような番頭さん・・・

どうしようてぇことはありません、みかんがなければ買って差し上げればいいじゃないですか!

いいですよ!大丈夫です!今あたしがみかん買って来ますから!

お前なにかい?みかんを買ってやると言ったのかい?

えぇ!言いましたよ?

大変喜びまして、顔色もす~っと赤みをさしてきましたね!

もう大丈夫ですよ!治りますから心配いりません!

おい・・・番頭さん・・・お前今何月だと思ってるんだい?

えぇ?八月ですよ!

夏の盛りにみかんがあるかい!?

はぁ!そうでした!

みかんは・・・八月にはありませんなぁ!

ないよ!

はぁ・・・そうか、こりゃあどうもあたくしうっかりしておりました・・・

それじゃあちょいと若旦那に断って・・・

待ちなさい!お前喜ばしたんだろ?

実は若旦那ありませんでしたなんて言ってごらん?

がっかりして死んじまうよ!?

そうだ・・・

そう言えばもしみかんを持ってきてくれない時には、もう長いことはないとそう言ってました・・・

困りましたな・・・

そうなるってとお前が殺したも同然だよ?あたしはお前をそのままにしておくわけにはいかないよ!?

主人殺しの罪は重いぞ?お前磔(はりつけ)だ!

磔ぇ~!そ、それは困りましたなぁ・・・どうしましょう?

どうしましょうも何もない!こんなとこでぼんやりしてないで早くみかんを探してきなさい!

どこ行ったらあるでしょう?

そんなことあたしは知らないよ!江戸中探してみかんを持ってくるんだ!

持ってくるんだったって・・・弱りましたぁ・・・

ぐずぐずしてるってと磔だぞ!

行ってきますぅ・・・
千両みかんを聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の落語は、洒脱で温かみのある語り口が特徴です。彼が演じる「千両みかん」は、若旦那の病気を巡る騒動と、夏にミカンを求める困難さがユーモラスに描かれた物語です。
志ん生の巧みな間と軽妙な語りが、この滑稽で心温まるエピソードをより一層魅力的にし、登場人物の人間味あふれるやり取りを生き生きと描き出します。
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弱っちゃったなぁどうも・・・ついうっかりしちゃった・・・

なるほど夏なんだからあるはずがないよ・・・

どこ行ったらいいだろう・・・とりあえず八百屋行ってみようかなぁ・・・

こんちわ!

へい!いらっしゃい!

みかんはありますかねぇ?

あなた今何月だと思ってるんです?

へい・・・さようならぁ!

分かってるんだよそんなことは・・・磔は勘弁してもらいたいな・・・

あ、ここも八百屋だ・・・

こんにちわ!

はい、いらっしゃい!

あの、みかんありますか?

あなたいくつになるの?

へぇ、さようなら!

嫌だなどうもな・・・

こんちわ!おたくにみかんはありますか?

うち金物屋だよ!

金物屋・・・金物屋にみかんはないよ・・・

弱っちゃったなぁどうも・・・

もうないのは分かってるんだい・・・

こんにちわ!

へい!いらっしゃい!

ないでしょうね?

何がです?

いやぁないはずなんです・・・今夏ですからね!

あたし子供じゃないからそんなことは分かってるんですよ・・・あるわけがないんです!

何を言ってるんです・・・

そんなところであるはずがありませんってお前さんが請け合ったってしょうがないでしょ?

言ってごらんなさい?ものによっちゃありますよ?

嘘だよありませんよ!あなた!あるわけがないんだよ本当に!

もしあたしが言って、やっぱりそれはないなんて言ったら、あなた代わりに磔だよ?

な、なんだ驚いたことを言いますね・・・なんです?言ってごらんなさい!

・・・みかんありますか!?

み、みかん!?みかんは・・・そりゃないよ・・・ありません!

ないでしょ?ね?代わりに磔になってもらいますよぉ・・・

ちょっと待ちなさいよ・・・なんだかずいぶん様子がおかしいね・・・

大層ご心配のご様子だ・・・妙なことも言ってるし・・・

どうしたんです?

ふむ・・・あなたのとこの若旦那が?患っている?

わけを聞いたら、この夏の最中にみかんが食べたい!?

はぁ~贅沢なもんだねぇ・・・それはわがまま病ってやつだ・・・

ないものねだりだからなぁ・・・

あなたが請け負った!?馬鹿だねぇ・・・あるわけがないじゃありませんか・・・

まあ気持ちは分からなくはないですが、あなただって店で奉公して働いてらっしゃるんですから、そのぐらいのことを気づかないでどうするんですか?

えぇ?そうですか・・・若旦那がみかん持っていかないと死んじゃうって?

これはどうも大変困りましたなぁ・・・それでなんです?その磔ってのは?

えぇ・・・それは旦那がね?

もし死んだらお前が殺したも同然だから主人殺しの罪は重い、磔だってんですよあたし・・・

あなた磔見たことありますか?

磔ですか?あたしねぇ、一度だけ見たことありますがね、あれは嫌なもんですなぁ・・・

しっかりと縛られまして、痩せ馬に乗せられまして・・・

さび槍を持った士人が両脇にいて、お役人が付きそって・・・

それから刑場に連れていかれるってやつですよ、えぇ高~い所です・・・

それから柱に縛られまして、それから槍で突かれるわけですが・・・

まずしっかり読みあいがあってから、目隠しをするってやつで・・・

目隠しを!?

うん・・・それから両脇から槍を持って来た人がいて、そのさび槍で・・・

いきなり突くんじゃないんです!

まず初めに前の方に持ってきて、槍と槍でもってきぃん!と合わせる・・・

これを思いの槍と言いまして、これがもうこの世の別れ、最後だってやつですな・・・

思いの槍・・・これをやらないでいきなり突くと思い遣りがねぇなんてことを言いますが・・・

思いの槍をしてから、すっと引いて・・・

いやぁぁぁぁぁぁ!!

しっかりしなさいよあなた!まああなたお気の毒だけれども、それはご自分がいけないんだよ?

なるほどねぇ気の毒だなぁ・・・あのねぇ、親御さんならそれぐらいのことは言うでしょう・・・

夏だからねぇ・・・こんなに世は広いったってみかんはちょいとないでしょうなぁ・・・

あっ!あなた今までどういう所を探してきました!?

え?八百屋?八百屋にはありませんよ・・・

あのね、多町へ行ってごらんなさい!色々と問屋があります!

そこ行くってとよく囲い物があるなんて話を聞いたことがありますよ!?
※囲い物・・・貯蔵しておく野菜・果物。

まあこんなところに持ってきても売れませんから、仕入れませんけれども・・・

よくそういうものがあるというのを聞きますから、行って探してご覧なさい!

そうですか!ありがとうございます!

多町でございますよ!

へぇ!ありがとうございます!

はぁ・・・はぁ・・・あぁ、ここが多町か・・・本当だ、問屋が並んでる・・・

ここで聞いてみよ・・・

こんにちわ!

へい!いらっしゃい!

みかんはありますか?

みかんですか?みかんはちょいとうちでは囲ってありませんなぁ・・・

そうですか・・・ありがとうございます・・・

こんにちわ!おたくにみかんはありますか?

みかんはうちではありませんな・・・

二、三軒先に行ってごらんなさい!そこに玄宗ってうちがありますよ!そこ行くってときっとありますよ!

へぇ、二、三軒先?あぁそこか・・・

あのちょっと伺いますが!

はい、いらっしゃい・・・なんです?

あの、みかんはありますか?

みかん?

ほぉ・・・珍しいお客さんですな・・・

みかんをお求めですか?

お求め!お求めでございますよ!

そうですか!いくつぐらい差し上げましょう?

い、いくつぐらい?いくつぐらいってあなた・・・

みかんがありますか?

あります!

あるぅ?あぁぁぁぁぁ・・・

ちょっと大丈夫ですか!?しっかりしてください!

みかん!みかん!みかん!みかん!

ちょっとお待ちなさい、確かにありますがねぇ・・・

うちは囲い物なんですよ、蔵の中に一応みかんは囲ってあるんですが・・・

何しろこの暑さと湿気ですから、まあたいがいは腐ってると思うんですが・・・

まぁ中には腐ってないのが二つ三つはあるかもしれません・・・
一つでもあれば何とかなると思うんですが・・・

へぇ結構でございます!一つでも結構でございますからどうか!探してくださいまし!

そうですか、分かりました!

おぉ~い!お客様がみかんが欲しいとおっしゃってらっしゃる・・・

裏へ行ってな!みかんを調べて来な!

あなたもいらっしゃいますか?こっちへいらっしゃい・・・
千両みかんを聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の落語は、洒脱で温かみのある語り口が特徴です。彼が演じる「千両みかん」は、若旦那の病気を巡る騒動と、夏にミカンを求める困難さがユーモラスに描かれた物語です。
志ん生の巧みな間と軽妙な語りが、この滑稽で心温まるエピソードをより一層魅力的にし、登場人物の人間味あふれるやり取りを生き生きと描き出します。
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店を抜ける・・・
裏庭にでるってと蔵が三つばかり並んでおりまして・・・
葉の生い茂った木がこうある・・・
その中の涼しげなところに蔵がありまして・・・
目張り(テープのようなもの)がしてあります・・・
これを若い衆が二、三人出てきまして、これをびーーっと開けるってとヒヤ~っとした風が流れ出してくる・・・

おう!見てみな!

へい!
身の軽そうなやつが蔵へ入って行って、みかんの一番箱の上へ登って、ぽ~んと箱を頬りだすと、下のやつがしっかりと受け止める・・・
その中を見て見るってとそこにはみかんがぎっしり詰まっております・・・
ところがこのみかんはみ~んな傷んでおります・・・
こいつをひとつずつ丁寧にあらためていく・・・

どうだい?あったかい?

ありませんねぇ・・・

そうか・・・じゃあ次の箱おろしてみな!
また次の箱をおろして、中を見て見ますが、これもみんな腐ってる・・・
どんどんどんどんあらためている・・・

あんまり心配しちゃいけませんよ?ひとつぐらいは綺麗なのがあるかもしれません・・・

だけども、あんまりあたしを充てにしちゃいけませんよ?

確かにみかんはあるにはあるんですが、これはね・・・季節違いだからしょうがありません腐ってたって・・・

これはあたしに言われても困ります・・・とにかく探してみますんで!

ない?次の箱見て見な!

まあまああなた落ち着いて!何がそんなに心配なの?

え?うん・・・

みかんを持って帰らないと!?若旦那の命が危ない!?

おい!一生懸命探しなさい!ないか?

しょうがねえな・・・次のをどんどん調べて中を見て見な!
脇の方に腐ったみかんがずら~っと並ぶ・・・どんどん調べてって、一番最後の箱・・・
これも開けるってとみんな腐っております・・・
ひとつずつ出してみるってと一番下に、たったひとつだけ腐ってないみかんがあった・・・

あ、あった!・・・あぁぁぁぁ!!

また倒れちゃった・・・しょうがないね、ありましたよ!ちゃんと!

あぁ・・・ありがとうございます・・・い、いくらでございます?

少~し高いですよ?これ・・・

あぁ・・・ありがとうございます・・・い、いくらでございます?

千両です!

せ、千両!?

あなたねぇ!そりゃいくらなんでも高過ぎやしませんか?

そうですかねえ・・・あたしは高いとは思いませんよ?

お話伺ったらこのみかんがあったら人の命が助かる・・・

いやいやいやこっちはね!足元を見るつもりはないんですよ!?

この腐ったみかんの山!

あたくし共はねぇ、いつお客様がみかんをお求めになるか分からない・・・

その時にありませんと言うのも悔しい・・・

店ののれんに傷がつくんで、無駄を承知で毎年これだけのみかんを置いておくんですよ・・・

中からやっと探して出てきた無傷のみかん・・・ないんですよ夏場に普通みかんは!

それがあったんです!それだけだって千両の値打ちはあるでしょう!

嫌だったらいいですよ!お帰りください!

ちょ、ちょっとあいすいません・・・

あたくしの一存では決められませんので、ご主人と相談して参りますよ・・・

ちゃんと預かっておいてくださいましよ!?
預かっておいてもらって、急いで帰ってまいりまして・・・

旦那!みかん、ありました!

あった?そうか・・・そりゃよかったな!買ってきたのか!?

とてもじゃございませんが買えませんよ・・・

ひとつ千両なんです・・・

千両!?

それは安いなぁ~!

・・・え?

みかんが一個千両ですよ!?

安いよ・・・それで倅の命が助かるとあらば!結構だ!すぐに買ってきておくれ!
車に千両箱を積みまして、若い衆が二、三人ついてみかんを買ってまいりまして・・・

旦那・・・買って来ました・・・

はぁ・・・本当だよ・・・おばあさん!

見てごらん!夏の真っ盛りにみかんがあるよ!?

いやぁ・・・どうもこれだけでもって、またあたしは長生きできる!千両!安いなぁ!

へい、かしこまりました・・・

若旦那!みかん・・・持って来ましたよ!

はぁ・・・あったのかい・・・!みかん・・・

あ・・・あったぁ・・・あぁ・・・ありがとう・・・

よく探してくれたねぇ・・・よかったよかった・・・

このことあたしは一生忘れませんよ・・・

よくやってくれた・・・ありがとうありがとう・・・

はぁ嬉しい・・・こんな嬉しいことはない・・・

さあ若旦那・・・お上がんなさい・・・

その前にいいですか若旦那・・・

そのみかんはね、一つ千両でございますよ!

これが千両!?

安いなぁ・・・

・・・

あたし一人がおかしいのかなぁ・・・

安いですか?あたしにはそうは思わないですけれどもねぇ・・・

いや実はねぇ・・・

こちらの大旦那、世間様からしまいやケチと言われ続けておりました・・・

あたくしも長年奉公しておりますが、いわれのないお金はびた一文出さない方です!

それが千両という言葉を聞いてあぁそうかと言ってすぐにお金を出して、それを買ってきたんでございますよ?

それは可愛い倅の命をなんとか助けたいがためですよ?

若旦那・・・

大旦那の・・・親の恩を忘れちゃいけませんよ?分かりましたか?

それじゃあじっくり味わって食べてください・・・

千両のみかんなんですから・・・それだって安くはない・・・

中にいくつ入ってるんです?え?十房(とうふくろ)入ってる?

そうすると・・・ひと房、百両ということになりますな・・・

・・・

百両食べた・・・

二百両食べちゃった・・・三百両・・・早いねぇどうも・・・

もう三百両・・・四百両食べちゃって・・・もったいないなぁ・・・

おいお前そんなこと言わないでおくれよ・・・食べにくいじゃないか・・・

そりゃそうですけれどもねぇ・・・あぁ・・・五百両食べちゃった・・・

六百両・・・はぁ七百両食べちゃった・・・

・・・

・・・どうしたんです?もう召し上がらないんですか?

あぁ・・・おいしかったよ・・・こっちへ皮は出しておく・・・

さぁ・・・ここに三房残したよ・・・

一房おかあさん・・・一房おとっつあん・・・一房おばあさんに差し上げておくれ・・・

お前にはね・・・またあらためてお礼をするから・・・お願いしますよ・・・

そうですか!分かりました!それじゃあお預かりいたします・・・

大丈夫です・・・大切なものでございますから・・・へぇ、どうも・・・

・・・どうだい・・・贅沢なもんだねぇ・・・

みかん一つが千両・・・三房でもって三百両・・・一房百両だ・・・

あたしはこちらに十三の歳から奉公にきて、今年三十九だ・・・

あたしはこちらに十三の歳から奉公にきて、今年三十九だ・・・

来年のれんを分けてもらう時に、旦那が下さるお金が三、四十両・・・

たかだかもらったところで五十両が精いっぱいだ・・・

十三の時から今まで一生懸命働いて五十両・・・

このみかんたった一房で三百両・・・

一生懸命これから働いて、この手の上に三百両乗せられるかしら・・・

このみかんが三百両・・・!!

長い浮世に短い命・・・同じ生きるなら太く短く生きるとするか・・・

どうとでもなれ!
三房のみかんを懐に入れて、この番頭が夜逃げをいたしました・・・
千両みかんというお話の一席でございました・・・
千両みかんを聞くなら「古今亭志ん生」
古今亭志ん生の落語は、洒脱で温かみのある語り口が特徴です。彼が演じる「千両みかん」は、若旦那の病気を巡る騒動と、夏にミカンを求める困難さがユーモラスに描かれた物語です。
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