落語【王子の狐】台本  吹き出し風

落語 台本

化ける、化かされたということを申しますが、同じ化けるでも狐と狸を比べると、狐の方は質が悪い・・・狸の方が罪がないようでございますな・・・

なんとなく狸の方が間抜けなようで愛嬌がありますな・・・

狐の方はというとごく冷たいようで、悪い奴になったりすると人を殺めてしまうというようなこともあったそうですな・・・

それだけに化かし方もずいぶんと鮮やかだったそうですな・・・

どういう風に化かすんだと色々聞いてみれば、ごく単純なものですけれども、夜表を歩いて家へ帰ろうというようなときに、いくら歩いても家に着かない・・・

これはもう極めて単純な化かされ方でございます・・

これだけ歩いてるのにどうして着かねえのかなと思っているときにはすでに化かされてるんですな・・同じ所をぐるぐる周っていたなんという・・・

たとえ家にちゃあんと着いたとして、家に横になって寝たとしても次の朝目覚めてみるってと、何にもない原っぱの上で寝ていて、風邪をひいちゃったなんというお話もございます・・・

こう狐や狸に騙されることが多くなりますと、逆にこれを利用するような殿方もいらっしゃるようで、若い女の子とその夜はずいぶんとお戯れになって、あくる朝になって家に帰ってきて・・・

おかみさん
おかみさん

どうしたんだい?お前さん昨夜家へ帰ってこないで!

ある男
ある男

いやぁなんだか俺もよく分かんねえんだよ・・・

おかみさん
おかみさん

何が分かんないの?

ある男
ある男

何が分かんないのってねぇ、俺ぁ昨日家帰ろうとして、みんなでもって歩いてたんだよ・・・

ある男
ある男

そしたら途中でなんだか分かんなくなっちゃって、気づいたら俺ぁ原っぱの上で寝てたんだ

おかみさん
おかみさん

あらやだぁ・・じゃあお前さん狐に化かされたんだねえ!

ある男
ある男

そうらしいやぁ・・・

なんてんでね、カミさんを化かしちゃったりなんかして・・・

都合のいいような時もあるようでございますけれどもね・・ 歩いているうちに、妙齢(若い年頃)のご婦人に声をかけられて、

ある女
ある女

お付き合い願いませんでしょうか?

ある男
ある男

ああどうも、嬉しいやぁ!へへへ・・

なんてんでその気になって後をくっついていって、途中まで行くってとそのご婦人がよれよれっと倒れてくるもんだから、ここぞとばかりにぐわっ!っと抱きついて夢中になって

ほっぺたなんかをぐわぁ~っとこすり付け足りなんかすると、あんまり女が硬いもんだから、なんだろうなと思ってふっと見るってとお地蔵様に絡みついていたりして・・・

これでほっぺた擦りむいちゃったりなんかしちゃって・・

そういう間抜けな話もあります・・

まあしかし、人間の方でも化かされたままじゃあ気がすまないという気持ちが働くんでしょうなぁ・・

みんなでもって狐や狸を捕まえて、あわよくばとっちめちまおうなんて寸法で・・・今になってはもう大変ですよ・・

狐や狸がうどんやそばなんかに商品化されちゃってるんですから・・ いやに残酷な世の中になってしまいまして・・・

昔は信心深い人が大変に多くて、いくら自分を化かす狐であろうが、ちゃあんとお稲荷様にはお参りに行くんですねぇ・・・

まあ信心深いと言っても別に本当に信心があるわけじゃあない・・

ようはお参りをした帰りにどこかによって一杯やる、物見遊山にでもでかける・・

これが楽しみで信心を口実にしてるわけなんでございますが・・

王子のお稲荷様に、お参りをしに行く男がおりまして、まあお参りをすると言っても、帰りの遊びが楽しみでくるような奴ですが・・・

今しがたお参りを済ませまして、さあまだ飲み食いにはちょっと早いかなぁなんてんで、賑わってる裏手の方へぶらぶらぶらぶらと歩いている・・

ひょいと見るってと大きな杉の木があってその間の陽だまりに・・・

王子の狐を聞くなら「金原亭馬生」

十代目金原亭馬生の「王子の狐」は、狐と人間の微妙な駆け引きが織り成す、幻想的でユーモラスな一席です。馬生の柔らかな語りが、物語に深みと味わいを加え、聴く者を物語の世界へと引き込みます。古典落語の魅力を存分に楽しめる逸品です。

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熊

何か寝てるなぁ・・・なんだろうな・・・

熊

犬か?いや犬じゃあねえな・・・

熊

あっ、狐だよ!あの顔といい尻尾といい、狐だ!

熊

狐なんてもんは中々人の目には触れられねえなんて言うが、この狐はこんなところに寝てずいぶん悠長な奴だなぁ・・・

熊

確かに今日はポカポカ天気も良くて、すやすやっと眠くなるかもしれねえが・・・

熊

こんなところで寝てて、犬にでも見つかったら噛み殺されちまうよ・・・

熊

ちょいと可哀そうだなぁ・・・

小石を持って、ぽ~んっと狐の方に投げてやると、当たりはしませんけれども、狐の方で気配を感じてパッと目を覚ますってと辺りをキョロキョロっと見て駆け出して行くってと、先にありました稲叢(いなむら)の陰にすっと入った・・

何をするんだろうとひょいと見るってと、しきりに草をむしっちゃあ頭の上に乗っけておりました・・

くるっと回ったかと思うと、年頃17、8になります綺麗な娘さんに・・・

熊

うまい具合に化けたねえ・・・

熊

へぇ~こんなところ見なけりゃ誰だって騙されちまうよ?

熊

おっと道へでてきたね・・・しゃなりしゃなりと歩いてるよ、へへっ・・・

熊

誰か化かそうってんだな?おもしれえじゃねえか!

熊

化かされた人には気の毒だけれども、狐が人を化かすところをじっくりと拝見しようじゃねえか!誰を化かそうってんだ・・誰か来るのかな?

熊

誰を化かそうってんだ・・・誰か来るのかな?

熊

誰も来ないねぇ・・・誰も通らないんだ・・

熊

おいよせよ・・俺を化かそうってのかおい・・

熊

冗談じゃねえな、俺ぁ今起こしてやったじゃねえか、犬に噛み殺されちゃいけねえからってんで・・・

熊

それでも化かそうってのか?

熊

へへへ・・・まあいいか、ネタは知れてんだ・・・

熊

ひとつ化かされてみようかなぁ!どういうことになるのか楽しみだ!

熊

しゃなりしゃなりと歩くあの格好!どう見たって狐には見えねえな・・・

熊

気を付けよう、化かされないようにな・・・

熊

それにしても誰に教わったんだか知らねえけれど、あの髪の形といい帯の締め具合・・・

熊

どうやって覚えたのかねえ・・・

熊

そうだ!こっちからきっかけを作ろう!

熊

その方がこっちの思い通りに話が進むからねぇ・・・

熊

名前はなんて呼ぼうかな・・おこんちゃん・・・

熊

おこんちゃんは変だな・・・

熊

おたまちゃんこれいいな!おたまちゃんだ!

熊

よ~し!化かされるなよぉ・・・

熊

おたまちゃん!?そこにいるのはおたまちゃんじゃないかい!?

狐

あらまぁお兄さん・・・しばらくぅ・・

熊

うまいなぁおい、ネタ知らなきゃやられちゃうよ・・・

熊

いやぁ!やっぱりそうか!おたまちゃんだったか!

熊

いや向こうから見てね、あんまり似てるんもんで、ことによるとそうかなと思ったんだけどもさぁ!

熊

しばらく会ってないから半信半疑!

熊

おっかなびっくり声かけたんだが、やっぱりおたまちゃんだったか!よかった声をかけて!

熊

声をかけなかった日にはねえ!またいつ会えるか分からねえ!後悔しちまうところだったよ!

熊

いやぁ本当に綺麗に化けたねえ~

狐

化けた?

熊

いやいやほらほらよく言うじゃないか、女は化粧と身なりでもって歳をごまかすなんてよく言うじゃないか!

熊

あ!でもこれはあたしが悪かった!

熊

たまちゃんは子供の時分から器量よしなんだから大人になって綺麗になるのは当たり前だ!

熊

化けたって言葉は間違いだ!勘弁しておくれよ?いやぁ本当に綺麗になった!

熊

それにしてもこんな所でもってどうしたの?

狐

お友達と一緒にお稲荷様へお参りに来たんですけれども、あたくしがぼんやりしてましてみんなとはぐれてしまいまして・・・

狐

みんなを探しながらこうしてここまで歩いてきたんですよ・・・

狐

ひとりっきりになっちゃって、とってもあたくし怖いの・・・

熊

あぁそらぁ怖いよぉ・・・こんなところでもってうろうろしてちゃだめだよ?

熊

若い娘がひとりで・・・よかったね私にあえて・・

熊

私が付いてくるから心配しなさんな

熊

じゃあお友達とどうしても一緒に帰らないといけないというわけではないね?ねっ!

熊

じゃあもう用無しでしょ?ちょいとあたしに付き合ってよ!まだ早いんだから・・・

熊

つもる話がたくさんありますよ?久しぶりに会ったんだから!

熊

実はね、おたまちゃん・・あたしはいつもここにお参りに来てるの!

熊

それでもって帰りに一杯やるのが楽しみなんだ!

熊

だからちょいと話相手になってもらいたいねえ、ご飯でもいただこうじゃありませんか!

狐

それはありがとうございます、それでしたらこの先にあたくしの行きつけの店がございますからそこでゆっくり致しましょうよ・・・

熊

いやぁあたくしも行きつけの店があるんですよ・・・

熊

だからね、おたまちゃん!ここはひとつあたしに任せてくださいよ!

熊

ねっ?扇屋さんといいましてね?ここが中々うまいんだこれが!

熊

どうです?

狐

あらぁ扇屋さん・・・あたくし大好きですの・・

熊

へぇ~ご存知?

狐

えぇ・・ちょくちょく行くんですよ・・

熊

あらっ!おたまちゃんがちょくちょく行くのかい?ひとりで?

狐

いえ連れがありますの・・・

熊

そりゃあそうか、男ならまだしも女がひとりでもってあんな所に行くのは行きづらいやなぁ・・

熊

なるほど連れと一緒か・・・

熊

ずいぶんみんな化かされて連れていかれるんだろうなぁ・・・

熊

いやぁ!ははっ!今日はね、あたしが連れになりますよ!

熊

あなたみたいな綺麗な人を連れて歩いたらあたしも鼻が高いや!

熊

ほらほら行きましょう!こっちですよ!

熊

いやぁ本当にしばらくでしたねぇ・・7、8年会わなかったんじゃないかなぁ・・・

熊

みなさんお元気?あぁそう・・結構ですな・・・

熊

おとっつあんもおっかさんも?そう・・・

熊

あなたみたいな綺麗な娘さんがいると親御さんは心配でしょうがないよ・・・

熊

え?帰りが遅くなると?怒られる?

熊

そらぁそうでしょうよ、おとっつあんだって遅く帰ってくりゃあそらぁ心配しますよ!とんでもない話ですよ?

熊

ですが心配しなさんな、今日はあたくし送りますから!

熊

心配することはありませんよ?いくら送るからってあたくし途中で狼になるようなことはしませんからね?

狐

お兄さん狼なんですか?

熊

な、なに?そんな怖そうな顔をして・・・狼?

熊

いやそうじゃないのよ!送り狼になることはありませんよって言ってるんですよ!

熊

私が狼なわけがないじゃないですか!?狼に見えますか?

熊

狼が化けてるように?冗談じゃない!馬鹿言っちゃいけませんよ!

熊

化けてんのはあん・・

熊

いやそんなことはどうでもいい・・さあここだここだ!

熊

こんにちわ!

扇屋の店員
扇屋の店員

いらっしゃいまし!

熊

ええ!あのね!連れがあるんだけどもどうです?綺麗な人でしょ?

扇屋の店員
扇屋の店員

あらまぁ大層綺麗な方じゃあございませんか!

熊

ね?分かんないでしょ?

熊

ちょくちょくこちらにね!来てらっしゃるという話だ!

熊

そういうわけでひとつ静かな所で眺めのいいところに案内を願いたいね

扇屋の店員
扇屋の店員

左様でござますか、承りました・・どうぞ二階へ!

熊

さあさあおたまちゃん!そんなところでもって匂い嗅いでちゃいけません・・二階二階・・

熊

さあさあこちらですよ!

熊

はぁ~いい眺めだねぇ、ほらほらおたまちゃんこっちに来て!

熊

あんた今日お客様なんだからこっちに座ってほら!あたしはここに座りますからね?

熊

いやぁ・・本当に素晴らしい眺めですよ・・・

熊

うん・・あのぉ・・お姉さん!!ここは扇屋さんだね?

扇屋の店員
扇屋の店員

はい!扇屋でございます!

熊

ねっ?扇屋さんの二階ですね・・二階!

熊

間違いない・・よかったぁ、いやあたくし何度も確かめないとだめな質なんだよ・・・

熊

うん、畳も本物だぁ・・・

熊

いやぁ原っぱや畑だったら嫌だなぁ!と思ってさ!

熊

ここは扇屋さんの二階だもんね、壁もほらいい材料を使ってるよ!?流石だねどうも・・

熊

お姉さん・・お姉さんはここ扇屋のお姉さんで間違いないね?人間の・・

扇屋の店員
扇屋の店員

あらまぁいやですわ、狐にでも見えました?

熊

お、おいおい・・ば、馬鹿なことを言うんじゃないよ・・・

熊

そんなことよりね、注文をお願いしますよ?

熊

おたまちゃん何がいい?

狐

あたくしは何でもよろしいですわ・・・

熊

そんなこと言わないでさぁ、好きなもの言ってちょうだいよはっきりと!

熊

今日はあたくしがおごるんですから!

熊

言いなさいほら、好きなもの何でも!

熊

油揚げでもなんでも・・・

熊

油揚げ食べない?食べないの!?

熊

あらそう、おかしいなぁ・・・

熊

じゃあ何?天ぷら?ああやっぱり油っこいもんの方がいいんだね・・・

熊

じゃあ天ぷら!お連れさんにね、それであたしは刺身を頼みますよ?

熊

さっぱりしたもんで今日はやりたいんだよ・・・

熊

それから後はまあ、あなたに任せますよ?

熊

一、二品ね、板前さんと相談してね?それじゃあよろしくお願いしますよ?

熊

あぁ!そうだそうだ、お土産を支度しておいてもらいたい!

熊

ここの卵焼きはうまいからね、卵焼きを多めに入れておいて下さい?

熊

お土産準備したらね、下に置いておいて下さいな!

熊

それからお酒!お銚子を三本くらいお願いしますよ!よろしくどうぞ!

熊

あぁ!そこ閉めないで!いざって時にすぐ逃げられるように・・・

熊

いやぁ開けておいた方がね、空気が入って気持ちがいいからさ!

熊

開けておいてくださいな!じゃあ宜しくお願いしますよ!

熊

いやぁそれにしてもね、こんなところでもっておたまちゃんとこうして食事ができるなんてね、こんな嬉しいことはないよ?

熊

本当ですよ?これ友達に話をしてご覧なさい?

熊

みんなずるいだの、きたないだのって嫉妬しますよ?

熊

これはちゃあんと毎月お参りに行ったご利益ですな・・・

熊

お稲荷様のお引き合わせだ・・・

熊

それでおたまちゃんはどうするの?いやこれから先の話ですよ・・・

熊

お嫁に行くの?それともお婿さん?

熊

あぁお婿さんを、あぁそうですか・・なるほどね・・・

熊

毛並みのいいのが来るといいね・・・

熊

あぁいやほら系統のきちっとした家柄のいいお婿さんをもらえるといいねってそう言ったんですよ・・・

熊

あぁお酒が来たね・・お酌?いいよいいよ、お姉さん・・・

熊

おたまちゃんがいるんだからさぁ、ここはひとつおたまちゃんにお酌してもらおうじゃないか・・・

扇屋の店員
扇屋の店員

あぁそれは大変に失礼を致しました・・・

扇屋の店員
扇屋の店員

それでは何かまた御用がありましたらお手を叩いていただいたらすぐに参りますので・・・

熊

はいどうもご苦労さん!

熊

ほらおたまっちゃん、飲みなよ?

熊

何?飲めない

熊

そんなことはないでしょうあんた~ほらほら飲みなさいよ・・・

熊

御神酒が上がってんのは知ってんだから・・・

熊

え?お酌をしてくれる?それじゃあお言葉に甘えてお酌をしてもらおうかな~

熊

それじゃあこれからのおたまちゃんの幸せを願って!

熊

・・・ごくっごくっ・・はぁ・・

熊

これはお酒ね?お酒!お酒ならいいんだけれども・・・

熊

馬の小便なんかだったりしたらねぇ!

熊

・・・ごくっ・・ごくっ・・うん!お酒お酒お酒ぇ!

熊

さぁさぁさぁどうぞどうぞ・・どんどんやってくださいよ・・・

熊

ほらほら飲めないじゃなくてさぁ!

熊

ほ~らいい飲みっぷりをするじゃございませんか!ほらほらもう一杯・・・

熊

いやぁあたくしはいいんですよ、ひとりでもって勝手にやりますから・・・

熊

自分でやってる方が確かなような気がするからねぇ・・あっはっは!

熊

あっ!刺身と天ぷら!きましたよ?あらっ!吸い物もきましたね?

熊

いやぁお姉さん気が利いたねぇ・・吸い物でもって一杯やるってのはおつですよ?

熊

ほらほらおたまちゃん!食べて食べて!

熊

ほらおたまちゃん!吸い物ってのは熱いうちにやらないと・・何?

熊

猫舌!?

熊

・・・猫舌かなぁ・・

熊

そうですか、まあでも火傷してもしょうがありませんから、先に天ぷら食べなさいね?

熊

食べてる間に吸い物も冷めるでしょうからそれからやったらいいと思いますよ?

熊

お、おたまちゃん?そ、そこに箸がありますよ?それからこっちに天つゆがある・・・

熊

どう食べてもよろしいんですけれども、いきなり手でつまんで何にもつけないでパッと食べるというのはあんまり形が良くないし、美味くなかろうと思うんだけれどもどうです?

狐

あいすいませんでございます・・・

狐

お腹がすいていたもんでつい夢中になってしまって、こんなことになってしまって真にお恥ずかしい・・・

熊

いやいや恥ずかしいことはありませんよ!その方がいいんだ!

熊

私と二人っきりの時にね、そういう所を見せてくれたってえのはあたしは嬉しいよ?

熊

本当ですよ?いいんですよ、別に手でつまんで食べたって・・・

熊

いきなり口でいくよりはまだいいんですよ?

熊

まあ箸でとって天つゆをつけたほうが形もいいし、美味しいですからね?

熊

美味いでしょ?ねっ?そしたらどんどんいこうじゃありませんか!

熊

大丈夫ですよぉ、酔ったらあたしが介抱しますから!

熊

まあまあまあ!

ってんで狐に断る隙をあたえない、暇を与えないでどんどんどんどん酌をした・・

またこの狐が結構いける口みえまして、最初のうちは『まあいけませんわ・・』なんて言いながらどんどんやってたんですが、盃を重ねてくるうちに空きっ腹でございますからすっかりいい心持ちになって・・・

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十代目金原亭馬生の「王子の狐」は、狐と人間の微妙な駆け引きが織り成す、幻想的でユーモラスな一席です。馬生の柔らかな語りが、物語に深みと味わいを加え、聴く者を物語の世界へと引き込みます。古典落語の魅力を存分に楽しめる逸品です。

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狐

お兄さん・・・あたくし酔いました・・

狐

ちょっと気分が悪くなっちゃいました・・・

熊

おおそれはいけないねえ、じゃあ横になった方がいいよ?

熊

それちょっと寝るってとすぐ楽になるから・・・

熊

お姉さん!?お姉さん!?

扇屋の店員
扇屋の店員

は~い!お呼びですか?

熊

ちょっとちょっと真に申し訳ないんだが連れがね、あたしが無理に飲ませちゃったもんだから、気分が悪くて横になりたいってんだ・・・

熊

こんなところでもってこんなこと言うのもなんだけどね、ちょいと枕を貸してもらいたいんだ・・・どうもすいませんね・・

熊

おたまちゃん?ちょっと横になって気分がよくなったら、さっぱりしたもんでも食べてね、それから帰りましょう・・・

熊

大丈夫あたしはここにいますから・・・

熊

まだちょいと飲み足りないからね、刺身とっしょにやってますからね?

熊

さあさあ寝なさい寝なさい!

なんてんで狐の方はすっかりいい気持になって寝込んでしまう・・・

熊

姉さん・・・姉さん・・

扇屋の店員
扇屋の店員

はい!お帰りでございますか!

熊

し~~・・・今二階で連れが寝てますから・・・

熊

あのすまないけどね、あたしこれからちょいと行くところがあるからね・・・

熊

いやぁというのも本当は一緒に行くはずだったんだよ・・・

熊

この先にね?大変にお世話になってる方がいらっしゃってそこへご挨拶に行こうと思って出てきたんだよ・・・

熊

お稲荷様へ行ってこちらへ伺って、それから行こうと思ったんだけれども・・

熊

ほら・・・寝ちゃったでしょ?いい心持で寝てるんだよ・・・

熊

今寝てるところを起こしちゃ可愛そうだからさ・・・

熊

今といってもあんまり遅くなるってと先方にも失礼だからね?

熊

あたしがね、一足先に行こうと思ってるんだ

熊

それから先ほどお願いしたお土産出来てる?あ、そう、だったらお願いしますよ?

熊

まあこういうところでいつまでも寝かしておいちゃご迷惑だからね、店閉める前にね、もうそろそろと思ったら声かけてやってください・・・

熊

今起こしちゃだめですよ?ねっ?

熊

あとお勘定はね、連れが紙入れ(財布)預かってますからあれからもらってください・・・

熊

いやいやあたしが紙入れ持ってるとろくなことしないって変に疑ってるんだよぉ~

熊

ふふっ・・そんなことはないんだけれどもねぇ・・

熊

あぁお土産できた?あ、ありがとありがと、それじゃあまた!

熊

どうもお世話様です、ありがとうございました!

熊

さようならぁ・・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

おい!お清やお清!

扇屋の店員
扇屋の店員

はい?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

二階のお客さんまだおやすみかい?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

ここは宿屋じゃねえんだ、声かけて起こしたらどうだい?

扇屋の店員
扇屋の店員

は~い!

扇屋の店員
扇屋の店員

ごめんくださいまし?あのお客様?お客様?

扇屋の店員
扇屋の店員

まあ大層お休みになってらっしゃること・・あのもし・・・

扇屋の店員
扇屋の店員

お客様、ちょっともうそろそろお起きになったらいかがでございましょう?

狐

は、はい?

狐

・・あぁどうも・・これは大層よく寝てしまいました・・・

狐

どうも失礼をいたしました・・・

狐

あのぉ・・連れは?

扇屋の店員
扇屋の店員

ええ、先にお帰りにになりました

狐

か、帰った?

扇屋の店員
扇屋の店員

はい、なんでもこの後一緒にいらっしゃる所があるようで、先に行くから後から来るようにと・・・

扇屋の店員
扇屋の店員

ご存知でございましょう?

狐

あぁ・・そうですか分かりました、それからお勘定は?

扇屋の店員
扇屋の店員

あなたから頂くようにとのことでございますが?

狐

へ?

狐

あたくしから勘定を?

勘定というのは人間だけじゃない、狐にも怖いようで・・・

はっ!と思う途端に印に結んでいたものがパッと解けた・・・

いわゆる化けの皮が剝がれたというやつで・・・

パ~っとはじけるってとぽ~んと耳が飛び出て、口がひゅ~っととんがってしっかり結んでいた帯ははらりっとほどけるってと尻尾がそこへどさっと出てきたからもう女中は驚いたのなんのって・・

二階から転がり落ちるようにして・・

扇屋の店員
扇屋の店員

あああ!大変ですよ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

おいおい静かにおしよ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

本当にお前はそそっかしい、階段ってのは一段一段降りてくるように出来てるんだぞ?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

それをいっぺんにまたぎやがって・・何をしてん・・

扇屋の店員
扇屋の店員

何をしてるじゃありませんよ番頭さん!驚きましたよ!?

扇屋の店員
扇屋の店員

さ、先ほどのお二人は、あ、あれは人間じゃあありませんよ?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

なんだい人間じゃあないってのは?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

き、狐!?本当かそれは!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

うん、うん!それで?男が先に帰っちゃった?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

女狐が?酔っぱらって寝てて今起こしてる?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

本当かよおい、冗談じゃあないよ・・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

旦那のいる時ならまだしも、旦那の留守の時に狐に物を食い倒されたんじゃ、店を預かってるあたしが面目ねえや!冗談じゃねえ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

それは退治して旦那にお見せしてお詫びしなくちゃならねえぞ!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

おい!ちょっと誰かいねえか!?おい!源さん源さん!

源さん
源さん

おう!なんだい!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

なんだいじゃない、お前さん腕っぷしは強いね?

源さん
源さん

強いよ!?俺ぁ喧嘩して負けたこたぁねえんだ!

源さん
源さん

向こうが謝ったってこっちが謝ったことぁねえんだ!冗談じゃねえや!何があったんだ!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

お前さんの腕っぷしが強いところを見込んで、ちょっと二階へ上がってもらいてぇんだ!

源さん
源さん

喧嘩かぁ!?喧嘩かぁ!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

いやぁ、喧嘩じゃあない・・・

源さん
源さん

なんだっていいんだよ、鬼でも蛇でもなんでも構わねえんだ!驚かねんだこっちはぁ!

源さん
源さん

扇屋の源公ってのは俺のこったい!俺ぁ源公だい!拳固(げんこ)で殴るぞ?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

そんなシャレ言ってる場合じゃないんだよ

扇屋の番頭
扇屋の番頭

あのね、二階に狐がいるんだ、ちょいと捕まえてもらいてえんだ!

源さん
源さん

何!?狐ぇ!?なんだい狐かぁ!!

源さん
源さん

狐なんざぁ俺ぁ嫌いだ・・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

そんなこと言わないでさぁ、頼むよ!

源さん
源さん

頼むったって俺ぁどうもガキの時分から狐とウニは嫌いなんだよ・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

変な組み合わせだねえ・・そんなこと言わないでさぁ・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

鬼や蛇に比べれば狐だよ?屁でもないじゃないか?

源さん
源さん

嫌なものは嫌なんだ!俺ぁもう寝るんだ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

なんだよおい・・寝ちゃいけないよぉ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

しょうがねえ、そんなこと言ってるうちに逃げちゃうよ?逃げっちゃったらなんにもならないんだからさ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

よしじゃあみんなでもって捕まえよう!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

おう!みんなちょっと来ておくれ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

今二階でもって狐がいるんだ、退治しなくちゃならねえからひとつみんなで捕まえようじゃないか!!

なんてんで、ほうきやら棒っきれをもってきて二階へそ~っと上がって来て、いきなり座敷へわぁ~ってんで飛び込んでいった・・・

普段ならそんなの何のことはないんです・・

ぱぁ~っと体をかわして逃げられるんですが・・

寝ているところを起こされて勘定と言われたんで、ぽぉ~っとしちゃって、そこをいきなり大勢でもってぐわぁ~っと来られたんで、よける暇がない・・

張り倒されてこりゃいけないってんであっちへ逃げてポカリ、こっちへ逃げてもまたポカリもうどうしようもない・・

とうとう座敷の隅へ追い詰められて、もういけない、逃げ場がないってんで、狐の方はもう最後の武器ですな・・お尻の方から一発・・

これがまた大層きついもんらしくてですね、死にもの狂いでやるもんですから・・・

あぁいけねえってんでひるんでるところをとうとう裏山の方へ逃げて行った・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

お~い、今帰りましたよ?なんだなんだ騒がしいな?

店員①
店員①

あっおかえりなさい!

店員②
店員②

おかえりなさい!

店員③
店員③

おかえりなさい!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

おかえりなさい!

扇屋の主人
扇屋の主人

なんだお前達その格好は、一体何の騒ぎだ?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

旦那・・もうちょいと早ければ面白いもんが見せられたんですよ?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

実はね?狐がつまみに来やがったんだ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

二匹でもって来てね、オスの方は先に帰っちゃった、女狐の方はね酒を飲みやがってね寝ちゃったんですよ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

お清が起こしたらね、勘定て言ったら化けの皮が剥がれてね!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

もう大変ですよ!?留守の間にこんなことがあったんじゃ旦那に面目ねえと思ったんで、もうそんなことがあったら扇屋の名折れですからね!?

扇屋の番頭
扇屋の番頭

みんなでもって叩き殺してやろうとしたんですが、もう少しの所であの女狐がねえ!?一発!これがもう大変な匂いなんだ!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

くらくらっとしているところを逃げられちゃったんです・・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

真に申し訳ございませんでした・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

何を?お狐さんをみんなでもって叩いた?

扇屋の主人
扇屋の主人

馬鹿野郎・・・なぜ番頭さんあなたはそう物が分からない!

扇屋の主人
扇屋の主人

うちがこうやって商売をしている、繁盛をしているのは誰のおかげだい!?

扇屋の主人
扇屋の主人

お稲荷様のおかげじゃないか!?

扇屋の主人
扇屋の主人

そのお稲荷様のお使いのお狐さんが来て下すったのに、なぜご飯をちゃんと御馳走して、丁寧にお帰り願わないんだい!?

扇屋の主人
扇屋の主人

こんなことをして本当に・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

馬鹿野郎!!

扇屋の番頭
扇屋の番頭

・・・あ、あいすいません・・

扇屋の番頭
扇屋の番頭

あ、あ、あたくしはあんまりやらないでただ騒いでただけなんです・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

誰がやったんだ!!源公!お前か!?

源さん
源さん

え・・いやぁ!あっしは別にやりはしませんよ・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

じゃあその手に持ってる棒はなんだ!

源さん
源さん

いやぁ・・これは棒ですよ・・

扇屋の主人
扇屋の主人

棒というのは分かっている!それでもって殴ったな?

源さん
源さん

いやぁ殴ってない・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

じゃあそれで何をしたんだ!

源さん
源さん

いやぁ、お狐さんがど、どれだけ大きいかこれで測ったんです・・・

扇屋の主人
扇屋の主人

みんなでもってお稲荷様にお詫びに行くんだ!

なんてんで、信心深い旦那でございますから店の者を大勢引き連れてお参りに行く・・・

そんなことは知りませんもんでございますから、狐を騙した男の方ではご機嫌でもって友達の家へ・・・

熊

こんちわ!

友達
友達

は~い!おっ!しばらくだねえ!まあまあこっちへお入りよ!

熊

ええどうもお邪魔しますよ?ご無沙汰しまして・・・

熊

まだご飯前でしょ?これはちょいとお土産で・・

友達
友達

まあ悪いねえ・・来るたんびに色んなものをもらってすまないねえ、ありがとありがと・・・

友達
友達

あらっ!扇屋じゃあないか!ここのは美味いんだから!

友達
友達

とりわけ卵焼きが美味いんだ、あたしは大好きだ!

友達
友達

じゃあ何かい?今日は扇屋で一杯やってきたの?

友達
友達

贅沢だねぇ~俺もいっぺんは行ってみたいと思うけれども高いんだろうなぁそこは・・・

友達
友達

高かったんだろ?

熊

高かったんでしょうか?どうでしょうか?

友達
友達

分からない?分からないことはないじゃないか?

友達
友達

ああそうかそうかお前さんは大きい所へ方々お出入りだ、早い話が向こうのご接待、官費(かんぴ)だね?

熊

いやいや官費じゃあない・・・

熊

こんぴってやつで・・・

友達
友達

なんだいそのこんぴってのは・・ん?

友達
友達

うん・・狐に出くわして?へぇ~珍しいことがあるねえ・・それで?

友達
友達

なに!?化けたところを見た?

友達
友達

お前さんそれは大変だよ、今まで見たなんて人は聞いたことがないよ?それで?

友達
友達

化かされて?扇屋へ一緒に行った?いい度胸だねお前さんは・・・

友達
友達

それで散々飲み食いをして?あのお土産もって帰ってきちゃった?

友達
友達

おいおい悪いことをするねえ・・化かすのは狐の方の商売じゃないか・・・

友達
友達

それを人間が狐を化かすというのはやっちゃいけないよぉ・・それで?

友達
友達

狐を残してきちゃって?勘定は?

友達
友達

払ってこねえ!?

友達
友達

とんでもねえ話だ!この土産返すよ!

熊

どうして?

友達
友達

どうしてじゃない!えぇ!?狐に勘定が払えますか?払えないだろう!?

友達
友達

これがお前寝かしてきたんだろう?

友達
友達

寝ている所を店の者に捕まって殺されないまでもひどい目に遭わされてごらん!?

友達
友達

それは恨むよ!?

友達
友達

そんな恨みがかかっているこれをあたしがいただいて、こっちまで恨まれるのは嫌だから!

友達
友達

だからこれは返すよ!?

友達
友達

本当にお前はなんてえことをするんだ!

友達
友達

これはきっと祟りがあるよ?孫子の代まで祟るってんだから!

友達
友達

そういえばなんだかお前さんの顔がだんだんだんだん狐の顔に見えてきた!

熊

や、やだな!本当ですか?

友達
友達

本当だよ!祟りに遭いたくなかったらねぇ!明日お詫びに行きな!?

友達
友達

今日はもう遅いから!早く起きてお詫びに行くんだよ!?

友達
友達

お参りに行って、狐と出くわしたあたりでもって、なんか穴を見つけて

友達
友達

この辺にいるんだろうなと思ったら、そこに何でも構わないからお詫びの印に置いてくるんだ!

友達
友達

分かったね!?

熊

わ、わかりましたぁ・・・

なんてんで、こうなるともうびくびくしてしまって・・・

さああくる朝早起きをして、お稲荷様へとお参りに出掛けまして、途中菓子屋でもってなんか買い込んでね、お稲荷様へお参りをしてその後・・・

熊

うぅ~ん・・確かこのあたりだったよ?この裏手だったんだ・・・

熊

ああそうだそうだ!この杉の木の下でもって寝てたんだ!

熊

この近くに穴がありゃあしねえか?

熊

ずいぶん方々に穴があるな・・どれかな・・・

熊

あの大きさの狐だと小さい穴ではないと思うんだが・・・

熊

あっ!ひときわ大きい穴があるな!これだな・・・

熊

ん?なんだか唸り声が聞こえるねえ・・・

熊

おろおろおろ?子狐が出て来たよ?

熊

へへっ、どうもこんちわ~・・可愛いねえ、いいお毛並みで!

熊

えへへっ、お坊ちゃんだかお嬢ちゃんだか分からないけど、今中で唸ってるのはだ~れ?

熊

へ?あなたのおっかさん?

熊

どうしたの?昨日人間に?化かされてひどい目にあった?

熊

それぁ・・・どうも申し訳ないことをした・・・

熊

昨日ね、おっかさんを化かしたという人間というのはあたしなんだ

熊

あぁ!ちょっとちょっと逃げなくても大丈夫だよ?

熊

言い訳に聞こえるかもしれないけどねぇ、騙したのはあたしだけれども、ぶったり叩いたりしたのはあたしじゃないんだよ?

熊

だからお酒の上とはいえ、昨日はちょいといたずらが過ぎました・・・

熊

もう二度とああいうことは致しませんからっておっかさんによく謝っておいてね・・・

熊

それでこれはほんのお詫びの印・・・

熊

本当につまらないもんだけれども、みんなで召し上がって?

熊

何?怖がってるのかい?

熊

いいよいいよ、そこにいなさい?あたしの方で放るからね?

熊

いいかい、ひ~のふ~のみ~っと・・・

熊

お~・・口にくわえて中に入って行ったよ、可愛いねえ~

狐

これこれ、騒ぐんじゃないよぉ・・お前達は・・・

狐

おっかさん具合が悪いんだから静かにしておくれよぉ・・・

狐

何を騒いでるんだよぉ・・コンはぁ・・え?

狐

お兄ちゃんが表から何か拾ってきたのに見せてくれない?

狐

うるさいねえ、そんなことはどうでもいいのに・・

狐

コン吉お前もそうだよぉ?見せておやりよ、うるさいんだからさぁ・・・

狐

どうしたんだよぉ・・・

コン吉
コン吉

どうしたんじゃないよおっかさん!

コン吉
コン吉

今表にねぇ、おっかさんを騙したって人間がいたよ!

狐

へっ?来やがったのかい?

狐

・・・まぁ執念深いねぇ!よくここが分かったじゃないか!

狐

それでどうしたんだい?もう帰ったかい?

コン吉
コン吉

うん帰ったけどもね?

コン吉
コン吉

昨日はね、お酒の上とはいいながらいたずらが過ぎました、あいすいませんで勘弁してください二度と致しませんってペコペコペコペコ頭下げてたよ?!

コン吉
コン吉

それでこれほんのお詫びの印ですから召し上がって下さいってんで、これ置いて行ってくれたんだよ、これ今開けて見ようか?

狐

あぁ~ちょっとお待ち!ちょっとお待ちよ?

狐

この頃の人間てのは油断がならないんだから・・・

狐

いいよ、開けてごらん?

コン吉
コン吉

うん、今待って、開けて見るからね?

コン吉
コン吉

・・・あぁ!おいしそうなぼたもちだ!

狐

あぁ!食べるんじゃないよ!?

狐

馬のフンかもしれない・・・

王子稲荷神社

王子の狐を聞くなら「金原亭馬生」

十代目金原亭馬生の「王子の狐」は、狐と人間の微妙な駆け引きが織り成す、幻想的でユーモラスな一席です。馬生の柔らかな語りが、物語に深みと味わいを加え、聴く者を物語の世界へと引き込みます。古典落語の魅力を存分に楽しめる逸品です。

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