落語【あくび指南】台本 吹き出し風

落語 台本

お稽古事というのが、昔は大変に盛んでございまして、どこの横丁に行きましても、色んな稽古所がありましてね、みんなそういうところで職人なんかもお稽古をしたそうですな・・・

中でもずいぶん変わったものを教える稽古場がございまして、そういうところへひとつ行って、稽古をしようじゃないかなんというんで、お稽古した人はずいぶんいたそうですな・・・

あくび指南を聞くなら「柳家小さん」

柳家小さんの「あくび指南」は、日常の中にある滑稽さを巧みに描いた軽妙な一席です。あくびを指南するというユニークな題材が、シンプルながらも深い笑いを生み出します。小さんの穏やかな語り口が、この独特な世界観を一層引き立てる名作です。

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ある男
ある男

何の稽古をしようってんだよ?

ある男
ある男

いいからさぁ、黙ってついてきなよ?

ある男
ある男

俺ぁ面白いもん見つけちゃったんだから!

ある男
ある男

面白いもんって、おめえが見つけてくるもんにろくなもんはねえんだよ・・・

ある男
ある男

よした方がいいよ!何の稽古をしようってんだよ!?

ある男
ある男

あくびだよ!あくび!

ある男
ある男

なんだいそのあくびってのは?

ある男
ある男

退屈したときにあのふぁ~っとでるあのあくびだよ!

ある男
ある男

そんなもん稽古したってしょうがねえじゃねえか!

ある男
ある男

俺もはなはそう思ったんだよ・・・

ある男
ある男

ところがね?この先にあくび指南処ってのが出来たんだよ・・・

ある男
ある男

どんなもの教えるのかな?って色々聞いてみたら

ある男
ある男

なんでも本当のあくびってのはね?茶の湯の方から出ているんだそうだ・・・

ある男
ある男

でまあ、流儀が色々わかれていて、大変に品があって結構なもんだってんだね?

ある男
ある男

あなた方が普段やってるあくびは堕あくびと言ってね

ある男
ある男

いいところに行ったときに出来ませんから、ちゃんとしたあくびをお習いなさいってんでねえ!

ある男
ある男

そんなこと言ってるんだよ!?

ある男
ある男

とにかく表へ看板出して銭、出さして教えようってんだからこれはただのあくびとは違うと思うんだ!

ある男
ある男

なあ!一緒に行って稽古してみようじゃねえか!

ある男
ある男

勘弁してくれ!どう違ったって、たかがあくびだよ!?

ある男
ある男

銭出して稽古するこたぁねえやい!俺はごめんこうむるよ!

ある男
ある男

付き合いが悪ぃなぁまったく・・・

ある男
ある男

よし分かった!とにかく始めて行くところに一人で行くのは心細いからよ!

ある男
ある男

なっ?行くだけ一緒に行ってくれ!

ある男
ある男

ほらこのうちだ・・あくび指南処って書いてあるだろ?

ある男
ある男

どんなもん教えるか楽しみだ!

ある男
ある男

こんちわ!!ごめん下さい!

先生
先生

はいはい、どちら様ですな?

ある男
ある男

お稽古を願いたいんですが!

先生
先生

ああ、お弟子入りを!

先生
先生

さぁさぁどうぞ!こちらへお上がりください!

先生
先生

さあお座布団をお当てになって

先生
先生

いいえ、これは他のお稽古とは違って初めからお座布団を当てるんですよ

先生
先生

あちらにおります方もやはりお稽古なさいますかな?

ある男
ある男

ん?誰ですか?あ、あいつですか?

ある男
ある男

あいつは稽古しないんですよ、ただついて来ただけですから・・・

先生
先生

ああ、そうですか

先生
先生

まあ表でずっと待ってるのも大変ですから、どうぞ中に入って待ってていただくように・・・

ある男
ある男

構いませんか?

ある男
ある男

おう!首だけうちん中突っ込んできょろきょろ中見てんじゃねえ、みっともねえから!

ある男
ある男

こっちへ入っちゃいな!

ある男
ある男

そこで腰下して待ってなよ!

先生
先生

それじゃあもう少し、前へお出になってな・・・

先生
先生

あなた今までどこかであくびの稽古をしたことはおありかな?

ある男
ある男

いえ!初めてなんですがな

先生
先生

そうですか、いえ、このあくびというものは大きく分けますってと

先生
先生

春・夏・秋・冬と四季に分かれておりましてな・・・

先生
先生

初めての方ですとこれは夏のあくびが一番よろしいでしょうな・・・

先生
先生

日比野の端辺り・・・

先生
先生

もやってある船の上でこちらの方では船頭が眠たそうな顔をして水の表を眺めている・・・

先生
先生

そんなことを頭に描いていただいてやってもらいます・・・

先生
先生

初めに私がやりますからな?よくご覧くださいまし!

先生
先生

ここに扇子がございます、これをキセルの代わりに軽く構えましてな?

先生
先生

そして体を少し動かしていただいて・・・よろしゅうございますか?

先生
先生

おい船頭さん・・船を上手へやっておくれ・・・

先生
先生

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へ行って新造(遊女)でも買って遊ぼうか・・・

先生
先生

船もいいが一日のってると・・・退屈で退屈で・・・

先生
先生

ふぁ~~あぁ~~あ・・・

先生
先生

ならねえや・・・

ある男
ある男

なるほどねえ・・うまいもんですねえ!

ある男
ある男

おい見てたかよ!?ただあくびすりゃいいってもんじゃねえ、面白えなぁこりゃぁ!

ある男
ある男

え?なんすか?ああやってみます!扇子ですか?

ある男
ある男

ああ、今日は持ってきてないんです、次から持ってくるんで、今日はすいませんが先生の扇子を貸してくださいな!

ある男
ある男

これをキセルの代わりに構える!?ああそうすか、じゃあ形よくいこうかな!?

ある男
ある男

こんな感じでいかがです?

先生
先生

もうちょいと低いほうが・・・

ある男
ある男

もうちょいと低い方・・こんなところで?

ある男
ある男

ああ、そうですか、じゃあ体を動かして・・・

ある男
ある男

威勢よくいきましょう!こちとら江戸っ子ですから!!

ある男
ある男

いよぉ~っとぉぉ!!

先生
先生

あなたやることが大業ですよ?この船はしけをくらってるわけじゃありませんよ?

先生
先生

もやってる船でございますからごく少し・・・

ある男
ある男

ごく少し?ごく少しってとこんなところでございますか?

ある男
ある男

ああ、そうですか、じゃあいってみましょう・・・

ある男
ある男

おぅっとくらぁぁ!!

先生
先生

おうっとくらってのはいけません、おい船頭さん・・・

ある男
ある男

ああなるほどね、ううん!ええ・・ええ~・・

ある男
ある男

あ~♪・・ほい・・ほい

先生
先生

ほいじゃない、おい

ある男
ある男

ほ・・ほい!・・難しいなぁどうも・・

ある男
ある男

お、お、お、・・お?

先生
先生

軽く呼べませんか?おい船頭さんと・・・

ある男
ある男

いやいざとなると中々難しいもんでございますよ!

ある男
ある男

人のこと軽く呼んだことはねえもんですからね?

ある男
ある男

いつも遠くの方から、『よぉ!!こん畜生!』ってなこと言ってるもんですから!

ある男
ある男

中々難しいもんでちょっと待って下せぇ、今できますから!

ある男
ある男

お、おい、おい、お・・おい!船頭さん!?船を上手へやってくんねえ!!

先生
先生

やってくんねえ!ってのはいけません・・・

先生
先生

船を上手へやっておくれ・・・

ある男
ある男

ああなるほどね、船を上手へやっておくれっと・・・

ある男
ある男

堀へあがって、ぺえいちひっかけ・・・

先生
先生

ぺえいちひっかけとはなんですか・・・

先生
先生

そういう乱暴なこと言っちゃいけませんよ?

先生
先生

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲行って新造でも買って遊ぼうか・・・

ある男
ある男

なるほどね!分かりました!ええ!うん!

ある男
ある男

おい!船頭さん?ふ、船上手へやっておくれ?

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へつぅっと行くってと、馴染の女が待ってやがってねえ!

ある男
ある男

『ちょいとあんたどうしたのぉ?この頃まるっきり来ないけど、脇でもって浮気でもしてんじゃないのかい?』ってもんで

ある男
ある男

何をいいやがんでい!おめえがいて脇で浮気が出来るかよ!?

ある男
ある男

『あらこの人、口がうまいよぉ?そうやって女、騙するんだろ?憎いねえ!!本当に、こっちおいで!』なんて言いやがってねえ!

ある男
ある男

俺のほっぺ、きゅってひねって、俺が痛っ!って

先生
先生

な、何をしてるんですかあなたは・・・誰がそんなこと教えました?

ある男
ある男

どうもひとりでになっちゃう・・・

先生
先生

ひとりでになっちゃうったってしょうがありません・・・

先生
先生

もういっぺん、やってごらんなさい!

ある男
ある男

どうもすいません、おかしいなぁどうも!

ある男
ある男

おい!船頭さん?船を上手へやっておくれ?

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へつぅっと入って女が待ってやがって

ある男
ある男

『ちょいとお前さんどうしたの?この頃まるっきり来なくなっ・・・

先生
先生

またやってるよ、どうしてそういうことになるんでしょうなぁ・・・

ある男
ある男

あたしも言うつもりはないんですがね?

ある男
ある男

ひとりでになっちまうんですよ!悔しいなぁどうも!

ある男
ある男

おい!船頭さん?船を上手へやっておくれ?

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へつぅっと

先生
先生

あぁ、そう『つぅ』ってのがいけない・・・

先生
先生

つぅと言うから調子づいてそういうことを言ってしまう・・・

先生
先生

つぅと言わずに夜は仲に入って新造でも買って遊ぼうかと、素直に言えばいいんです!

先生
先生

芸は素直が一番ですよ?よろしゅうございますか?

先生
先生

余計なことを言わないで、そっちの方が綺麗でございますから・・

ある男
ある男

なるほどね、綺麗にやんなくちゃいけない・・・

ある男
ある男

おい!船頭さん?船を上手へやっておくれ?

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へ入って新造でも買って遊ぼうか?

ある男
ある男

ふ、ふ、船もいいが一日乗ってると退屈で退屈で・・う~ん・・本当に退屈でねえ・・

ある男
ある男

ど、どうしようねえ!?

ある男
ある男

どうしようったってどうしようもねえじゃねえか!

ある男
ある男

どうしようったってどどうしようもねえからってこのままかぁ!?

ある男
ある男

じゃあどうしろってんだい!?

ある男
ある男

どうするか俺に分かるもんかい!ふざけんなべらぼうめえ!

先生
先生

何を言ってるんですか!あなたあくびはどうしたんですか?

ある男
ある男

あくびでないんですよ!

先生
先生

あくびでないんですよって、あんたそんな嬉しそうにやったってあくびは出ませんよ?

先生
先生

退屈で退屈でと言う時にはもう、眠気がさしてなければいけません・・・

先生
先生

あたくし、もういっぺんやってみますから!よろしゅうございますか?

先生
先生

おい船頭さん・・船を上手へやっておくれ・・

先生
先生

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へ行って新造(遊女)でも買って遊ぼうか・・

先生
先生

船もいいが一日のってると・・退屈で退屈で・・・

先生
先生

ふぁ~~あぁ~~あ・・・

先生
先生

ならねえ・・・

ある男
ある男

そうふわふわっとできねえんだよ!悔しいねえどうも!

ある男
ある男

あれっばかりのことがなんで出来ねえかなぁ?

ある男
ある男

お、おい船頭さん?船を上手へやっておくれ!

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へ行って新造(遊女)でも買って遊ぼうか!

ある男
ある男

船もいいが一日のってると、退屈で退屈で・・・

ある男
ある男

はぁぁぁっくしょん!!

先生
先生

くしゃみしちゃあいけません!

ある男
ある男

馬鹿野郎、本当にくだらねえこと稽古してやがんなぁ本当に・・・

ある男
ある男

教える方も教える方だが、教わる方も教わる方じゃねえか・・・

ある男
ある男

大の大人が差し向かいになってやることじゃねえやい!くだらねえこといいやがって・・・

ある男
ある男

おい船頭さぁん?船を上手へやっておくれ?

ある男
ある男

これから堀へあがって一杯やって、夜は仲へ入って新造でも買って遊ぼうか・・

ある男
ある男

船もいいが、一日乗ってると退屈で退屈で、あぁならねえってんだ・・

ある男
ある男

本当にくだらねえこと稽古しやがって!

ある男
ある男

稽古してるてめえはいいかもしれねえがな!そばで待ってる俺の身にもなってみろ!

ある男
ある男

退屈で退屈で・・・

ある男
ある男

ふぁ~あ~あ・・・

ある男
ある男

ならねえや・・・

先生
先生

お連れさんの方が筋がいい!!

あくび指南を聞くなら「柳家小さん」

柳家小さんの「あくび指南」は、日常の中にある滑稽さを巧みに描いた軽妙な一席です。あくびを指南するというユニークな題材が、シンプルながらも深い笑いを生み出します。小さんの穏やかな語り口が、この独特な世界観を一層引き立てる名作です。

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