落語【狸賽】台本 吹き出し風

落語 台本

狐七化け、狸は八化けなんてことを申しまして・・・

狸の方が狐よりひと化け多いんですが、どこか間抜けなところがありまして・・・

姿を見ても分かりますな・・・

よく瀬戸物屋の店先に狸が置いてありますけれども、あれを見ても分かります・・・

傘を被ってるけれども、まともに被ってるのはあんまりない・・・

たいがい後ろの方にずっこけちゃっておりまして・・・

片っぽの手の方にとっくりをぶら下げて、片っぽの手の方に帳面をぶら下げて、真ん中の方にもうひとつぶら下げて立ってるんですが・・・

どの狸を見ても真ん中にあるもんですから、ことによるってと狸の世界に女はいないのかなんて心配はしましたが、いることにはいるんですな・・・

でもなるべくあんまり店頭に飾りたくないので、作らないんだそうでございますが・・・

もし出来たらさぞや立派なものが・・・

まあそんなことはどうでもよろしいのですが・・・

男

じゃあなにか?おめえ俺に助けられたからって恩返しに来たのか?

たぬき
たぬき

ええ!そうなんですよ!

男

ほぉ、狸なんていうのは義理堅えもんなんだなぁ・・・

男

まあいいよ!おめえみてえなのがそばにいると薄気味悪くていけねえから、もう帰んな!

たぬき
たぬき

そんなこと言わないでおいといて下さいよ〜!このまま帰っちゃうと狸仲間に悪く言われるんですよ〜!

たぬき
たぬき

『あの野郎は人に恩を受けて、恩を返さねえ!まるで人間みてえだ!』なんて言われるんですよ・・・

男

よせよおい・・・嫌なこと言うねぇ・・・

男

だけどおめえ恩返しをするったって何ができるんでい?

男

人間の小僧が恩返しに来たんだったら、うちの中掃除させるとかよ、どっかに遣いにやるとか色々手はあるよ?

男

狸の小僧が来たって何にもできやしねえだろ?

たぬき
たぬき

そんなことはございませんよ?親方が化けろってもんに何でも化けちゃいますよ?

たぬき
たぬき

大入道に化けろって言えば大入道に化けますしね?

たぬき
たぬき

唐傘のお化けに化けろって言えば唐傘のお化けに化けますしね?

たぬき
たぬき

ひとつ目小僧に化けろって言えば・・・

男

よせよおい・・・化け物ばかりじゃねぇか・・・

男

こっちは何も見せものを始めようってんじゃねえんだ・・・

男

どうせだったらこっちの役に立つもんじゃなくちゃ何にもなんねえやなぁ!

男

例えばの話が札に化けるとか・・・

たぬき
たぬき

お札ですか?お札は得意なんですよ?いつも退屈するとお札に化けちゃ道に寝てるんですよ

たぬき
たぬき

そうすると人間が通りかかってね?

たぬき
たぬき

『あ!こんなところに札が落ちてらぁ!』なんてんで、拾おうとする奴の手を引っ掻いて逃げるんです!

男

悪い野郎だ、いたずらしてんねぇおい・・・

男

ちょいと化けてみな・・・化けてみなよ?

たぬき
たぬき

化けてみなよってそうやって親方ジロジロ見られたんじゃ、あたしは化けられないんですぅ

たぬき
たぬき

これは狸の方の秘密でございますから、もしこれ親方に見られるってと、あたしゃ親方消さなきゃなんない・・・

男

恐ろしいこと言ってやがる・・・じゃあどうすればいいんだ?

たぬき
たぬき

目をつぶって三つ数えて下さい!その間に化けちゃいますから!

男

目をつぶって三つだぁ?そんな短い間に化けれんのかい?

男

よし、じゃあやってみようじゃねぇか・・・

男

いくぞ?いいのか?いくよ・・・ほっ、一、二、三っ・・・

男

数えたよ?化けたかい?見るよ?よし、どれ・・・

男

おっ、化けたねぇ・・・これぁ化けた!

男

化けたはいいけれども、この札はちょいと大き過ぎるねぇ・・・

男

たたみ一畳くらいあるよ?

男

大きくてしょうがねぇや、もっとずっと小さくしてくれや、もっとだ、まだまだそんなもんじゃだめだい!

男

いや〜まだまだ、まだだめだよ?まだ座布団だ・・・もっともっとず〜っと!!

男

おいおいやけになるなよ・・・それじゃあ切手だよ?

男

もっと加減しながら大きく大きく・・・もう少しもう少し・・・

男

よし!いいよ!うまいねぇ!

男

これ重みなんてのはどうしてんのかな、うまいもんだねぇこれは!

男

おいいけないよ、裏は毛だらけだよ、え?裏毛の方があったかい?

男

それじゃ意味ないだろ、毛をとってくれ・・・

男

ひとなでして下さい?そうすると毛がなくなります?

男

本当かおい・・・よ〜っと・・・

男

あら本当だ、ちょっと待てノミが出てきたよ?

男

札のノミ取ったのは初めてだよ・・・

男

へぇ〜!うまいもんだなぁ!どっから見たって本物だ!

男

何を?あんまりグルグル回すな?どうして?

男

小便漏らす?

男

汚ねぇなぁおい・・・じゃあ元通りになりな・・・また目をつぶって三つか?

男

いくよ?ほっ、一、二、三っ・・・よっと・・・

男

なるほど、うまいねぇおい・・・

男

おめえにそれだけの腕があるんだったら是非とも化けてもらいてえもんがあるんだ・・・

たぬき
たぬき

親方何に化けましょう?

男

サイコロに化けなよ?

たぬき
たぬき

え?

男

サイコロに化けなよ!

たぬき
たぬき

サイコロと言いますと?

男

おめえサイコロ知らねえか?

男

ほら人間の方の子供がよ、すごろくなんて遊びをする時に使うやつだよ

男

四角くって小さくって目が刻んである、あれに化けてもらいてえんだ・・・

男

だけどね、子供のはいけないよ?やっぱり本物じゃなくちゃいけねぇ・・・

男

ここに本物があるんだ・・・いいか、よく見ておけよ?

男

この目の刻み方が難しいんだ、もっと前に来い前に!

男

よ〜く覚えておけよ?ピンの裏が六・・・

男

え?ピンってなんですってか?

男

ピンってのは俺たちの方では一のことだ

男

一の裏が六だ・・・

男

二の裏がぐ

男

え?ぐってのはなんです?って、五のことをぐってんだよ・・・

男

これは俺の好きな目でな、俗に加賀様とも言うんだな!

男

加賀様の紋は梅鉢だから!なに?梅鉢ってのはどんなもんです?

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梅鉢
男

おめえ話がしにくいな・・・おめえあのな、人間の方にはな?うちによって紋というものがあるんだ!

男

え?ん〜・・・おめえ天神様行ったことねえか?

男

山にあってよく遊びに行く?あぁそうか!

男

あの天神様に行くと梅の花みたいなのがぽ〜んとついてんだろ?あれが梅鉢ってんだよ!

男

なんとなく五の目の形に似てるだろ?

男

だから梅鉢、加賀様!ってちゃんとなってるんだよ!よく覚えといてくれよ?

男

それで三の裏が四、上下合わせて七つにならなきゃいけないんだよ?

男

分かったか?じゃあここに置いておくから、よく見てそっくりに化けてくれ!

男

いいか!?ちょっとでも違うとこれは大変なことになっちゃうからな?よ〜く見て!

男

裏に毛が生えちゃってると具合が悪いんだよ?いいのか?できるのか?

男

じゃあ三つ数えるよ?いくぞ?

男

ほっ、一、二、三っ・・・いいか?化けたか?よし・・・よっ・・・

男

あ、なるほど・・・化けたねえうまく・・・どっちが本物だか分からねぇや・・・

男

おう狸公!

たぬき
たぬき

は〜い・・・

男

返事したって分かんねえや・・・私の方が?少し動きます?どれ・・・

男

じゃあ本物はこっちにやっておこう、間違うといけねえから・・・

男

今俺の手にあんのがおめえだな?よしっ、いいねぇおい、どう見たって本物だよ!

男

ちょっと転がして見るからな?何?転がしちゃいけねえ?あたい小便漏らす?

男

しょうがねぇなぁおい・・・

男

だけどおめえ恩返しに来たんだ、それぐらいのことは我慢しろ?

男

なっ、いいか?転がすよ?

男

よっ・・・

男

ピンだ!いいねぇ!こいつが出ねえかな?と思ってる時にピンがパッと出ると、胸がす〜っとするよ!

男

いつ見ても気持ちのいい目だ!

男

よっ・・・

男

おっ、またピンだ、すっきりするねぇどうも!

男

いよっ・・・

男

おめえ褒められたからってピンばかり出すことはねぇんだよ?

男

え?ピンが一番出しやすい?どうして?

男

仰向けになってると?ヘソの穴?

男

あぁ、これヘソかい?ははぁそうか!じゃあ体方々使ってんだ・・・

男

ピンがヘソだとすると、二は目の玉だろ?そうです?

男

にやっと笑うんじゃないよ、サイコロの二が笑ってちゃおかしいじゃねえか・・・

男

あぁ〜これは俺が言うのを忘れてたなぁ・・・

男

サイコロの二や三なんてのは横にきちっと並んでちゃいけないんだ、肩から斜めにポンポンっときてなくちゃいけないんだ!

男

もうちょいと首をぐっと曲げてごらん?首を曲げて!

男

痛え?痛えったってしょうがねぇ、恩返しに来たんだ、我慢しな・・・

男

よ〜しよしよし!それで動かすんじゃねえぞ!?

男

うまいねぇ・・・あのな、狸公な、俺はこれからおめえを懐に入れて脇へ出掛けるよ??

男

向こうへ行って俺が色々と目を注文するから、おめえは俺の言った通りの目を出してくれりゃいいんだ・・・

男

二だよって言ったら顔を上に向けてればいいんだ、分かったか?それが恩返しだよ・・・

男

へっへっへへ・・・どうもありがてえありがてえ、ここんところくすぶり続けだったからなぁ!

男

今日のところでがばっと取り返そうじゃねぇか!これで人が揃ってたらこっちのもんだ!

男

どういうことになってるかな?

男

おっ、いるいるいるいる・・・

男

どうも!おう!・・・なんだいどうしたい!?

男

雁首揃えてぼんやりしちゃってんねぇ!顔が揃ってんのに、なんだ、やらねえのか?どうしたの?

男

ん?みんな、胴がつぶれてきて?つぶれ廻りで?胴の取り手がなくなっちゃった!?

※胴をとる・・・博打をする場所を貸して歩合を取ること。

男

しょうがねぇなぁおい・・・それで、いたずら(博打)はよそうっての?

男

なんだよおい・・・せっかく俺が来てんじゃねぇかよ!

男

じゃあこうしようじゃねえか、俺が胴をとろうじゃねえか!

ある男
ある男

おめえが?野郎が胴をとるってよ・・・構わねえか?

ある男
ある男

あるの?ちゃんとタネは?

男

あるよ!見てくれこんなに膨れ上がってるんだ、安心して張ってくれ、いくらでもつけるよ?

ある男
ある男

おおそうか、大丈夫だってんだよ・・・じゃあやろうか?なっ?

ある男
ある男

じゃあいいよ!やっても構わねえよ!

男

おおそうか!その代わりねぇ、そこに置いてあるそのサイコロは使いたくねぇんだ、片っ端から胴がつぶれてんだろ?縁起の悪いサイコロだよ?

男

俺はてめえでひとつ持って来てんだよ、こっちを使いてえなぁ!

ある男
ある男

ああそう・・・変なもんじゃねえだろうな?

ある男
ある男

俺が見るから、大丈夫だ・・・

ある男
ある男

出しねぇ!それか?どれ・・・

ある男
ある男

ん?なんだか妙に温けえなぁ・・・

男

懐に入れてたから温まっちゃったんだよ・・・

ある男
ある男

それにしたって温けえよ・・・ん?あれ?今なんかピクピクってなんか動いたか?

男

そんなことはない!気のせいだよ!なんでもねえ、ごく当たり前のサイコロだよ!

ある男
ある男

そうかい?なんでもいいんだ、ちゃんと目が出てくれれば・・・

ある男
ある男

よっと・・・

ある男
ある男

ん?あれぇ?

ある男
ある男

このサイコロ転がんないよ?

男

そんなことはないよ?転がるんだよ!

男

畜生、嫌がってやがんだからしょうがねぇなぁ!

ある男
ある男

おぉぉい!

男

よせよおい、脅かすなよ、いきなり大きな声出しやがって・・・

ある男
ある男

転がらないと始まらないよ?転がって初めて目が変わるんだから・・・いいかい?

ある男
ある男

転がりゃいいけど、転がらなきゃなんにもなんねぇ・・・よっ・・・

ある男
ある男

あぁ、転がった・・・大丈夫大丈夫・・・

ある男
ある男

うん・・・うん・・・うん・・・

ある男
ある男

ちょっと捕まえてくれねえか?よく転がるねぇ・・・

ある男
ある男

あとちょっとで表へ出て行くところだったよ?

ある男
ある男

ちょっと持ってきて・・・なんか妙なサイコロ持ってきやがって、やぁっ!

男

おいよせよ!小便漏らすじゃねぇか!

ある男
ある男

誰が?

男

あぁ、いや、誰がって、俺が・・・

ある男
ある男

馬鹿だよそれじゃあ・・・

ある男
ある男

まあどうってことはねえや、いいよ!

ある男
ある男

まあどうってことはねえや、いいよ!

男

いいかい?ツボ貸してください・・・

男

俺は別に妙なことをしようってんじゃないんだ、すっとほら!ちゃんと目が変わってんでしょ?

男

どうってことはねぇや・・・

男

じゃあいきましょ?みんなよく見てておくれよ?

男

ほっ!・・・

男

さあ張っとくれ!チョボイチなんだからしみったれて張ったって面白くも何ともないんだよ?

男

うわぁ!っとひとつ威勢良く張ってもらおうじゃねえか!

※チョボイチ・・・サイコロ一つを使ってやるきわめてギャンブル性の強いバクチ。胴元の出した目に張ると、配当は四倍に。

男

おお!きたきたきたきた!みんなつぶれ廻りだから強気になってやがんな?

男

どうした、ピンがあいてるぞ?いいのかいあけといて・・・

男

勝負って言ってピンが出ちゃったら俺がそっくりみんなもらっちゃうんだよ?いいの?

男

なに?ピンは始めから一回も出てない?出たらこれが初めて?

男

へぇ!こりゃあありがてえやなぁ!

男

ピンが一番出しやすいんだ・・・

ある男
ある男

なんだ?

男

いやいやなんでもないんだ、こっちの話だ・・・

男

いいか?いくよ?悪いけど今日は勝たしてもらうよ?

男

ここんところず〜っと取られっぱなしなんだから、今日ばかりは勝たしてもらわなきゃ割に合わねえってんだ!

男

ひとつ頼むよぉ!いいかい!?ピンだよ!ピンだ!間違えんなよぉ?

ある男
ある男

誰が?

男

いや誰ってことはないんだ・・・はっはっはっは!

男

いくよぉ!ピンだぁ!仰向けになってぇ〜ヘソだぞぉ?

ある男
ある男

なんだぁ?

男

いやなんでもないんだよ、勝負!

男

・・・ほぉら出た!

ある男
ある男

出しやがったよおい・・・この野郎本当に出しやがった驚いたねぇ・・・

男

そんなことで驚いたって始まらねぇや!

男

さあさあさあ!どんどん張ってもらおうじゃねえか!

男

お?また二があいてるよ?いまさらピン張ったって遅いんだよ?

男

お?また二があいてるよ?いまさらピン張ったって遅いんだよ?

男

そらまぁ構わないけれども、おぉ、そうかいそっちにやるかい?

男

みんないいの?二がやっぱりあいてるけれども悪いねぇ・・・

男

また勝負とやって、二がきたらみんなそっくり俺がもらっちゃうんだよ?

男

いいんだね?よしわかった!じゃあもう手を出すんじゃないよ?

男

今度は二だよぉ?二ですよぉ!斜になってぇ!目の玉ぁ!

ある男
ある男

なにを言ってん・・・

男

なんでもねぇ、気にするんじゃあないよ?

男

勝負!

男

ほら出たぁ!

ある男
ある男

野郎の言う通りに出てんねぇ・・・

ある男
ある男

なんだか知らねえがこのサイコロの二が俺のことをじっとにらんでるよ・・・

男

そんなことはねぇよ?サイコロの二がにらむわけがねぇ!

男

さあさあさあさあ!どんどん張ってくれ!三番目!威勢良くぐわぁっと!

男

また張ってきたねえ、ピンと出て二と出たから今度は三だてんだろ?

男

ほらいけねえ!今度はぐがあいてるぞ、ぐが!

男

いいのかい?あけておいて!無理には勧めないよ?

男

ひとつずつにあき目があるなんて、こんなありがてえことはないんだ胴にとってなぁ!

男

じゃあいいんだね?手を出しちゃいけないよ!?さぁ〜今度は!

ある男
ある男

ちょっと待ちな、待ちな!

男

なんだい?

ある男
ある男

黙ってやりな、黙って!

男

黙ってってどうして?

ある男
ある男

おめえの言う通りに出てるから気になってしょうがねぇからな、黙ってやりな・・・

男

黙ってやりなったって、俺が言ったから出るなんてもんじゃねえんだよ?たまたまそうなったんだよ!?

男

つまんねえこと気にしちゃ・・・

ある男
ある男

いやぁ、みんな気になるからそう言ってんだ、黙ってやりな、黙ってやんなよ!

男

う〜ん、黙ってやりなったってそれじゃあなぁ・・・

男

野郎なに出していいか分からねえから・・・

男

ものは順だってんで三と出してみても、みんなこんなに張っちゃってんだから、今までの勝った分パァになっちゃうよ・・・

男

う〜んどうしてもダメかい?もう〜弱っちゃうなぁどうも・・・

男

あ!数を言わなきゃいいだろ?数を言わなきゃ!

男

加賀様だとか、梅鉢!これだったらいいだろ?なっ!

男

よし!じゃあ安心してくれ数は言わねえから!

男

さあ次は加賀様だよぉ?梅鉢だよぉ!天神様天神様!天神様ぁ!

男

勝負!

ってあけるってと、狸が冠かぶって尺を持って、ふんぞり返っていた・・・   

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