東海道は戸塚の宿から一里ばかり在へ入りました鎌倉山の山間に崇元寺という小さなお寺・・・
和尚を崇善、四十六になりますが未だに独り身を通して清廉潔白な暮らし・・・
寺男の正作という者と二人暮らし・・・
村の者も丈夫で達者、お弔いはめったにございませんで・・・
本堂の脇に小さな畑がございまして・・・
和尚自ら降りてまいりますと野菜づくりに余念がございません・・・
色々な野菜をこしらえますが中でも茄子が大好物・・・
苗木の頃から丹精を込めた茄子でございます・・・
丸々太った綺麗なつやの茄子をざるにつんで、夕晩の膳の楽しみに・・・
井戸端で汗をぬぐっておりますと・・・
茄子娘を聞くなら「三遊亭圓楽」
五代目三遊亭圓楽の「茄子娘」は、茄子にまつわる不思議でユーモラスな物語です。圓楽の柔らかな語り口が、独特な世界観と登場人物たちの愛嬌を引き立て、聴く者を物語の中へと引き込みます。笑いと風情が詰まった、古典落語の逸品です。
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和尚様~!?ご苦労様でごぜえやす!

おぉ正作・・・いずれへ参る?

へえ明日っから祭りだそうで、今日のうちにちょっくら様子を見てこようと思いましてな!

それから部屋の中に蚊帳を吊っておきましたんで、どうぞゆっくりお休みくださいまし!

それじゃあ行ってまいります!
和尚が部屋へ帰ってくる、蚊帳がつってございます、裾をめくって中へ入る・・・
せんべい布団にどた~!っと大の字にひっくり返る・・・

あぁ~!いい心地だ!根を詰めると疲れるようになったな、歳のせいか・・・

お~、太鼓の音・・・

明日から祭り、村の者も楽しみであろう・・・
和尚はいい心持ちでうとうと~っと致します・・・
部屋の隅が開け放ってございまして、濡れ縁から先が竹林を通して裏山へ続く自然の庭・・・
この竹林を通ってくる風が真にいい心持ち・・・和尚はとろとろ~っと致しますが・・・
そのうち、人の気配を感じて蚊帳の裾の方へひょっと目をやると・・・年頃は17、8になりましょうか・・・
秋の七草を裾模様にした友禅の着物・・・繻子の黒帯を矢立に結んで高島田・・・
これがたいへんにいい女・・・

そこにおられるのはどなたじゃな?

はい・・・私は茄子の精でございます・・・

茄子の精・・・面白いことを言いますなぁ・・・なぜ出て参られた?

はい・・・日頃和尚様に可愛がっていただいております・・・

『早く大きくなれ、大きくなったらわしの妻(さい)にしてやる』とおっしゃいました・・・

お礼に肩でも揉ませていただこうかと・・・

あぁいやいや!はっはっは・・・わしが菜(さい)にするというのはおかずにするということであるが・・・

妻と間違えたのじゃな・・・

まあまあせっかく出てまいられたのじゃ、こちらへ参れ、肩でも揉んでもらおうかな・・・

ごめんあそばせ・・・
女は蚊帳の中へ入って来る・・・
音もなく後ろへ回ると肩に手をやる・・・

うはぁ・・・いやぁ!そなた中々力がある・・・あぁいい気持ちだ・・・
それまでそんな気配はございませんでしたが、一転にわかに曇りまして真っ暗になる・・・
ゴロゴロゴロゴロ・・・

一雨あるのであろうか・・・
ポツっ・・・ポツっと盆を返したようにざぁーーー!!

いやぁ!降ってまいったな!凄まじい勢いじゃ・・・

しかし日照りも続いておったしな・・・田畑も潤うことであろう・・・
ぴかっ!っと光ったかと思うとガラガラガラ!ドーン!

きゃあぁぁぁ・・・
女が崇善の胸元へ・・・

あぅぅ・・・い、いかがいたした?

こ、ここ、ここは蚊帳中・・・し、しん、心配することはな、ないぞ?
女の髪のにおいが崇善の鼻をす~っと通りまして、脳下垂体を刺激いたします・・・
ピカッと光った稲光と共に崇善の目に焼き付いたのは、友禅の裾が乱れた赤いけだし(裾よけ)・・・
その間から雪のように白い肌がス~・・・つま先からくるぶし・・・
ふくらはぎから内ももの辺りまで・・・木石ならぬ崇善・・・
思わず娘を抱きしめる腕に力が入ったぁぁぁ!!
この後のことは皆さまのご想像にお任せいたしますけれども・・・
夜が明ける、傍らを見ると娘の姿はございません・・・ 崇善ぐっしょりと汗をかいて腑抜けのごとく・・・
夢かぁ・・・しかし夢と言えども出家の身にあるまじき女犯の罪・・・

これも全ては修行が至らぬため・・・
崇善考えるところがございまして、夜が明けきらぬうち、墨染の衣一塊の網代笠・・・
杖にわら草履を履き、悄然として寺を後にいたします・・・
四国、西国をめぐり雪国山国訪れて早五年の歳月・・・
再びふるさと忘れがたく崇善、戸塚の宿へ戻って来る・・・

なつかしいやぁ・・・いつに変わらぬ山や川・・・
五年ぶりに崇元寺へ戻ってまいりまして・・・

荒れ果てておるな・・・無住であるか?

正作め!いずれかたへ移り住んだと見える・・・無住であるか?
本堂の裏へ回って畑の中を抜けようとすると・・・

おとうたま・・・
見ると、4つ、5つになりましょうか、つんつるてんの着物におかっぱ頭の女の子・・・

なんとかわいらしい子じゃ・・・

今なんと申された?

おとうたまと、申しました・・・

はっはっは・・・困ったじゃな・・・

わしは今宵の宿も定まらぬ旅の坊主・・・そなたのてて親であろうはずはないぞ?

はよううちへ戻られるがよい・・・

でも・・・あなたはおとうたま・・・

聞き分けのないことを・・・なぜわしがそなたのてて親じゃ?

でもあたしは・・・茄子の子ですもの・・・

茄子の・・・夢ではなかったということか!さすれば我が子に相違あるまい!

わしがここを通るのを長年待ちわびておったのか!?なんと不憫なことを・・・

さあこちらへ来られよ、よし!わしの膝へ乗られよ!

おぉ!重たいではないか、いくつになられた?

五つになりました・・・

五つ?いやぁ・・・しかしここはいつからか無住の寺、そなた今日まで誰に育ててもろうた?

一人で大きくなりましたぁ・・・

一人で大きくなったぁ!?

なるほど・・・親はナスとも子は育つ・・・
茄子娘を聞くなら「三遊亭圓楽」
五代目三遊亭圓楽の「茄子娘」は、茄子にまつわる不思議でユーモラスな物語です。圓楽の柔らかな語り口が、独特な世界観と登場人物たちの愛嬌を引き立て、聴く者を物語の中へと引き込みます。笑いと風情が詰まった、古典落語の逸品です。
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茄子娘を聞いての感想
非常にエロティックな展開の落語でございますね。
それと同時に和尚さんの気持ちも分からんでもない。
たった一夜でしたが、夢のような時を過ごした和尚さんが羨ましい限りでございます。
私も夢でもいいから・・・おっとここら辺でやめておきましょう。
しかしながら、現代で言ったら『17,8歳の女子高生に寺の住職が手を出した!』と大きなニュースになりそうですね。
落語だからなせる技です。
用語集
途中難しい言葉がいくつか出てきましたね。
難しい言葉が出てくると、今の言葉の意味はなんだろう?と考えているうちに先に進んでしまうので大変ですね。
少し今回出てきた言葉を写真と共に説明します。
蚊帳

虫は通さず、風を通します。夏の暑い日なんかは、蚊帳をつけて窓を開けて寝ると気持ちがよさそうですね!
濡れ縁

濡れ縁ってなんだろう?と思っていましたが、家庭でもよく見ますね。
若い人には馴染のない言葉かもしれません。
友禅
友禅は布に模様を染める技法のひとつです。江戸時代の京の扇絵師・宮崎友禅斎に由来します。
繻子織り
縦糸と横糸とが交差する点が連続することなく、縦糸または横糸だけが表に現れるような織り方です。
高島田

昔の女性といえば、この髪型ですね。この髪型を高島田というそうです。
網代笠

お寺の和尚さんがよくこれをかぶって旅に出ていますよね。
笠にもたくさん種類があります。顔が全て隠される笠もありますし、上が尖っているものもあります。
落語には昔に使われていた言葉がよく出てくるため、若い人はその言葉が何を示しているのかが分からず、思考停止してしまう場合もあります。
しかしながら、言葉に慣れると頭の中に情景がイメージしやすくなります。
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